・イッセーがブチギレて悪堕ち。
・一樹が本編より、ゲス……というか、形容できない程終わってる。
・本編がかわいく見える程の仕打ち。
・戦闘描写は無し。堕ちる過程のみ。
・イッセーに与えられる特典は鎧武ではなく『悪ライダー』
あくまでプロローグに近い外伝の様なものなので、注意事項を呼んで無理だと思ったならば読むことはお勧めしません。
最初は、禁断の芽生え 1 と大体同じなので省略。
兵藤一誠は性欲多感な男子高校生である。
日々、悪友である松田と元浜と共にエロの道を歩む駒王学園に通う学生。
そんな彼の朝は、けたたましいキャラボイス目覚ましから始まる。
「……ふぁ……」
時間は7時15分。
学校へ行くには丁度いい時間。だるい体を動かしながら制服に着替え、のそのそと両親のいるリビングに降りる。
欠伸を噛み殺しているイッセーを見た母親は、ため息を吐きながら彼に朝食を差し出す。
「ほらほら起きなさいイッセー!一樹はもう学校行っちゃったわよ!」
「俺は一樹とは生活サイクルは全然違うんだって……」
兵藤一樹。
一誠の実の弟である。容姿は髪の長さを除けば一誠と瓜二つ。
だが一樹は一誠と違い『なんでもできる』。
彼は何時でも一位を取る。
勉強に関しては、小学校でも中学校でも……何故か高校からは成績は落ち目に入っているが、上位に入っている事には変わらない。
「はぁ……眠ぃ~~」
朝食を食べ終えた後に、顔と歯を磨き高校へと歩き出す。
弟の一樹は、何故か一誠を疎ましく思っている。一誠が近づいても何時も彼から遠ざかろうとするのだ。まるで親の敵とでも言わんばかりに。
一誠としてはたった一人の弟、仲良くはしたいと思っている。
やはりエロいのがいけないのか?エロに忠実なのがいけないのか?周りの目が気にするのか?と色々考えてしまう。
直そうとは何回も思ってはいるが、やはり無理だった。
「だって男だし、しょうがねえよなー」
青少年よ、欲望に忠実であれ。
そうおっちゃんが言ってた気がする。
そういえば一樹って結構モテるよな。
同じ見た目であるが爽やか少年である一樹と、健全学生、一誠では雲泥の差があるのだろう。
分かっている。分かっているからこそその事実が地味に一誠を傷つける。
気付けば校門前。
ボー、っとしている内にもう到着してしまったのか。
「あ、あの……兵藤……くん、だよね?」
「ん?」
誰かに声を掛けられた。
可愛らしい声だなー、と思いつつ声の下方向に目を向けると、そこには一人の黒髪の美少女。
「ど、どなたですか!!」
「あ、あの私……天野夕麻っていいます」
か、可愛い……それにしても何でこんなかわいい子がオレに話しかけてくるんだ?も、もしかしてこれはもしかして……。
「一目惚れです!付き合ってください!」
ペコリと頭を下げながらそう言い放った黒髪美少女を前に、一誠は思わず自分の頬を抓った。
「おいぃぃぃぃイッセーコラァ!!」
「テメエェェェイッセェェェェ!!」
「はっはっはっはっなんだね松田君、元浜君。ああこれ返すよ。今の俺には必要のないものだからね!」
これぞリア充の門を潜った者の風景か。
報われない者共がこんなにも哀れに見えるとは思わなかった。
描写出来ないほどの形相で一誠に詰めよる松田と元浜。
そんな彼らとは対称的に、不敵な笑みを浮かべ椅子に深く座るイッセー。
「いらねえよ!くそぉ何でイッセー何だよ……何でオレに春はこないんだよ……なあ元浜ぁ」
「諦めては駄目だ……イッセーにだって来たんだ……俺達にだって……」
「へへ、元浜。声……震えてんぜ」
親友二人の茶番劇を眺めつつ、教室に居る一樹に目を向ける。
『カズキくーん、英語の宿題やったー?』
『ちゃんとやったよ。見せ合いっこしようか?』
『私も私もー!』
