兵藤物語   作:クロカタ

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第5話です。


禁断の芽吹き 5

「うぅ~~なんだこれ……」

 

 数日間という入院から無事退院し、家に帰った彼を待っていたのは数日分の溜まりに溜まった宿題や授業ノートだった。机に積まれたそれらを頭を抱えながら眺めた一誠は、もうちょっと入院しておいた方がよかった、などと今更ながら後悔しながら机に向かって行った――――

 

 

 

 

 

 ――――が。

 

 

 

 

 

 

 夜、一誠は気分転換がてらに散歩に出ていた。

 理由は単純、休んだ日にち分の課題に対しての現実逃避である。勉強はできない事はないが、数日分の溜まりに溜まった課題をこなすのは何かと骨が折れる。

 授業を休むとここまでの弊害が出るなんて思いもしなかった。高校恐るべし。

 

「あー、部活ってのはこうも遅くまでやってんのかなぁー」

 

 先日、病室に訪れてきたリアス・グレモリーの事を思い出しながら一誠は考え込むようにその場に佇む。

 

―――どこの部活に入ったんだ?一樹の奴。聞いても教えてくれるはずがないし。アイツの事だから多分文科系だろ?……でもそしたら、こんな運動部みたいに遅いのはなんだかおかしいな……。

 

 部活勧誘の時期はとっくに終わっているので、入るとしても運動部はきついだろうから、必然的にいつでも入れるイメージのある文化部にいるだろうと、一誠はあたりをつける。

 

 リアス・グレモリーがいるなら、尚更文化部と言うイメージが強くなる。

 ……リアス。グレモリーか……。

 

「ぐへへ、柔らかかったなぁ」

 

 病室で何故か抱きしめられた時の事を思い出し、にやけ面になる一誠。青少年としては正しい反応だが、夜道の中でそのような顔をしていると変態にしか見えない。

 

 頭の中を煩悩一杯に満たしながら、考えも無しに歩いていくと、何時の間にか街灯の少ない真っ暗な道に出てしまった。

 

「おわっ、暗っ」

 

 周りは薄暗い工場跡地に加え、人気が全くない。

 ここらへん周辺は、幽霊的な意味で怖すぎるので、一誠は踵を返し来た道を戻るように歩き出そうとする。歩けばすぐに民家なので、それほど焦ってはいなかったが―――――

 

「――――ん?……」

 

 どこからか、鼻につーんとする匂いがどこからか来ている。

 決していい匂いではない、むしろ嫌な匂い――――少しその匂いが気になった一誠は、その匂いのする方へ試しに行ってみる事にした。周囲は真っ暗だが、月明かりのおかげである程度道が見える。

 匂いが近づくにつれ生臭い匂いに変わって来る。「誰かがサンマでも焼いているのか?」と、独り言を呟きながら、たどり着いたのは、寂れた廃工場。

 

―――やっぱ、帰ろう。

 

 流石に廃工場は色々まずいし怖い。

 怨霊的な意味でも、たむろっている不良的な意味でも。不良は逃げるなりなんなりで対処できるが、怨霊や幽霊とか地縛霊とかゴーストとかの類は腕っぷしでなんとかできるようなもんじゃない。

 障らぬ神に祟りなし、その言葉を思い浮かべながらゆっくりその場を離れようと、背後を振り向くと――――

 

『クケッ』

 

 ――――上半身が女性、下半身が人間じゃない化け物が、尖った槍の様なモノをを振り突き刺さんばかりに振り下ろそうとしている光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――うわあああああああああああ!?」

 

 避けられたのは奇跡だった。

 鋭利な槍が迫ってくる前に、地面に倒れ込むように転がることができた一誠は自身の居た場所に突き刺さっている鋭利な槍を見て嫌な汗を流す。

 後数瞬遅れていたら、骨折や怪我どころじゃ済まなかった。串刺しにされ、絶命していただろう。改めて自分の反射神経に感謝しながら、槍の持ち主を見る。

 

『ケタケタケケタケタ!!!』

 

 地面に突き刺さっている槍を引き抜いたのは、上半身が両手に槍を持った裸の女、下半身が下半身は巨大な四足獣で尾に蛇がついている化け物だった。

 一誠は、いきなり現れた化け物に空いた口がふさがらないとばかりに呆け、目の前の化け物が幻覚でも妄想でもない事に恐怖する。

 

