「ナナちゃん……!! 悪いけどまた辛抱してください!!」
『うん……。私はいいんだけど……』
化粧パクトと湯切りを再び引き離す直前のことだ(正直自分が両方持っていたいが、ここで高潔とまた揉めるのは得策ではないし時間がもったいなかった)
ナナの言わんとしていることは次のようだった。
『何で魔法少女同士で争わなくちゃいけないのかな……』
「……」
その問いには答えず化粧パクトをドレスの内ポケットへ入れる。
既に高潔と自由は一階へと向かう階段を駆け上がっている。
果たしてそこにはどんな光景が広がっているのか。
「こ、これは……!!」
自宅一階の窓から見えたのは外に成人サイズの妖精がずらっと並ぶサマ。
不気味なのはその妖精の
薄桃色全身タイツの羽根を生やした八頭身。
どうみても妖精ではないのだが、この存在に適する名称が思いつかないのでやはり妖精と呼ぶことにする。
妖精軍団は一定の速度で進んでくる。
包囲網を狭めていることは容易に推測できた。
半ば機械的なその動きは話し合いどころか意志の疎通が難しいように思える。
「高潔に仕切らせてもらうわ。星ヶ浜さんを守るためにもここは高潔な
「あ? それマジで言ってんの高慢ラーメン女」
青と紫の火花が散る中、二人を頑張ってなだめる。
とりあえずミユから高潔へのその呼び方は止めてほしい。
だが、重要なのはミユが他の案を思いついているということだ。
「ええっと……毒島さん? そのいい草だと他に何か手があるんですか?」
「お、屁理屈アイドル女は話がわかるな。籠城なんかジリ貧もいいとこだ。相手の数を考えたら絶対にこっちが力尽きるのが早いし退路だって完全に断たれちまう。いま取るべき策は――」
自分は屁理屈じゃなくて不屈だ。
そう言いたい気持ちをぐっと抑えて耳を傾ける。
「イチかバチかの強硬策……一点目掛けての強行突破だ」
「強行……突破!?」
それこそ無理に思えてくる。
目を凝らしてみたが、あの妖精達の一体一体が並みの魔法少女並みのオーラを放っている。
数体倒したところで取り囲まれるのがオチだ。
「まあ見てなって……!! 自由叫ぶ紫煙の
ミユの体から毒霧が噴出する。
一瞬、高潔と身構えるもすぐに無用だとわかった。
次の瞬間には紫色のバイクが居間に出来上がっていた。
「こいつに乗って逃げる。私が魔法力で運転するからアンタらは後ろに乗れ」
「い、いやいやいや!! 毒霧でこれを作ったって無理がないです!?」
自由いわく、「ガスで走るんだから似たようなもんだろ」とのこと。
移動用の浄化技だから相手にぶつけてもほとんどダメージはないらしい(浄化とは?)
何にしろこれを活用しない手はない。
とりあえずミユの後ろにまたがって抱き付くも、一向に高潔が乗り込む気配はなかった。
「おいラーメン、どうした?」
「……私にこれに乗れっていうの!? バイクの複数人乗りって何か条件があってアニメとかで怒られてるやつじゃない!! というか免許は!? あなたは私にルールを侵せというの!?」
「魔法のバイクは特殊装甲車両。魔法少女なら誰でも運転が許可され時速300kmで走行可能。4人までの同時乗りが許可されている。こういう設定でどうだ?」
「それならいいわ」
「いいのかよ」とツッコミを入れてる場合ではないのは、外を見れば明白だ。
八頭身の妖精達は家に向かって手を掲げ、エネルギーをため込んでいる。
いつエネルギー弾を連射されても文句は言えない。
「高潔さんがワチャワチャ言ってるから……!! 毒島さん!! 一体どこから脱出するんです!?」
「そりゃ上だ!! 二階あんだろこの家!!」
「う、上ぇ!?」
「いくぜぇぇぇぇぇ!! ヒャッハーーーーー!!」
バイクが紫のガスを出しながら居間を走り出す。
「トイレから二階に上がれるわ!!」という高潔の叫びを受け、階段を激しく揺れながら登っていく。
