虹色の空が漆黒に変わり、露骨なくらい夜になった。
開けた土地に出ると、自由の魔法少女はバイクのスピードを落とし始めた。
「今日はこの辺りで野宿だな」
自由の魔法少女の一言に「ヤダー!! 高潔じゃないー!!」と騒ぎ立てる声もあったが、自分が気になったのは他のことだ。
「ここは夢みたいな世界なんですよね? 休憩する必要ってあるんですか?」
「オオアリだ。【睡眠】は時間を消費する分、回復効果が高い。長期的に見るとアドしかないんだよ。そのためには寝床が必要だ。というかアンタらずっと変身してるの効率悪いぞ」
ラーメン屋で変身してからずっとドレスだったが、確かにずっと魔法力を消費している感がある。
バフがかかる分、体にも負担がかかるということか。
目を閉じて念じてみれば橙色のジャージに早変わり。
体力の回復はこちらの方が早そうだ。
「そうそう、そんな感じだ。アイドル志望の私服が土気色のジャージでいいのかって感じだけどな」
「う、うるさいですね……!! というか志望じゃなくてデビューまで行ってたんです私は!!」
そんなことよりも、だ。
ナナを助ける算段について話す方が先決だ。
「思い当たることがある」なんて思わせぶりなことを言っていたが、結局あの後は運転に集中するなどと言い出してまだそのことを話していない。
自由の魔法少女は少し自由すぎるところがある。
「うっせーな。自由の魔法少女って呼び方なんかイヤだからやめてくれ。型に当て
「む……。それを言い出すならあなたが高潔さんを高慢なラーメン妖怪扱いするのも良くないですよ。あとナナちゃんのことを話すのが先!!」
ギスり出してしまったが仕方ない。
自分とてささやかながら社会に揉まれた身。
正しいと思ったことでは引きたくないのである。
「あ、あの……二人とも……」
高潔が珍しく控えめに主張をした。
「ケンカは……高潔ではないと思うわ……!!」
高潔の魔法少女は攻撃的な割にギスッた空気は苦手なのだった。
●
何はともあれ寝床を造りながら話をすることに落ち着いた。
「呼び方だけど高慢……じゃなくて高潔の魔法少女を高潔って呼ぶのはどうなんだよ?」「え……? 私はあだ名みたいで気に入ってたけど」「……。第一印象がアレだったからそのまま呼んでたとは言えないです……」「そうだったの!?」「まあ本人いいならいいか。もうそれで統一しようぜ。アタシも【自由】って呼べばいい」「型に当て嵌められるのはイヤだったのでは……?」「そこにこだわるのは自由じゃねえ」
自由の魔法少女が用意したテントの端を鉱石で打ち付けながらそんな話をした。
呼び方で変に揉めるよりはいいし、簡潔だから戦闘で呼びかけるのにも便利だろう。
(高潔の魔法少女はコードネームみたいで高潔ね、と喜んでいた)
高潔が氷の剣で用意した薪をニコニコと持ってくる。
自由が紫の着火器具で火起こしをした。
「自由さん、何でもできますね……」「ん? そうか? 魔法少女なんだからやろうと思えばできるだろ」「でも私は鉱石ぐらいしか出せませんよ?」
自由いわく、魔法少女が作り出せるものはその人間の特性だとか知識によるものらしい。
「自分の知識だってアニメからだよ」そう言って笑い飛ばしているのは、果たしていっしょに笑っていいのか。
一回、巨大ロボットを造ろうとしたが材料系や電気系の知識が足りずハリボテみたいなのができあがったらしい。
まともな寝床ができるのを願うばかりである。
「……さっきはごめんです。自由さんがいなかったらそもそも私達は助かってないのに」「いや、いいよ。気を
紫のブロック肉を橙の鉱石で打ち付けて
自由と不屈のコラボレーション。
今夜のご飯は【挽き肉を熱したもの(仮)】だ。
肉を適当に焼きながら、そろそろいいかと思い話題を切り出すことにした。
「ナナちゃんを助ける方法……教えてください。あの妖精達の居場所を知ってるってことですよね?」「妖精達というかそれを仕向けた桃夢園ノゾミの居場所だな。だがその前にやることがある」「それって……?」「ナナさんの欠片を集めんだよ」
星ヶ浜ナナの欠片とはあまり良い表現ではないが、ニュアンスはわかる。
つまりは自分が持っていた化粧パクトや高潔が持っていた湯切りのことだ。
そういえば、と問いかける。
「自由さんは何か持ってないんですか? ナナちゃんとの思い出の品。それがあればナナちゃんはまたおしゃべりできるかも……!!」「アタシは桃夢園に操られてたんだぞ。取られたに決まってるだろ」「それもそうか……。ちなみに何だったんです?」「……」「自由さん?」
「リボンだよ!! リボン!! 可愛らしいリボンだよ!! ナナさんが元の世界で『これ、あなたに似合うかも!!』って渡してくれたんだよ!! 何か悪いかコンチクショー!!」
急にキレだした自由をなだめつつ、頭を働かせる。
ここにいる三人とも元世界で星ヶ浜ナナと知り合い、かつ何かしら思い出の品を持っている。
二人なら偶然かもしれないが、三人ともなれば話は別だろう。
「ということは……私達以外の魔法少女がいれば、その人もナナちゃんの知り合いの可能性が高い」「そういうことだ。でもって一人心当たりがあるんだよ」「え……!?」
自由がこの世界で目覚めて最初に出会ったのは緑色の髪と瞳を持つ【調和の魔法少女】。
やばそうな人間だと思ってさっさと別れたらしいが、その人間が近くにいるらしい。
(その次に会ったのが桃夢園で操られたらしいので、自由の魔法少女はだいぶ運が悪い)
「ともかく調和の魔法少女……名前も聞いてねえけど、そいつに会って仲間に引き込むしかねえ。少なくとも今の私達じゃ桃夢園には絶対に敵わねえ……」「その人がナナちゃんとの思い出の品を持っていれば、またナナちゃんはしゃべれるようになるかもしれない……決まりですね!!」「二人とも!! 高潔に椅子とか作ってみたわ!! 座って!!」
高潔がノリノリでつくった椅子は心なしかひんやりとしていたが、座り心地は悪くなかった。
今後の方針も決まったし今日はこのままゆっくりするのも悪くない。
(ナナちゃんには悪いですけど……。でも必ず助け出します……!! 待っててくださいナナちゃん!!)
