(ここは……?)
目を覚ました私――
記憶がはっきりとしてくる。
あの時、桃夢園の攻撃で瞬殺された私達はどうやらトドメをさされずにここに運び込まれたらしい。
桃夢園は私達のことを【消す】と言っていた。
それを実行しなかったのは魔法力が足りなかったのか、あるいは別の理由があるのか……。
今は考えても仕方ないことだ。
(桃夢園ノゾミ……確かにすごい魔法力でしたけど私は絶対に諦めないです!! だって……!!)
自分の目指す
恩人に背中を押されたのだから。
まずは他の仲間を探し桃夢園にもう一度会う。
そして星ヶ浜ナナに何回だってお礼を言うのだ。
決意を新たに
カチャリ
(え……? 体が動かない……!?)
ジタバタと手足を動かそうとするもカチャカチャという音が聞こえるのみ。
かっこよくモノローグを決めた手前、だいぶ恥ずかしい。
(ええいクソ!! いったいどうなってやがるで……す……?)
気付いた。
自分の手足が縛られて十字架ハリツケになっていることに。
そして身に
(な、なんですかこのかわいさの欠片もない恰好は!!)
そしてさっきから声を出すことがまったくできないのだ。
喉を振るわせようとするも口から空気が漏れ出るだけ。
十字架ハリツケのまま頑張って首を動かす時に自分の横に何かが並んでいるのに気づいた。
(高潔さん!! 自由さん!! 調和さん!!)
自分の左隣に高潔、右に自由と調和。
全員が同じようにボロ布一枚で
三人ともぐったりとしていて生気がない。
「あはは、目を覚ましたみたいね」
奥の階段から誰かが降りてくる。
桃色の長ブーツが鳴らす小気味の良い足音はどこか楽し気だ。
「やっぱりあなたが最初だったわね……雲母岩キララ」
(桃夢園ノゾミ……!!)
フリフリドレス、胸にはかわいいリボン。
桃色で統一されたそれらを着た少女は、こちらを小馬鹿にするような笑みを浮かべていた。
(どうしてこんな……酷いことを……)
オシャレをして着飾るのは普遍的欲求。
この少女も魔法少女ならそれをわかっているはずだった。
「あはは、だからこそよ。魔法少女の力はイメージの力……服装にも強く依存する。だったら私に逆らえないようなボロボロの身なりにすれば? 名付けて奴隷フォームよ。気に入ってくれた?」
(最悪の気分です……)
別の姿に変身をしようとしても力が湧いてこない。
魔法少女にとってメインである変身の力を封じる恐怖の能力。
やはりこの女は一筋縄ではいかない。
「ふん、完全に消滅させてないだけありがたく思ってほしいんだけどね。……本題よ。あなた達、ナナに何をしたの?」
(え……? どういうことですか……?)
直前にやっていたことといえば調和と話していたくらい。
あとは突然の襲撃者にさらわれたくらいだろう。
質問の意図がわからなかった。
「とぼけてるってわけでもなさそうね。うーん、察しが悪すぎて自分達がやったことに気づいてないパターンかなあ」
(ナナちゃんに何かあったんですか……?)
「……。いいわ、それくらいは教えないと記憶を掘り出すのも一苦労でしょう。……ナナはまたしゃべらなくなっちゃったの。ぬいぐるみもそうだし、他のものをどんなに組み合わせてもダメ……。そもそも共鳴して光る現象が起こらなかったの……」
桃夢園はそう言って
(桃夢園は星ヶ浜ナナのことを考えている時だけは憂いのある正統派魔法少女の顔をしている)
そうなると自分達があえて生かされた理由もわかってくる。
「そういうことよ。湯切りを奪った時もナナはしゃべらなかった……。その時から可能性として考えていたのよ。あなた達の誰かに原因があるんじゃないかって」
(私達が……?)
ナナがしゃべらなかったというのは、いつぞや見た桃夢園の側にあったナナの体のことだろう。
あの体を湯切りに近付けても何も起こらなかったということか。
そして、既にしゃべっていたはずのぬいぐるみも今はしゃべらない状態になっている。
「察しが早くて助かるわ。あなたと無駄にしゃべらなくて済むもの。何か原因があるとしたらあなた達しか考えられないわ。そして一番怪しいのは……あなたよ、雲母岩キララ」
(私はナナちゃんに特別なことなんて何も……)
「黙りなさい!! 今までナナがしゃべった時は化粧パクトが必ずあった!! それを持っていたのはあんたでしょう!? 言いなさい!! ナナに何をしたの!? 最後にしゃべれなくしてナナと私を苦しめようなんて……!! そもそも何であんたがそんな大事なものを持ってるのよ!!」
十字架に縛られたまま肩に手をかけられ体を揺さぶられる。
なるほどナナが目を覚ますまでは自分達を
……恩人を交渉の材料にしているようで気分は良くないが、自ら望んだ状況というわけでもないし仕方ない。
何とかしてナナを助ける方法と、自分達が助かる方法――それに目の前の桃色の髪を
(……ナナちゃんの意識が戻ってないのならそれをどうにかするのが最優先です。私達全員を解放してくれませんか? こんな状態じゃ協力できません。私達四人とも、あなたと戦いたくなんかないんです!!)
