お兄が教育してくれると言っても、貧乏な我が家の事である。お兄にも仕事が有り、つきっきりで教えてくれる訳にはいかない。
どうするかと言うと、我が家の伝統の教育法では、「リードランゲージ」と言う魔法を教えられた後、手書きの「参考書」を渡されるだけである。後は、独習では良く解らない所を食事の時に聞く程度でだが、何方にせよ我が家では子供でも割り当てられた仕事が有り、それで勉強が進まなくて困ると言う状況になる事は無い様だった。 お兄は、仕事の合間を見て、出来るだけ指導しに来るよと言ってくれたのだ。ありがたい事である。
……因みに、「本」の大半は、羊皮紙でなく、固定化のかかった竹簡だった。「 ハルキゲニアに竹簡あったのかよ。」とか、「横書きの竹簡?」等思ったが、どうやら羊皮紙は売れるので、先祖がどうにか工夫して創り上げたそうだ。 当然、みな一族自筆の労作である。
……恐るべし貧乏。
それから二ヶ月後、僕は新しい魔法を一つ開発し、予備の杖と契約していた。
ドット未満が何をと言う感じだが、新しい魔法と言っても「ディテクトマジック」を元に数語を変更したものだ。
「ディテクトマジック」は「対象の魔力を『感じる』」と言う効力であったのだが、その為に存在しない感覚器官を仮想的に構成させるていたのである。その為精度が低く、更に魔力をけっこう消費していた。
これを、既に存在する目という感覚器官に「対象の魔力を見える力を『付け加える』」形にする事により、精度を上げた上で魔力消費量を減らせた訳である。
そのディテクト改を自分や家族の杖に使ってみた所、杖には「魔法陣」と言うか、「魔法で出来た回路の様なもの」が付いているのが見えたのだ。
をコンピュータに例えると、「杖の所有者と魔法回路のインターフェイスとマザーボードにあたる
」
そして、その「魔法回路」への干渉はそれを「具体的に意識」し、それなりの魔力を注ぐことにより可能だと判明した。
よし、とりあえず改造用に予備の杖と契約して俺Tueeeだ。
と、思ったのだが、そう簡単にはいかなかった。
考えてみれば当然だが、魔術回路を見えるようにし続けるだけでも、ドット未満の僕では、けっこう魔力を使ったのだ。
そんなこんなで、僕がなんとか予備の杖に「ドット」の回路を付けるのに二ヶ月もかかってしまったのだが、逆に言えば、杖との契約後僅か二ヶ月でドットになれたとも言える。
我が一族では終生のランク
しかし、何故、杖をディテクトで調べるなんて簡単な方法を誰も気が付かなかったのか。
杖は魔法使いの分身だからだとか、伝統だとか、そんな所だろう。単なるコロンブスの卵なのだろう。
まぁ、リードランゲージの謎に比べれはたいした事ではない。
作成時のイメージから、この魔法はCADに近いのだが、「キャドマジック」だと言いにくいので、「エディトマジック」と命名した。
正直、まだまだフリーソフトのCADどころか、子供のお絵描きソフト以下と言うレベルではあるが、この後、「複写・縮小・解析・操作・修正・付与・削除」etcの効力を加えて行く事になる。
ただ、少し気になる事があった。呪文を最適化しようとして、定冠詞らしき文言を省いたら呪文の効力が激減したのだ。
リードランゲージでその部分を翻訳しても、「一**」などと表示されるだけであり、この数語を外しても文章全体の意味は変わらなかったのだが、逆に、上手く配置すると効率が上がる事が分かり、何らかの文法的な問題だろうと判断した。
後日、何故もっと徹底して追及しなかったのかと、心底後悔することになるのだが。
この魔法をこれ程熱心に開発したのは、ハルキゲニアのメイジの魔力は、杖の魔術回路を通ってのみ、魔法として現実世界に発現するからである。
先程も例えた様に、魔力を電気とすると、杖の魔術回路をは電子回路、魔法が演算結果である。
何故、こんな初期からこんなに面倒な事を始めたかと言うと、おかんの魔術回路が他の家族のサイズが面積比で四分の一しかなく、同じ魔法をかけた時の魔力消費量も同じく四分の一ぐらいだったのに、威力は同レベルだったからだ。
つまり、魔法回路を縮小して杖に付加出来れば、簡単にサトー家の「ドットの呪い」の一因はこれではないかと考えられる。
なお、回路のサイズについては、数年後、隣の領地のドットメイジがおかんサイズの回路だったので間違い無い事が判明した。
ただ、いくら「ドットの呪い」が優勢遺伝だとしても、DNAによる遺伝としてはメンデルの法則に反する。
やはり、何か霊的・魔法的な原因が有るのだろうと思う。……呪いだわ。
先程も例えた様に、ハルキゲニアの魔法使いと杖は、自作PC初心者とその作品と言うのが比較的近いと思う。
契約出来たばかりの杖は、ほぼベアボーンのままで、OSを動かすのが手一杯。メモリも最小限でアプリも殆ど無い。ただ、パスワードにより他人はは使用不能だ。
作者はメモリを増設し、プログラムをインストールし、各属性を補助するボードを挿入して行く。
だが、取説は無く、手探りで組み立てるしかない。
例えると、杖のマザーボードのスロットに「水の演算補助ボード」が一枚挿さっている状態が、「水のドット」である。
又、空きスロットに他の属性のボードを挿すことは出来るが、ボードを使えるアドレスは指定されており、どれか一枚しか使う事が出来ない。
そして、アドレスは同じ属性を重ねることに依り増加する。これがランクアップである。
つまり、水のラインで火と土がドットの魔法使いは水と水、水と火、水と土のライン魔法は使えるが、火と土のライン魔法は使えない。(筈だ)
ところが、僕が観た処、同属性のボードをn枚挿すには、動作する為のメモリ(魔力量)がnの二乗必要であった。
ドットで必要なメモリを1とすると、ラインなら4トライアングルで9、スクエアで16必要なのだ。
ところが、サトー家の血族ではドットになるのに並のライン以上、ラインになるには、スクエア以上の魔力が要るのだ。
この「メモリ設定」はハルキゲニアの魔法の根本的な仕様である。
改変は不可能では無いと思うが、それは、先住魔法の一種とされてしまうであろう。
ちなみに、おかん水準換算だと、おじいとおとんはスクエア、おばあとおにいはトライアングル、おねえはライン級の魔力容量はある。
実は、おかんもトライアングル級で、マザーボードの一部に不具合があり、ボードの増設を認識出来ていないだけだったりする。
……現在、換算してドット以下なのは僕だけである。
既にお分かりとは思うが、僕が新しく杖と契約した訳は、杖の改造の為である。
使用中の杖を使ってその杖自体の改良するのは、流石に無理だと思ったからだ。
そして、当然と言えば当然なのだが、予備の杖に魔力を注ぐ様になって、元の杖に使われる魔力は半分以下になり、杖の成長は、極端に悪くなった。
魔法使いは杖を失えば無力になってしまうのに、予備の杖が流行らない理由が、これであろう。
だが、僕には「エディトマジック」があり、これは「コモンマジック」である。ドット以下でも問題無く使える