二階にあった私の部屋。
この世界で目を覚ましたスタート地点を何の感慨にひたる間もないまま爆速で走り抜ける。
窓ガラスを突き破って見えた空は相変わらずの虹模様。
地面にいる妖精軍団が小さく見えた。
次の瞬間には妖精軍団によるエネルギー弾が家に着弾していた。
桃色の爆風を背に受け、バイクはさらに加速する。
振動とともに着地したその地点は見事、包囲網の外。
加速を続けるバイクの上から振り返れば、家のあった場所には桃色の煙しか残っていなかった。
「ヒャハハハ!! あそこに残ってたら蒸発してたな!!」
不謹慎なレベルで笑い飛ばす自由の魔法少女に、高潔の魔法少女は「むう……」と頬を膨らませていた。
こちとら家が消し飛んでしまったのだが、不思議と気が引き締まってきた。
この世界から脱出するためにも、もう後には引けないということだ。
「でも、これでとりあえずは安心ってことですかね……!?」
「安心するのは早いぜ。アイドル女」
「え……? あ、あれは……!?」
薄桃色八頭身の妖精達がバイクに乗って追いかけてくる。
「どうして……!?」という疑問はすぐに解決した。
妖精達の一部が四つん這いになってバイクに変形していたのだ。
それに人型タイプの妖精がまたがり、二体一組での追跡を可能としていた。
「アタシらの走りを見て学習したみたいだな。ハッ、面白くなってきたじゃねえか……!!」
「楽しんでる場合ですか!? 向こうの方が速くて追いつかれそうですよ!!」
「私に任せなさい。あなたは私を押さえてて」
「へ!?」と声を出した時には高潔は大型バイクの上で立ち上がっていた。
手には氷の刃を構えて。
「高潔スラッシュ!!」
寄ってきた妖精軍団をそのまま斬りつけていく。
たまに転げていく妖精が後方とぶつかって多段コンボが繋がっていた。
「ヒャハハ!! やるじゃねえかラーメン女!!」
「ふふ……あなたもなかなかいい走りっぷりじゃない。高潔と認めてあげなくもない」
「ああああ!! スピード下げろ!! バイクの上に立つな!! こんな状況で互いを認め合うな~!!」
高潔と自由に
高潔の足とバイクを鉱石で固定することで何とか落ちないようにしていた。
「スピード落としたら捕まっちまうだろ!! アタシもいっぱいいっぱいなんだから無茶言うな!!」
「そうだ。道の前方を私の高潔ブリザードで凍らせればもっとスピードが出るんじゃないかしら?」
「絶対に事故るからやめやがれですうううううぅぅぅぅぅ!!」
そうこうしているうちに追ってくる妖精バイクの数は減っていく。
高潔は意気揚々と氷の刃をクルクル回して背中に
倒すと言うよりも、妖精バイク達は自分から下がっていったのだ。
追跡を諦めたということか?
それにしても不自然な気が――。
音が聞こえた。
全てを
「
後ろの様子を察知したミユがつぶやく。
妖精バイクたちが次々と合体し、桃色超大型トラックとなり猛加速をしていたのだ!!
「そ、そんなのアリですかあ!?」
なにせ大型ではなく超大型なのだ。
ぱっと見、25mプールくらいのサイズはある。
質量の塊であるそれが自分達の後ろにぴたりと付け、猛スピードで追い抜こうとしている。
「横に
少しでも細い道へ。
自由の魔法少女は鋭いコーナリングで横道を駆け抜け坂を上っていく。
桃色超大型トラックは遠心力で外に膨れつつもこちらの横に付けてきた。
ちなみに途中に生えていただろう木だとか標識だとかは全て桃色超大型トラックに粉微塵にされている。
「クソ……!! 良いコーナリングしてんじゃねえか……!!」
「……!! 見るです!! クソデカトラックの表面が……!!」
うねうねと波打っている。
へこんで飛び出て細く伸びたと思えばそれは全身タイツの人型に。
勢いのままこちらのバイクに乗り移ってくる!!
