魔法少女EX   作:MOPX

7 / 26
選択EX

 

高潔は既に前方へと走っていた。

どうやら名乗る前の敵を攻撃するのは高潔ではないが、名乗った直後ならセーフ判定らしい。

手を前方へと掲げながら、浄化技の構え。

全力の高潔ブリザードで勝負をかけるつもりだ。

 

高潔が短期決戦を決めてくれるのならこれ以上のことはない。

だが、不屈の名を冠する自分としてはイヤな予感しかしないのだ。

 

そして気づく。

周囲に紫のモヤが浮かんでいることが。

叫ぼうとした時には、もう遅かった。

 

「高潔ブリ……ぐはあ!!」

 

「こ、高潔さあああああああん!?」

 

技は不発。

高潔の魔法少女は口から血の代わりに青い光をドバドバ吐いていた。

大ダメージを受けているということだけはわかる。

 

紫の少女がその様子をゲラゲラと笑う。

 

「ヒャハッ!! 高潔ブリってなんだよ高潔ブリって!!」

 

「出世魚かよ」と付け足しながら自由の魔法少女は高潔を引きづっていく。

願い(むな)しくわずか数秒の戦闘で高潔の魔法少女は敗れ去ってしまった。

 

自分達の気分が悪くなった時から既に攻撃を受けていたのだ。

逃げ場のないこの密室を魔法力による毒霧で満たされていた。

 

魔法少女の攻撃技が杖やビームだとなぜ思い込んでしまったのか。

 

 

「そんな……高潔さんがこんなあっさりと……!!」

 

「いや、そんなに驚くとこか? むしろアンタがまだピンピンしてるのにびっくりだぜ。さてと、本題はここからだ」

 

高潔がドレスの中に隠し持っていた湯切りを自由が取り出す。

そして高潔を床に倒すとその背中を足で踏んづけた。

 

「こいつは人質だ。コーショーといこうや、コーショーと」

 

「こ、交渉……?」

 

魔法少女は敵対する――。

そんなことを吹き込まれていたから戦闘に入るのも当然だと思っていた。

冷静に考えれば自由の魔法少女がこちらを襲ってくる理由はまだ何もわからない。

 

「アンタ、化粧で使うパカパカ開くやつを持ってんだろ。それをよこせ。……星ヶ浜ナナってやつ(●●●●●●●●●)がそこにいるんだろ? あのお方がほしがってるんでね。さ、どうするアイドルくずれ? ヒャハッ!!」

 

「ナナちゃんを……?」

 

思わず化粧パクトを握りしめる。

星ヶ浜ナナは何も答えてくれないと知りながら。

 

答えなんてまだ何も出せてない。

でも一つだけ言い切れることもあった。

 

「自分は……アイドルくずれじゃありません!!」

 

自分でも驚くくらい大きな声が出た。

 

「は? そこどうでもいいだろ……。それにアンタはアイドルくずれだろうが」

 

「どうでもよくないしアイドルくずれじゃないです。デビューまではしました!!」

 

「あーハイハイ面倒クセ―」と悪態を取る少女はリズムよく高潔の魔法少女を踏んづけた。

やはりピクリとも動かないそれは、戦力と数えることはできない。

頭に血が上る感覚とともに軽い眩暈(めまい)を覚える。

 

(私は不屈の魔法少女……どんな状況にも動じることはない……何とか打開策を考える……)

 

回らなくなってきた頭を無理やり駆動。

未知数の敵。

助けるのは困難な高潔。

そして交渉のカードとなった化粧パクト。

 

不意に頭に蘇る記憶。

プロデュンヌ。

自分の最初の恩人を見殺すか助けるか打算したあの瞬間。

 

頭痛が強くなった気がした。

 

 

「結論も出せずにウダウダ考えてるわけだ。このラーメン女といい魔法少女は面倒なヤツが多いよな、ホント」

 

「……あなた、私の考えていることがわかるの? いや、それよりも何で私達のことにそんなに詳しいの?」

 

「あ? そりゃアンタらがそんなに魔法力をビンビン出してりゃな。アタシの浄化技が毒霧だってのはもう知ってんだろ? この霧をセンサーみたいにすれば位置も考えてることもお見通しってわけだ」

