元殺し屋さん俺。今、戦闘用メイドロボ。お嬢様をお守りします。   作:蒼樹物書

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【5】黄金姫(Golden tyrant)

 ――斬る。

 

 『勝者サレナ! 間違いではありません、勝者サレナです!!』

 

 ――斬る。

 

 『連戦連勝! 無名のメイドロイド、サレナの勝利!!』

 

 ――斬る。

 

 『場内は困惑の声! 古強者メイドロイド、グスーシャが一閃で敗れたことに悲鳴が響いています!!』

 

 ごとり、と敵手の首が落ちた音を聴音センサーで確認して。

 

 納刀。

 涼やかな金属音を、静かに響かせながら鞘に納める。

 二尺一寸……60cmと少し。標準的な打ち刀の刃長としては、短めではあるが。

 私の身長からすれば、十分に長いそれ。

 だが、扱いには『前』から慣れている。

 

 「お嬢様、勝ちました」

 「ご苦労様」

 

 砂地に落ちた、敵手の首に一礼した後。

 背後の主人に振り返り。

 ロングスカートの両端を摘まんで持ち上げ、恭しく礼する。

 

 アサガオに仕込んでもらった、メイドらしい仕草。

 これは、実用的だった。

 

 ……具体的には、お褒め頂くとき下げた頭は撫でてもらいやすい。

 

 「いい子いい子」

 

 幸福を検知。

 お嬢様の白く細い指で、頭を撫でられる。

 投げたボールを取ってきた、子犬にするようなそれ。

 ――あっ私すごい幸せ。うれしいうれしい。おじょうさま大好き。

 

 知能指数低下。

 機体状況レッド、システム機能率2%。駄犬程度の知能になっている。

 

 「お嬢様! サレナが!! サレナがだいぶ『あれ』です!!」

 

 人様にお見せできない顔になっている私を、無理やり引きずるように決闘の場から下げる。

 だいぶ『あれ』らしい今の私。

 具体的に言語化しないのは最後の情けだろう。女の子の形している子が、しちゃいけない顔らしい。

 

 とはいえ、勝利を重ね続けて。

 武装……お嬢様から頂いた、刀を装備したことで目標を達成しつつあった。

 

 そう、金である。

 

 連戦連勝により賞金は積み重なり。

 目標金額……借金の利息、その支払いに届くところまできた。

 私の装備購入という、もう一つの目的。この場合、手段でもあるが。

 そちらは刀一本で必要十分だった。

 

 あと、もう一勝。

 この地方大会……最後の戦いに勝利すれば、しばらくの余裕を持つに足りるだろう。

 

 決勝である。

 今回の大会では、開催者からの評価や下馬評で対戦カードが組まれ決闘を行う。

 私たちのように賞金目当てだったり、名を上げることを目的とした下野の強者達。

 ごった煮のような参加者達。

 

 その決勝は、これまで組まれてきた対戦の中で最も勝ち抜いてきた者二人が闘う。

 

 たまたま首都のコロッセウムで行われているとはいえ、誰でもエントリー可能な地方大会である。

 参加者の質は相応のはずではあるが。

 『誰でも』参加可能である。

 私のような、出自不明の古い型のメイドロイドでも。

 

 ――『誰でも』であった。

 

 

 『第17回ブロンズハート記念、従者決闘(maid duel)大会! いよいよ佳境を迎えました!!』

 

 拡声魔法により、円形のコロッセオに響き渡る実況の声。

 煽るような爆音に会場中が熱狂する。

 

 「いけー! 俺の給料三か月分ー!!」

 「ぶっ殺せ―!! 殺せ殺せ殺せぇー!!」

 「サレナちゃーん! こっち向いて―!!」

 

 混沌。

 金銭欲と、暴虐性と、何か地下アイドルのファン的な狂気が渦巻いている。

 全周の観客席から浴びせられる声。声。声。

 ……こっそり、ファンの人には目線を送る。元殺し屋の視線は、推してくれた女の子を射殺した。

 密かに、異国の剣一本で勝利し続ける小柄なメイドロイドは愛されているらしい。

 

 「ああ! ファンクラブ1号が尊死してしまった!!」

 「2号が骨を拾うわ!」

 

 え、ファンクラブあるの!?