「……」
私の頬に桃色の張り手が飛んできた。
何だか最近張り手をくらってばっかりだ。
「ぷっ……自分の都合しか考えてない意見ー!! うぬぼれないでよ!! だからあなた達をナナに会わせたくなんかないの!! 私達のハッピーエンドの邪魔をしないで!!」
(ハッピーエンド……?)
橙の光が口から漏れる中、気になったそのワードを復唱する。
今の私といえば十字架ハリツケにされて頬に張り手を食らっている。
これのどこがハッピーエンドだというのか。
「ふふ、教えてあげよっか? ナナはいろんな人の言うことを聞きすぎて疲れちゃってたの……。みんなのハッピーエンドを叶えるためにね。『ナナちゃんのおかげで助かりました~』ってあなた達はそれでいいわよ。でもナナの幸せは? 傷ついていつも人のことばっかりで……そんなのナナは損してるだけじゃない」
(……)
ナナの本心。
結局、いまだに知ることのできなかった部分だ。
「だからね、私はナナにとって幸せなこの空間を作ったの。ナナと、ナナのことを一番に考える私の二人だけが暮らす夢の世界よ。ナナが魔法少女を定義してくれたように、私はハッピーエンドを定義するの。ナナと私だけがいて……自分勝手なことを言ってナナを苦しめるその他全ての人間はいない……。これが私達のハッピーエンドよ」
桃色の瞳は驚くくらい澄んでいる。
桃夢園ノゾミは自分の考えを【善】だと本気で思っている。
(そんなの勝手すぎます……!! 私達はどうなるんですか……!! 希望の魔法少女を名乗る人がそんな自分勝手な考えをするなんて……!!)
「……」
桃色往復ビンタが飛んでくる。
見かけよりも派手な音が地下室に鳴り響く。
(あう……)
「口の聞き方には気を付けなさい。……これは私なりの
ちょっとやそっとの
宇宙レベルの魔法力を持つ少女の宇宙レベルの拗らせ。
これが希望の魔法少女――桃夢園ノゾミ。
「別にナナ以外の人間にどう思われてもいいもん。……もちろんあなたにも」
アゴを手で引き寄せられた。
羞恥でこちらの顔が赤くなるのを心の底から楽しんでいる様子だ。
「あなたはもう完全に敗北してるのよ。アイドルだっけ? そんな俗なものを目指す人間が私に勝てるわけないじゃない。私の愛はナナにだけに対するもの……ナナの存在自体を愛しているの……。やれ顔がいいだの、そんなレベルのものといっしょにしないでほしいわね!!」
(ぐ、ぐううう……)
反論しようにも体は相変わらず動かない。
小さな鉱石ひとつ作り出すことだってできないのだ。
ボロボロの布切れ一枚での十字架ハリツケ。
せめて変身することさえできれば……。
その時だった。
隣からかすかに声が聞こえてきたのは。
「ころ……して……」
(……え?)
最初は聞き間違えたのかと思った。
高潔の声で「殺して」と言ってるように聞こえたから。
だがそれは間違いではなかった。
奴隷服でハリツケの高潔の魔法少女は確かに、何度も同じようにその言葉をつぶやいていた。
まるで壊れた人形のように。
「ぷっ……あはは!! 聞いた!? 高潔の魔法少女さんはこの状況に耐えられなかったみたい!! もともと氷みたいに
(そんな……高潔さん……)
確かに高潔は言動の強さの割に攻められると弱いところがある。
でも自分から消えることを願うなんて――。
高潔は死んだような瞳で涙を流していた。
「いいわ。
桃夢園が小型の杖を構える。
その魔法力密度は並みの魔法少女を貫くのに十分な量だった。
当然、今の高潔の魔法少女では耐えれるはずがない。
「じゃ、気が変わる前に……。消えちゃえ♪」
(こ、高潔さあああああぁぁぁぁぁん!!)
声が出ない。
桃夢園が杖を構えて前進しているのに。
必死に、願うように高潔の魔法少女の方を見やった。
高潔は相変わらず涙を流していた。
しかし、妙だった。
さっきから絶え間なく涙を流している気がする。
そしてその涙が青くきらめいているのだ。
高潔の魔法少女の口元がわずかに上がった。