元殺し屋さん俺。今、戦闘用メイドロボ。お嬢様をお守りします。   作:蒼樹物書

9 / 11
【9】はんぶんのめんどろいど(Half soul)

 ……驚く程、日常であった。

 

 朝。

 お屋敷に帰還を果てしてから。

 

 以前のように魔物の襲撃もなく、静かな日々を過ごしている。

 

 警戒の手綱は緩めずも、それでも呆気なく思う程の安全。

 まるで、何もかもなかったかと錯覚するような。

 

 私を帰したリリム・ヴランバルド……お嬢様の姉は、預けると言った。

 この日々は、有効期限付きだ。

 

 あの女が返却を迫れば、即座に崩壊する。

 

 「いい天気」

 

 冬の気配を感じる、気温低下を感知。

 ……この世界でも季節は移ろうらしい。

 

 一人、庭に立って朝日が昇るのを観測する。

 

 まだ大丈夫。

 まだ……その時ではない。

 

 そう一人、安堵する。

 

 本気で状況を動かすつもりならば、どうしようもない。

 私一人で、お嬢様とアサガオ……大切なものを、護れると思えない。

 これまで小手先のような魔物の襲撃、気まぐれなように身柄を返して見せた。

 

 ――預ける、と言った。

 

 まだ、あの女は何かを待っている……いや。

 目的は、死者蘇生。

 その一大事に備えて入念な準備をしているように、思う。

 

 だからこその、猶予だ。

 

 あちらにとっては必要な経費。

 だが、魔に身を落としてみせたあの女からすれば安い投資。

 無駄になっても構わないという驕り。

 

 油断が在るのならば。

 

 お嬢様に、全てを捧げると誓った。

 斬気が満ちる。

 そよ風で漂う一枚の、木の葉。

 

 一筋を、斬った。

 

 太い葉脈に沿って、自然体で立つ身からの抜刀。

 

 八筋を、斬った。

 

 細い、曲がりくねった葉脈に沿って刃を走らせる。

 

 十六筋を、斬った。

 

 

 

 ……合計25回の斬撃を2.7秒で完了する。

 

 

 

 彼岸流合戦礼法――散華・裏。

 『前』で皆伝までに収めた刀技(ブレイド・アーツ)である。

 本来は自身を囲う多数の敵手の、致命のみを一撃で狙って放つ連続斬り。

 

 メイドロイド(護衛メイド)の役割は、護衛と決闘。

 多対一を想定した技を、たった一人の為に叩き込む。

 それ故の、裏である。

 

 ヒトの脆さを持たないヒト型……魔姫を想定とした修練。

 

 帰還から。

 アサガオのシステムチェックを受け。

 念に念を入れた、身体検査の後。

 

 ――私は、力を要求していた。

 

 古い型のメイドロイド(護衛メイド)

 我が赤貧のヴランバルド家、いくらロイヤルヴァースからの援助……いや、決闘での賞金で稼ごうとも、機体性能向上を望むならば、金はいくらあっても足りない。

 

 なにせ、相手はあの黄金姫と魔堕姫。

 天と地を割かつような極限がこちらを狙っている。

 

 ……金で手に入るような力、それで足りるなら安いだろう。

 カルサ(黄金姫)の従える大量の、黒炭の最高級メイドロイド。

 その一体の指先だけでも、私の値札に足りる。

 

 それだけの、戦力比だ。

 

 「まだ、遅い」

 

 できることはただ鍛えること。

 今、この身体になって。

 馴染みつつあるが、極限に至るには程遠い。

 

 鍛え鍛え、徹底的に鍛えて……『俺』から私に最適化する。

 『俺』の技その全てをこの人形の身に仕込む。

 

 できることは、全て。

 お嬢様を、護るに必要なコト。

 

 斬る。

 最後の一刀。

 

 彼岸流合戦礼法、華押。

 上段から叩き下ろす、絶対絶命の太刀。

 

 木の葉は、塵一つ残さず文字通りに消失したが……やはり、足りない。

 納刀。

 ちィ……ん、と涼やかな音を早朝の静かな空間に響かせる。

 

 ……これまで『前』で修めた技は、使ってこなかった。

 決闘大会では、ただの居合で事足りた。

 『今』の身体に、馴染みが足りなったという台所事情でもある。

 

 だが、そうも言ってられない状況だ。

 

 「足りない」

 

