(私達のことをカラフルなウジ虫だなんて……!! いや、これは私の被害妄想かも……。悪い人だと決めつけるのは良くないです)
「久しぶりねナナ。あなたに本当の意味で会えるのをずっと待ってた……。それにご機嫌よう、カラフルなウジ虫ども」
(本当に言いやがったです!!)
「希望の魔法少女にはいささか高潔さが足りないようね」「ああん? 頭にウジ湧いてんのはどっちだ?」「ふふ、なかなかシツケがいがありそうな子ね」
いきり立つ味方陣営を何とかなだめるも、桃夢園ノゾミは意に介していないようだった。
『ノゾミちゃん……うん、久しぶり』
「ナナ……この世界はね。私があなたのために用意したの。でもね、肝心のあなたが目を覚まさなくて……私どうしたらいいかわからなくてずっと途方に暮れてたの……。でもこれからはずっといっしょよ……!! 紛れ込んだこの四人の邪魔者どもを始末していっしょにゆっくり暮らしましょう!!」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
さも当然みたいな流れで始末されてはかなわない。
とりあえず桃夢園ノゾミはナナに対する敵意はなかった。
襲ってきたのはナナを手元に置くためであり、敵だと認識しているのは私や武器を取り出したり毒霧を吹き出しつつある三人だ。
「私達、戦いたくなんかありません!! ナナちゃんとはたまたま合流出来ていっしょに元の世界に帰る方法を探そうって思ってたんです!! あなたはここの世界を作ったみたいですけどまずは話し合いを――」
「そう、あなた達がナナを苦しめたのね」
「え……!?」
自分達がナナを苦しめた?
いったい何の話だ?
確かに化粧パクトの扱いが良かったとは言い切れないが、それでもベストは尽くしてきた。
何より、今はこうして無事に星ヶ浜ナナは私達といっしょに――。
「まだわからないのこのカスども。ナナはあなた達に合わせていただけ……。元の世界になんか帰りたくないのに自分の意見を我慢していたのよ!!」
「ええ!? そうなんですかナナちゃん!?」
『わ、私は……』
調和の胸の中でぬいぐるみがうつむく。
その表情は当然ぬいぐるみだから変化しない。
「その無言が答えよ。あなた達、『ナナのおかげで助かりました!!』ってじゃあナナの気持ちは? 誰か一人でも考えてくれたの? 私は違う……。常にナナのことを考えこの身を捧げる覚悟なの……」
うっとりとした表情でナナを見つめる桃夢園ノゾミはこれが漫画なら微笑ましかったかもしれない。
この女の瞳には本当にナナしか映っていないのだ。
それ以外のものは敵でしかないのだ。
(ナナちゃんが私達に合わせてるだけだった……? そんな……)
「さ、行きましょうナナ。大丈夫!! こいつらは私が頑張って消してあげるから♪ ナナは何も心配しなくていいから」
ナナ(ぬい)の体が桃色の光に包まれ宙を浮く。
そのまま桃色ドレスの胸の中へとうずまった。
『もが……もががが……』
「ふふ♪ ぬいになったナナもかわいい。もっとも私は見かけじゃなくてナナの心の奥底の部分が好きなんだけどね。さ……」
周囲の木々が震え出す。
まるでこの空間にある全てのエネルギーが一人の少女へと集まっていくような。
「ふふ、お姉ちゃん、武者震いが止まらないかも……」「おいおいおいおい、こんなの聞いてねえぞ……!!」「この禍々しい桃色のオーラは……むしろ……」
「絶望……」
大きなリボンの付いた桃色のドレス。
既に魔法少女としか思えないかっこうの少女が叫んだ。
「……変身!!」
轟音。
大気を揺るがすその衝動は、この世界が産まれる瞬間を目撃したようだ。
次の瞬間には巨大な羽根を生やした少女がいた。
「希望
桃色の熱風が飛んでくる。
不屈シールドで全員を隠すも鉱石の表面があっさりと剥がれていく。
(そんな……変身しただけでこれだけの魔法力を……!!)