「くっ……!!」
「高潔さん!!」
さながら船を寄せ合っての海上戦。
最悪なのはこちらが乗組員三人の小型ボートに対して向こうは豪華客船なところだ。
高潔の魔法少女が飛び込んてきた妖精達を斬り飛ばしていくも、相手の戦力は無尽蔵。
その内、ずしんと嫌な揺れがした。
こちらのバイクに乗り移られたのだ。
高潔と妖精が戦っているが、できることといえば高潔の足場を強く固めるくらい。
無事に撃退してくれることを祈るのみだが旗色が悪いのは見なくてもわかった。
「湯切りが……!!」
ドレスに隠し持っていたそれを妖精に奪われたのだろう。
目的を達したとみるや当の妖精は後方へと自ら飛び去って行った。
内ポケットの化粧パクトをそこにあることを確かめるように握りしめる。
(相手の狙いはやっぱりナナちゃん……!! どうしよう、このままじゃ……!!)
こんな強引な手段を取ってくる連中だ。
もしも連れ去られてしまったらどうなるか。
どうすることもできない自分が、酷く無力で情けない。
いくら不屈でも何の力もなかったら――。
「……やっぱりあなたは高潔ね。自分の無力さを認めつつ、星ヶ浜さんを守るとしている」
「高潔さん……?」
「先に急カーブがある!! 自由の魔法少女!! 最高速度で曲がりなさい!!」
「何か考えがあるんだな……おもしれえ!!」の台詞を聞いた時には既にバイクは加速していた。
限界を超えてさらにその先に。
負けじと桃色超大型トラックも加速する。
このままだと両方、崖から落ちてしまう。
「高潔さん!? 本当に何か考えがあるんですよね!?」
「ええ、高潔ブリザードを放つわ」
「だ、だめです!! いまさら高潔ブリザードなんかじゃアレにダメージは……!!」
「高潔ブリザード!!」
「話を聞いて――」
言いかけて今回は自分が間違っていたことに気づく。
高潔の魔法少女は話を
斜め前方に放たれた高潔ブリザードは桃色超大型トラックの道を凍らせていた。
「道が凍っていたら【絶対に事故る】でしょう?」
そう、絶対だ。
どんなコーナリングを有するマシンでも絶対に。
「限界までドリフトするぞ!! つかまれえええええええ!!」
高潔が自分の腹へと手を回すのと、自由の魔法少女が車体を傾けるのが同時だった。
もはや体が道路に擦り下ろされるんではないかと心配になるくらいの入射角。
摩擦で紫の煙が撒き上がる。
既に鉱石は自分達三人の下半身をがっちりと固めている。
桃色超大型トラックはグリップの効かない道路で無理やりに回転する力を加えようとした。
やがて制御不能。
超大型のそれがくるくると高速で回転を始める。
全てをなぎ倒す勢いのまま、最高速度でガードレールを破壊し崖から放り出された。
車体をゆっくりと戻し終えた時には、崖下で桃色の爆炎が起こっているのがわかった。
ほぼ全妖精の力を集めていたそれが落ちたということは、追っ手もしばらくは来ない。
私達はひとまずの危機を乗り越えたのだ。
「これじゃあ魔法少女というより無法少女だな!! ヒャハハハハハ!!」
「あはは!! その悪役みたいな笑い方はやめてほしいけどね!! 何だかハイになってきたわ!! 私達みんな高潔よおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
「でも湯切り取られちゃいましたよね」
「そうだった……」と高潔の魔法少女はスンとした。
……今回は高潔のおかげで助かったわけだし、後でちゃんとお礼は言おう。
「これでまたナナちゃんはしゃべれない状態に……」
「あー、それに関してだがちょっと気になることがある。後で言うわ」
「気になること……?」
「気になるっつーか思い当たるかな。何にせよもっと遠くに逃げてからだなこりゃ」
「……」
自由の魔法少女の発言を受けて後ろを振り返れば、まだ桃色の爆炎はもくもくと勢いを増していた。
ふと頭によぎる。
追っ手でこれだけの強さであるなら、それを仕向けた魔法少女はどれほど強いのだろうか、と。