兵藤物語   作:クロカタ

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禁断の芽吹き 10

 少し手こずってしまった。

 

 だがもう自分の道を阻むものはいない。

 

 だから待っていてくれ。

 

 俺が、俺が絶対助ける。

 

 自分ためじゃなく。

 

 俺は友達を守るためにこの力を使うよ。

 

 アーシア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリー眷属の『騎士』木場裕斗はアーシア・アルジェントを助けるという目的の為に堕天使及びエクソシストが集う古びた教会にて、『戦車』塔上小猫と共に戦っていた。

 

「一樹君は大丈夫なのか……」

 

 旧校舎の玄関に転がされていた一樹。腹部に堕天使の槍で貫かれた形跡があったことから、彼がどんな目に会ったかは容易に判断できる。

 しかし、眷属に中には一つの疑問が残る。

 

 

 だれが一樹をここまで連れて来たのか?

 

 

 一樹が自力で来たという可能性も捨てきれないが、一樹と共にもう一人の気配が玄関で感じられたことからその可能性はかなり少ない。

 一樹を目覚めさした方が早いと思い、朱乃が「うふふ、ごめんなさい一樹君」と謝りながら、彼の顔面に水玉をぶつけている最中――――木場の背後に居たリアスが不意に一言呟いた。

 

「………まさか……イッセー?」

「部長?」

 

 『イッセー』とは一樹君の兄の兵藤一誠の事だろうか?

 彼の事なら一応同学年なのである程度知ってはいるが、何故今、彼の名がリアスから飛び出すのだろうかと木場は疑問に思った。

 リアスのつぶやきは眷属全員が聞いていたので、木場を含めた全員はリアスにその事を聞く。

 

「あくまで可能性の話よ」

 

 リアスは意外とあっさりと教えてくれた。しかし、リアスの口からは発せられたその言葉に木場は驚きを隠せなかった。

 特別な訓練を受けていない生身の人間が単体で堕天使の攻撃から生き延びた可能性があるなんて――――。人間にも堕天使や悪魔とやりあえる人間は多くいる。

 教会のエクソシストや、伝説となった偉人や英雄がそのいい例である。

 だが、それらは種族差という壁を補える『何か』を鍛えた結果や、神器等の特別な力を持った人間がその多くである。

 種族の壁というものはそうやすやすと超えられるものではない。

 

「……部長は、その兵藤君が一樹君を連れて来たというのですか?」

「分からないわ。一樹の話を聞かない限りは―――でも彼は私が記憶を消したはずなんだけど……」

 

「う、うぅ………」

 

「起きました部長!」

 

 顔をずぶ濡れにさせながら起きた一樹。

 彼は自分が何故部室にいるか理解していなかったが、ふと何かを思い出すと彼はこれまでの経緯を話しだし『アーシア・アルジェント』という昨日、一樹を呼び出した依頼人を殺したエクソシストと一緒にいた少女を助けたいと言い出した。後半の話は一度彼が言い出して、リアスに止められたことだった。

 

 リアスと一樹の対話は平行線の一途をたどった。

 眷属を大事にしているリアスにとって、あまり実力の備わっていない一樹に教会に行かせることは反対だったからだ。

 リアスは木場と小猫を一瞥してから部室から出ていこうとする。木場と小猫はリアスの視線が何を言わんとしているのか分かっていた。

 

「部長、兄さんと会いましたか?」

 

 部室からリアスが出ていく時、一樹がやや沈んだ声でリアスに質問する。一樹の質問に表情を変えずにリアスは肯定する。

 

「……何で、兄さんは堕天使の事とか……ボクが堕天使にやられたことを知っているんですか?」

「なんですって?」

 

 リアスによって操作された記憶が戻っている。

 それはリアスが兵藤一誠に興味を抱かすのに十分すぎる事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、古びた教会。

 

