兵藤物語   作:クロカタ

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4話目の更新です。


悪魔と人間 4

 修業開始から一週間が経った。

 相変わらずレモンのロックシードで変身できないが、筋トレなどは順調に進み短期間であれど大分鍛えられた。―――翌日の朝に襲われる筋肉痛はアーシアに直してもらったのはリアス達には内緒の話であるが―――。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 一誠の眼前には、くりぬかれたように消滅した山。

 一樹の繰り出した、魔力砲撃によって作られた光景だった。当の一樹は、地面に倒れ伏し息も絶え絶えに疲労している。

 

「……やっぱり倍加って、すごいんですね」

「……一樹の場合、倍加の力に身体が追い付いてないの。だから、最大までの強化であんなにも疲労してしまう。それに『赤龍帝の籠手』は十秒毎に使用者の力を二倍にする強力な神器。でも言い換えれば、十秒またなくちゃ二倍にならないということ」

「えと、つまり。一体一の戦いには向いていないってことですか?」

「そうね、敵が強くなるのを待ってくれる相手はいないもの。一樹はある意味で一番狙われやすい立場にいると思ってもいいわ」

 

 確かにそうだ。

 十秒毎に力が二倍になるなんて反則的だ。一が二になれば大した変化ではないが、それがどんどん二倍されていけば、最初は一だった数は、十回目の倍加の頃には侮れない数にまでになる。

 ヘタすれば、状況がひっくり返る。

 

「それは貴方も一緒よ」

「ははは、やっぱりすか?」

 

 真っ先に弱い奴から狙われる。

 それはどんなゲームにも共通する事。人間である一誠は、悪魔からみたら非力に見えるだろう。事実ライザーは、今の所一誠を偶然部室に居合わせた人間だと思っている。

 

「でも、そこがライザーの隙になるわ」

「え?」

「一誠、祐斗と模擬戦をしてくれないかしら?」

 

 突然の提案に驚く一誠だが、リアスの真剣な表情をリアスを見て、怪訝に思いながら頷く。木場とは何度も模擬戦まがいのモノはしていたので、何事かと思ったが―――

 

「祐斗、聞いたわね?」

「分かりました」

「アーシア、一樹の治療をしてあげて」

「分かりました!」

 

 一樹と模擬戦をした後だが、まだまだ万全な木場は木刀を振り直し一誠の方に向き直る。一誠も木刀を二本持ち木場の前に移動する。

 二本持つのは、オレンジアームズの戦闘スタイルを再現してのことだ。

 

「木刀はいらないわ。一誠は変身して、祐斗は神器を使いなさい」

「えぇ!?でも、危ないんじゃ……」

「……分かりました。イッセー君!行くよ!!」

 

 リアスがどんな思惑で一誠と木場とで模擬戦を組ませた理由を理解したのか、木場は『光喰剣』をその手に出現させ、正眼に構える。

 

「お、おい木場……」

「大丈夫だよ、イッセー君」

「……ああああああ!!!もう分かったよ!!怪我しても知らねえぞ!!」

 

【オレンジ!】

 

「変身!!」

 

 オレンジロックシードで変身した一誠は、大橙丸を右肩に担ぐように両手で持ち低く構える。この姿で本格的に闘うのはレイナーレ以来だ。

 対人相手にはあまりにも危険すぎるから、木場が相手の時には使わないと心に決めていたが、リアスが要求するのなら仕方がない。

 

「来い!」

「なら、こちらから行かせて貰うよ!!」

 

 『騎士』の特性―――目にも止まらぬ速さで、一誠に肉薄してくる木場。何時もの模擬戦の時とは違う、本気で攻撃しにかかっている。

 対する一誠は、目にも止まらぬ速さで動く木場を目で追い、動きを予測して刀を振るう。一誠から攻撃するのは初めて。丁度、自身目掛けて振るわれる刀に木場は、若干の笑みを浮かべながらにさらに速度を上げる。

 

「な……っ!?」

 

 急加速した木場に大きく動揺した一誠。

 一瞬、木場の姿を見失い彼の姿を見つけようとすると、ガィンと背中に衝撃が響く。

 

「いてぇ!?」

「あ、ごめんイッセーくん……つい」

「ついってお前……痛ぅ~~~~~!」

 

 反射で一誠に攻撃してしまった木場だが、内心驚愕していた。一誠の纏うスーツ、見た目こそ軽装甲に見えるが、実の所、木場の剣すら物ともしない堅牢な防御力を有している。

 一誠も痛がってはいるが、そんなにダメージがあるとは思えない。

 

「お返しだ!」

 

 刀を木場目掛けて振るってくる一誠。剣士としての性分か、一誠の刀を剣で合わせるべく振るう。激突する刀と剣―――しかし、この時、木場の予想を裏切る光景が彼の目に映る。

 鍔迫り合いもする事もなく、『光喰剣』が一誠の刀『大橙丸』により容易く両断されてしまったのだ。

 

「!?」

 

 尋常じゃない切れ味に、驚愕する木場。

 即興で作った剣であれど、あんなにも容易く両断する等、普通の刀ではないだろう。

 

「僕も、気を引き締めて行かなくちゃ……」

 

 今度は両手に一本ずつ剣を作り出す。『光喰剣』ではなく、普通の剣。

 新たに剣を作り出した木場を見て、一誠は嫌そうな声を上げる。

 

「ゲッ!?何本も作れるの!?」

「ははは、まだまだ終わらせないよ」

 