「なあ、一誠。お前の弟って条例で保護するほどの存在か?」
「イッセー、ちょっとだけ、先っちょだけだから。あのクソったれハーレムヤロウに俺のシャープペンシルを突き刺すだけだから」
「お前ら落ち着けよ!?つか、松田はその手に持ったシャーペンをしまえ!!」
額に青筋を浮かべ、指を鳴らし始めた松田と元浜を止める。
全く、嫉妬と言うものは恐ろしい。朝の告白がなかったら自分もきっとああなっていただろう。
「まあ、ここまで冗談として……イッセーよ」
「冗談に見えなかったんだけど……」
「冗談として!!」
あくまで冗談として突き通す気かこの眼鏡とハゲ坊主。
「本来なら嫉妬の炎でお前を焼き尽くすはずだが……まあとりあえずは、おめでとうと言っておいてやる。なあ松田」
「おうよ、精々別れんように背中に気を付ける事だな」
これは祝ってくれているのか?祝ってくれている事にしよう。
こいつらは親友、一誠は柄にもなく少し感動した。だてに一年生からの付き合いじゃない。
エロの為なら一緒に頑張って来た仲間。即ちズットモである。
「……っで、本音は?」
「「別れればいいと思う」」
「こ、こいつらァ……」
親友との楽しいやり取り、そして夕麻ちゃんからの告白。
今日日も新しい出会いや、心が躍りそうな日常が始まっていく。
ずっと続けばいい。
素直にそう思う。
ふと、視界の端で一樹が一誠を見ている事に気付く。
一樹のほうに顔を向くと、彼は既に別方向を向いていた。
「あれ?」
「どうしたんだイッセー?」
「いや……何か一樹がこっちを見てた気がしたんだけど……やっぱなんでもいいわ」
一瞬見えた、一樹は――――今までに見た事が無い歪な笑みを歪めていた気がした。
その週の休日、その日は俺にとって特別な日だった。
『天野夕麻とのデート当日』
兵藤一誠は、生まれてからの16年間において初めてのデートに緊張しながら、待ち合わせ場所に立っていた。
時刻は待ち合わせ時間ジャスト。
まだ夕麻は来ない。
「女の子は、準備に時間が掛かるって言うからな。ここは男として無言で待つべきだな!」
ひたすらに待つ。
10分……15分……30分。
こない、だが待つ。
天野夕麻はきっと寝坊助でドジっ娘などという淡い希望を抱きながら一誠は待つ。
……1時間……2時間――――3時間が過ぎる。
『ただいま、電話にでることができません―――――』
「……」
電話にもでない。待ち合わせ場所も何度も確認したし、彼女自身がここを指定した。――――だが、こない。
諦めかけたその時、一誠に近づいてくる一人の女性。
女性は手にチラシのようなものを持ちながら一誠の傍による。
「すいませーん」
「……!ゆ、夕麻ちゃん、俺も今来たとこr――――」
「はい!どうぞ!」
夕麻ではなかった。
近付いてきたのはバイトの女性であった。彼女は一誠に押し付ける形で胡散臭いチラシを押し付けると、そそくさと別の人の所に行ってしまう。
「……ははは、なんだこれ……『貴方の願い叶えます』……だって?」
手に持たされたチラシを見た一誠は、急速に自分の中の熱が冷めていくのを感じた。
あぁそうか、自分は騙されていたんだな。
ぐしゃりとチラシを丸めて地面に投げ捨てた一誠は、くるりと後ろを向き歩き出す。
「……」
惨め、これなら素直に振られるほうがマシだった。今、思えばおかしな話だった、何で自分みたいな男にあんな可愛い子が告白してきたのか。
罰ゲームのような物だったのだろう。騙した天野より、騙された自分が恨めしい。
思い上がっていた自分が恥ずかしい。
「もうこうなったら、今から松田と元浜呼んで遊ぶしかねえな!」
目は何で前についている?前に進むためさ!
失恋乗り越え、今こそニューイッセーとして生まれ変わる時!
