頭に流れてきたイメージはこれで終わった。
そうだ、自分が今ここにいるのは
「こんな大事なことを忘れてるなんて……」
虹色のうねりを見せるそれは明らかに現実ではない。
自分がどういう経緯でこの世界に来たのか、全く覚えていないのだ。
頭にふとよぎる。
星ヶ浜ナナもここに来ているのだろうか?
「高潔に考えて可能性はあるわね。私もあなたも魔法少女だった。同じく魔法少女だった星ヶ浜さんがここにいることは十分あり得る」
「ふむふむなるほど……ってナチュラルに人の心を読まないでください高潔さん!!」
「読んだわけではない」と高潔の魔法少女。
どうやらさっきの回想は自分の魔法力があふれ出したことによるもので、この人にも見えていたらしい。
(魔法少女同士で隠し事はできないってことですか……便利なんだか不便なんだか……。それより勢いでラーメン屋を破壊してゴメンナサイ)
「いいわよ。モンスターが現れた時点であのお店はもう終わりだった。……やっぱりあなたは私が認めた高潔な客……いえ、高潔な魔法少女だった。だから星ヶ浜さんとも巡り合うことができたのよ」
「……? さっきからの口振り、あなたももしかしてナナちゃんのことを……?」
思い出す。
ラーメン屋に貼ってあった黄の魔法少女のポスターを。
あれは星ヶ浜ナナだったのだ。
これだけ自己主張の強い高潔の魔法少女が自分以外の人間のポスターを張っているのだから、特別な意味があると気づくべきだった。
いや、それよりも――。
「何でナナちゃんとわからなかったんだろう……私」
「高潔に思い当たる節がないわけでもないけど……それより移動しましょう。またモンスターが現れたら面倒だわ」
「……」
歩きながら話を聞く。
高潔の魔法少女、氷鏡キョウも気づけばこの世界にいたことを。
自分のことすらほとんど思い出せない中で星ヶ浜ナナとのことはしっかりと胸にあったこと。
星ヶ浜ナナの好物がラーメンで、ラーメン屋を開けば再会できるかもと思ったこと(この点に関してはさすがにツッコんだが、自称高潔は頭に?マークを飛ばしていた)
廃墟と化したラーメン屋から持ってきた湯切りで使うやつを見せて「これ、最初から持ってたから持っていくわ。高潔に」なんて微笑む少女を見ると、何も言えないのであった。
「ところで店のことはお店って言うのに客は客って言うのどうなんです?」「え? 客は客でしょう?」「じゃあ店は店じゃないです?」「私と星ヶ浜さんの思い出の地になるはずだったラーメン屋よ? お店に決まってるでしょう?」「じゃあ客は?」「客」
そんな他愛の会話をしながら自分が目を覚ました自宅へと戻ってきた。
単純に他の場所を知らなかったこともあるし、目覚めた時に十分に調べなかったこともある。
まずは自室。
ここにはベッドと小机がある程度で何もなかった。
あとは……。
「あれ……? 私の家って何があるんだろう……?」
思い出せない。
というか冷静に考えて変だ。
玄関からすぐに階段。
二階に自室。
他には何もない家なんて――。
「やはりそういうことね……。この家はあなたの魔法力により創り出された空間。あなたの力が不完全だから雑な作りになってしまっているのよ」
「わ、私のせい!? というか魔法力ってそういうことにも関わるんですか?」
「ええ。さっき言いかけてたけど、あなたがラーメン屋のポスターを星ヶ浜さんと認識できなかったのもそのせいよ。瞳に宿る魔法力はこの世界を知覚する能力そのもの……。要するにこの世界は魔法力で成り立っているのよ。高潔でわかりやすい説明、おわり」
「言うほどわかりやすいですか……?」
飛んできた左フックを自慢の体幹で受け止めながら考える。
確かに夢の中ではいきなりテレポートしたり、顔がわからないのにその人だと認識できたりする。
朝、自分がやっていたことを思い出す。
そうだ、少なくとも洗面所で顔は洗った。
あれはほとんど無意識の行動だったが、場所として『存在する』とはっきり意識すれば――。