 この世界では、魔剣と呼ばれる程の技巧を人形の身体で再現しつつも。

 まだ、足りない。まだまだ、だ。

 

 「お嬢様を、お守りするには」

 

 黄金姫と魔堕姫の狙いは、私だ。

 我が身をどちらかに捧げれば……と計算しなかったわけではない。

 

 けれど。

 

 「わたしが、おまもりするには」

 

 義務ではない。仁義でも足りない。

 『私』が、お嬢様をお守りする為に。

 これは欲だ。

 人形が持つはずのない、欲望。

 

 私が。

 お嬢様を。

 

 欲に目が眩んだものの末路は、どこの世界でも同じ。

 それでも。

 

 また、風に揺られて一枚の葉が漂う。

 居合で斬る。

 修めた技ですらない、ただの抜き打ち。

 

 苛立ちに抜いた刀は、するりと木の葉に避けられた。

 

 

 「アサガオ。朝食をお持ちしました」

 

 地下の、鍛冶場。

 石畳と石壁に囲まれた、朝も夜もなくランタンの灯りだけが照らす室内。

 

 「……ああ、おはようサレナ」

 

 あれから。

 私が帰ってきてから……もしくは、帰ってくる前からかもしれない。

 アサガオは、より長く。

 というより一日中ここに籠っている。

 

 アサガオはお嬢様のメイドだ。

 

 私が来てから、身辺のお世話を任せるようになっても。

 食事の際は必ずテーブルを囲んだ。

 昔は従者の身だからと、固辞したそうだが……姉に全てを奪われ、一人残ったメイドは寂しいからとお嬢様に強要された。

 いつしか、主人と従者の食卓は日常となり。

 主の命だからではなく、アサガオにとって尊い日常になったはずなのに。

 

 「疲労の蓄積を確認。ベッドでの睡眠を推奨」

 

 地方大会の時もそうだったが、アサガオは仕事場で眠る趣味(ワーカーホリック)だ。

 ……硬い床を枕に、気絶するように短時間眠ることしかしていない。

 

 お嬢様と同じく大切なヒト。

 だが彼女の無理は、お嬢様と私の為。

 

 「メイドスミス(鍛冶メイド)の、義務を果たします」

 

 数奇な運命から、アサガオは私のサポートに尽くしてきた。

 誰が鍛造したかわからない、古代のメイドロイドの整備。

 これまでの闘いに合わせた装備選定など。

 

 それらは、メイドスミスの業務その一端に過ぎない。

 

 鍛冶メイドの本命とは、護衛メイドの鍛造である。

 受け継がれてきた鍛冶技術を、自己で研鑽し積み上げたモノ全てを注ぎ込んで。

 そして、自身の魂一欠片を捧げて完成する。

 

 主人を守る、メイドロイドを造り上げる。

 それが鍛冶メイドの本命だ。

 

 ……今まで。

 ヴランバルド家が、魔堕姫によって壊されるまで。

 彼女は先代鍛冶メイドの祖母に師事して、技を修めてきていた。

 

 「アサガオ。お願いします」

 

 せめて、食事だけでも。

 起き抜けに。手に握ったままだった金槌を、振るい始める赤髪の少女。

 

 重いハンマーが振り下ろされる先、金床の上には。

 一体の、ヒト型。

 気絶するかのように最小の睡眠を摂る間……火蜥蜴式高温保持器、風精霊循環管によりヒト型は十全に熱されている。

 

 「これまで」

 

 ごぉん、ごぉん――。

 ランタンが僅かに照らす、石に囲まれた暗い室内に重厚な金属音が反響する。

 赤熱した鉄を叩く音。

 

 花火を思わせる……線香花火のような灯りが散る。

 暗闇に散る小さな灯りは、夜空を照らす星々のようで。

 

 「私は、サレナに甘えていました」

 

 たった一人。

 お嬢様が、全てを奪われて。

 最後に残っていた(メイドロイド)

 

 それでも、頼るべきは他に何もなく。

 

 私を直してなけなしの武装を施して。

 勝利を重ねてきたが……ついには、理外の敵に討ち倒された。

 

 「否定します」

 

 誰が、彼女に甘えがあったなど言えるだろうか。

 ヴランバルド家の筆頭鍛冶メイドである祖母の元で、技を修める最中で在ったアサガオ。

 その途中で、突然全てを失って。

 

 資金も、設備も、人手もない。

 まだまだ、修める技術もあったはずなのに。

 