「な、何だ……お前……」

『今から食らう人間に言う必要があると思うかぁ?』

 

 話が通じるとは思ってはいなかったのか、驚愕の表情を浮かべる一誠だが、返された言葉の意味が一瞬分からず頭の中が真っ白になる。

 

 食う?今から?誰を?化け物、が喰う、俺を……――――

 

 一誠はその場から駆け出した。喰われるのだけは御免だ、まだやり残した事も沢山あるし、死ぬなら美人の腕の仲が良い。やや願望を垂れ流しながら、死に物狂いで走る。

 常人を超える速さで、其の場から離れていく一誠。

 走ればすぐに人気のある明るい場所に出られる。そこまで行けば、この化け物も追ってはこれないだろう。

 

『ケタケタケタケタケタケタ!!』

 

「っ!?」

 

 だが、一誠の速さは所詮は人間が出せる範囲での『速さ』。人の枠を超える化物に加え、四足獣特有の速さには敵わない。すぐに化け物は一誠に追いつき、一誠諸共ひき殺そうするが、危険を感じとった一誠が横に跳んだ事から、化物の突進が彼を轢かず、一誠を吹き飛ばすだけと言う結果となった。

 地面を何度か跳ね、廃屋の中に突っ込んだ。

 

「ぐぅっ!!ぐあっ――――」

 

 驚異的な反射神経で、咄嗟に横に跳んだのはいいが衝撃を逃がしきれず、体を強く打ち付けてしまった。所詮は人間の耐久力、人間より遙かに優れた身体能力・特異性を持つ種族には人間の体なんて紙と大差ない。

 

「逃げられないっ……のかっ」

 

 痛む体に歯を食いしばりながら絶えて前を見ると、そこには端正な顔を醜悪な笑みに変えた化け物がゆっくりと近付いてくるのが見える。

 そして化け物が近づいてくるにつれ気づく、一誠を引き込んだ気持ちの悪い匂いの正体が。

 あれは死臭だ。生臭い匂いを感じるのも当然だろう、肉の腐った匂い、血の匂い、人が忌避する匂い。悍ましい匂いが化物から放たれていたのだ。目の前で刻一刻と近づいてくる化け物は人を食らうのだから、その匂いも当然の事だろう。

 

 このままでは自分も、化け物に食われてしまう。

 体は動かないし、動かせても逃げきれない。助けを呼んでも意味がない。

 

 絶望的な状況の中、一誠の脳裏には今までの人生で関わって来た人の姿が思い浮かぶ。走馬灯と言う奴だろうか、死に瀕するとこれまでの人生が振り返ると映画とかで聞いたことが有るが――――

 

 しかし、家族や友人よりもより鮮明に思い浮かべた人物は、一誠にとっても意外な人物だった。

 

 その人物は血のような紅色の長髪を持つ少女だった。

 初めて会った自分を抱きしめた少女だった。

 

 どうせ死ぬならあの人の腕の中で死にたい。

 こんな時くらいエロイ妄想して俺らしく死にたい――――が、何故かこういう時にだけ、全くそういうことが思い浮かべられない。

 思い浮かぶのは、家族や友人達。

 

 母さん、父さん。親孝行できずに死んでごめん。

 松田、俺のエロ本は母さんに発見されないように回収しておいてくれ。

 元浜、俺の墓には駒王学園スリーサイズコンプリート図鑑を供えておいてくれ。

 

 

 視界がボヤけてきた。

 勉強しないで、バカやって、普通に暮らして、いきなり化け物に殺される。

 

「はっ……」

 

 散々な最後だ。

 生まれ変わったら、もっと賢い生き方をしよう。

 友達もたくさん作って。

 弟に慕われる兄になって。

 バカもやったり。

 彼女も作ったり。

 

 生まれ変われるなら、もっと生きたい。

 

 ―――――――生まれ変われるなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死にたく……ッないなぁッ………ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドクンッ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 呟いた瞬間、視界が黄金色の光に塗りつぶされる。

 

 光が収まると一誠の手には小刀のような物が付随した黒色のバックルが握られていた。

 

 次第に霞が掛かってゆく思考の中、バックルを握りしめ立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クケッ……クケッ』

 

