部屋に差し込んできた朝日とともに
黄色いパジャマを脱いで朝支度。
同居人が一生懸命作ってくれた朝ご飯を口に運ぶにつけ、笑みがこぼれてしまう。
「ナナ? どうしたの?」「こうした何気ない毎日が幸せなのかもって」そう返事をすると笑顔が返ってきた。
あの戦いから10年近くが経った。
モンスターはあれから現れていない。
世界を滅ぼさんとした怪物が現れたことも、それと戦う魔法少女達がいたことも突発的な異常事態として過去の出来事になろうとしていた。
魔法少女に覚醒した人間の姿は普通の人からはうまく視認できてなかったらしい。
各地で魔法少女を助けていた謎の魔法少女の存在も忘れ去られようとしていた。
けれど私達は覚えている。
この世界が今も回っていることが奇跡のようなものだって。
そして、今ここに私がいるのはみんなのおかげだ。
「今日は早めに出なくちゃね。……あの連中と顔を合わすの久しぶりだけど、少しは落ち着いてるのかしら」
そう言って対面に座っている女の子――ノゾミはやれやれとため息を吐く。
「本当はちょっと楽しみにしてる?」なんて聞いたら「そんなわけないじゃん」と軽い調子で返ってくる。
「じゃあ、そろそろ会場に向かおっか」
いつも大事にそれを身に付けてから、私は呼びかけた。
今日は私達みんなが集まる。
あの人の夢を叶えるために。
●
「こっち……? いや、こっちかも。あーもう、コンビニ目印にしてるのに多すぎ!!」
……駅から降りるなり私達は迷ってしまった。
ノゾミが頑張って端末とにらめっこしてるけど、苦悶の表情を浮かべている。
地団駄を踏んでいるけど、以前のノゾミなら「何軒か潰れろ!!」くらいのことは言っていたんだと思うと感慨深い。
最近は他愛のない感情の変化が、なんだかとても愛しく思えてくる。
ちなみに私も地図を見るのは苦手なので、横でニコニコして誤魔化している。
「ふふ、理想と希望が迷子なんて笑えないわね」
「その声は……!!」と振り返れば上品な女性が笑みをたたえている。
その姿は私達がよく知るものだ。
「シラベさん!! お元気でしたか!?」
「ええ、おかげさまでね。あなた達も……よくも悪くも変わってなさそうね」
「以前よりも私とナナの仲は深まってます。そんなこともわからないですか?」とノゾミ。
憎まれ口のようだが本気で言ってるわけじゃない……というのは苦笑いを浮かべているシラベもわかっているだろう。
私達がこの世界に戻った後、シラベの妹……ノドカはずっと眠ったままだった。
それでもシラベは毎日、会いに生き、話しかけ続けた。
季節が何回も巡った後……大好きなお姉ちゃんの前でノドカはついに目を覚ましたのだった。
そのことをノゾミももちろん知っているし、お見舞いにいっしょに行った時にノドカと気が合う様子を見せていて今も交流がある。
今回は来ないのか聞いたら「お姉ちゃん達だけでごゆっくりどうぞ」とのことらしい。
「最近はどう? 大学は大丈夫なの?」「単位落としたり、取り直したりしてるけど何とか大丈夫です!! うん……」「シラベは今年から社会人よね? 仕事ってどうなの?」「ふふ……聞かないで……」「シラベさんの目が死んじゃった……」
つもる話をしながら目的地に移動をする。
予定の時刻より5分前。
とりあえず間に合った。
「あの二人はまだね。今日はいっしょに来るって言ってたけど。……ミユのやつ絶対に遅刻するわよね」「うーん、でもキョウちゃんはだいたい早めに来るイメージがあるなあ」
足して2で割ったらちょうどくらいの時刻に来るんじゃないか?
そんな冗談を言っていたら遠くから走り込む人影が。
ノゾミといっしょに定刻までの時間をカウントする。
3……2……1……!!