 それでも歯を食いしばって我が家の為に、尽くしている。

 神代メイドロイドに、ヒト一人分の魂を持つという規格外らしい私に。

 甘えていた、だなんて。

 

 誰が言おうとも、否定する。

 

 「……サレナは、優しいね」

 「アサガオは、お嬢様の次に大切ですから」

 「私と一緒」

 

 静かに、笑い合う。

 同志である。

 

 「私は、私の仕事をする」

 

 ごぉん。

 鉄を叩く音。

 

 「(メイドスミス)護衛メイド(メイドロイド)

 

 ごぉん――ごぉん――。

 鉄を鍛える音。

 

 「サレナのように、私は闘うことはできない」

 

 ごぉん。

 鉄を鍛え上げる音。

 最後の、一叩きを終えて。

 

 「……だから、託すの。私の半分を、受け取って『ツバキ』」

 

 メイドスミスが一子相伝で繋げる鍛冶魔法。

 それが発現する。

 

 私のような例外を除き、メイドロイドとはメイドスミスの魂一欠片を以って完成する。

 通常、メイドロイドを鍛冶魔法によって鍛造する場合。

 

 必要量は、魂の10%。

 

 その理由は自動的に主人を守るならば、十分であることと。

 最高級のメイドロイドであっても20%で、ロイヤルヴァースのメイドロイドは18%で造られたらしい。

 20%という数字は、鍛造の後ヒトが自己を保っていられる限界値だ。

 魂を分け与えられる限界。

 

 魂の純度。捧げられる、技能熟練の職人の命。

 その多寡はメイドロイドの性能を左右する。

 

 ――一人(アサガオ)の命。その半分を叩き込まれた、ヒト型が命を灯す。

 

 薄暗い室内、ゆっくりと金床から一体のメイドロイドが身を起こす。

 鍛え上げられ極め尽くした鉄の骨格に、雷光鼬棲神経網が這ってゆく。

 無限炸裂アダマンタイト製人工筋肉が骨を覆う。

 

 最後に、ヒトらしい肌と。

 アサガオそっくりの赤い髪を備えて。

 

 メイドロイドが、生まれ落ちた。

 

 「貴女の誕生を、祝福します。ツバキ」

 

 命半分を使って遂に眠りについたアサガオを抱き締め。

 生まれたばかりの、赤ん坊を祝う。

 

 一糸纏わぬその姿。

 アサガオの半分を受け取ったことから、外見は双子のように瓜二つ。

 短く揃えた赤の髪に、小さな身体。

 

 小学生サイズの私より、もう少し小さい。

 ……胸部冷却材タンクも機体全長相応の少蓄積量である。

 

 よし勝った。

 謎の勝利感を覚えつつも、新たな命の誕生に喜ぶ。

 

 「はっぴばーすでー、とぅーみー」

 

 生まれたばかりの赤子は。

 舌足らずの、キャンディのように甘い声で歌い。

 

 「ツバキちゃん爆誕っ」

 

 ちょっとメスガキだった。

 

 無邪気……無邪気なはずだ、この生まれたてのメイドロイドは。

 未だ熱の赤を残した金床から、起き抜けに。

 私の胸元に飛び込んだ。

 

 「デカパイ感謝ー。ばぶ味ー」

 

 ツバキは、私の胸部冷却材タンクの間に顔を埋めて擦り付けている。

 嫌悪を感知。メスガキどころかクソガキだぞこいつ。

 

 「されなー、ちゅーしよ、ちゅー」

 

 語尾にハートマークを付けているような甘え声。

 このメイドロイド、ツバキは。

 鍛冶メイドであるアサガオ……つまりは、産みの親である彼女の半分の魂を受け継いでいる。

 

 えっ、半分こんななのだったのアサガオ。

 

 抱きとめたはずのアサガオ……過度の疲弊で眠っている彼女を、本能的に突き飛ばしたくなる。

 もう半分のツバキは突き飛ばした。

 

 「ひっどーい!」

 

 知るか。

 私の唇もこの身全てはお嬢様のモノだ。

 

 「前言の撤回を宣言。ツバキ、貴女は少し残念です」

 「……されな、そういう所も大好き」

 

 えぇ……。

 ドン引きであった。

 期待の新戦力(ホープ)が、あれだった。

 大丈夫か我がヴランバルド家。

 

 「騒がしいわね」

 「あっ、おじょうさまー!」

 