 はぐれ悪魔、バイザーは先ほど痛めつけた人間を食らう為、男を吹き飛ばした廃屋に近付いていた。

 人間にしては速かったなと、そんな事を思いながらも、人を食べられるという至福の時を迎えられることに舌なめずりをする。

 

『あぁ?』

 

 廃屋から、先ほど吹き飛ばした少年が出てきた。

 『自分から喰われにやって来たのか?』嘲るように言葉を投げかけても無反応。しかしバイザーを見るその目には何も映ってはいなかった。

 

 バイサ―の声を無視した一誠は、右手に持ったバックルを腰に押し当てる。どういう原理か分からないが、バックルからベルトが伸び彼の腰回りを覆い装着される。

 

 バックルが装着された瞬間、少年の目が変わる。恐怖が刻み付けられた弱弱しい目ではなく、無機質で空虚な、潜在的な恐怖を感じさせる目に――――

 

 刹那、一誠が雄叫びを上げる。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 雄叫びを上げた一誠の体から、二つの物体が体から排出される。

 角ばった橙色の錠前と、カラフルな装飾が施された金色の『鍵』。

 病室内にて一誠の体内に入り込んだ『鍵』。それが一誠の周りを高速で旋回し、ベルトに付けられたバックルの前で急停止し、ふわふわと浮遊する。

 

「――――」

 

 気付けば、彼の雄たけびは止まっていた。代わりに無言で、浮遊するソレらを掴み取り、錠前を開き、片方をバックルに押し込み、流れるような動作でバックルに付随している小刀で、錠前を切るように傾ける。

 

【カチドキ!!】

 

『なにをするつもりだ……』

 

 一誠の頭上からオレンジ色の球体が生成される。その球体は一誠の頭を飲み込むと同時に、彼の体を紺色のライダースーツに変える。

 

『なっ!?』

 

 そして、一誠の頭を飲み込んでいた球体が花開く様に展開され、肩から胸、そして下半身へと鎧のように展開された。橙色の鎧を纏うその姿は、武士を思わせる造形だが、相手のバイザーは、武士などと言う存在を知らないためか、目の前の鎧武者が異形な存在にしか見えなかった。

 

 橙色に染められた重厚な鎧、自らの存在を主張するような兜、これから出陣と言わんばかりに背に取り付けられた戦旗。

 重厚な鎧を纏った武者に変身した目の前の男を見て、直感的に危険と感じる。

 

 こいつは、危険だ。排除しなければ。

 

 漠然とした危機感を感じ、バイザーは変身を終えた目の前の男に、右の手の槍を突き出す。

 

【フルーツバスケットッッッ!!!】

 

『グァッ!?ガァッ!?』

 

 瞬間、バイザーは四方から鋭い打撃を受け、後方へ吹き飛ばされていた。

 何に攻撃された?ここには目の前の男以外に敵は―――――混乱の中にあった彼女だが、さっきまで自らが居た場所を見て、絶句した。

 

 一誠の周囲に総勢17つの物体が出現し、彼を中心に回るように展開されていたのだ。

 その物体は、バイザーには見覚えのある形状をしていた。オレンジ、イチゴ、パイン、メロン、ブドウ、バナナ、といったフルーツの形を模していたのだ。

 神器?種族特有の能力?そのどれにも当てはまらない何かにはぐれ悪魔は得体のしれない恐怖を感じた。

 

  17つの異形の果実を従えた一誠の手の中には、黄金色に輝く『鍵』が握られていた。彼は左手に持った『鍵』をバックルに持っていき、橙色の錠前の横にいつの間にか生成されていた鍵穴部分に勢いよく『鍵』を差し入れ回す。

 

【ロック・オープン!!極・アームズッ!】

 

 バックルから発せられるけたたましい音声と共に、周囲の異形の果実が呼応するように動きだし、彼に引き寄せられるように集約され破裂すると同時に、重厚な鎧が弾き飛ばされる。

 現れたのは、異質な気配を放つ鎧武者。

 

 

 

 

【大・大・大・大・大将軍ッ!!】

 

 

 

 

 白銀に煌めき、見る者を畏怖させる南蛮胴を纏った戦士が其処に存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――禁断の果実の種が今、芽吹き始めた……。

 

 




最初から極アームズに変身させちゃいました。

まあ、これに変身するのは、最初だけですけど……。

次話も更新致します。
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