「ナナちゃーん!! もうちょっと小さくなれますかーーーーー!?」
『うーーーーん!! これくらい!?』
鼓膜を魔法力で治した後、私達はあらためてナナと合流した。
ナナのサイズはどうやら可変であるらしく、最初に見た時よりもだいぶ小さくなることができた。
(それでも20メートル弱はあったけど)
何はともあれ、ここに魔法少女六人が集まったのだ。
つもる話もあればこれからのこともある。
ひとまずは拠点の設置をしなければいけない。
音圧で倒壊した桃夢園の館を出て行くにつけ、ふと気になってナナの方を見る。
(ナナのふくらはぎにくっ付く希望の魔法少女はおいといて)ナナは夜空を見上げていた。
混じりっけのない一面の黒……その中にある一際目立つ黒い点を見ているようだった。
なぜだか私も、その黒い点が気になった。
●
「高潔ラーメンマーク
そんなこんなで拠点も瞬く間にできあがる。
この生活にもすっかり慣れた証拠でもあるし、なんやかんや役割が分かれてスムーズに進んだ。
私はといえば自発的に光る鉱石を辺りに設置して飾り付け。
……ちょっと特殊な使い方だけどたまにはこういうのもいいかもしれない。
モンスター避けにもなるし、何より気分が華やかになる。
「たくましいものね。まあ、あなた達の魔法力は私よりもはるかに低いけど」
「テントでゴロゴロしてないで手伝えです!!」
希望の魔法少女あらため桃色ぐうたら少女が「え~。ナナ以外のためには働きたくない~」と駄々をこねる。
(ナナに張り付くのを止めたのもナナにみんな仲良くするよう言われたからで渋々だった)
「コイツほぼ浄化技使い切ってるだろ? 逆に今は何ができるんだ?」と自由が聞けば「わかんない。ぱっと思いつかない」とのこと。
「ええええ……」と一同の声が漏れる。
ゲームでボス敵が味方になった途端にHPの桁が減ったりするが、それに近いものを感じる。
今の希望の魔法少女はスペックが高いだけのぐうたらなのだった。
『ごめんねみんな!! 私も何か手伝えると良かったんだけど……』
「ナナちゃんはしょうがないですよ。……今日だって大変だったんですからゆっくりしていてください」
「……しょうがないとはいえ、ぶん投げてしまいましたし」と付け加えたらナナ(20メートル弱)は体育座りのままフフッと笑っていた。
星ヶ浜ナナの笑顔を見ると安心せずにはいられない。
ずっと手助けしたかった恩人がこうして無事にいてくれるだけで良かったと思えるのだ。
(音圧でキャンプ道具が吹き飛びそうだったから鉱石で固定しつつ)
「ふふ、そろそろ始めましょうか。……希望の魔法少女、あなたの知っていることを教えてちょうだい」調和が促す。
「……いいわ。モンスターが私達の星に湧いていたことはあなた達も知っているでしょう? ……星を埋め尽くしてどうしようもなくなるくらい」希望がうつむく。
「モンスターが増えることで人々の不安が増し、それがさらにモンスターを引き寄せる結果になった……。それでも私達は戦い続けていた。自分自身の不安に押しつぶされそうになっても」高潔が凛と言う。
「いや、待てよ。こっちに来てからけっこう経ってるだろ? めちゃくちゃにモンスターも湧いてるんなら大分ヤバいんじゃないのか?」自由が新しい視点を持ってくる。
「それは大丈夫よ。私が宇宙全体の時間を止めといたから」希望がさらっと言う。
「ちょ、ちょっと待ってください!! 宇宙全体の時間を止めたって……それならモンスター倒せません!? というかそんなことできるんです!?」
「希望は未来であり時間を司る概念よ。ナナのためって思ったらなんかできちゃった。時間を止めて宇宙ごとモンスターを隔離した私は残った魔法力でこの時空を作ったのよ」希望の瞳が淡く揺れる。
「それだけのことができてもモンスターを倒すことはできなかった……そういうことでいいのかしら?」調和が確認する。
「……うるさいわね。倒すのと止めるのは全然違うのよ。……モンスターの勢いは私達魔法少女をはるかに超えていた。私の力でもやつを倒すことはできない。だからナナが……」希望はそれっきり静かになる。
「それでも諦めるなんて良くないです。何か方法はないんですか……?」
『あるよ』
一同が少女の方を見る。
理想の魔法少女――星ヶ浜ナナの方を。
『モンスターはね、強いボスを倒すとその子分もいっしょに消えるの。ボスのさらにボスを倒せば、その分だけたくさんのモンスターが倒せる……。だから一番の大ボスを倒せばあの宇宙からモンスターは消える』
「じゃあその一番のボスの位置さえわかれば……!!」
『……実はもう場所はわかってるの。……あそこ』
一様な黒い空の中で、一際黒い一点を。
『あそこが私達がもともといた世界。……私達の星そのものがもう大ボスになろうとしてたの』
黒い巨大な星。
私達がいた世界そのものが不安や恐怖によりモンスターに乗っ取られたもの。
それこそが最後に浄化すべき相手だった。
●
作戦会議は終わり自由の提案で
結局、明日この世界からあの
(移動方法に関して、ナナが飛べるらしいので乗っていくことになった)
あとは各自が体と心を休めようということになるのだった。
……後ろでは高潔と自由と調和、それに希望がワチャワチャしていた。
「なにあなた達? 私に文句あるの?」「やっぱこんなすんなりパーティーに入られると感情的に良くねえよ。負け癖も付いて前ほど絶対的には感じしねえし三人がかりならいけんじゃねえか?」「……確かに希望さんは私をボコってヘラヘラしてた酷い女だけど、三人がかりはちょっと高潔ではないわ……」「ふふ、お姉ちゃんに良い考えがあるわ」「ふん、あなた達で私をどうにかできるわけないじゃない」
