魔法少女EX   作:MOPX

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高潔EX

 

桃色の杖が迫るその直前、冷たい風が吹いた気がした。

高潔が流していた涙は青くキラキラと輝き凍り付き、そして――。

 

「高潔氷柱(アイシクル)!!」

 

真下へと発射され、奴隷服を斬り裂き、一周して手枷足枷を根こそぎ破壊し、自由になった手がボロ布を放り投げ、勢いでそのまま飛び上がり、叫んだ。

 

「変身!!」

 

空中で青い光を()き散らしながらドレスを身に(まと)う。

そのまま回転する勢いで桃夢園に斬りかかるも桃色分身を作り出しながらのスウェイバックに惜しくも回避されてしまう。

 

青い刃を凛然(りんぜん)と構える様はまさに高潔。

遥か格上の相手に一歩も引かない姿がそこにはあった。

 

「ま、そんなことだと思ったわ」と桃夢園は杖をくるくると回している。

私としては魔法少女の突然の復活に驚かずにはいられないのだった。

 

(高潔さん……!? いったいどうやって……!!)

 

「簡単な話よ。それは私が高潔だから」

 

(……?)

 

よくわからない発言を最大限好意的に解釈する。

奴隷フォームは私達からの魔法力の発生を完全に打ち消すものだ。

だからこそ変身も浄化技も全く使うことができなかった。

 

だが、一度体から離れてしまえば?

 

涙は高潔の魔法少女そのものではないが、高潔の魔法少女から生じたものだ。

結果、それは魔法力を持たない状態で目から(こぼ)れ落ち、奴隷服の影響が遮断された状態になってから高潔の魔法少女の意志に呼応する形で魔法力を帯びたのだ。

 

超裏技的手法。

この土壇場(どたんば)でこんな手を思いつくなんて――。

 

(いや、それよりも……)

 

不屈である自分が声すら出せないのに「ころして……」などとつぶやいて(●●●●●)いたことが異常だったのだ。

その体にいったいどれほどの魔法力を蓄えていたのか。

 

「希望の魔法少女、桃夢園ノゾミ――」

 

ぞっとするような冷たい声。

それが高潔の魔法少女から発せられたものだと気づいた。

 

「私はあなたを許さない。あなたは私の仲間達に辱めを与えた」

 

「ふわあああ……。なに? 説明タイムもう終わった? で、ザコ魔法少女のあなたが私に何か用?」

 

「名乗りなさい。それくらいの時間はあげる」

 

「ふうん、何だか自分の実力をわかってないみたいだけど。あなた、この中でもザコの中のザコでしょ? 鏡みたことある?」

 

「いいから早く名乗って。あなたみたいな人でも一片の慈悲は与えないと私の主義に反する」

 

「……よっぽど死にたいんだね?」

 

「本当に怖いのは自分が間違っていることにすら気づけないことよ。まあ、今のあなたのことだけど」

 

少女が二人、笑っている。

この狭い地下室の中で、まるで互いの領域を主張するように。

 

「凍てつく絶対零度の高潔……」

「希望司る永久の光……」

 

青と桃の魔法力(オーラ)(つば)競り合い、互いの間でバチバチで弾ける。

あらゆる空想をなす魔法少女の力が、いま本気でぶつかり合おうとしている!!

 

「高潔の魔法少女、氷鏡キョウ!!」

「希望の魔法少女、桃夢園ノゾミ!!」

 

二人の少女の高らかな宣誓(なのり)とともに戦いの火ぶたは切って落とされ――。

 

「高潔け――」パァン!!「希望のピストル。ひゅー♪」

 

一瞬で終わった。

 

(こ……高潔さん!!)