そう思い、携帯を取り出し、松田と元浜に連絡しようとした瞬間――――前方を二人の男女が仲睦まじく歩いていく光景を目にし、ボトリと携帯を落とす。
「……はは、なーんだ。そう言う事だったのかよ……一樹、夕麻ちゃん」
弟と、自分が彼女だと思っていた女性。
絶望する一誠だが、内心は何故か納得していた。
「そうだよなぁ、一樹は頭が良くて女子に優しいからなぁ……そりゃ好きにもなるわな。あ、そういえば俺に告白した時も、俺の事、兵藤って苗字で呼んでたなぁ……なーんだ。全部、俺の勘違いか……ははは、くそ」
周りに人がいるにも拘らず独り言。
ドロドロとドス黒い思いが胸からこみ上げる。
何でアイツが、何でアイツだけが、勉強ができて……頭が良くて、親からの期待も厚く。教師からも有望視されている。
アイツが、アイツがさえ、いなけれ――――
「……もう、やめよう」
そこで一誠は、我に返る。
一樹は決して悪気があって、夕麻と居る訳ではないのだ。
ここで、『一樹がいなければ』なんて思ってしまう事は兄として最低だ。ここは兄らしく弟に彼女ができた事を喜ぶべきじゃないのか。
「そう、だな……そうしたほうがいい」
でも、あの二人がこの後どうするのかが気になる。
夕麻の方は、自分とデートすることは知っているはずなのに……もしかして忘れているのか?それはそれで癪に障る。
「……まあ、デートすっぽかされた特権で、見届けるのは許される……よな?」
そう呟きながら、一誠は二人の後を追う。
30メートルほど距離を開け追跡する。仲睦まじい二人を見て、精神的にダメージを負う一誠だがそれでも追跡をやめなかった。
――――夕暮れが近い。
夕麻は一樹の手を引き、公園に入った。
このまま普通に入るわけにもいかないので、公園の茂みに潜み動向を見守る。
「あれ?これって、なんかヤバくないか?もしかしたら不健全な事にならないだろうな?」
もしそうなったら、自分は弟に目を合わせなくなる。
気まずい仲のまま生活しなければならなくなる。
それだけは避けなければ……いざとなったら逃げる準備を――――
ザシュッ
「…………え?」
音を切り裂いた音に、何かが噴き出る音。
一誠の目の前に映ったのは、赤――――腹部からシャワーのように血を噴き出しながら地面に倒れ伏す、大事な弟の姿だった。
「あれ?……はは、俺って疲れてんのかな?」
何度目を擦っても目に映るのは、腹に光り輝く槍が突き刺さっている一樹の姿。
そして「それ」を見下ろす、黒い翼を生やした天野の姿。
死んだ、一樹が。
誰に?
天野、夕麻に―――
「カズキィィィィィィ!!」
茂みから飛び出し、一樹の元に駆け寄る一誠。
天野は、最初から気付いていたのか、ニコニコと笑みを浮かべながらその光景を見守っている。
「一樹っ、しっかりしろ!今、救急車を呼ぶから!なあ!」
「あひゃ、ひゃひゃひゃは……これで、俺が、俺が―――――ボクがなれるんだ……ざん、ねんだったな、いっせぇ」
虚ろな目でボソボソと何かを呟いた一樹は、一誠の頬に添えた手をパタリと地面に落とした。
彼の体から力が抜けていくのを感じた一誠は、血に濡れた頬に涙を流しながら、一樹の肩を揺らす。
「……は?おい、なんだよ。全、然……何言ってるか分からねえよ!……おい、目を開けろよ!何時もみてえに毒の一つでも吐いてみろってんだよ!!」
「随分と、兄である貴方は弟を大事にしているみたいね。その子も虫の息だし、あと少し放っておけば死ぬわ」
「………っ、何で!何で君が、一樹を……ッ」
「貴方に言っても分からないでしょうが……コイツは人にないものを持っていた。それだけよ」
それだけで、殺されたのか。
まだ一樹にだってやりたいことがあったはずだ。やり残したことが有ったはずだ。
親孝行もしてない、結婚もしてない、孫の顔を見てない。
一誠は、血走った眼で夕麻を睨みつける。
「あら、怖い。でもごめんなさいね『一誠』君。でもね、この子は貴方が思うような、可愛い弟じゃないのよ?」
バサリと翼をはためかせ地面に降り立った夕麻は、一樹の亡骸を見下すように一瞥しながら、光でできた槍の切っ先を一誠に向ける。
「そんなこと……知ってるに決まってんだろ!俺はこいつの兄だぞ!?兄ってのはなぁ、どんなことが有っても弟を守るもんなんだ!お前がなんなのか知らねえけどさぁ!たった一人の弟をお前は殺したんだ!!」
「……感動的ね、でも無意味だわ。どちらにせよ貴方は殺す予定だった……ドラマチックでしょう?一緒に死ねるなんて」
槍を掲げ、一誠目掛けて投擲しようとする夕麻。
天野夕麻の正体が何かは分からない。だが、弟を殺したこいつにたった一言だけ言いたい言葉があった。
「俺さ、君の事は本気で好きだった」
「そう?私は嫌いだったわ」
次の瞬間、一誠が感じたのは激痛、続いて焼けるような熱、そして力が抜けていく感覚だった。
ああ、短い人生だったな。
結局彼女に振られちまったし、童貞のままだし、結婚もしてないし。
……親友二人を残しちまった。
それだけが心残りだなぁ。……まあ、アイツらなら落ち込みはするけど、すぐに元気になってくれるだろ。
眠い、天に昇るように光に包まれていく。
「貴方ね、私を呼んだのは?」
突然、魔方陣が発動したと思ったら、目の前には血みどろで倒れ伏す『一人』の男子高校生。
この子は、確か2年生の兵藤一樹?