がっちりと肩を組み合う三人はおいといて私は夜空を見ていた。
「……」
『キララちゃん、元気? 今日はいろいろあったもんね』
そんなに落ち込んでいるように見えたんだろうか。
ナナの顔が不意にのぞきこんできてドキリとしてしまった。
(今のナナの顔は自分の背丈よりもでかい)
希望の魔法少女との戦いが決着がついたのはもちろんある。
でも、ナナにはまだ聞けていないことがあった。
「あの時……夢みたいな世界でナナちゃんは私の背中を押してくれた……すごいうれしかったです。でも、聞きそびれてました」
『えー、あー、あれは謎の魔法少女だから私じゃないんだけどー』と頭をぽりぽりとかくナナ。
その反応は間違いなく本人でしょと思わず笑みが漏れてしまう。
「ナナちゃんは私達に合わせていただけだったんですか? 今はどうなんですか? ナナちゃんの気持ち、私は知りたい」
『……』
あの時はなし崩し的に張り手をくらってしまったけど、やっとゆっくりと話せる。
星ヶ浜ナナの本心はいったいどこにあるのか。
魔法少女同士は隠し事はできない。
そう思っていたけど、どうも私の思考がダダ漏れなだけだったらしい。
(アイドルは見てもらってナンボなので別にいいけれど)
だから言葉で直接聞いた。
仮に魔法力がなくたって、私達には自前の口と喉があるのである。
『本当に正直なところね、私はみんなが幸せならそれでいいと思ってるよ。もちろんあの星に残ってる人たちも……』
「希望さんが時間を止めたんだったら大丈夫ですよ。浄化して、モンスターを倒して、みんな助かってそれで終わりです。……ナナちゃんはしたいことはないんですか?」
『したいこと……うーん』
考え込んだナナの膝によじ登ってみる。
答えてくれるまでいつまでだって待つつもりだ。
ナナは大切な恩人なのだから。
「何なら歌を披露してもいいですよ!! 未来の国民的アイドルがナナちゃん一人のために歌うんです!!」
『あはは。うん、キララちゃんの歌かあ……。それもいいけどひとつだけあったよ、やりたいこと!!』
何だろうと耳を傾けようとしたところに「ナナ~!!」と希望の声が飛び込んでくる。
……せっかくエモい感じの会話をしてたのにと膝から飛び降りて振り返ってみれば――。
ボロ布一枚で涙目になっている希望の魔法少女がいた。
『ノ、ノゾミちゃん!? どうしたのそのかっこう!?』
「ナナぁ……悪い魔法少女にやられちゃったよぉ……」
奥では高潔と自由が「ほら、さっさと歩きな!!」とノリノリの様子だった。
少し離れたところでニコニコしている調和に話を聞く。
「いったいどうやったんですか、あれ……」
「ふふ、私は奴隷服を着たら星ヶ浜ちゃんの気が引けるんじゃないかってそそのかしただけよ。希望ちゃんも自分に奴隷フォームを付与したことはなかったから好奇心が勝って発動したみたい♪」
あの激戦がウソのように希望の魔法少女は顔を赤らめて弱々しく歩いている。
ここまでくるとちょっとかわいそうな気もするけど……。
「高潔さの欠片もない無様な姿ね。希望の魔法少女、恥を知りなさい……」
「ヒャハハ!! 何が希望の魔法少女だ!! ただのクソザコじゃあねえか!!」
「あなた達、悪役全快なセリフはやめるです!!」
『魔法少女がそんなかっこうしちゃダメ~』というナナの嘆きでとりあえず一同は落ち着いた。
そんなことよりも、と私は不屈の精神で話を戻す。
「こんな茶番はおいといて……ナナちゃんのやりたいこと、聞かせてください」
『あはは……。うん、私ね、みんなで記念撮影したいんだー。みんなが集まってる写真が撮りたい!!』
「記念撮影……!!」と一同が歓声をあげる。
確かにここで集まったのも何かの縁だ。
何よりも「みんなで」というのがナナらしくて微笑ましかった。
希望の魔法少女(奴隷)が笑い声をあげる。
「ふっふっふ……聞いたあなた達!? これが魔法少女オブ魔法少女の星ヶ浜ナナよ!! 自分のことしか考えてないあなた達とは根本的に違うの!! あー……。ナナ、吸わせて……」
苦笑いを浮かべるナナから希望を引き離す。
奴隷服はもう飽きたのか自分で破り捨てて私服へと戻っていた。
「服はどうします? 私、せっかくならおめかししたいんですが……」『それなら変身した時の服にしようよ!!』「ナナさん、アタシ、ドレス嫌いだけどこのままでいいっすか? 浮いちゃうかもですけど」『ミユちゃんには私のお手製リボンを胸に付けてもらって……』「あ”あ”あ”あ”あ”!! あなた抜け駆けする気ね!! 私だってナナのリボンほしいいいいぃぃぃぃ!!」「高潔に仕切らせてもらうわ。黙れそこの女」「ふふ、魔法少女って変な人ばっかり……私以外」
まったくだ。
魔法少女は変なやつばかりだ。
……もちろん、私以外。
●
『はい、チーズ!!』
ナナの用意したカメラが自動でシャッターを切る。
私達の変身姿と巨大なナナの姿は一枚の写真におさまった。
(なかなかシュールな絵面だったが、アニメのイメージイラストとかでも人が巨大化したりするから大丈夫でしょう、たぶん)
こうして最終決戦の前、最後の夜は更けていった。
写真をポケットに入れたナナはどこか満足そうな顔をしていた。
「……」
みんなも寝静まってからテントの中で私は考えた。
ナナが本当にしたかったことについて。