 地下とはいえ、朝から大騒ぎの鍛冶場にお嬢様が訪れる。

 地獄絵図のようになったその場ではあるが、私は姿勢を正して一礼。

 ツバキは、無邪気にお嬢様の傍に駆け寄ってゆく。

 

 「ごきげんよう。ママに造ってもらったツバキです!」

 「――そう。遂に、鍛造り上げたのにね」

 

 アサガオの献身……私が捕らえられていた間にも、鍛造されていたメイドロイドについてはお嬢様も知るところ。

 ツバキの様子から、魂の投入量が察せられたのだろう。

 お嬢様が、新入りに手を差し伸べる。

 

 「よろしくね、ツバキ」

 「おじょうさまも、大好きー!」

 

 差し伸ばされた手を取って、さらにお嬢様に抱き着くツバキ。

 アサガオの半身で造られた彼女は、当然主人に対しても忠実な従者である。

 とはいえ、少し距離が近くないか。

 私のお嬢様だぞ殺すぞ。

 

 嫉妬を検知。

 

 いけない、アサガオが必死に鍛えたメイドロイド。

 大切な同僚である。

 

 「……妬いちゃった?」

 

 私にだけ聞こえる音量で、ツバキが煽る。

 よし殺す。

 やってやんよこのメスガキが。

 

 「サレナ、すてい」

 

 待機命令受領、お嬢様の命により【***】――実際は発動条件不可であるが、無理矢理使おうとしたのを止めた。

 

 「あはー」

 

 幼児的に、お嬢様に抱かれながら笑うツバキ。

 こいつは恐らく終生の敵となる。

 そんな予感がしていた。

 

 

 「――従者決闘(maid duel)!」

 

 久々の、ローズ嬢以外との決闘である。

 とはいえ、練習試合だが。

 

 場所は初めての時と同じ本宅の庭。

 時は昼下がり。

 お嬢様とアサガオの昼食を終えて、のどかな日中だ。

 

 ツバキの鍛造で、魂の半分を失ったアサガオだが。

 彼女の家系に伝わる秘伝により、睡眠時間が大幅に増加する程度で済んでいた。

 ……廃人になりかねない魂譲渡量で心配だったが。

 本人曰く、これで後ろめたさなしにたくさん眠れるとのこと。

 おつかれさまです。

 

 審判(レフェリー)はアサガオ、仲介はお嬢様。

 

 対するは私とツバキ。

 

 私と同じ、黒のロングワンピースに白のエプロンドレス、赤の短髪にホワイトプリムを頂いて。

 彼女の武装は、無銘の刀一本の私と対照的に。

 

 重武装である。

 

 両椀、三連速射砲(ガトリングガン)

 両肩、多連装噴進砲(ロケットランチャー)

 背部には、揃えた赤髪と同じ赤い……長方形の箱型コンテナを装備している。

 

 メイド服でさえなければ、外見と相まって赤いランドセルを背負った小学生だ。

 ガトリングとロケラン担いだ小学生など、見た覚えがないが。

 

 「弾頭、炸薬量は調整しています」

 

 気休めありがとうアサガオ。

 模擬戦とはいえ、初めて対する重武装メイドロイド。

 

 メイドロイドとは、護衛が本懐であり。

 煌びやかな貴族の場を殺伐とするような、無骨は法度。

 護るべき主人を、傷つけかねない火器も避けるべきとされる。

 

 そのメイドロイドに、このドレスコード(常識)違反。

 

 「アサガオ、この子は貴女の半分なのですよね?」

 「火力は正義」

 

 駄目だ、こいつ火力至上主義だ。

 撃鉄式スピアだの、自動巻き上げ石弓、回転鋸内臓バックラーと。

 やたら揃えている武装に破壊力重視を感じてはいたが。

 

 「ママの趣味、最高っしょー!」

 

 軍用ゴーレムでも、ここまでの重武装はしない……はずなのに、小柄に満載されているツバキはご機嫌だ。

 射撃制圧戦用に最適化されたメイドロイド。

 

 剣戟対少数に特化した私と、対極に在ると言っていい。

 

 「サレナ、まずはこの子に」

 「オーダー『わからせ』。了解しました」

 

 お嬢様が、静かに命ずる。

 まずは本来ならば10%の魂で稼働するメイドロイド……五倍する量で、生まれ落ちた万能感に浸る赤子を。

 

 わからせてやろう。

 

 「あっはぁ!」

 