 

 『ではご紹介しましょう! 落ち目のヴランバルド家、どこに隠していた小さな爆弾!!』

 『短い身体にデカい胸部冷却タンク! 武を装うに剣一本で十分ッッッ!! メイドロイド、サレナの登場だッッッ!!』

 

 誰がデカパイロリか。

 狂乱する歓喜を迎えながら、前へ。

 コロッセオの中央へ進む。

 

 『――さぁさぁさぁ、ご来場の皆様! ご注目!!』

 

 対面。

 円形の闘技場その奥の入り口から、ぬるり、と現れる赤い影。

 

 『世界の中心は我らにこそあり! 豪語して憚らぬ、華の国から武者修行!!』

 

 赤。

 金糸を豪著に飾った赤布の、異国民族服――『前』で言う、チャイナドレスに近い――を纏ったメイドロイド(護衛メイド)。艶やかな黒髪を、シニョンキャップで二つに纏めている。

 向こうの言葉で女佣机器人と言うらしい。

 

 『華国皇家、まさかの王都襲来ーッッッ!!』

 

 そう。

 敵手は――遥か遠く、異国の皇家。

 その令嬢が従えるメイドロイドである。

 流石に、継続権の低い家系ではあるそうだが……だからこそ、かもしれない。

 

 メイドロイドの技術において、我が王国は世界の先端を行く。

 その王国で、例え地方大会とはいえ成果を上げることは……力を、示すことになる。

 力を示すことは、後の権力争いにおいて箔をつけることになる。

 

 そうした算盤での、今大会参加であろう。

 

 『誰でも』参加できる……この大会は、絶好の機会であり。

 そのチャンスを活かすに、十分な力を敵手は持っていた。

 

 私と同じく、これまで全戦全勝。

 決闘開始の合図を待ちながら、下段に構えたグレイブ。その一本で勝ち上がってきている。

 初戦を除き、刀一本で勝ち上がってきた私と同じ……だが。

 

 『皇家のメイドロイド、赤き暴風! 紅蓮華(スカーレットランファ)!!』

 

 無名と異国のメイドロイド、その頂上決戦。

 会場の熱狂が頂点を迎えたところで。

 

 『従者決闘(maid duel)! 開始ィィイイッッッ!!』

 

 ゴングだ。

 

 さて。

 グレイブを下段に構えた敵手を正面に、こちらは既に居合の型。

 左腰溜めの納刀を右手で抜き放つ型。

 

 これまでの連戦、それらは一刀で片付いた。

 敵手が、居合抜きという奇手の経験値が不足していた為だ。

 

 納刀という待機状態から、武装展開――そして攻撃というのが、通常の攻撃の起こりである。

 だが、居合は武装展開と攻撃を同時に行う。

 敵を倒すつもりならば、準備をすべきだ。武器を用意し構えて、一撃で倒す。

 

 ……わざわざ武器を仕舞っておく必要はない。

 その不必要を、前提とした技術が居合。

 

 「……」

 「……」

 

 敵手も、これまでと同じくこちらの技には精通していない様子だ。

 戦闘開始の号を聞きながらも、未だ武装を展開しない私を見つめている。

 

 「紅蓮華。圧勝なさい」

 

 お互い睨み合いとなった立ち合い。

 敵手の後方から、皇家令嬢である……オリエンタルな雰囲気を感じさせる、朱色の着物に身を包んだ少女が命じる。

 

 「了解了」

 

 主君からの命に即応した敵手が、地を這う蛇のようにグレイブを走らせる!

 

 速い。

 

 間合いで有利でありながらも、切り上げ・突きと武装の有利を使い切るような軌道。左右上下に、先端を揺らしながらの接近。

 グレイブ……槍は剣に有利する。

 突きでも斬撃でも、十分にこちらを一撃出来る威力を持つグレイブ。それに加え間合いの有利で、こちらに迷いを強制しながら先制してくる。

 

 無名の凡刀で御するには、圧倒的に不利な武器である。

 

 「サレナ。負けては、駄目よ?」

 

 はい、お嬢様。敵手のグレイブ、その軌道は突き!