 エクソシスト、フリード・セルゼンを撃退した木場、小猫、一樹は、木場と小猫が大勢いるエクソシストを食い止め、先に行ってしまった一樹がアーシア・アルジェントを救出する二手に分かれて行動していた。

 

 光の力が込められた武器で斬りかかってくる神父を、『光喰剣』で無力化し切り裂きつつ、木場は地下に下りて行った一樹の安否を心配する。

 

 磔にされていたアーシア・アルジェントから神器は抜き取られてしまった。

 彼女を助けるには、彼女の神器を持っている堕天使レイナーレを倒さなくてはならない。

 

 それが一樹の実力でできるか?と聞かれれば難しいといってもいいだろう。

 

 独断専行で先に行ってしまった一樹に追い付かないと、手遅れになって彼が滅せられてしまう。新しい仲間をみすみす殺させるわけにはいかない。

  焦燥に駆られた木場はさらに速度を上げて神父を切り倒していく。

 

「……………裕斗先輩!上から誰か来ます」

「……なんだって?」

 

 何かを感じ取った小猫は、地下から上に上がる階段の方に目を向ける。目の前の神父を蹴り飛ばした木場も小猫と同様に階段を見ると―――

 

「グぁ!?」

 

 階段から神父が転がり落ちてくる。

 咄嗟に身構える木場だが、転がり落ちた神父の後に階段を降りてきた少年の姿に木場は目を剥く。

 

 駒王学園の制服。

 独特のツンツン頭。

 一樹と瓜二つの顔。

 

「おい、なんだこれ!?ここってこんな人いたのかよ!?」

 

 木場にとっての同級生、兵藤一誠の姿がそこにあった。

 特徴的なベルトを腰に装着した一誠は、地下を見渡すと驚く様に声を出す。

 

「兵藤君!?何で君がここに!?」

「そっちこそ……何で、木場がここにいるんだ?……っと、そういえばお前もオカルト部だったな。というとお前も悪魔って口か?……ということはかなり時間を食っちまったって事か……」

 

 双方驚く。

 しかし状況を理解した一誠は、納得したようにうんうんと頷くくと、深刻な表情を浮かべる。

 対する木場は、自身が悪魔と見抜かれた驚きと共に、妙な安心感を自分が感じていることに得体のしれぬ戸惑いを感じていた。。

 

「一樹君とアーシア・アルジェントがこの先にいる……」

「え、ええ!?」

「急げば間に合うかもしれない!!」

「……裕斗先輩、何を―――」

 

 自分が何を言っているかは先刻承知。

 もしかしたら、自分は一誠を死地に送り込んでいるかもしれない。

 

 今の一誠にはどんなことでも成し遂げてしまうのではないのかという、彼への信頼のようなものを感じてしまった。

 その感覚がどんなものかは分からない。だが、自分が身動きのできない状況で木場が選べる選択肢はこれしかないとしか思えなかった。

 

「あ、ああ!何かよくわからねえけどありがとな!!」

 

 木場の言葉を受けて走り出す一誠。地下に向かおうとする彼を通さんとばかりに神父たちが襲い掛かるが、彼は壁を蹴りクルンと一回転する挙動で、迫る攻撃を避けると、勢いに任せそのまま地下に下りて行ってしまう。

 

 曲芸紛いの動きをした一誠にぽかんと口を開けて驚く小猫に、木場は苦笑い浮かべ再度、剣を構える。

 

「行くよ小猫ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場に示され地下を降りる一誠。

 この下にアーシアがいる。そしてあのレイナーレも……。バックルに手を添え、一誠はゆっくり息を整える。

 

 暗い階段の先に光が見える。

 一誠は右手に持つロックシードを握りしめ光の先へ飛び出した。

 

「アーシアァァァァァァァ!!!!!」

 

 光の先で一誠が見た光景、それは―――

 

 

 力なく倒れ伏すアーシア。

 さっきとは違う形状の左手になった一樹が、両足に光の槍で地面に縫い付けられもがき苦しんでいる光景。

 淡い緑色の光を手のひらから見せびらかすように放出しているレイナーレの姿だった。

 

「あら、ドーナシーク達はしくじったようね。ほんっと役に立たない奴ら」

「お前……その手の……」

「これ?綺麗な光でしょう?さっきアーシアから貰ったのよ」

 

 悦に浸るようにアーシアの神器の光を一誠に見せる。

 アーシアの方に目を向けると、そこには瞑られた瞳から涙を流しぐったりと動かないアーシア。彼女の力が抜き取られたから、死んでしまった?