 

思考を読まれるメカニズムは高潔との会話で既に知っている。

時間稼ぎのための会話だったが、思わぬ収穫だった。

今ので察するにこの少女は自分達の後をつけてきたのだ。

 

今までもチャンスがあったはずなのにわざわざ自宅の洗面所にいるタイミングで攻撃を仕掛けてきた。

それは得意なフィールドである密室で戦うためだ。

だとするなら肉弾戦に持ち込めばこちらに分が――。

 

「ヒャハハ!! そんなの百も承知に決まってんだろ!! アンタらが十分弱るのを待ってこっちは出てきてんだ!! ちなみに私に近付くほど毒霧は濃くなる……接近する前にアンタ、倒れちまうかもな」

 

「いや……それはおかしいです。あなたにそんなことをする理由はない」

 

「……あ?」

 

自分は不屈だ。

一度考えを否定されたくらいで折れたりはしない。

 

化粧パクトと湯切りの回収が目的であれば完全に自分達が気を失ってからゆっくりと回収すればいい。

それに肉弾戦で勝てるというのなら、今すぐこちらに接近すればいいのだ。

 

「本当にあなたが優位ならあなたには交渉をする理由自体がない。あなたは自分が言っているほど余裕がない……違いますか?」

 

「……。違うね。何でこんな面倒なことするか教えてやるかあ……。それはアタシが『自由』の魔法少女だからだよ」

 

「……それはいったい」

 

とにかく会話を引き伸ばす。

高潔の顔色がいよいよヤバい色になっているが持ちこたえてくれるのを願うしかない。

 

「なあ、この夢みてーな世界で魔法力が尽きちまったらどうなると思う?」

 

「魔法力って私達の力の源みたいな感じですよね……? どうって……」

 

魔法が使えなくなる。

それだけじゃないのか?

 

「消えちまうんだよ。この世界から完全に」

 

「……それって死ぬ……ってことですか?」

 

「んー。厳密には違う気もするけど、まあそれでもいい。ま、感覚的なもんだからアタシも確証がないがな。ヒャハッ!!」

 

夢の世界で死ぬというのも変な話だ。

だが自由の魔法少女が言わんとしていることはわかった。

魔法力は私達の血を、肉を、形成するものだ。

だから高潔も血を吐く代わりにドバドバ青い光を吐いていた。

 

それらが完全になくなれば、そもそも消滅するしかない。

 

「そうそう、そんな感じだ。でもってアンタらを完全に消しちまったら寝覚めが悪いだろ? たとえば虫なんかが寄ってきて潰したりしたら『アタシ、魔法少女も死なせたことがあるんだよなあ』なんていちいち思い出すワケだ。そんなの全然自由じゃねえだろ? 直接ケンカしないのも同じ。アタシが勝つけど泥仕合になってケガすんのもイヤだし、人を殴るのも普通にイヤだろ。毒霧でアンタらが完全に弱るまで待つと、今度は星ヶ浜ナナってやつの魔法力が消滅する恐れがある。そうしたらアタシがアイツに消されちまう……」

 

『アイツ』というのはこの少女に命令を出した人間だろう。

自由の魔法少女は饒舌(じょうぜつ)だった。

そして、この話をすんなりと耳に通している自分がいる。

この少女はこの少女なりに筋を通した行動を取っている。

 

「な、これでわかっただろ? アンタに取れる選択肢は大人しくそのパカパカを渡すか、アタシに消されるか。どう考えても前者がリコウだろ。アンタはそこでノビてるラーメン女とラーメン屋でもアイドルごっこでも自由にすればいい。アタシは星ヶ浜ってやつをアイツに渡して自由でハッピーに暮らす……。星ヶ浜ってやつがどうなるかは知らないが……、ま、アタシが気が向いたら様子を見に行ってやる。ヒャハ!! ……と、そろそろ限界か、アンタ?」

 

言葉がくらくらと頭を漂う。

そろそろ限界だ。

 

結局、自分は何も選ぶことができなかった。

 

(ナナちゃん……ごめん……私、どうすることもできなかった……)

