「緊張してますか? デュンヌさん」
控室で担当アイドルにそう声をかけられ、
「ええ、少しだけ」
努めて笑顔で返すも上手くできているかはわからなかった。
そう、私はプロデュンヌ。
アイドルを輝かせ、アイドルのために生き、アイドルとともに消えゆく存在……。
思えばここまで、いろんなことがあった……。
道を歩けば犬に吠えられ、ここぞのジャンケンは必ず負け、大きなイベントでは必ず雨が降り雨乞い女とまで言われた運のない私が夢を持ったのは中学生の時。
アイドルを題材にしたアニメにハマり、日夜熱意を燃やし、そしてこう思ったのだ。
「アイドル、育てたいな……」
裏方は性に合っている気もするし、何より手塩にかけたアイドルが大舞台に立つ光景をイメージすると胸が湧きたった。
そうしてこの業界に入るも苦難苦難苦難の連続……。
飽き……トラブル……担当したアイドル達は次々と止めていき無力さを感じる日々の中、ついに運命ともいうべき子と出会う。
一目見てわかった。
この子はダイヤの原石。
容姿や歌唱力の話ではない。
何と言うか、身に
胸に刻む。
必ずやこの子を磨き上げるのが自分の使命だと……!!
そして始まる二人三脚の日々。
ギョーカイのあらゆる
(特に体幹はあらゆることの基本だからよく鍛えておくよう言いつけてある)
そして、ついにデビューまでこぎつけた……!!
当日、会場にてゲロ吐きそうなほど緊張していたが努めて笑顔を作ってアイドルを安心させる。
ついに私達の夢は叶うのだ!!
が、そこでミラクルが発生した。
何とデビュー会場に正体不明の怪物が湧いてきたのだ。
「そんなことある!?」と言いたくなってしまうが起こってしまったのでしょうがない。
自前の運のなさがここにきて最悪の仕事をしてしまった……としか言いようがない。
ちなみに私も1か月くらい生死の境をさまよった。
正体不明の怪物は正体不明の症状をもたらし、それでなかなか回復しなかった。
目を覚ましてすぐ担当アイドルを探したところ無事再会。
その目を見ればお互いいろいろあったことは察せられたので、その期間のことは多くは聞いていない。
「お互い苦労したんだね……」そんなことを言って再起にのぞむのだった。
その事件の後に所属していた事務所はキレイさっぱり消滅。
私が新しく立ち上げて今に至る。
「デュンヌさん、拳を握って虚空を見つめてるけどどうしたんです……?」
「あ、ごめんごめん!! ちょっと感慨にふけってた……」
今日の主役にとっても、昔からの知人が集まるらしく大事な舞台だ。
そう思うと、もっと気の利いたことを言った方がいいのだろうけど……。
(ううう……また緊張してきた……!! 私はプロデュンヌ……信念の女……好きな色は赤……こんな時に担当を励まさないでどうするの……!!)
「……デュンヌさん」
アイドルの方を見ればまるで宝石のような笑顔を見せてくれた。
橙のドレスがとてもよく似合っている。
「デュンヌさんに言われたこと……やってくれたこと……。そして私がここまで諦めずにやってきた成果を……私ってものを全部を出し切ってきます!! だから……見ていてください!!」
「……!!」
挨拶とともに出て行くアイドルに何とか答え、そのまま見送る。
本当に、彼女は私の思惑を超えて成長してくれたようだった。
今日のステージは、必ずや成功するだろう。
(それにしても……)
控室の机の上には担当アイドルが大事にしている写真が立てかけられていた。
……彼女は大きな公演の前では必ず見ているのだが、いささか不思議な光景が映っている。
カラフルなドレスやパーカーに身を包む少女達。
単色を基調にした派手なかっこうは往年の変身ヒロインを思い起こさせる。
そしてその後ろには20メートル弱はありそうなデカい女の子が映っているのだ。
(たぶん画像加工してるんだろうけど、何でそんなことをしているかは謎だ。アニメのイメージイラスト的なのかもしれない)
そして、中央あたりにいる橙の子がどこかで見覚えのある顔をしている。
私は思い出していた。
あの事件の最中、魔法少女を名乗る少女達がいたらしいことを。
そして、正体もわからないまま魔法少女達が怪物をやっつけたというウワサを……。
(まさか、ね……)
夢みたいなことを考えつつ、私は今日の仕事へと戻るのだった。