 両腕に備えるガトリングガン、合わせて六門から火線が走る。

 芝生を爆裂させながら、蛇のように迫る死線。

 

 だが、これは牽制。

 

 爆音とわざわざ見せるように足元へと走らせる射線は、こちらの出足を挫く為のもの。

 重武装はそれ故に足が遅く、近接を恐れる。

 だから距離の優位、決闘の場に置いては僅かな距離。

 それを失わぬように立ち回ることを強制される。

 

 「……」

 

 彼岸流合戦礼法、矢抜脚。

 するり、するりと弾着を僅かに確実に避ける。

 踊るような脚捌きで身を揺らし、反らして一撃を許さない。

 

 「すてきぃー! じゃあ、これならどーう!?」

 

 ツバキの両肩部から、爆炎と爆煙が炸裂する。

 ロケット弾の集中砲火。

 機関砲の重点射撃による足止め、墳進砲での面制圧。

 

 形振り構わぬ、戦いに勝利する為の形だ。

 アサガオが鍛造したメイドロイドは、理想の単体軍隊(ワンマンアーミー)である。

 

 「――っ、くぅッ!」

 

 迷わず抜く。

 殺到する弾頭、致命となり得る一発を斬り。

 また斬り、さらに斬る。

 

 それでも、集中される砲火を斬り抜くには不足している。

 爆発の熱と飛散物、防護機能を備えたメイド服が焼き裂かれて肌に食い込む。

 

 ……これで、加減しているのか。

 

 たった二合で、敵手の強度を認識する。

 アサガオの渾身。魂を込めたメイドロイドは、強い。

 

 「あはっ、すごいすごいすごい!!」

 

 ボディはまだ、持ち応えている。

 あれだけの火器に身を晒しながらも、一歩も退かず。

 

 必要な距離を保っている。

 

 「されな、すごいからー……ツバキもすごいところ、みせちゃう!!」

 

 赤いランドセル、背部コンテナが展開。

 両椀の速射砲と両肩の墳進砲に予備弾倉を、両側面から伸びたサブアームが給弾する。

 上部も展開し……現したのは、たった一発の誘導弾。

 

 ただし、巨大である。

 背部コンテナの大部分を占める巨体。

 

 「ぶっといのー」

 

 一斉射(フルオープン)

 ガトリングガンが集中砲火される。

 ロケットランチャーが浴びせられる。

 

 「ぶち込んであげちゃう♡」

 

 一個で軍を相手取れる火砲。

 それらが、殺到して。

 

 回避・回避・回避――間に合わない、防御。

 

 斬れるだけ斬る、鞘で受ける。

 脚は一本あれば間に合う、ならば盾に使う。

 それだけ守りに使っても――。

 

 「こんの――ッ」

 

 間に合わない。

 巨大なミサイルが発射される。

 直上に上り、即座に反転。最短距離で、地を目指す。

 

 この距離で大型誘導地対地ミサイルだと――!?

 

 自爆覚悟――否、相対のダメージ量は絶望的。

 敵手は火砲特化型に相応しい、重装甲も身に纏っている。

 こちらが、先に倒れる。

 

 ……間合いは、敵手の重火器に縫い留められたまま。

 

 ミサイルが落着するまでコンマ7秒。

 敵手との距離は5メートル。

 

 必要な速さは駆けていては足りぬ。

 

 ならば。

 駆けるより速く、射る。

 

 愛刀を手放す。

 宙に浮いた、柄尻を蹴った。

 

 敵手に切っ先を向けて、一瞬宙に留まった刀は。

 わざわざ上に上ってから落ちてくる、コンマ7秒のミサイルより速く敵手の喉笛を貫く。

 

 彼岸流合戦礼法、華顔・裏。

 本来は投擲した刀で首を狙撃する投剣術。

 ――しかし、メイドロイドの贅力で蹴られた切っ先は音速を超える。

 

 ごとり、と首の落ちる音を聞く前に。

 着弾。

 炸薬量が調整されている、というアサガオの言に嘘はなく。

 この決闘を見守られていたお嬢様とアサガオに被害はないようだったが。

 

 爆発オチであった。最低だ。




◇異世界トピック◇
【彼岸流合戦礼法】
戦国期日本に置ける、とある厩衆の剣技を発祥とする。
殿の傍仕えが磨き続けた刀技(ブレイドアーツ)である。
『俺』はその隠密性・敵手を必殺する技法から仕事道具として皆伝まで修めていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。