魔法少女EX   作:MOPX

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姉EX

 

紫のバイクが今日も夢の大地を走り抜ける。

初めてのキャンプをしたあの日から私達は妖精軍団に追われないよう注意しながら移動を続けている。

目的は調和の魔法少女との接触。

 

場所については自由の魔法少女が彼女と会った時の場所を覚えていた。

「洗脳されていたのにそんなにはっきりと覚えているものですか?」という疑問を投げかけたが、桃夢園に施されたインモンもどきはナナに関する記憶だけ消す類のものであったらしく問題ないらしい。

(それはそれで私や高潔と戦っていた時は割と素の性格だったということだが……)

 

ぶーぶー不平を垂れる高潔と適当に聞き流す自由に挟まれて、自分の視界は緑に覆われてきた。

まるで大地を蹂躙(じゅうりん)するような大森林。

一切の紛れも許さない調和の取れた緑だった。

 

 

「見えてきたな……あれが調和の魔法少女の居場所だ。チッ、前に見た時よりもデカくなってやがる」

 

「あの森が……? なんでわかるんです? また霧を飛ばしたんですか?」

 

「イヤ、あれはもう格上には使わねえって決めた。どの道、やつの魔法力の覆われたこの空間じゃ密度を薄めるタイプの浄化技は通用しねえ」

 

「じゃあこの森は……」

 

察する。

この緑色は魔法力の光だ。

つまり、この森全てが調和の魔法少女の浄化技により発生したということだ。

 

「前に見た時よりもデカくなってる」というのは調和の魔法少女が力を注ぎ込み続けていた、ということだろう。

 

「そういうこった。アタシは目覚めてからすぐこの森に迷い込んだ……そこで調和の魔法少女と会ったんだ……。軽い挨拶を交わしただけだが、ヤバいと思った。すぐにバイクに乗って逃げだしたよ」

 

「ヤバいってどういう風にです?」と聞くも「ヤバいもんはヤバいんだよ……!!」と要領を得ない答え。

確かに周囲一帯が浄化技によるものだと思うとその魔法力の総力はすさまじいが……。

(浄化技ってそういうものだっけ? という疑問はいまさらなので止めておいた。魔法少女が浄化技だと思えばそれは浄化技なのである)

 

「というかこんなに無造作に侵入して大丈夫なんです? 向こうから襲ってきたらけっこうまずいんじゃ?」

 

「これだけの大きさだと草木の一本一本に大した力はねえ。アタシは調和の浄化技はいわゆる設置タイプなんだと思ってる」

 

「設置……。つまりはハズレを踏まなきゃ大丈夫ってことですか」

 

「そういうこと」とバイクが根を飛び越えながら答えは返ってきた。

仮に襲われたとしても自分達を一網打尽にするレベルの罠が仕掛けられている可能性は低い。

……そもそも向こうが襲ってくると決まったわけではないけど。

 

「何にせよ、これだけ深い森だと桃夢園も手を出せないのかもですね」

 

「ああ、だからこそ協力してほしいってのはあるからな。……やばそうなやつだったけど」

 

ここにきて気づく。

自称高潔の魔法少女が全然しゃべってないことに。

 

自由がけっこう理知的で話が弾んでしまうからしょうがないとはいえ、後でむくれられても面倒だ。

 

「高潔さん、何か意見はありますか? 高潔なやつじゃなくてもいいです」

 

答えは返ってこない。

 

「高潔さん……?」

 

いない?

そんなはずはない。

腰には自分に抱き付く()の感触が――。

 

 

「……!? 何ですかこのツタは!?」

 

「ちぃ!!」

 

バイクの速度とともに緊張が増していく。

高潔の魔法少女がいたはずのバイク後部にはツタが絡まっていた。

 

「飛ばすぞ!!」

 

「高潔さんを置いて行くんですか!? 攻撃されて落ちたんですよ!?」

 

「止まったらアタシ達がやられる!! 一周して高潔を探す!!」

 

自分でも無意識の発言で自覚する。

このバイクは攻撃をされている。

そして高潔の魔法少女は音もなくやられてしまったのだ。

 

「あ――」

 

視界が開けて前方に投げ出される。

自由の魔法少女がバイクごと消えた。

そして自分は勢いのまま地面に叩きつけられようとしている。

 

頭から落ちたが、数回転の後には起き上がることができた。

鉱石で頭部と首を守ってなければ大怪我では済まなかっただろう。

 

「自由さん……!! どこに……!!」

 

