『二人とも……無事だった!?』パカパカ
「星ヶ浜さん……!! ええ、無事でした。高潔な私達がただのチンピラに負けるわけがないですから」
「頑張ったのはほとんど私だった気がしますけど……」
失神している自由の魔法少女を寝かせた後、真っ先に奪われた湯切りを取り出した。
化粧パクトを合わせたところ無事に星ヶ浜ナナはしゃべれる状態になった。
「まったく、手加減したせいでピンチなんて笑えないですね……」
『……。そっか、キララちゃんが頑張ったおかげでこの子も無事だったんだね』
「私は別に……この人も言ってましたけど完全に倒しちゃうと後味も悪いし、それに話も聞けるからと思っただけで……」
『ううん、それでも嬉しい。本当にこんな状態で勝手だけど……私は魔法少女であれば分かり合えると思ってたから……』
思い出すのはこの戦いが始まってすぐのこと。
星ヶ浜ナナは自分達にお願いをしようとしていたのは、このことなのだろう。
『相手を倒さないでほしい』星ヶ浜ナナはそう言いたかったのだ。
自分が恩人と同じ考えを持ててちょっとだけ誇らしくなるのも
星ヶ浜ナナが何かに気づいたのか一層パカパカしだした。
『あれ……!? この子ミユちゃん!? 何でミユちゃんが私達を……』
「え!? この子もナナちゃんの知り合いだったんですか!?」
それにしてはおかしい。
毒島ミユはナナのことを知らない素振りだった。
もしかしたらこの世界に来た直後の自分のように思い出せなかったということだろうか。
この思考は高潔に遮られた。
「あなたは最初、変身することすらできず魔法少女であることも忘れていた……いわば魔法力が完全に覚醒してなかった状態よ。対してこの女はバリバリに自分の能力を使っていた」
『魔法力は想いの力だから……』とナナが付け足す。
つまり能力を行使している時点でミユの記憶も戻ってないとおかしい……ということらしい。
「でも、だったらどうして? ウソをついてるって感じもしなかったですよ?」
「……。セーラー服にフード付きパーカー。魔法少女に似つかわしくないこの服装……私は最初からずっと気になっていた。もしかして……!!」
ミユが目の高さまでかぶっていたフードを高潔が手で払い除けておでこを露わにした。
おでこには桃の形をしたピンク色の刻印があったのだ!!
「何ですかこのダッセエ淫紋みたいなやつは!?」
『インモン……? え? 何それ?』
「星ヶ浜さんは知らないでいてほしい、高潔に。桃色に光ってますからこれも魔法力によるものでしょう。恐らくはこのダサい淫紋みたいなやつのせいでこの女は操られていたのね」
なるほどこの光り方は魔法力。
他者に思考を伝えたりできるのだから記憶にも干渉できるのだろう。
「じゃあこの小学生が考えたみたいなダッセエ淫紋を消せばこの人は元に戻るんですね?」
「ええ。少なくとも星ヶ浜さんのことは思い出せるはず。そうすれば説得することも可能かも」
「でもどうやって……」
『出番だよ、キララちゃん!!』
「私……!?」と思わず叫んでしまう。
どうすればいいのか全くわからない。
それに毒島ミユはナナの知り合いだ。
自分には無関係でも恩人の知り合いを預かる勇気、自分にはない。
『キララちゃんだから頼むんだよ!! そうやって真剣に人のことを考えてくれるから。大丈夫!! 魔法少女の浄化技は……本来は人を助けるためのものだと思うから……』
「ナナちゃん……」
……このダサい刻印も魔法少女の仕業なら、それに一番ショックを受けているのはナナに違いなかった。
人を操るなんて行為を平気で行った魔法少女がこの世界のどこかにいるのだ。
ナナのためにもこの少女を助けるべきだと思った。
「私だと顔ごと凍らせてしまいそうだし頼んだわ」などと物騒なことを言う高潔を尻目に、ミユのおでこに手を当てる。
方法はもう思いついていた。
「行きますよ……!!」
まずはダサい淫紋の箇所に鉱石を生やす。
しばらく待ち、ミユの肌と鉱石が完全に馴染むまで待つ。
ゆっくりと慎重に、鉱石をミユの肌ごと引き
傷口を魔法力で消毒しつつ鉱石を再び生やして止血する。
完成。
鉱石を生やす能力の応用範囲に我ながら驚くばかりだ。
「高潔な仕事ぶりね。キレイにクソダサい淫紋は取れてるわ。これで憎めないやつになってくれるといいんだけどね」
『だからインモンって何!?』などと騒ぐナナは置いてといて、ミユがうめき声をあげる。
どうやら目を覚ましたらしい。
「うう……悪夢を見てたみてえだ……。頭に鉱石を生やされたりそれを肌ごと引き剥がされたり」
「大変だったわね。まず私達のことはわかるかしら?」
「ん……アンタ……思い出してきたぞ。おい、最後においしいところ持って行ってたけどアタシはアンタに負けたわけじゃねーからな高慢ラーメン女」
「憎めるやつだったわ」ゴッ
「高潔さん!!」などと止めに入った時には高潔ゲンコツがミユの頭にクリーンヒットしていた。
「まったく、暴力は良くないです。せっかくこれから話し合いができますのに……」
「そーだそーだ。アタシだってバトルでダメージ受けたんだしオアイコだろ。不屈ソングとかいうヘタクソな歌にも頑張って耐えた」
「うるさい黙れです」バキッ
不屈裏拳がミユの顔面を捉えた。
自分の歌唱力はまだまだノビシロがありこれからなのである。
『二人とも暴力は魔法少女らしくないってば!!』などとナナは言っていたがこれは魔法力のやり取りだ。
軽くはたいた程度のつもりだったが、どうやら魔法力の大半が音に変換され必要以上に痛そうに聞こえている。
『とはいえゴメンねミユちゃん……!! 二人の分も私が謝るから……!!』パカパカ
「そのパカパカ開く化粧パクト……!! ナナさんなのか!? なんでアンタがそんな姿に!?」
やはり二人は知り合いだったらしい。
話を聞けば、どうやら記憶の中で『星ヶ浜ナナ』に関する部分だけが抜け落ちていたらしい。
少し前ならば夢のような世界だから……で納得しただろうが今は違う。
魔法少女が持つ魔法力ならばそれくらいのことは当然できてしまうのだ。
「アンタがいるって知ってたらバトルなんて仕掛けてねえよ……。やっぱりアイツに何かされたってわけだ」
『……』
アイツ。
戦いの途中でも何度も出てきたやつだ。
自由の魔法少女を操った張本人。
星ヶ浜ナナを連れてくるように命令した存在――。
「それだけじゃねえ。アタシはアイツがこの世界を創り出したと思ってる。目的はわからねえが……とにかくヤバいやつなんだよ!! アイツは!!」
「誰なんです!! いったいそいつは……!!」
「希望の魔法少女……」
『……!!』
希望。
その言葉を聞いた時になぜだか寒気がした。
本来は明るさに満ちたはずの言葉が、とんでもない恐怖の対象に思えたのだ。
普遍的で誰しもが胸に一度は抱く概念を相手に回すこと。
その意味が一瞬で頭に駆け巡ったのだ。
「
上から音が聞こえた。
それは足音のようだった。
しかし、それにしては妙だった。
降りしきる雨のように、足音は途切れることなく続いていた。
「クソッ!! もう遅かったか!! アンタらも全員逃げるぞ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! いったいこの音は……!!」
「妖精だよ!!」
ミユが血相を変えて叫んだ。
「ノゾミの能力……妖精軍団がやってくるんだよ!!」