そして小ネタ。
『変~~身ッ!』
【オレンジアームズ!!花道オンステージ!!】
「うるさいわよ一誠!!今、何時だ………と」
「お、母さん。どうよこれ!」ヨォッ!
「…………バカなコスプレしてないでさっさと寝なさい!!」
「…………母さん、流石にそれはひどくない?」
本編始まります。
一樹が学校を休んだ。
朝食を摂っている時は、そのことを母から告げられたその言葉に一誠は驚いた。
何やら、両足が焼けるように熱いと呻いているらしい。病院に行く必要はないと本人は言っているのだが母としては心配なのだろう。
一誠としては一樹が学校を休むことは珍しいことだなぁ、としか思っていなかった。
「………アーシア元気かなぁ」
アーシアを教会に送ってから、普通に日が過ぎていった。
相変わらず一樹の帰ってくる時間が遅いことは変わらないが、それ以外は変わった事なんかあまりない。
……変わったことがあるとすれば、稀に頭痛と共に頭の中に浮かぶ誰かの記憶。それが頭痛を感じずにパッと白昼夢のように定期的に浮かんでくるようになったことだけだ。
学校も普通に過ごしている内に気付けば放課後。
一樹が休んでいるうちにオカルト部に行ってみる、という考えは思いついたのだが流石にそれは無粋と思い大人しく帰ることにした。
「ん?」
夕暮れに照らされる道の先に一組の男女の姿が見える。
一人はシスターの服を着て、もう一人は私服だった。遠目だが見知った顔だと思い近づいてみると予想通り、その二人は一誠が知っている顔だった。
シスター服を着た少女は近づいてくる一誠の姿に気づくとパァっと表情を明るくさせ、一誠の方に小走りで走り寄ってくる。
「あ!イッセーさん!!」
「アーシアじゃないか」
一誠が教会へ送って行った少女、アーシア・アルジェント。
再会を約束してから数日あまりでまた会うことができた彼女は、一誠との再会を喜んだ。
しかし、一誠の表情は優れないものだった。その理由はアーシアの背後で、一誠を睨み付ける少年の視線に気づいたからである。
「………兄さん」
「一樹……」
「?二人はお知り合いなのですか?」
「ああ、弟なんだ。アーシアは何で一樹と一緒に?」
一樹は足が痛くて学校を休んでいるはずなのに、何故ここにいるのだろうか?
そもそも何故、アーシアとここにいるのだろうか?
「弟さんでしたか。さっきお会いしたんです」
「な、成程」
こいつ学校休んでなにナンパ紛いのことしているんだ?
連続で学校休んだ自分が言うのもなんだけど―――
「あ、そうですイッセーさん。この前のお礼を………」
「この前の……お礼?」
「あ、ああ。一樹は知らなかったよな?この前、道に迷ってたアーシアを教会に送り届けたんだ」
「………ッ」
一樹からの視線が若干強くなった気がする。
そんな事を知りようもないアーシアは無邪気な笑顔を一誠に向ける。一誠は若干戦きながら遠慮気味に手を横に振る。
「俺、別にそんな大したことしてないからさ。気にしなくいいよ」
「そ、そんなこと……」
「いいって、いいって」
「でも……」
意外と頑固な子……そしてやさしい子だ。
素直にお礼を受け取れればいいのだが、弟の手前それをすると後でどんな嫌味やら、変な噂が立つか分かったものじゃない。特に噂に関してはアーシアにも迷惑がかかってしまう。それだけは嫌だ。
一誠自身、アーシアという少女の事はよくは分からないが、誰よりもやさしい心を持っているという事だけは分かる。
「ならさ、俺と友だちになってくれないかな?」
「え?」
「友達なら、そういう貸し借りとかお礼とか対価的なモノは無しだろ?」
よく考えれば、ほぼ強制的に友達申請をしているものだが、一誠自身にはそういう下心はない。それ以外では、ただ純粋に引け目をいちいち感じることのない友達になりたかっただけだ。何より、この子にはどこかほっとけない感じがする。
アーシアは、一誠の方を見て困惑するように瞳を震わせる。
「でも………私世間知らずですし、日本語もうまく話せないです……それに日本の文化も分からないから一杯迷惑かけちゃうかも………」
「まだ日本に慣れてないからだから、大丈夫。俺ってさ、この町の事いろいろ知っているからさ!休みの日とか遊ぼうぜ!わかんないことも俺が教える!」
「でも……」
「嫌なら、はっきり嫌って言えばいいんじゃないか?」
声を震わせる彼女の言葉を遮るように、飛ばされた言葉。その声の主は今まで傍観していた一樹から発せられていた。
瞳を涙で濡らしたアーシアは一瞬、呆けたように声を出すとすぐに一樹の方を向く。
一誠とアーシアの視線を受けた一樹はニコリとアーシアに笑顔を向ける。
「さっき、言っていた人が兄さんだよ。君は、そんな人でも友達になりたいの?」
「……お前、会う人に俺の事言ってんのか……」
「そうだよ、悪い?」
薄々気づいていたが、ほぼ初対面かもしれない人に言っているとは思わなかった。
自分の学園でのお茶目をやや超えた問題行為をアーシアに暴露され、恥ずかしくなる一誠。
一誠のやっていること自体は、女性からは忌避の目で見られるには十分な最低な行為だ。もちろん一誠だって分かってやっているわけだが――――それを見ず知らずの、全く関係のないかもしれない人に話されるのは流石の一誠だって怒りたくもなる。
ましてや、友達になろうという気持ちを下心目的と思うように仕向けるのは――――物凄く癪に障る。
「お前……」
「何?何か文句あるの?」
一誠の手の中に若干の黒い光が漏れだす。
溢れ出す黒い感情に相乗するように黒い光は、色濃くなってゆく―――
なに笑っていやがるんだ。
そんなに俺が嫌いか?
あまり苛立たせるんじゃねえよ。
怒られないとでも思っているのか?
殴られないとでも思っているのか?
蹴られないとでも思ってんののか?
ふざけるなよ。
ふざけんなよ。
お前が弟じゃなかったら。
家族じゃなかったら。
今頃お前を―――――
この場にいる誰も……一誠自身も気付かなかった。
何かに耐えるように拳を握りしめた一誠の手の中に――――黒い【オレンジロックシード】が握られていることを―――
「………私、イッセーさんと友だちになりたいです」
黒い思考に塗りつぶされていた一誠の耳にアーシアの声が聞こえる。
その言葉の意味を心の中で反芻するうちに、一誠の手の中にあるオレンジロックシードが元の色に戻る。
「一樹さんが話していたことが本当だとしても、イッセーさんは私を助けてくれました。それに、イッセーさんは貴方が言っているような人じゃないです……だから……その……イッセーさんを悪く言わないでください……」
「アーシア……」
感動した。
先程の黒い感情はどこに消えたのか、目頭を押さえ上を向く。
「ありがとうアーシア。俺とアーシアは友達だ!!」
「はいっ、イッセーさん」
「なっ、兄さん!?アーシアも!!?」
一樹の慌てる声が聞こえるが、今は無視する。
こいつが自分の何が気に入らないのかはこの際どうでもいい。何を企み、貶めようとしているかは小さな問題だ。
一誠を見たアーシアは、目じりに涙を浮かべ――――
「イッセーさ――――」
「無理よ」
アーシアの感謝の言葉は発せられることはなかった。
その場に現れた第三者、レイナーレの登場によって、歪んだ物語は加速する。
こんな弟実際にいたら、絶対にキレてる自信があります(断言)
次話もすぐさま更新致します。