兵藤物語   作:クロカタ

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禁断の芽吹き 11

「リアス、これは一体どういう―――」

 

「分からないわ……でも、ここで何かしらの戦闘が行われたのは間違いないわ……」

 

「色違いの黒い羽が3枚……堕天使3体を跡形も残らず消滅させる……一体誰なのでしょうか」

 

「……」

 

「リアス?」

 

「え?ああ、なんでもないわ……ここにはもう用はないわ。裕斗達のいる教会へ急ぎましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイナーレの眼前には鎧の戦士が佇んでいた。

 眩い位の橙色の鎧を纏った、イッセーはレイナーレを視界に収め、敵意を向ける。

 

「来いよ、レイナーレ」

「そんな恰好になって、私の相手が務めるとでもッ!!」

 

 二刀を構える一誠に、光で生成された槍を投擲する。一樹を貫いた槍よりも強い光力を宿した槍は一直線に一誠に向かって突き進んでいくが、一誠はその槍に対して左手の大橙丸を縦に振るい切り落とす。

 

「ッ!?私の槍を叩き落とすか!」

 

 続いて向かってくる槍を、両手の刀を交互に振るうことで破壊していく。

 戦闘経験が全くの皆無のはずが、歴戦の手練れのように戦える理由。それは彼の頭の中に存在する戦いの記憶の恩恵にあやかっているからである。

 

 誰だが知らない人物の記憶。

 得体のしれないものだが、今のイッセーにとっては身に纏う鎧以上の『武器』となりつつあった。

 

「ハァッ!!」

 

 銃と刀が合わさったような武器である、無双セイバーの鍔部分にある後部スイッチを左手で引き、銃機構を作動させ照準をレイナーレに合わせ、撃ち出す。

 

「グッ……」

 

 銃口から放たれた弾丸はレイナーレの腹部を打ち抜く。しかし腹部を撃たれたにも関わらずレイナーレは笑みを浮かべながら、緑色の光が灯された手を腹部に添える。

 

「ふふふ、私にはこれがある!神の加護を失った私達堕天使にとって、あの子の神器は素晴らしい贈り物だったわ」

「贈り物……だと!?お前のじゃねえだろ!!」

 

 レイナーレの発言でさらに激高した一誠は、両の手の剣の柄を接続し薙刀状にしレイナーレへと走り出す。レイナーレ自身も光の剣を生成し迎え撃つ。

 

「オラァ!」

 

 一誠が薙刀で斬りかかるとガキィンと光の剣が砕ける。

 しかし、レイナーレは即座に光の剣を作り出し一誠に刺突を放つ。

 

「無駄よ!今の私は神器が使える限り無尽蔵に回復できるのよ!!貴方に勝機なんて万に一つもないわ!!」

「アーシアの神器使っといて偉そうなこと言ってんじゃねえ!!」

 

 刺突を捌き、レイナーレを袈裟切りに切り裂き、腹部を蹴り飛ばす。

 壁際まで蹴り飛ばされるレイナーレだが、手を傷口に当てるとすぐに回復してしまう。

 ――――これではジリ貧だ。

 

「だから無駄って言っているじゃない」

 

 実力的には今の一誠には及ばないだろうが、相手は無尽蔵に等しい回復力がある。

 不死身と言ってもいいだろう。

 

「だから、どうした!」

 

 一誠は斬りかかってきたレイナーレを右拳で殴り飛ばしながらそう叫ぶ。

 再度際まで退くレイナーレ。

 呻きながら顔を上げた彼女を待っていたのは、今にも顔面に接近しつつある一誠の右拳。それが彼女の顔面に直撃する。

 

「グハッ……ッ」

「無駄だから、やめるとでも思ってんのか!?お前はアーシアの大事なモンを奪った!!それを取り返すまで俺は諦めるなんて言う選択肢はねえんだよ!!クソ堕天使!!」

 

 骨が砕ける音と共に今度こそ壁に激突したレイナーレは、口から血を流しながら怒るように声を上げる。

 

「――――ッ!アーシアは死んだわ!だから取り返しても助けるなんて無理!アハハハハハハ!!死んでるのよ!!もう助けるとそういうのじゃないのよ!!貴方は守れなかったの、そこで転がっている下級悪魔と同じで!!夕刻の時と同じようにあなた一人じゃ、ソレを助けられなかったように!!」

「それは手前が決めることじゃねえ!!それにまだアーシアは死んでねえ!!」

 

 薙刀を振るい、レイナーレと剣劇を交わす。

 アーシアの神器の効果でいくらでも光の剣を作り出せるレイナーレを圧倒してゆく。

 

「アーシアが死んだってことが、俺にとっての終わりなら……俺があの子の死を諦めない限り、終わりじゃない!!」

「諦めの悪い人間!!」

 