 再度、一誠目掛けて走り出す。今度はフェイントを織り交ぜて接近し、斬りかかる。レイナーレとは一線を画す技量と速度に一誠は翻弄されながらも、高速で移動する木場から目を離さない。

 

「そこだ!!」

 

 木場の瞬間的な隙を突き、一気に跳び出し蹴りを繰り出す。空気を切り裂く様に繰り出された蹴りに、戦慄しながらも、くるりと回転するように回避し、一誠の右手の大橙丸の峰に、両の手の剣を同時に打ち付け、一誠の手から引き離す。

 地面に落ちた大橙丸を一瞥し、苦悶の声を上げる一誠は追撃を回避するために、左手で逆手に持った無双セイバーを腰から引き抜き、木場目掛けて振るう。

 

「……くッ」

 

 咄嗟に剣で防御したのは良いものの、後方に大きく後退させられてしまう。素の一誠ではここまでは飛ばされなかっただろう。あのスーツは腕力まで強化させることができるのか、と、すぐさま理解する。

 

「武器を壊す!!」

 

 戦いが長引けば長引くほど、戦い慣れしていない自分は不利なる。おのずとそう感じた一誠は、勝負をつけるべく、バックルから、開かれたままのロックシードを外し、無双セイバーの窪みにはめ込む。

 

【ロックオン!】

 

「なッ!?」

 

「行くぜぇ!木場ァ!!」

 

【イチ!ジュウ!ヒャク!!】

 

 後方に下がった木場目掛けて走る。

 その手には、オレンジ色のエネルギーを纏わせた無双セイバー。見て分かるほどに危険なオーラに木場は、思わず剣をクロスさせ防御態勢をとってしまった。

 ――――一誠の目論み通りに。

 

【オレンジチャージ!!】

 

 その音声が聞こえると同時に橙色の剣閃が走り、木場の剣は粉々に砕け散った。柄だけになった剣を呆然と見た木場だが、次第に困ったような笑みを浮かべる。

 

「ははは、負けちゃいました。部長」

 

 木場の言葉にリアスは、満足したように頷く。

 

「一誠、貴方は強いわ」

「え、えぇ?でも木場は本気じゃ―――」

「神器の力はそれほど使っていなかったけど、僕は手加減なんてしてないよ」

 

 木場の言葉に同意するように頷いたリアスは、一誠の頬に手を当てた。

 無機質な仮面に添えられたその手は、仮面越しでも一誠には何故か暖かく感じられた。

 

「祐斗の言う通りよ。自信を持ちなさいイッセー。それに、ライザーは貴方を侮っている。言い換えればライザーは貴方の強さを知らないという事になるの。そう言う意味では貴方はレーティングゲームの切り札に成り得るわ」

 

 一誠の瞳が大きく揺れる。

 何かを言葉にしようと迷っているようだ。リアスは彼の言葉を待たず、言葉を紡いでいく。

 

「貴方は強い。………だからあまり自分を卑下しないでちょうだい。私達は貴方を貶めたりはしないわ」

「でも―――」

「イッセー」

 

 今見せようとした卑屈な姿。謙虚と言えば聞こえがいいだろう。でも一誠のは謙虚ではなく卑屈。必要以上に自分を卑しめる事。

 それが、一誠に自信をつけさせるという感情を阻害していた。

 その根本にあるのは、長年にわたり蓄積された記憶。

 幼少時の記憶、一誠が松田や元浜と出会う前―――彼が馬鹿をやる前からつもりに積もった『劣等感』。

 

 

 訳も分からず友達から距離を取られ、知らぬ子供には訳の分からない言いがかりをされる。

 無邪気だからこそ深く刻みつけてくる言葉の刃、それが何年も何年も続く。

 

 

 唯一の友人が海外に引っ越してしまった後は――――一人だった。友達はどんどん離れていく、どうすればいいどうすればいいと悩んだ末に、一誠は無意識に自分を守るようになった。

 卑屈になって、バカにされても笑って、自分を守ってきた。

 高校でできた親友とは精一杯バカやって、ひたすらに友人との繋がりを大事にした。

 俺は頭が悪いから―――

 弟とは違うから―――

 

 そうまでしないと、一人になってしまうから。

 

 

「貴方は、私達の仲間よイッセー。胸を張りなさい」 

 

 その卑屈な心は今、リアス・グレモリーによって、大きく揺さぶられた。

 彼の『諦め』をぶち壊した。

 

 一誠は頭を上げ、リアスの目を仮面越しから見る。

 今、自分はどんな顔をしているだろうか、仮面をつけているから誰にも分からない。

 

「部長、俺って今、どんな顔をしていますか?」

 

 答えられているはずがない、なにせ自分の顔はこの仮面で隠されているのだから。

 

 一誠の質問に一瞬、きょとんとした表情を浮かべるリアス。

 だが、困ったような笑みを浮かべると、彼女は一誠の頬に置いた手を離し―――

 

「…………泣いている、ように見えるわ」

 

 静かに肩を震わせる一誠にそう言うのだった。

 

 




一樹(7歳)「これも全部、兵藤一誠って奴の仕業なんだ」(草加スマイル)

子供「なんだって?それは本当かい?」






 仮面ライダーの目の下に、泣いているような黒いディティールが施されているという『泣き顔』設定を反映させてみました。

 そう!俺は悲しみの王子!!ロボライ(ry


 これで更新は終わりです。
 次回から、レーティングゲームに移ります。

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