 有利な距離を活かしたまま、下段から突き上げてくる。

 

 ――抜き打つ。

 

 足元から牙を鋭く煌めかせるようなグレイブの切っ先……その根元。蛇の首を、落とす。

 狙いは敵手本体ではなく、武装破壊。

 グレイブの先が、こちらの脇腹を貫く前に長柄を斬り落とす。

 

 お嬢様が命じた負けない闘い。

 ここは、守りだ。

 敵手の有利をまずは潰す。

 有利な、敵の武器を破壊する。

 

 「――シッ」

 

 やはり。

 グレイブ一本破壊しただけで、終わるとは思っていない。

 

 敵手はすぐさま、グレイブを手放す。見た目上は丸腰。

 こちらは、抜き打ちした刀を返して無防備な敵手を斬ることができる。はず。

 

 だが。

 

 チャイナドレスの、深いスリットから飛び出た右脚。

 その先端、つま先にはスパイク。

 打撃力を重視した凹凸が、足の甲に展開されている。

 

 「ぼぅ――ッ」

 

 防御、と発する間もなく。

 左手の鞘と、左腕そのものを防御に転じる。

 木製、古い鞘は僅かな緩衝材にはなったが……粉々に散った後、スパイクの重圧を左腕に受けることになる。

 守った頭が粉々にならなくてよかった。

 ……左腕に深刻なダメージ。

 

 「シィ――」

 

 スパイクで、こちらを仕留め切れなかったことを認めた紅蓮華が頬を膨らませる。

 幼児的な感情表現のそれではない。

 

 攻撃動作である。

 

 「……防御」

 

 ロングスカートを、大きく翻すように。

 その場で身を回転させる。

 ぶわり、と広がった布。

 

 その防御に、含み針が殺到する。

 

 紅蓮華の口から放たれた無数の、毒針。細く小さいながらも恐らく運用から、メイドロイドに通用する演算性能妨害(ウィルス)機能を持たせた武装だ。

 暗器……隠し武装。

 メイドロイドにとって内臓武装は、当然の備えではあるが。

 

 ――お国柄かもしれない、敵手は騙し討ちの好手だ。

 

 「左腕損傷、対刃・耐熱服損耗度37パーセント」

 「シャ!!」

 

 自己の被害程度を確認。

 左腕はもう動作不能だ、毒針を巻き込むように守らせたメイド服のスカートはずたずたになってしまっている。

 

 ……観客席から、露わになった機体表面積に黄色い悲鳴が上がっているようだが。

 今は余裕がない。

 

 なぜなら敵の左膝から、砲口が出てきたから。

 口径から見て榴弾か散弾。

 防御・防御・防御――!!!!

 

 爆音。

 

 どうやら、前者だったらしい。内臓武器である為、炸薬量はそれなりだったようだが。

 近接戦闘の距離で、まともに受けるには十分高い威力。

 

 「――紅蓮華!!」

 「ここよ、サレナ」

 

 爆炎と、舞い散った砂塵。

 観客達が二体のメイドロイドを見失っていようとも。

 二人の主人は、見ていた。

 

 「好!」

 「かしこまりました、お嬢様」

 

 至近距離での榴弾射撃。

 互いに無事では済まない。

 

 こちらは、既に機能停止した左腕と。

 失っても構わない右脚で心臓を防御。左腕・右脚は破砕した。

 

 刀を握った右腕は身の後方へ逃がして死守。

 左脚も、踏み込む為に残さなければならない。

 

 敵手は、ひたすらに攻撃の構え。

 『最後』に残した暗器である、虎のような爪を両椀から伸ばしてこちらの心臓を串刺ししようと突貫する。

 瀟洒な赤衣は無残に吹き飛び散って、肌ごとに焼き焦げ。球体関節の、人形の身体を晒している。

 それでも、主の勝利の為。

 

 私の心臓を、狙っている。

 そう、貴女も主の為に全てを捧げようとしている。

 

 でも。

 私は守りに徹し『最後』まで持ち応えた。

 お嬢様の、命のままに。

 

 右腕の刀は、守る為……そして『最後』に攻める為、後方に流した。

 加速するに十分な距離を、確保している。

 敵の暗器、全てを曝け出させるまで保ち続けた最後の斬撃。

 

 

 

 斬る。

 

 

 

 ……ずぶりと両脇腹に、敵手の爪が突き刺さる。

 だが。

 私の方が、速い。

 

 心臓に届く前。

 左脚の踏み込みと、必要な距離で加速した斬刃は、紅蓮華の首を落とした。

 

 ごとり。

 

 『――勝者ッッ! ヴランバルドのサレナ!!』

 

 砂塵が舞い散る闘技場。

 赤い端切れを、僅かに纏う紅蓮華が首を落とされたのを確認され。

 

 コロッセウムが沸き立つ。

 私の勝利に、敵の敗北に……私は、ただ。

 失った右脚に代わり、身を支える杖として刀を地に突き立て。

 