 

目いっぱいの声はやはり口から出ることはなかった。

桃色の弾丸に体を貫かれた高潔の魔法少女は崩れ落ちるように膝を付きそうになる。

生成しようとした巨大な氷の刃は既に砕けていた。

 

「あはは!! 私の早撃ちどう? 射程と速さを重視した分、威力は全然なかったけど……あなた程度の魔法少女なら一撃だったみたい♪」

 

くるくると楽し気に拳銃を回す桃夢園とは対照的に、高潔の魔法少女は時たま青い光を吐きながら息も絶え絶え。

両者の差は残酷なまでに明らかだった。

 

(高潔さん……!! 逃げてください!! 幸い桃夢園はあなたに興味を持ってない……見逃してもらえる可能性があります!! 無理に戦う必要なんてないんです!!)

 

「だ……めよ……。仲間を見捨てて逃げるなんて……そんなの……高潔とは言えないわ……」

 

(……!!)

 

高潔の魔法少女がもう一度立ち上がる。

氷で傷口を塞ぎ、血のように流れ出ていた青い光を束ね剣にする。

 

「ぷっ。まだ痛めつけられたいんだ。じゃあこういうのはどう?」

 

手にしていた桃色の拳銃の砲身が伸びていき、両手で構える程の大きさになっていた。

 

「希望のマシンガン♪」

 

桃色の弾丸乱射。

さっきよりも目が慣れたか。

氷の刃が鋭く踊り攻撃を弾き飛ばしていく。

 

だが、劣勢なのは変わらない。

氷の刃は次第に砕けていき、被弾が増えていく。

青いドレスがみるみるうちに破れ、傷ましい様子に変わっていく。

 

それでも高潔の魔法少女は戦い続けていた。

 

(どうして……)

 

どう見ても勝機なんかないのに。

逃げても誰も文句なんか言わないのに。

 

「はああああ……。まだ粘るの? もう飽きてきたんだけど……。じゃあこういうのはどうかな」

 

桃夢園の手には巨大な杖が握られていた。

さっきの小型の杖とは違い、見るからに派手な桃色オーラを発している。

 

「ビッグバン・希望ロッド。ビッグバン一回分の魔法力をこの杖に集めてみました!! 魔法少女がまともにくらったらどうなるか私にも想像できないなあ~。……じゃ、試してみよっか♪」

 

(……!! お願いです……逃げてください高潔さん……)

 

もうこれは勝負じゃない。

桃夢園が浄化技で遊んでいるだけだ。

生きた魔法少女を実験台にして。

 

「来なさいよ……そんなので私の高潔さは壊れたりしない……」

 

「じゃ、死ね」

 

希望の魔法少女が絶望の体現者となり走り出す。

禍々しいオーラを体中に纏っていて防ぐことも不可能。

高潔の魔法少女は一撃のカウンターに賭けたのか刃を振りかぶる。

 

その瞬間、加速した桃色の杖が高潔の魔法少女を貫いた。

 

叫びも祈りも通じなかった。

魔法力が制御できなくなったのか、高潔の魔法少女の体が凍り付いていく。

瞬く間に氷像となったそれは、桃色大型杖からの衝撃を受けて粉々に砕け散った。

 

(そんな……うそ……)

 

桃色の少女の笑い声だけが地下室にこだまする。

砕けた氷が宙へと降りそそぐ。

それでも凛然と輝くそれらはまるで高潔さそのもので――。

 

風が吹いた気がした。

氷が風に乗り小さな吹雪になる。

 

私が思い出したのは温泉でのやり取りだ。

この世界での魔法少女の姿は仮のものに過ぎない。

それはつまり、人間の姿をとる必要すらないということだ。

 

氷が一点へと集まっていく。

手を、足を形作っていったそれが、ついに人の姿となり、叫んだ。

 

「氷鏡キョウ!! 再変身!!」

 

青いドレスを身に纏い氷の刃を構えた魔法少女が、光とともに現れる。

桃夢園の油断した背中に。

 

「取ったわ!! 希望の魔法少女!!」

 

桃夢園がやっと振り返る。

ついに届いた高潔たる一撃は――。

 

桃夢園の胸のリボンを斬り飛ばした。

 

「……」

 

桃夢園がリボンを拾い上げる。

身じろぎもせず、復活した魔法少女に一切の興味も持たずただそれを見つめていた。

やがて、桃色のオーラが禍々しさを増した。

 