「だっはあー!! 間に合った!! ナナさん、シラベの姉貴と……ついでにノゾミも久しぶりだな!!」
「あはは。1秒間に合ったね。ギリギリセーフ!!」
「あなたもっと時間に余裕を持ちなさいよ……」「あんだよ遅れる時はいつも連絡入れてるだろ? あんまり遅れる時は後から合流にしてるし」「頻度が高いのよ、頻度が」
そんなやり取りをしている人もいれば後ろの方から
「キョウちゃん、5秒遅刻だね」
「……」
「キョ、キョウちゃん……?」
「だから私は……早めに戻った方がいいじゃないのって言ったのに……!! あなたが配信のネタを探したいとか言い出すから……!!」
どうも遅刻よりもミユに振り回されたことに怒っているらしい。
「あらあら」などと笑顔を浮かべるシラベの横を通り抜け、当の相手をツンツン小突いている。
「いや、大事だろ、ネタ探し。というかキョウも楽しんでたろ!!」「それとこれとは話が別よ!! 年上の言うことは聞きなさい!!」「はっ!! 上だって言ってもひとつだろ!! もうバイク乗せてやらねえぞ!!」「な……!! だったらこっちだってもうラーメン作ってあげないわよ!!」「それは別にいいけど」「ちょっと!!」
すっかりお馴染みになった自由高潔漫談を聞きながら感慨に浸るのだ。
こうして集まることができたのも不思議な縁だ。
あの戦いの間、時間はほとんど経ってなかったので私の側にはノゾミがいた。
(ノゾミには泣きながら抱き付かれてしまった)
でも、他の4人は場所もバラバラでしばらくは会うことができなかった。
それでも、
不思議なことにみんなまた出会うことができたのだ。
後ひとり。
私の恩人であるその人は――。
大きな舞台で夢を叶えようとしていた。
「しっかし本当にこんなデカ目の箱でやるとはなあ。あの屁理屈ばっかり言ってたやつが……」
「そう? 私は初めてあった時からタダ者じゃないと思ってたわ。微妙に
「ふふ、あなた達そういうことを言うのは良くないわ。……人の地雷をピンポイントで踏み抜けるのは才能だと思ったけど」
「宇宙レベルの自己顕示欲の塊。根拠のない自信だけは本当にすごい女」
「あなた達のキララちゃん評、酷すぎない!?」なんてツッコミを入れる。
冗談みたいなノリでこういうことを言えるのもみんなキララのことが好きだからだ(たぶん)
確かにキララには独特な部分があるけれども……。
だからこそ、
さて、とみんなで移動を始める。
「ちったあ歌も上手くなってるかな……」「最近のはまあマシじゃない?」「お? ノゾミがちゃんと聞いてたなんて意外だな」「うるさいわね。……ナナも聞いてるんだからどんな歌か気になっただけよ。……ナナの恩人は私にとっても恩人だもの」
そう言っているノゾミとミユはどこか楽し気だった。
私はキララちゃんと前に話していたことを思い出していた。
「衣装、楽しみにしててね」と。
●
ステージに入った後の緊張感は特別だ。
本当に緊張しているのは今日の主役のはずなのに、何だかこっちまでソワソワする。
空間全体がまるでひとつの生き物のように繋がっている感覚。
真っ暗な空間。
ステージがオレンジに照らされる。
それに呼応するように橙のペンライトが揺れる。
奥から勢いよく、今日の主役が飛び出してくる。
(来た……!! あれは……!?)
橙のドレス。
胸には大きなリボン。
まるで体中に宝石をちりばめたようなその輝きは――。
私は涙をぬぐっていた。
横を見なくてもわかる。
キョウも、ミユも、シラベも、ノゾミも笑顔だ。
そして最高潮のまま、一曲目が終わるのだ。
『大地を照らす不屈の輝き!! 不屈の魔法少女!! 雲母岩キララ!!』
ステージ上の
私を見つけてくれたのは、大事に身に付けている髪止めのおかげかもしれない。
ファンの盛り上がりに応えるため、言った言葉と、私が思わずつぶやいた一言が――。
今、重なった。