 一礼。

 

 紅蓮華へのそれの後に、お嬢様にも……お褒め頂く為にも、そうしたいところだったが。

 

 限界だった。

 もうむり。

 

 「機能限界。スリープモードへ移行します」

 「……おつかれさま、サレナ」

 

 視界がブラックアウトする直前。

 お嬢様の、温かい胸の中へ機体が沈むのを確認。

 

 達成感、自己顕示……様々な欲望が、ただお嬢様にご奉仕出来た喜びで塗り替えられる。

命じられ達成する。

 こうも、嬉しいものだったとは、知らなかった。

 

 

 ――台車の、上である。

 荷物扱いは慣れていたが……目標を達して、凱旋の途上が台車の上というのが。

 こんなにも、悲しいものとは知らなかった。

 

 「王都は宿代も高くつきますから。節約節約」

 

 メイドスミス(鍛冶メイド)のアサガオに押される台車の上、完勝と言っていい成果を上げたが。

 それでも、我がヴランバルド家は赤貧。

 勝利に酔うにも金が要る。

 大会中は必要から、すぐさま修復が行われたが……私の手足を直すのは、帰ってからだそうである。

 なんとも、世知辛い話だった。

 

 左腕、右脚は盾として使った為に欠落。メイド服はずたずたで、肌もあちこち欠け落ちている。

 壊れた人形。

 そんな姿を晒しながら、王都からの帰路である。

 

 ……まぁ、この状態でもお嬢様に危機が迫ったのならば。

 いくらかは動ける。なら、いい。

 

 「サレナ、いい子いい子」

 「あっ、お嬢様すき」

 

 若干の不満を検知した私の頭を、お嬢様が撫でる。

 不満は消失した。我ながらチョロい。大丈夫じゃないかもしれない私。

 

 帰途。

 行きにも使った、大衆馬車の待合所に到着する。

 

 ――ぢり。

 

 首筋に、焼けつくような痺れ。

 否。

 首を焼き落とすような、熱。

 つい先ほどまで、和んでいた空気が赤熱する。不味い。不味い不味い不味い――ッ!!

 

 「ねぇ」

 

 粗末な屋根が備えられているだけの、馬車待合所。

 老若男女、庶民たちが集まるその場所に。

 

 金色の威光が顕現していた。

 

 その姿は、黄金。

 太陽の色を称えた、一人の少女。

 周囲には、威光に焼かれた黒炭のような従者(メイドロイド)達を従えている。

 

 ごった返す、人々の垣が金の日差しで割れる。人を、制する声。

 王者の声だ。

 

 「それ、ちょうだい」

 

 恐る恐る、視線を向ける。

 刺された指は(それ)を示している。

 ヒトの、少女である。

 

 濃紺のドレスに、豊かな金髪。その瞳は。

 お嬢様の、黄土色のそれを嘲笑うかのように、極光の金色。

 

 「――これはこれは」

 

 恭しく、お嬢様がスカートの両端を摘まみ礼する。

 貴族が貴族にする作法。

 とはいえ。

 落ち目の貴族が『王族』にするには、不足している。平伏すべきではないのか。

 

 「ヴランバルドの……妹の方よね。それ、カルサにちょうだい?」

 「本日はお日柄も良く」

 

 インストールされている、私の記録に一致する姿。

 カルサ・フォン・ゴルドヴァーン。

 ゴルドヴァーン王、その三女。

 

 ……天上の姫である。

 

 お嬢様は、とりあえずは礼を尽くす姿勢を示している。

 アサガオは膝を崩さなかったのを褒めるべきであろう。

 

 「……」

 

 その、天上から『求められた』私はと言うと。

 ぎこちない動きでしか動かない、右手に柄を握っていた。

 

 ――姫の周囲には、黒炭のような四体のメイドロイド。いずれも臨戦。

 そして一体でこちらの戦力を遥かに凌駕する。

 センサーには捉えられないが、感覚的としては忍が八体……周辺に待機している。王族の備えとして、当然であった。

 

 つまりは、場合によっては十二体のメイドロイドを相手にすることになる。

 

 「聞こえなかった?」

 

 姫が、苛立ちを声に含ませる。

 なぜだ。これだけ至宝のようなメイドロイドを、山のように従えながら。

 偶々、地方大会で勝ち得ただけのガラクタ。

 

 なぜ使者ですらなく、本人が出向いて欲してきた?