「よくも……よくも……!! 私がナナのために用意したドレスを!!」

 

「!!」

 

ほどけたリボンはもう高潔の体に巻き付いていた。

そのまま強引に力を加えられ床に倒される。

 

高潔が態勢を立て直そうとする時には、桃色長ブーツが高潔の背中を踏んづけていた。

足踏みのように何度も繰り返され、その度に高潔の口から青い光が漏れる。

 

「このザコが!! どうしようもないザコが!! あんたごときがナナのために用意したドレスを~!! このリボン、ナナが気に入ると思ってたのに~~~~!!」

 

もう既にリボンは胸に戻ってるのに、そんなことはお構いなし。

駄々をこねる子供の動きで人を窮地に追いやっている。

 

(……勝っていたのは高潔さんです)

 

「は? 何を考えてるのボロ布ハリツケのアイドルさん? お目目おかしくなっちゃったの~? キャハハ!!」

 

私の胸には静かに何かがくすぶっていた。

高潔の魔法少女は最後の一撃、浅く踏み込んだ。

もしも桃夢園が完全に気づかず致命的な攻撃にならないように。

 

(そんなことにも気づかなかったんですか? 希望の魔法少女……!!)

 

「知らない。そんなのこの女が勝手にやったことでしょ? 本気でも私を倒せるわけなんてないじゃない」

 

違う。

そういうことじゃない。

 

高潔の魔法少女は最後まで高潔であろうとした。

どんなに無慈悲に攻撃を受け続けようとも。

強大な相手に決して諦めずに――。

 

(……!! もしかして……!!)

 

思い出したのは私が自由の魔法少女と戦った時のことだ。

あの時は私が手加減をして窮地に追い込まれた。

そして高潔の魔法少女が私の高潔さ(●●●)に感化される形で復活したのだ。

 

同じ状況。

違うのは立場だけだ。

 

だとするなら、高潔の魔法少女がやろうとしていることは――。

 

「……ふふ、私の不屈(●●)っぷりはどうだったかしら、不屈さん」

 

決して敵うはずのない相手に挑み続けたのは、私に力を与えるため。

最初から自分が勝利するつもりなどなかったのだ。

 

「このわからずやだってどうにかするつもりなんでしょ……? やってみせてよ。あなたは私が認めた高潔な客で……不屈の魔法少女で……私の友達なんだから……!! あうっ!!」

 

「……。そういうのいらないから」

 

 

桃夢園が一際強く踏み込むと高潔はそれっきり静かになった。

 

 

(……)

 

私は手枷を引きちぎっていた。

胸に煮え(たぎ)るのは怒りではなかった。

ここで怒るのは自分に想いを託した高潔に失礼だと思ったからだ。

 

ボロ布に手をかけ、破り捨てる。

……この奴隷服は外からの魔法力を防ぐようにはできていない。

だからさっきの戦いの余波で効果が弱まっていたとか理屈は付けれるはずだった。

 

でも、そんなことはどうだっていい。

 

胸にくすぶるこの想いを止めることは誰にもできない。

そう、私にこんな恰好は相応しくない。

 

だって私は――。

 

「……変身!!」

 

橙の光を身に纏う。

そう、これはめいいっぱいのおめかしだ。

見ている人に夢を与えるための。

 

「大地を照らす不屈の輝き……不屈の魔法少女、雲母岩キララ!!」

 

動きやすさとかわいさを兼ね備えた橙のブーツで地下室に降り立つ。

無敵の魔法少女と相対するために。

桃夢園ノゾミ――希望の魔法少女は高潔を踏むのにも飽きたのか、こちらを向いた。

 

「……ねえ、調子乗ってる? 私に完全に消されることはないと思って? ……頭にきちゃうな。また奴隷に戻してあげる」

 

私は首を振る。

調子乗ってるわけでも、戦いたいわけでもない。

 

「希望の魔法少女、桃夢園ノゾミ……あなたを私のファンにしてみせます!!」

 

マイクを高らかに掲げて宣言した。

 

 

 

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