「……。やっぱり何も起こらないですよ」
「いや、よくやったわ。このベッドの下……隠し通路ができてるわ!!」
「ええええ……」
確かにずらしたベッドの下にいかにも階段ができている。
洗面所へ続く隠し階段――。
「こんな家、住みたくなさすぎるです……」
「あら、なかなかロマンがあると思うけど? 小机の下はトイレができてるわね」
「うおおおお!! その報告はいらんですーーーーー!!」
乙女のトイレ事情はおいといて洗面所に。
朝に見た時と変わらない光景が広がっている。
しばらく辺りを探すもそこには鏡と最低限の洗面道具があるだけだ。
「何か……何かないんですか!? この世界について手がかりが……!!」
何も見えてこない。
このままでは何も変わらない。
一人で戦っていた日々が頭によぎった。
ヤケになって戦うことでしか自分の存在意義を見出せなかった日々を。
「私じゃやっぱり……」
「本当にそう思ってるの?」
振り向けば高潔たる魔法少女がそこにいる。
「少なくとも私はあなたがいてくれて助かったわ。モンスターを倒してくれたこともだけど……私のラーメン屋を手伝ってくれると言ってくれた」
「でも……結局はラーメン屋も壊れて……」
「それでもよ。……たとえ結果がどうなったとしても、そこにあった想いが消えることはない。私が星ヶ浜さんから教えてもらったことよ」
「ナナちゃんが……」
「さ、自分が何をしたいか落ち着いてよく考えて。あなたは私が認めた高潔な客で……不屈の魔法少女なんでしょ?」
もう一度考える。
この世界の手がかりをつかみたい?
それはだいぶお行儀の良い、取り繕った言い回しだ。
本当は、そう――。
「ナナちゃんに……会いたい……」
もしもこんな
そうでなくても会って話がしたかった。
だって、自分の夢を応援してくれた人だから。
その時、洗面所の隅で何かが光った気がした。
「あれは……!! ナナちゃんからもらった化粧パクト!!」
化粧パクトをそっと抱きしめる。
「そっか……あの時、『自分だと思って』……なんて言ってたもんね。今まで放置しててごめんね……」
こうしてぎゅっと握れば温かさを感じる。
「ふふ、心なしかナナちゃんの声が聞こえてくるような……」
(……チャ…………ル…………キャ……………………)
「!?」
本当に何か聞こえてきている。
びっくりして落としそうになるも何とか拾い上げる。
意見を求めようと高潔の方を見やれば、顔面蒼白でラーメンの湯切りを握っているのだ。
「私の湯切りと……その化粧パクトが共鳴している!!」
「湯切りと化粧パクトが共鳴!?」
確かに湯切りと化粧タクトは両方が黄色い光を放っていた。
思い出の化粧パクトがラーメンの湯切りと同列なのは納得いかない部分もあるが認めざるをえない。
(チ…………テ…………)
「近づけて……? 近づけてって言ってませんか高潔さん? その湯切りをこっちに……!!」
「え? いや、別に怖がってはないけど……高潔に判断すると慎重に行動した方がいいかもしれないわ、怖がってはないけど……」
わざわざ二回言うあたり怖がっているらしい。
「ほら怖がらずに!! じゃないと話が進まないです!!」
「うう……私は高潔の魔法少女なにがあってもその高潔さを失わない凍てつく瞳は絶対零度常にクールな氷の女……」
高潔の魔法少女が自己暗示をかけながら湯切りを化粧パクトへと近づける。
黄色く光るそれらは今、触れ合った。
『わあああ!! ありがとう!! これでやっとしゃべれる~~~~~~!!』パカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカパカ!!
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 化粧パクトがしゃべったああああああああぁぁぁぁぁ!!」
取り乱した高潔の一撃で化粧パクトは吹っ飛んでいった。