「あれ? どうしちゃったのそんなところに隠れて? やっぱり虫さんは岩の裏が好きなのかな?」
そう、変身しただけでこれだけの威力なのだ。
もしも浄化技を使ったら――。
「魔法少女の浄化技はいつだって悪いやつをやっつけるためにあるの。つまり……ナナを苦しめる存在全てを消すために」
浄化技が来る。
高潔は歯をガチガチ鳴らしていた。
自由はうわごとをつぶやいていた。
調和は何かを叫んでいた。
私は――。
もしも今までのことが全部夢だったら。
そんなことを考えていた。
「終わりよ、消えなさい」
桃色の光が、爆ぜた。
「希望ビッグバン!!」
それは誇張でも何でもなかった。
宇宙に存在すると判明している物質のエネルギー。
それと等価な魔法力が、この一帯に集約されて巻き起こる。
「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大地を、空を、全てが光に飲み込まれて消えていく。
私達の体も分け隔てなく飲み込んで。
薄れていく意識の中、私は最後に何かを掴つかもうとしていた。
●
「ここは……?」
真っ白な空間に自分一人。
死後の世界か精神世界的なアレか。
「死後の世界だったらイヤですね……。ずっと意識があったら発狂しそうです……」
何かないかと辺りを見回せば足元に何かが落ちているのに気づいた。
最後の瞬間、自分が無意識につかもうとしたもの。
もうぬいぐるみのベルトに提げていたから、私が持っているはずのなかったもの。
「あ……」
化粧パクトは粉々に壊れていた。
星ヶ浜ナナからもらった大切なものが。
壊れた破片を必死に集めて繋ごうとした。
でも、元に戻そうとすればするほど、破片はもっとばらばらになっていく。
私は涙を流していた。
結局、アイドルとしても魔法少女としても自分は中途半端なまま終わるのだろうか。
何者にもなれないまま。
『そんなことないよ』
驚いて振り返ればやたらキラキラした人型の存在が立っていた。
神々しさすら感じる黄金色は、されどどこか懐かしさもあったのだ。
「ナナちゃん!? 何でそんなに光ってるの!? それより無事だったの!? いや、ここどこかわからないし全然無事じゃない!!」
『あはは、一瞬でバレちゃった。今の私は謎の魔法少女イーエックスゥ……。
やたらキラキラした存在(星ヶ浜ナナ)いわくこうだ。
ここは私の魔法力で構成された世界。
体の方は無事であるが、けっきょく桃夢園の浄化技で気を失った状態。
いわば、眠っている間に見る
夢みたいな世界でさらに夢を見るというのも変な話だが、今更だろう。
ここに来てから不思議なことしか起こっていない。
その中で自分はベストを尽くしてきた――はずだった。
「結局、私は何もできなかったです……元の世界に戻ることも、ナナちゃんを助けることも……」
『……本当にそう思ってるの?』
「……そうですよ!! 自分なりに考えて……諦めないって覚悟で戦って……でも、あの桃夢園って人には敵わなかった!! 希望の魔法少女には……!!」
希望を司る存在が敵に回る本当の意味を自分は理解していなかったのだ。
どんな時にでも胸に灯る道標。
人にとって最大の行動原理と成り得るもの。
それを無限に肥大化させた存在を。
「私がどんなに諦めなかったところで……希望には敵わないんですよ!!」
『……ひとつだけいいかな』
「……なんですか」
『あなたがどうしたいか、それを聞かせて』
「え……? 私が……?」
『うん。ノゾミちゃんを倒したいの? それとも……ここで諦めて全部なかったことにする? 私は……どっちでもあなたの意志を尊重する』
「……」
『何ができるか?』じゃなくて『どうしたいか?』
(私は……)
自分より強い敵を打ち倒したいわけじゃない。
仲間達と終わらない日常を過ごしたいわけじゃない。
人のために何かをするのは当然のことだと思うので、どうやって人の役に立ちたいかだ。
だったら、私は――。
「アイドルに……なりたいです。キラキラして……みんなを笑顔にできるようなアイドルに……」
こんな時に何を言っているのかと自分でも思う。
でも、これがウソ偽ることのない本心だ。
そして、願わくは――。
「高潔さん、自由さん、調和さん、もちろんナナちゃん。それに……桃夢園ノゾミにだって私のファンになってステージに来てほしい」
やっぱりお客さんあってのステージだから。
一人でも多くの人に自分の姿を焼きつけてほしいから。
あんなに圧倒的な強さを見せた希望の魔法少女にだって、それは変わらないのだ。
みんな心に、目に見えない何かを背負っている。
せいいっぱい頑張る自分の姿を見て、何かを感じてくれればそれで――。
『うん、ありがとう……それだけ聞ければ大丈夫!! きっと悪いようにはならないよ!!』
「ナナちゃん、私からも質問いいですか?」
『いいよ!! 今の私は謎の魔法少女イーエックスゥ……だけど!!』
「ナナちゃんは……私達に合わせていただけだったんですか?」
自分の気持ちは変わることはないが、星ヶ浜ナナが本当に元の世界に帰りたくなかったのなら無下にすべきでない。
六人でちゃんと話し合って決めるべきことだ。
(桃夢園を説得するのはもちろん難しそうだけど……)
そう思って問いかけたのに、やたらキラキラした存在(ナナ)はわざとらしく何かに気づいた素振りを見せるのだった。
『あ!! もうこんな時間!! その後ろの落とし穴で元の世界に戻れるから!! 戻ったらちょっとびっくりするかもしれないけど頑張って!! あ、化粧パクトは実際には壊れてないから安心してね!! じゃ!! グッドラック!!』ドンッ!!
「え? あ? わあああああああああ!?」
キラキラした張り手で突き飛ばされた私は落とし穴へ。
そのままどこまでも落ちていく。
「な、ナナちゃあああああぁぁぁぁぁぁん!?」
穴の上から元気に手を振る姿が見えた。