兵藤物語   作:クロカタ

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第三話です。


禁断の芽吹き 3

 休日、松田、元浜と共に近くのボウリング等に行くなどして休日の時間を過ごした一誠は、太陽が暮れ始めた夕暮れの帰路を歩いていた。

 我ながらなんとも、女っ気のない学生生活を送っているなぁ、としみじみと思いながらも、やや上機嫌に夕暮れに照らされ、黒い影が伸びる道路をゆっくりとした歩調で進んでいく。

 

「……一樹は、デートらしい……な」

 

 小耳にはさんだ話だが、今日が弟とその恋人、天野夕麻がデートをするという日らしい。天野夕麻という女子はかなりの美少女と聞いていたので、一誠としてなんとも羨ましい話しである。

 

「あ”~~~~~彼女欲しいなぁ!」

 

 反射的に声を出してしまったせいか、声を出してからハッと自分が何を言っているのかを自覚し、急いで周りに人がいるか見る。

 

 誰もいない。

 

 なら安心とばかりに胸をなでおろす一誠だが、ある違和感に一誠は気付く。

 

「いや待てよ?……何でこんな時間にこんな人気がないんだ?」

 

 この時間帯ならば、仕事が終わった人や、子供連れの家族、多少なりとも人の姿があるはずなのだが、現在一誠の周りにはその影がない。

 

「……ま、いっか」

 

 人がいない事もあるだろう。

 そう思いながら、一誠は止めた足を進め歩き始める。なんだか不気味だ、そう感じた一誠は、人通りのある道にでたいと思い、やや遠回りの道を行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここが全ての分岐点。

 

 二つに一つの重要な選択肢。

 

 このまま普通に行けば――――遠回りしなければ、彼は平穏な日常を過ごすことができ――――物語は瓦解するという運命を避けられなかった。

 

 遠回りという選択を選んだ彼は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着実に自宅へと向かっていく一誠だが、帰路の最中、通りかかった公園にて彼は衝撃的な光景を目撃する。

 それはあまりにも現実離れして―――

 あまりにも凄惨で―――

 あまりにも一誠にとって残酷な光景だった。

 

「か、ずき?」

 

 弟が、光でできた何かに貫かれている光景だった。一誠はその場で口を抑え唐突な吐き気に襲われながら、今自分が見た光景が間違いではない事を証明するために顔を上げ、再度――――

 

「―――――ぁ……」

 

 倒れ伏す弟。

 血の海に沈んでいく弟を見下す黒い翼の生えた黒髪の少女。

 夕暮れが、一樹の姿を照らす、鮮明に浮かぶ凄惨な現場に一誠は、声を張り上げていた。

 

 

「か、……カズキぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「!?」

 

 公園の入り口から中に入り、倒れ伏す一樹の傍に寄る。一誠の行動に黒髪の少女はギョッと驚いたように目を丸くしていたが、相手が何の変哲のない一般人だと分かると、嘲るような笑みを浮かべる。

 

「クソ……血が止まらねえ!!待ってろ今、救急車を――――」

「あらあら、君は一樹君のお兄さんね?」

「――――っ!君も見てないで―――」

 

 瞬間、一誠は背筋が凍るような何かを感じとる。それが何なのかは定かではないが、一誠の意思に関わらず彼の体は反射的に、その何かから避けるように動き出す。

 其の場から飛び去るように横に転がる―――――と、一誠の居た場所に白く光る槍のような物が深く地面に突き刺さっていた。

 

「――――なっ」

「……避けられた?手加減した覚えはなかったんだけど……まあ、偶然ね」

 

 槍が飛んで来た方向を見ると、先ほどの黒髪の少女が端正な顔を歪め笑っていた。一誠は自分が死の危険に晒された事に気付き、声を震わせながら目の前の少女に声を上げる。

 

「お前が、一樹をこんな目に?」

「そうよ」

 

 あっさりと一樹を殺したという事実を認める少女。そして彼女は理解が及ばない一誠が質問する前に、勝手に自らの事と一樹を殺した理由を話し出した。

 

 少女は一樹の彼女の『天野夕麻』だったこと。

 天野夕麻が堕天使と言う奇天烈な存在だという事。

 一樹は神器と言う危険なものを持っていた人間だったこと。

 デートを装って、一樹を殺した事。

 

「ふふっ、滑稽だったわね。本気で私がこんな人間に惚れると思っていたのかしら?まあ、この子が勝手に浮き足立っていたおかげで、簡単に殺せたんだけどね……あーあ、そこの君みたいな可愛げがある人間の方がよかったわ」

「そんな、理由で……弟を……」

「不幸を呪うなら、神器というシステムを作り出した神を呪うのね。どうせ貴方には理解できないでしょうけど」

 

 確かに話は理解できなかった。

一誠には全て非現実的な話だった。

だが……一つ理解できるのは、弟がこんな目に合わされて腹が煮えくりそうなほど怒り狂っている自分がいる事だった。

 

「―――お前は――――」

「ここまで話したからには、もうあなたは生きて返すことはできないわ。まあ、元から生かす気もなかったけど……でも―――弟と一緒に死ねるなんて本望でしょう?」

 

 堕天使、レイナーレは気付けなかった。否、一誠自信も気付いてはいなかった。兵藤一誠という人間がどのような人間だという事か。レイナーレが殺す気で投げた視界外からの光の槍を人間にも関わらず、無傷で躱したという事実を――――