「堕天使、かしらね。この惨状を見るからには……あら?おかしいわね」
兵藤一樹の隣に、血溜まりが?
一体誰のかしら……死体が消えているって事?それとも生きている?
「調べる必要があるかもしれないわね」
それより、今はこの子。
私を呼び出すほどの強い生への執着を持っているならば――――
「その命、私の為に使いなさい」
――――手の中の『兵』を弄びながら、虚ろな目をしている兵藤一樹にそう言い放った。
死んで目覚めたら、周りが真っ白な空間に立っていた。
そして目の前には、だらしなく服を着崩した20代後半程の男。
「あれ?確か俺って、夕麻ちゃんに腹を刺されて―――――っ!?」
思わず、自分の体を見る一誠。腹部に傷がない。
あれは夢だったのか?もしそうならどれだけ救われた事だろうか。
「夢じゃないぜ兵藤一誠?」
「はぁ!?なんd―――」
「『何で俺の名前が分かる』ってか?そりゃ、俺がお前よりスゲェ存在だってだけさ」
「スゲエ存在?」
「まあ、立って喋るのは面倒くせえから座れよ」
「……」
スゲエ存在……かなり胡散臭い。
周りを見ても一面真っ白、果てが見えない。はりぼて?と疑いつつも黙って座る一誠。
男は一誠と同じく地面にどかりと座りながら、二ヘラと軽快な笑みを浮かべながら、一誠を見る。その視線に嫌なものを感じ取った一誠は、目を逸らす。
「お前は、死んだよ」
「……え?ここってもしかして、地獄、とか?」
「それも違う、ここは……まあ、説明すんのも面倒くせえし、特別な場所っつー認識で構わねえ」
特別な場所?
それならば、何故自分は、こんな場所にいるのだろうか……もしかしたら生前、色々エロな事をしでかしたばかりに『お前の魂は煩悩で一杯だ!魂を浄化するため地獄に落とすぞボケェ』とでも言われるのだろうか。
「いや、んなこと言わねえよ」
「考えが筒抜け―――――じゃなくて、何で俺ここに居るんすか!?」
「お前を生き返らそうと思ってな」
「へぇ……そうなんですか」
生き返らせてくれるんですか。
へぇ~、やったな。生き返ったら失恋を乗り越える為に遊びまくってやろう。
「って、はぁ!?そんな簡単に生き返らせるとか言っちゃっていいんですか?!」
「ああいいよ。じゃあ、生き返れ~~」
「軽っ!?あ、後、できれば俺の弟も……」
「生きてるから大丈夫」
男が右腕を振るうと、一誠の体が足元から粒子となって消えていく。
まさしくスゲエ存在だ。こんなコンビニ感覚で生き返させてくれるとは。
「一樹も……何かよく分からないけどありがとうございます!」
「あーいいって、いいって。俺を呼びたかったら、頭の中で俺を思い浮かべろ」
先程と同じように二ヘラと笑い手を振るスゲエ人。
一誠の姿がどんどん薄れていき、最後には消える。一誠が消えた場所を見た男はゴロンとその場で寝転がりながら、何もない空間を見つめ一言ボソリと呟く。
「……ま、お前はすぐに俺を呼ばざるを得ない状況になるがな」
次に目が覚めたのは公園だった。
血こそついていないが、腹部の部分が破れた服が先ほど天野夕麻に殺された証拠。
つまり、さっきのは夢じゃなく実際に起こった出来事だという事になる。
「――――本当に生き返った!!スゲェ人!!スゲェ!!」
暗くなった公園の中でそう叫びながら、一誠はとりあえず家に帰る。
スゲエ存在は、一樹も生きていると言った。なら当然、一樹も家に居る筈――――だから走った。
だが、彼は気付いてはいなかった。
生き返った兵藤一誠には―――
帰る場所なんて既にどこにもないことを―――
家に帰った一誠を出迎えたのは、彼の帰り喜ぶ母でも父でもなかった。
「ただいま、母さん!!」
「………誰?……貴方」
「…………は?」
『……兵藤一誠が死んだら、奴の存在を誰もが忘れる……ねえ。アイツは分かってねえなあ、そんな願いをする時点で……主人公じゃねえんだよ。メインヒロインは只の、脇キャラに変わり、ライバルキャラも只の噛ませ犬に変わる……分かってねえ、分かってねえ。資格がねえ奴がヒーローをやっちまったからなぁ。しょうがねえから、作るしかねえな。アンチヒーローっつーもんをよぉ』
次話もすぐさま更新致します。