 薙刀で切り払うようにして、両手で光の剣を持つ彼女の武器を腕ごと上に弾き、蹴りを繰り出し距離を取る。

 一向に攻撃が通らない一誠にレイナーレは薄ら寒いものを感じ始める。

 

「このッ!!」

 

 光の槍を一誠の喉元に放るが、それも容易く対応され、逆に自分が薙刀によって光の剣ごと切り裂かれてしまう。

 どんどん攻撃が鋭く、スマートなものに変わっていく。さっきまでは若干力に振り回されているように思われていた斬撃が今や、回避体制を取らなければ一瞬で命を刈られる程に危険なもの変貌してきている。

 

 少しでも油断すれば―――

 

「セイ!!」

「あうッ!?」

 

 一気に攻勢に持ってかれる。

 このままでは負けはしないが勝てない。

 

 瞬間、レイナーレの視界の中に、苦しむ様に倒れ伏す一樹の姿が目に入る。レイナーレに悪魔の発想が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 レイナーレの口角が吊り上がるのを見て一誠は、相手が何か仕掛けてくることを予想する。

 薙刀で攻撃を砕き逸らし、彼女の攻撃に備えると、不意にレイナーレが距離を取り、その手に先程より濃密な光を集約させ槍を作り出す。

 一誠はバックルの小刀に手を掛け、迎撃の体制に移る。

 

「それで俺を倒せると思ってんのかよ!!」

「そんなわけないじゃない―――私の狙いは――――」

 

 レイナーレの視線が一誠の後方にいる一樹に向けられる。瞬間、一誠はしまったとばかりに表情を歪め後方へ下がろうとする。

 だがレイナーレの方が一手速く、光の濃度が高い槍が彼女の手から放たれる。どう見たって弱っている一樹が直撃すればただじゃすまない威力が内包されている。

 

「さッッせるかよ!!」

 

【オレンジオーレ!!】

 

 バックルの小刀を二回傾け、ロックシードから薙刀へエネルギーを送り回転させると同時に勢いよく放たれた光の槍の射線上に放り投げる。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 

 刀身からオレンジの断面に似たエネルギーを放出したそれは、一樹に迫る光の槍を容易く破壊する。

 苦肉の策が失敗に終わったことに、うろたえるレイナーレだが一誠の手に獲物がなくなったことに目が行くと途端に挑発的な笑みを浮かべる。

 

「防がれたけど、今の貴方は武器を失っ―――」

「弟を狙いやがったなクソ堕天使!!」

 

 レイナーレの策は一誠の怒りに油を注ぐだけだった。

 

【オレンジッスカァッシュ!!】

 

 再度バックルの小刀を一回傾け、その場から飛び上がる。天井スレスレにまで飛び上がった一誠は、蹴りの体制となる。ロックシードの膨大なエネルギーが一誠の右足に集約され、果汁のようにエネルギーを放出すると同時にレイナーレ目掛けて突き進んでいく。

 

「ひ、ひぃぃッ!」

 

 苦し紛れの光の槍を放つが、一誠が放つ蹴りは槍を意に介さずに突き進む。

 

「オラァァァァァァァァァァァ!!」

 

 【無頼キック】―――一誠の必殺の一撃がレイナーレの体を意識諸共蹴り飛ばした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神父を掃討し終え、一誠達がいる地下に下りた木場と小猫。

 二人がそこで見た光景、それは―――

 

 橙色の鎧武者が壁をぶち抜くほどの飛び蹴りをレイナーレに食らわせている光景だった――――

 

「……裕斗先輩、一樹先輩が」

「―――――はっ!?一樹君!」

 

 小猫が壁際で倒れている一樹に気づく。木場が急いで一樹に近づき、傷の容体を見るが、幸い命に関わるような傷じゃないと知ると、木場の次の懸念は、壁をぶち抜いたレイナーレを佇んだまま見つめる正体不明の鎧武者に向けられる。

 

「君は……何者だい?」

「………おお、木場か……」

「兵藤君なのかッ!?」

 

 バックルの開いたロックシードを畳み変身を解く。

 体を覆うスーツが空中に霧散すると、そこには儚げに笑う一誠の姿。

 

「……君は―――」

「アーシアは?」

 

 一誠の視線は地面に横たわるアーシアに向けられる。

 彼女の体からは生気というものが感じられず、傍目で死んでいるのが分かる。

 

 木場はなんといっていいか分からず口ごもるが―――

 

「彼女ならまだ、助かる可能性があるわ」

「!!」

 

 口淀んだ木場のの代わりに第三者が応える。

 声があった方に視線を向けると、そこにはリアス・グレモリーと姫島朱乃の姿があった。

 