 

 「ヴランバルドの。寄越しなさい」

 

 王命である。

 ゴルドヴァーン、その三女。地方貴族に発せられる言葉は、絶対だ。

 断頭台送りなど朝飯前、何なら従えるメイドロイドへ一声かけただけで。

 今すぐお嬢様は絶命する。

 死んでもさせるつもりはないが。

 

 ……それでも、戦力比は人数割でも十二対一。彼我の状態を考えれば、絶望すら烏滸がましい。

 

 「嫌です」

 

 おじょうさまこわい。

 状況が理解できない。

 えっ、地方貴族の若年当主が。

 笑顔で、王家継続権上位の命令に『嫌です』で断った?

 

 なにそれうけるー。

 

 現実逃避に沈みそうな思考を、力尽くで回転させる。

 ついに気を失ったアサガオとお嬢様を抱えて、全力逃走。それくらいしか思いつかない。

 

 お嬢様の一声で、直近の四体と周辺の八体のメイドロイドから殺意が高まっている。

 この状態で何が出来るか。

 

 【***】――起d――。

 

 「そう」

 

 ふわりと、濃紺のスカートを翻し。

 カルサ・フォン・ゴルドヴァーンが、興味を失ったかのように背を向ける。

 

 「じゃあ『今』はいいわ」

 

 ……ぢり、ぢりと、灼熱していた首筋が急激に冷えていく。

 メイドロイド達を従えながら去ってゆく後ろ姿を見送る。

 

 あきらめて、くれた?

 

 重い身体を、より重くするような倦怠感。

 緊張が解かれる。

 

 周辺にいた庶民達が、失った声を取り戻し喧噪が帰ってくる。

 『今』……その意味を理解しながら、私の隣に立つお嬢様に縋るように。

 見上げたお嬢様の手は、震えていた。

 

 

 「ご機嫌麗しいようですね、カルサ様」

 「ええ、ねえさま」

 

 王宮、その一室。

 父であるゴルドヴァーン王の寝室である。

 夜は深く沈んで、僅かな光源しかない豪著な室内だが。

 少ない灯りだからこそ、その黄金は輝いていた。

 

 その場(・・・)の主であるかのように振る舞う少女に、妙齢の女性が尋ねる。

 少女の、カルサ・フォン・ゴルドヴァーンの機嫌は珍しく良かった。

 

 国を支配する王を、父親を支配し。

 兄妹達を制圧し、未だ姫ながら王国の……実質の最高権力者は彼女であった。

 王歴始まって以来の才女。

 

 カルサは王よりも王であった。

 先に生まれた兄や姉を従え、ついには父である王も服従させ。

 王国を支配した。

 

 あくまで、実質的でだ。

 

 少女は王国支配、次代女王としての権利を確保しながらも……拘泥していない。

 手段としてでしか、この国を見ていない。

 蹴落とされ足踏みにされた、カルサの姉はそう評価する。

 

 だから、今まで見たことのない……齢十二の少女に相応しい、楽しそうな表情に興味を惹かれた。

 

 「従者から報告は受けましたが。あのサレナというメイドロイド、強くはありますが」

 

 地方大会で、偶々優勝したメイドロイド。

 二戦目以降の、異国の剣を使った闘いには目を見張るものはあったが。

 カルサが従えるメイドロイド達に比べれば、凡庸と言うほかない。

 決勝でも手足を失い死に体で、勝ちを拾ったようなもの。

 

 それを、この『黄金』が欲する?

 

 「カルサはね、世界をこわしたいの」

 

 桃色に紅潮した頬、艶やかな白肌。太陽を思わせる黄金色の髪を、豊かに広げる少女は。

 まるでお菓子を強請るような、無邪気な声で。

 

 「あれは、そのために必要なモノ」

 

 国も、隣国も、遠い島国一つですらも。

 世界すべてを壊したいと欲する怪物は、求めた。

 

 「だから。とりあえず、ヴランバルドのには、死んでいただこうかしら」




◇異世界トピック◇
【サレナちゃんファンクラブ】
王都で偶然開催されたメイドロイド地方大会第17回ブロンズハート記念で突発的に結成されたファンクラブ。
メイドロイドらしい無表情、無感情ながらも勝利後に主人から撫でられた時に魅せる『あれ』な表情が一部観客の脳を焼いた。
ロリ巨乳刀持ちメイドロボ良いよね、という業が深いモノたちの集まりである。
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