 間に合わなかった?一誠の絶望の色に染められる。

 

「クソ、クソッ。神器は目覚めたはずなんだ!!『赤龍帝の籠手』になったはずなんだぞッ……それなのに、何で……何で!勝てない!なんだよこれ!!痛い、痛い痛い痛い痛い!!」

「さっき言ったでしょう?神器は感情で強くなる。貴方が『赤龍帝の籠手』の保持者だったのは驚いたわ。でもそれだけだわ」

 

 狂ったように何かをブツブツと呟き始めた一樹を蹴り飛ばしたレイナーレが、こちらを見る。

 

「神器は感情で強くなる……ということは思いがなくちゃそれはナイフにも劣る玩具ということになるわ。そこの下級悪魔は、思いが足らなかっただけ……」

「お前には、思いがあるのかっていうのかよッ。アーシアの大切なモンを奪うようなお前に!!」

「あるわ。私をバカにし、見下してきた奴らを見返してやる……そんな思いでここまで来たのよ」

 

 様子が一変し、殺気を洩らしながら一誠を睨む。

 その視線を受けた一誠は、自分の中にある何かが冷たくなっていく感覚に陥っていく。

 

「―――それはアーシアの物だ。……彼女の力で、思い……そして命だ。だから返してもらう」

「ふぅん、できるかしら?」

 

 確かにアーシアの力を手に入れた彼女に今の一誠は太刀打ちできるはずがない。

 最初、戦った時のように避けてばかりじゃいつか一誠の体力が尽きてしまうだろう。

 

「できるさ、なんせ俺は――――」

 

【オレンジ!】

 

 一誠の頭上に橙色の球体が生成される。

 機械的な球体を思わせるそれは、ふわふわと一誠の頭上に浮遊する。

 

「友達、だからな。なあ、そうだろうアーシア」

「ッ!何……」

「だから、俺は闘うよ」

 

【ロック・オン】

 

 錠前をバックルの窪みにはめ込む。瞬間、バックルからほら貝に似た音が響く。

 その光景を見ていたレイナーレは、神器とは異質な力に戸惑いを感じ―――

 蹴り飛ばされ壁に激突した一樹は、一誠が持っているはずがない力に驚愕する。

 

 はめ込まれた、オレンジロックシードをバックルの小刀を傾け切ると、頭上の橙色の球体が一誠の頭を飲み込む様に落下する。するとバックルから流れるように放たれたエネルギーが一誠の体を紺色のライダースーツに変える。

 一誠の体がライダースーツに変わったと同時に頭部を飲み込んだ、球体が開き一誠の上半身を守る鎧のように展開する。

 

【オレンジアームズ!花道オンステージ!】

 

 音声が教会に鳴り響くと同時に一誠の右手に橙色の刀【大橙丸】が握られたことで変身が完了する。

 

 その仮面の戦士の名は【鎧武】。

 兵藤一誠が、『赤龍帝の籠手』を失った代わりに与えられたチカラ。

 

 仮面の戦士に変身した彼は、大橙丸を左手に持ち替え、左腰に装備された刀、無双セイバーを引き抜き、切っ先をレイナーレに向け叫ぶ。

 

「レイナーレ!!俺はお前を絶対許さねえ!!」

 

 

 

 『鎧武』の戦い<ステージ>の幕が開ける。

 

 




堕天使三人との戦闘シーンはカット。
お披露目はレイナーレ戦です。


次話もすぐさま更新致します。

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