自由の魔法少女がモンスター避けになると
まるで自分の決意に呼応するように、ゆらゆらと――。
「……ってなに『これで今日は終わりです』みたいな空気だしてんだ? まだ最後にやることあるだろ」
「やること……? それって」
「桃夢園の様子を見る」
見る。
魔法少女が見ると言うのなら比喩とかじゃなしに【見る】のである。
自由の魔法少女は自宅に向かっている途中、自分達を尾行していた。
会話の内容なども聞いていたから、それを実行するということか。
「そういうことだ。アタシの毒霧を薄めてセンサーとして活用する。頭の中に霧を飛ばした位置の出来事が流れ込んでくる感じ」
「こういうのって失敗するイメージがあるんですけどリスクはないんです?」
「言い方。ま、こっちの魔法力に気づかれる恐れもあるけど向こうからは何もできねえだろ。情報戦でアドだ」
頷く。
自分達を襲ってきたやつの様子を知りたいのもあるし、もしかしたら相手にも事情があるのかもしれない。
星ヶ浜ナナは魔法少女同士で争うことを望んでいなかった。
恩人の意志は少しでも尊重すべきだと思った。
「じゃあお願いします」「高潔にね」「ほいきた。というか実は既に飛ばしてるしな、霧」
……準備がいいけど私達の答えによらず実行するつもりだったということか。
やっぱり食えない魔法少女だ、と思っていたら自分達の周囲を紫の空気が囲んでいく。
ダメージはないけど頭がぴりぴりする。
紫の霧を通して、頭の中にイメージが流れ込んでくる。
●
それは大きな庭園だった。
夜の世界に彩られたそれは、まるで時が止まったような静けさ。
その神秘的な空間に桃色の長い髪を持つ少女が
少女が大きい箱を綺麗にラッピングしている。
人が入れそうな大きなのそれはくるむのにも一苦労。
一体なにが入っているのか。
少女が立ちあがったところで、上蓋が透明だったそれの中身が
箱の中には星ヶ浜ナナがいた。
化粧パクトや湯切りのことではない。
生きた人間の体だ。
いや、目を閉じているそれは、まるで死――。
「ひっ……!!」左隣から声が漏れた。
そしてその声に反応にするように、桃色の少女は虚空を――いや、はっきりとこちらを見たのだ。
少女は真顔のまま、静かにつぶやいた。
「見るな……」
桃色の光が溢れ出した。
「見るなあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「しまった!! 伏せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
右隣りの叫び声に反応して咄嗟に伏せ、耳を塞ぎ、口を開ける。
爆音。
頭上では桃色の爆発が巻き起こっていた。
それだけでない。
近くにある魔法力に誘爆したのか自分達のテントを、晩御飯を、椅子を……全てを破壊していった。
私達が立ち上がった時にはもう何も残っていない。
自由の魔法少女がぽりぽりと頭をかいた。
「あーあ、やっちまったな。アタシの魔法力を
「この手はもう使えねえなあー」などと軽口を続けたが、自由の表情は寂しげだ。
自分と高潔は顔を見合わせる。
どうやら想いはいっしょのようだ。
「謝らなくてもいいです。三人で決めたことですし。桃夢園って人がナナちゃんを閉じ込めてるってのはわかりました」
ストレートに言えば監禁。
どういう理屈なのかはわからないがともかくナナの体はそこにあった。
化粧パクトがしゃべれていたのは、ことによるとナナからのSOSだったのか。
ナナ本人が自分の置かれていた状況を把握していなかったというだけで。
何にせよ、化粧パクトを渡すつもりはないし、元の世界に戻るにしてもナナの体を何とかするのが先だ。
「……でもよう、せっかくの寝床が」
「また作ればいいじゃない、高潔に」
「そうです。ちょっと自由さんに任せすぎなところもありましたし……三人で協力して、もっといいものを作るんです」
「アンタら……」
自由が目をこする。
困った人間を勇気づける。
これもアイドルならば当然なのである。
「よーし!! 晩御飯は高潔ラーメンにしましょう!! 改良を重ねた高潔ラーメンマーク2よ!! 湯切りはないけど頑張って作るわ!!」「おお!! そういえば高潔のラーメンってどんな味なんだ?」「……ノーコメントです」「まずいってことか」
「失礼でしょ!!」という高潔ツッコミを合図に三人の笑い声が夜の世界に広がった。
キャンプ生活はまだ始まったばかりである。
「ところで『ひっ……!!』って驚いてたの高潔さんですよね?」
「……ノーメコメントよ」