 朱乃は倒れている一樹の傍により手当を始める。

 その様子を横目で見た後、リアスは一誠の方を向く。

 

「グレモリー先輩……」

「貴方、やっぱり……記憶が戻っているのね」

「病室の時は思い出していませんでしたけどね……それより、アーシアが助かるって―――」

「その前にやることがあるわ、小猫」

「……はい、部長」

 

 リアスの指示に従い、小猫が一誠の蹴りで壊れた壁に駆け寄り、そこからレイナーレの足を掴み運んでくる。一誠の必殺技を食らった彼女は全身ボロボロだった。幾分か神器で回復させてはいるが、普通の中級悪魔じゃ、即死してもおかしくない。

 リアスは、一樹の手当てを終えた朱乃を呼び出しレイナーレを、魔力で生成した水球で無理やり気絶から目覚めさせる。

 

「ゲホッゲホッ!!」

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

 

 それからのリアスとレイナーレの会話は、ほぼ一般人である一誠には理解できなかった。

 一樹の神器が実はとても希少で凄いものだったとか。

 堕天使の援軍はもう来ないとか。

 リアス・グレモリーが消滅の力を扱う物騒な人だったとか。

 自分が正真正銘の一般人だとか。

 途中に見覚えのない神父が登場し、その神父に敵認定されたりとか。

 その神父にレイナーレが見捨てられたり。

 

 全部、分からない……だからどうでもいい。

 ―――――ふと視線を戻すと、レイナーレがリアスに止めを刺されようとしている。

 

 こいつは嫌な奴だった。

 弟を殺そうとしたし、自分も殺そうとした。

 自分の知らない人たちも殺している。

 アーシアをひどい目に会わせている。

 情状酌量の余地すらなく、こいつは悪だ。

 ――――だが、彼女に一言だけ言いたいことがあった。

 

「なあ、レイナーレ」

「イッセー君!私を助けて!!」

「いや、それはできない。でもお前の言ったことに言いたいことがあったんだ」

 

 レイナーレの命乞いの言葉をバッサリと切り捨て、勝手に話し出す一誠。

 

「お前はバカにした奴らを見返してやるって言ってたよな」

「………」

「気持ち、分からなくもなかったぜ」

「え?」

 

 自分も日々、バカにされているから。

 自分が何時まで弟の罵倒に耐えられるかは分からない。もしかしたらレイナーレのように手段を択ばない外道になるかもしれないし、タガが外れて一樹をボコボコにしてしまうかもしれない。

 たまに、そういう衝動に駆られそうになっているから分かる。

 

「お前はやり方を間違えた……それだけだったんだ」

「………人間なんかに、私の気持ちが分かるはず……ないわ」

 

 一瞬だけ穏やかな表情を浮かべ目を瞑る彼女を見て、一誠はリアスを一瞥し背後を向く。

 

「お願いします」

「………消し飛べ」

 

 紅い光が一誠の影を色濃く照らすと同時に堕天使レイナーレはこの世から塵一つ残らず消え去った。

 その後、レイナーレの居た場所に目を向けずアーシアの所に移動する。

 

「ごめんな、アーシア……守れなくて」

「イッセー」

 

 一誠の背後からリアスが声を掛ける。背後を振り向くと、彼女の手には緑色の球体と、チェスの駒の様な物が浮遊していた。

 

「それは……」

「これは『悪魔の駒』といって、生物を悪魔に転生させる機能を持つ駒よ。そしてこれがアーシア・アルジェントの神器」

「それがあれば……」

「ええ、彼女は生き返る……というより、生まれ変わることが可能よ」

 

 悪魔として生きることはアーシアにとって厳しい道になるだろう。

 だが、だとしても……一誠はアーシアに生きてほしい。リアスを真正面から見、深く頷くと彼女も一誠の意を理解し、アーシアの傍らに歩み寄る。

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、アーシア・アルジェントよ、いま再び、我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔と成れ。汝、我が『僧侶』として新たな生に歓喜せよ!!」

 

 駒が紅い光を発しアーシアの体に沈んでいく。それと同時にアーシアの神器も彼女の体の中に帰っていく

 リアスが、軽く息を吐き、アーシアから手を離すと―――

 

「う、う~ん」

 

 もう聞こえるはずのない声。

 リアスが、一誠の方を向きにっこりとほほ笑む。

 

「さあ、今度は貴方の事を聞かせて。イッセー」

「はは……すい、ません。ちょっと……今、ちょっと、無理っす」

 

 新しい命を得たアーシアが体を起こす。

 彼女はイッセーの顔を見て、首を傾げる。

 

「あれ?イッセーさん。どうして、泣いているんですか?」

 

 

 

 




数少なっゲフンゲフン……ライダーキック、炸裂ですね。

次話で第一章は終わりです。


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