 

「お前は一体何者なんだ!!」

 

 一誠は怒りに震える。理不尽な理由で死に向かっている弟がまさか、神器などと言う訳の分からないモノの為にこんな目に会うという事に。

 今の一誠には、ぐだぐだ御高説を述べるレイナーレが一樹を殺そうとしている行為を正当化しているようにしか思えなかった。

 

「もうあなたと話す気はないの、大人しく死んでちょうだい。じゃあね」

 

 掌に光の槍を作り出したレイナーレが、一誠を切り刻ん為に接近する。光で構成された槍は容易く人間を両断することができる。生半可な防具では容易く突破する切れ味と威力を発揮するだろう。

 加えて、人間の粋を大きく超えた種族である堕天使の身体能力に、ただの人間が敵う道理はない。

 

 

 しかし、一誠は体を逸らし振るわれる槍を避ける。流石に避けるきれずに頬がパックリと切り裂かれ血が噴き出す。

 

 

「―――痛っ」

 

 避ける一誠の顔も苦しそうだが、攻撃を仕掛けていたレイナーレは内心驚愕していた。

決して常人には避けられるはずがないレベルの攻撃を繰り出したはずなのだ。だが、避けられた。

 戸惑いと共に、レイナーレは間断なく槍を振るう。

 

「!?」

 

 いくら早く振るおうとも一誠は空中に舞う羽のようにヒラリと避けてしまう。

 相手は本当に人間なのか?いや、人間には違いないが、明かに常軌を逸したセンスを持っている。特別な訓練を受けた?いや、そんな動きは完全な素人だ。

 

「なんなのこの人間……」

 

 苛立つように得物を突き出したレイナーレに対し、一誠は大きく後方に飛びくるりとバク転し刺突を躱す。

 

「――――うらああああああああああああああ!!」

 

 バク転から即座に、レイナーレ目掛けて走り出し、得物を持つレイナーレの手首を掴む。

 

「何のためにッ……何のために一樹が殺されるような眼に会わなきゃいけねえんだ!!」

「ふん、余程のおバカさんのようね!さっき言った通りよ!!」

「――――ッお前ッ」

 

 嘲るようにそう言い放った彼女に、沸騰せんばかりの怒りを抱いた一誠は拳を力強く握りしめ、腕を上げる。相手は女子、という思考は既に彼にはなかった。

 

 だが、上げられた拳は振るわれることはなかった。

 唐突に血だまりの中で倒れ伏す一樹の身体が紅く光り出したのだ。

 

「―――何だ!?」

 

「あれは、グレモリーの!?チッ何時まで掴んでいるのよ!人間風情が!!」

「ぐぁ!?」

 

 レイナーレに腹部を蹴られ大きく後方に跳ぶ。痛みに悶えながらもレイナーレの居た方向を見ると、既に彼女の姿は消え、黒い翼だけがその場に残されていた。

 

 数秒ほど、呆然としていた一誠だが、数瞬程してハッと我に返り重傷を負っている一樹の方に視線を向ける。かなり時間を食ってしまった、急いで病院に連れて行かないと――――そう考えていた一誠だが、一樹の側らに何時の間にかいる紅の髪を持つ少女を視界に収めた事で、その考えは消え失せる。

 

「今度は誰だ!!」

 

 警戒心を露わにして叫ぶ一誠。

 そんな彼に対し、一樹の胸部になにやら光る8つの物体を押し込んだ少女は、こちらを振り向き笑みを浮かべる。

 よく見ると、見覚えのある顔だった。リアス・グレモリー、駒王学園の『二大お姉さま』と呼ばれる二人のうちの一人で、学園の人気者の少女。

 そんな彼女が何故、ここにいるのか?

 そもそも、何時の間に現れたのか?

 

「心配しなくていいわ。私は敵じゃない、この子も……もう大丈夫」

「そんな証拠が―――――」

 

 信じられないとばかりに、頑なに警戒を解かなかった一誠だが、リアスがその場から半歩移動し、一樹の姿を見せた瞬間に、一誠はすっ頓狂な声を上げる。

 

「なっ!?」

 

 傷がなくなっている。

 腹部に大きな穴を開け、致命傷と言えるほどの大きな傷がきれいさっぱり消え失せているのだ。

 

「でも完全に助かった訳じゃないわ。表面上の傷は治せても、完全には治っていない。完全に治すには手間が居るわ」

「ほ、本当ですか!?な、何か俺にできる事は?」

「気持ちは嬉しいけど、貴方にできる事はないわ……強いて言うなら」

 

 一樹の傍から離れ、こちらに近づいてくるリアス。何か悪寒のような物を感じとり、距離を取ろうとするがグラリト視界が歪み、脚に力が入らなくなる。

 

「ぐっ、なにを……し―――」

「ごめんなさい、できるだけ一般人を巻き込みたくなかったの……貴方にはここで見た記憶を忘れて貰うわ」

「勝手に――――」

 

 リアスの掌が一誠の額に添えられる。

 すると、一誠の視界が霞が掛かったように曇っていく。霞は自然に視界を覆い尽くし、真っ白になり、終いにはブツンと真っ暗になった―――――




イッセーは素でもある程度は戦えます。
次の日は確実に全身筋肉痛になりますけど(笑)



次話もすぐさま更新致します。

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