真っ白な世界の中、目の前には羽を生やした少女がいた。
その姿はやたらキラキラとしてはっきりとは見えない。
『私の名前は魔法少女イーエックス……。またの名を
「いや、ナナちゃんですよね」
『……。私の名前は魔法少女イーエ』「いや、それは聞きましたから!!」『私のな』「わかりましたから!!」
一度名乗ったこともあるのにそれでゴリ押すのは無理があるだろう。
そんなやり取りをしながらも手に付いた鉱石は真っ白な空間に落ちていく。
鉱石で手と手を固定していて正解だった。
もしも何もしなければ、
別れの言葉と共に。
「教えてください。何でこの場所に来たんですか? それにその羽を生やした姿は――」
まるで妖精。
喉まで出てきたその言葉を飲み込んだ。
『……。うん、教えてあげるね。ここは生きた人間がいちゃいけない場所だから。私が理想の魔法少女なのはもう知ってるよね? 元の世界で私とノゾミちゃんが大ボスと戦って……追い詰められてもうダメだ!!ってなった時に
『魔法少女もモンスターも消えてしまえばいい』
『……ってね』
「……!! そんな……!! 私達はずっと戦ってたんですよ!? 望んでそうなったわけじゃ――」
『……あんまり悪く言わないであげてね』とナナは付け加えた。
はっきりと口には出さずとも誰しもが頭にはよぎっていたのだろう。
もちろん違う結論を出そうとする人間もいたはずだ。
しかし、全ての意志を総合するとそういう答えが出てしまったのだ。
まるで天秤が傾くように。
少なくともこの世界では。
『私は理想の魔法少女だから……その
『私が全ての魔法とモンスターを引き受けて、時空と時空の間のこの空間に留まる……そういう予定だったの。そうすればみんなの理想は実現できるし、もともと魔法少女だった子も元に戻る。全ての魔法力を集めれば外の世界からモンスターを抑えることはできるはずだから……それでハッピーエンドになる
それを阻んだのが希望の魔法少女だったということか。
私が思い出していのはいつぞや気を失った時に見た光景だ。
一人の魔法少女が脅威に立ち向かっていく姿――あれは決戦の時にノゾミから見たナナの姿だった。
そしてナナが消え去るのを阻止するため、ノゾミは宇宙全体の時間を停止させ、ナナとともにあの夢の世界へと転移した。
やり方はめちゃくちゃだが、一人の少女を助けることにおいてノゾミは正しい行動を取っていたのだ。
「私達をあの夢の世界に呼んだのは、ナナちゃんだったんですね」と問えば『……そうだったのかも』と返ってきた。
ナナは理想の魔法少女。
自分以外の人間の想いも力に変えることで規格外の魔法力を持っていた。
だが、ノゾミが時間を停止させたことでその力の源が断たれたのだ。
何も考えることが出来なければ想いなんてものも発生しないのだから。
当のノゾミもナナに嫌われることを恐れてナナを封じ込めている状況となり、あの世界は袋小路に
それを打開するために、ナナが知っている中で魔法力の高い四人があの世界に呼ばれたのだろう。
結果、
そしてその筋書きには、自身の消滅も含まれていた。
『きっとこれからもモンスターはこの世界に現れる……。それが何日か後なのか……何千年も後なのかはわからないけど、私は魔法少女としてみんなのために戦い続ける。キララちゃん、私のことなら大丈夫だから。みんなと撮ったこの写真があれば……私は寂しくなんかない!! だから――』
「認めないです」
『え……?』
「私は……そんなのハッピーエンドとは思わないです」
決戦の前夜からこうなるんじゃないかとは思っていた。
だからこそ、自分がここにいる。
きっと、
『あはは!! いくらキララちゃんでも私を説得するのはムリだよ!! だってこれはみんなの意志だし……私だって納得してるから』
「そのみんなってのは……誰のことなんですか?」
『……みんなはみんなだよ。みんな』
「そのみんなの中に……私は入ってますか? キョウは? ミユは? シラベさんは? ノゾミなんて絶対に許さないでしょうね。ここでナナちゃんを行かせたら一生恨まれます。それに――」
「ナナちゃん自身の理想は……本当にそうなんですか?」
『……。私の姿を見てよ。妖精みたいでしょ? 変身で羽を生やせるようになってから妖精みたいだなーって思ってたら本当にそうなったの』
ナナはいつもの笑顔を私に向けた。
『私はもう、人間じゃない!! 魔法そのものなんだよ!!』
「写真を撮ってそれを持っていようなんてどう見ても人間の発想です!! ナナちゃんは……自分で思ってるほど特別な存在じゃありません!!」
『な……!! 今のは言いすぎだよキララちゃん!! 特別か特別じゃないかじゃなくて、誰かがやらなきゃって話なんだよ!! わかってよ!! キララちゃんも魔法少女でしょ!?』
「私は……アイドルです!!」
ナナが目を丸くしている。
そう、答えが出たのだ。
魔法少女の運命を一人で背負おうとしている恩人に対して。
「何が魔法少女イーエックスですか!! 魔法少女が
『……』
ナナは何も答えない。
何を言ってるか自分でもわからなくなってきたが、ここはもう勢いだ。
「第ゼロ章!! 雲母岩キララ、配信されてるアニメでアイドルという概念に憧れこれを志す!! 第一章!! 大の恩人プロデュンヌとの出会い!!
モンスターが不安や恐怖に反応するなら、私のパフォーマンスで吹き飛ばしてやればいい。
未来は誰にもわからないし、考えれば考えるほどネガティブな感情が湧くことだってある。
でも、そんな時に私の頑張る姿を見て、元気を出してほしいのだ。
「そして……いつか私がやる最高のステージに腐れ縁である五人が来てくれるんです!! その時に恩人であり友達のナナちゃんが何かよくわからない存在になって来れませんでした~なんて、そんな超展開はあり得ないのです!! だから……」
『……』
そう、物語はまだ全然途中なのだ。
キョウも、ミユも、シラベも、ノゾミも、そして――ナナも。
私のファンになってくれたとは言いづらい。
私の本当の戦いはこれからなのだ。
「これからも……ずっといっしょにいて!! ナナちゃん!!」
『……ふふ……あはは』
キラキラした存在の羽が縮んでいく。
そしてナナの声が聞こえたのだ。
「本当にバカだなあ……キララちゃんは……。バカ……だよ……」
少女はしゃくり上げて泣いていた。
私は髪をくくっていた鉱石を外し少女に手渡した。
かつて自分が恩人にそうしてもらったように。
鉱石は淡く橙に光っていた。
――たとえ結果がどうなったとしても、そこにあった想いが消えることはない。
自分の想いを光にして伝える。
もしかしたらこれが鉱石の本当の使い方なのかもしれなかった。
「本当につらくなったら……それを私だと思ってください!! 私は……絶対に諦めませんから!!」
「うん、じゃあ……これを持っててほしいの」そう言われて記念撮影の写真を渡される。
今の決断が揺らがぬように……ということだろう。
これはどこか見えやすいところに置いておこう。
たまに見返して「こんなこともあったなあ」なんて笑うのだ。
そこにあった想いを思い出すために。
私は少女の手を握る。
「帰ろう」「うん」
白い空間から橙と黄。
二つの光が抜け出して、青、紫、緑、桃と合流していく。
向かう先は私達の星だ。
雲母岩キララ
氷鏡キョウ
毒島ミユ
風斗木乃シラベ
桃夢園ノゾミ
星ヶ浜ナナ
六人でいま、夢の世界から帰ってきたのだ。