 

膝を尽きかけたその一瞬、もう一度すがるように化粧パクトを握った。

声が聞こえた気がした。

 

『私は……キララちゃんのこと、かっこいいと思う!!』

 

いつかもらった言葉。

自分を支えてくれた言葉。

 

たとえは今は物言わぬ化粧パクトでも――。

 

その言葉は、今も確かに胸にある。

 

「……」

 

洗面所の隅が視界に入る。

膝を付く直前、力を振り絞って立ち上がる。

 

自由を名乗る紫の魔法少女と対峙(たいじ)するために。

 

「お、まだ立つか。お得意の体幹の強さってやつか? ヒャハハハハ!!」

 

罵詈雑言など耳に入らない。

もう自分のしたいことは決まったのだ。

 

 

化粧パクトと化した星ヶ浜ナナは渡さない。

大切な恩人を売り飛ばすようなマネ、したくない。

 

高潔の魔法少女も助け出す。

不穏なところがあるとはいえ彼女も恩人だし、短い間とはいえいっしょに行動した仲間みたいなものだ。

 

自由の魔法少女――毒島ミユは無力化して話を聞く。

危害を加えてきたとはいえ、相手を打ちのめして消滅させたいわけじゃない。

 

そして私は――。

 

「さ、答えを聞こうか。パカパカを渡すかここで倒れるか……選ぶくらいの自由はやるぜ!! ヒャハッヒャハハハッハハヒャハハハハッハッハッハ!!」

 

「私は――」

 

 

 

 

 

「かわいくてかっこいいアイドルになりたい」

 

「……ヒャ?」

 

やっと出た自分の本心。

そう、こんなにもシンプルなことだったんだ。

舞台の上で踊って歌って、みんなを励まして勇気づけられる。

そんなアイドルに。

 

「なに言ってんだアンタ……? 話きいてたのか? わからねえ、わからねえよ……」

 

「知らないの? アイドルにスキャンダルはご法度(はっと)なの。あなたのことだって消したりはしない。戦えない程度に魔法力を削らせてもらいます」

 

「ク、ククク……クヒャッ!!」

 

自由の魔法少女が心底楽しそうに笑い声をあげる。

毒霧の濃度は心なしか増していた。

 

「まだ粘るってのか? カンベンしてくれよ。これ以上、時間をかけるとアイツにキレられちまうのに」

 

「他人の顔色を(うかが)うなんて大した『自由』ですね」

 

「あ……?」

 

ミユの紫の瞳が激しく揺れる。

軽い応戦のつもりだったが、思ったより相手のクリティカルな部分を突いたらしい。

全身に紫のオーラを背負いながらミユが聞く。

 

「アンタわかってんのか? 能力バトルでいえばアンタは逆転の糸口が何もねえ状態……アンタが勝ったら読者から総スカンなんだよ!!」

 

「いいえ、これはアイドル物です。私が退場するなんてファンの誰もが望んでいない……降りかかる火の粉を払うだけの話です」

 

「ああそうかよ!! せっかくこっちが懇切(こんせつ)丁寧に説明してやったのに……!! ラーメン女よりは話が通じると思ったのにとんだ見込み違いだ!! これだからアイドルくずれは……!!」

 

「私はアイドルくずれなんかじゃない……!! 私は……」

 

そう、これが私の選択(めざ)した未来(ゆめ)

 

 

「未来の国民的アイドル雲母岩キララです!!」

 

 

「へっそうかい……!! じゃあさっさと来やがれ!! この毒霧で覆われた空間をよおおおおおぉぉぉぉ!! ヒャハァァァァァァァ!!」

 

そうだ、これは戦いではない。

アイドルがアイドルらしく振舞えば、おのずと結果はついて来るはずなのだ。

 

だからアイドルらしく戦わせてもらう。

 

 

 

「言われなくても……やってやるです!!」

 

「アンタが何をしようがアタシに敵うわけが……え?」

 

私は駆け出していた。

自由の魔法少女に背を向け、洗面所の隅に。

 

「アンタ何をしてやがる!?」

 

私は洗面所の隅の空気を吸っていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。