下から声が聞こえた。

「逃げろ」(うめ)くような声で、そう聞こえた。

 

紫のパーカーが根の側に見えた。

自由の魔法少女が落としたものかと思ったが違った。

 

自由の魔法少女は根に取り込まれていた。

 

「じ、自由さあああああああん!!」

 

次の瞬間には地面に引きずり込まれる感覚。

私の意識は消えていた。

 

 

 

 

夢を見ていた。

真っ暗な世界、静止する時間。

果てしなく続く虚無の時間。

 

恐れ……不安……ネガティブな感情でごった返してひっくり返った世界。

 

そんな中で一人の少女だけが強大な敵に立ち向かい前に進むのだ。

 

魔法少女。

 

それが本当に実在するのなら、彼女だけだった。

 

私はおしゃぶりを付けていた。

 

 

 

 

「!?」

 

私はツタでできたハンモックの上でおしゃぶりを吹き出した。

意味あり気な夢はどうせ今は関係しないし後で考えよう。

 

周囲は木造の部屋のようだった。

小綺麗な丸テーブルにオシャレな小物や写真……趣味の良い部屋だがだからこその違和感。

両隣のハンモックにはおしゃぶりをくわえた魔法少女達がいた。

 

「高潔さん!? 自由さん!?」

 

「ばぶばぶばぶ……」(へっ……アタシとしたことがざまあねえぜ……。桃夢園の時に続いてテメエのミスで大ピンチだ……。すまねえな、不屈、高潔……)

 

「ばぶう~」(そうやって自分のミスを認めるあなたは高潔よ。今はどうやってこの危機を乗り越えるか考えましょう)

 

口ではばぶばぶ言ってるだけだが魔法力を通して何を伝えたいか把握した。

二人ともおしゃぶりを外さない辺り、ほとんど動けない状態らしい。

 

落ち着いて状況を整理しよう。

自分達は何者かに襲われて運ばれてきた。

そして襲ってきた張本人はこの場にいない。

二人を連れて逃げ出すなら今――。

 

扉が(きし)む音が聞こえた。

 

即座に変身をし武器(マイク)を身構える。

 

「あらあ、もう起きたの? ダメじゃない寝てなきゃ。あなた達は私の年の離れた妹達なんだから」

 

「妹……!?」

 

現れたのは緑の長い髪を持つ少女。

どう見ても同年代だがこちらを問答無用で妹扱いしてきた辺りただ者ではない。

自由の魔法少女が言っていた意味がわかった。

 

やばいやつだ。

 

吹っ飛ばしたおしゃぶりを拾って自称姉が近づいてくる。

その淀みない動きに恐怖を覚えつつも抵抗をすることにした。

 

「な、なんなんですかあなたは!?」

 

「ふふ、私は(かぜ)()()()シラベ……あなた達のお姉ちゃんよ」

 

「私に姉なんかいないです!! 何を言ってるんですかあなた!?」

 

「ふふ……そんな恥ずかしがらなくても大丈夫よ。お姉ちゃんが全部お世話してあげるからね」

 

「や、やめるです!!」

 

おしゃぶりを寸前のところで回避し体を揺らすようにハンモックから飛び降りる。

もう一度くわえていたら完全に妹にされるところだった。

 

「あらあ」と自称姉は静かな笑みをたたえている。

 

「あなたが調和の魔法少女ですね……いったい何が目的でこんなことを……」

 

「ふふ、私はお姉ちゃんなのよ? より妹を求めるのは当然のことじゃない。だからあなた達を妹にした。ツタを通して魔法力を奪わせてもらったけど……あなたは頑丈な妹だったのね。お姉ちゃん、想定外だなあ」

 

何を言っているのかよくわからない。

だが一方でとんでもない圧を感じている。

 

不屈の名を冠する自分が、気圧(けお)されている。

 

「ふふ、私は姉を越え、母を越え、地母神となり、また姉に戻り、姉を越え、真なるお姉ちゃんになった存在なの。あなた達にはここで私の妹になってもらう」

 

「な、何を言ってやがるです……!! 私達はナナちゃんを助けて元の世界に戻るんです!!」

 

「ああ、そのことだけど……」

 

トーンが変わる。

どうやら私達の記憶も魔法力を通して盗み見ていたらしい。

説明の手間が省けて楽だ、と思いきや次に出た一言は意外なものだった。

 

「元の世界に戻る必要なんてあるのかしら?」

 

「え……?」

 

静かな部屋の中で、ばぶばぶ声だけが聞こえていた。

 

 

 

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