とりあえず、質問だけ返しました。
結構、長くなってしまったので、やや中途半端ですが3話ほど更新したいと思います。
決戦当日。
日がとっくに沈み、夜も遅くなった頃、一誠達は旧校舎のオカルト研究部の部室に集まっていた。
各々で気持ちを落ち着けている中、一誠は滅茶苦茶緊張していた。
しきりにロックシードを弄りながら、ソワソワと落ち着きなく歩き回っていた。
―――ライザーと戦う上で、リアスは眷属達を三つのグループで分けた。
朱乃、一樹と小猫、そして木場と一誠である。
『女王』である朱乃は単体で行動し、残りは二人一組のツーマンセルで行動しリアスから下された作戦通りに行動するという編成。
このツーマンセルの利点は戦闘経験の浅い一誠と一樹を小猫と木場でフォローできる事。特に一樹はサポートなしでの、戦闘継続は極めて困難と判断したリアスは、万が一小猫がリタイヤした場合には、一人で先行せずに木場と一誠に合流しスリーマンセルで行動するようにと言い渡した。
あくまで可能性の話だが、想定しておくことには損はない。
勿論一誠にも同様の話を聞かされている。
「皆さん、準備はお済みになりましたか?開始十分前です」
開始十分前に魔方陣からグレイフィアが現れ、そう告げる。
部員全員が立ち上がり、グレイフィアのいる魔方陣付近に寄り、彼女の説明に耳を傾ける。
「開始時間になりましたら、ここの魔方陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんなに派手なことをしてもかまいません。使い捨ての空間なので思う存分にどうぞ」
「作られた空間って、なんでもありだな……」
事も無げに説明された、フィールドの構造にカルチャーショックを感じる。
「…………」
「ん?どうした一樹、大丈夫か?」
リアス達よりやや後ろで、所在無さげに立っている一樹に声をかける。何時も、進んで人の和に入ろうとする彼が、こんなにも静かなのは珍しい。
「………どうして、アンタがいるんだ」
「はい?」
「アンタさえいなければ、うまくいったのに……ごめん、訳分からないよな」
最後に珍しく謝罪し、一樹は彼から離れる。
当の一誠は、一樹の訳の分からない言葉を必死に理解しようと、腕を組み必死に考える。
「………とうとう、『兄さん』とも言わなくなったな」
乾いた笑いを浮かべる一誠。
一樹の突拍子のない言葉は、未だに意味が理解できないが―――
「変わらねえよ」
どんなに拒絶されても、血の繋がった兄弟には変わらない。
気遣う理由は、それだけで十分だ。
「兄貴は弟を守るもの、昔っからそう決まってんだ」
『そろそろ時間です。皆様魔方陣の方へ移動してください』
グレイフィアの声が部屋の中に響く。
一誠は、部員全員に視線を向けた後に、意を決し、人間用に調整された魔方陣に足を踏み入れるのだった。
一誠が、目を開けるとそこは先程と変わらないオカルト研究部の部室の中。
「あれ?さっきと変わらないんですけど」
「そ、そうですね……えと」
一誠とアーシア以外は落ち着いているようだが、状況が呑み込めない一誠の耳に一緒に転移してきたはずのグレイフィアの声が、どこからともなく聞こえる。
つまり、ちゃんと転移されているという事になる。というと今いる場所がレーティングゲームの為に作られた空間……あまりに精巧に再現されてて、転移してないかと勘違いしてしまった。
とりあえずは、ミーティング。
あらかじめリアスから支持された命令を確認し直す。
最初の目標は、ライザーの『兵士』。一気に陣地まで侵入され、『プロモーション』という『兵士』特有の能力を使われ、強化されると厄介だからだ。
そして、ミーティングが終わり旧校舎内の入り口付近。
眷属全員が一列に並び、彼らの前に立つリアスの言葉を待っていた。
「さて、私の可愛い下僕たち、それにイッセー。準備はいいかしら?もう引き返せないわ。敵は不死身のフェニックス家の中でも有望視されている才児、ライザー・フェニックスよ!さあ、消し飛ばしてあげましょう!!」
『はい!』
ライザー・フェニックスとの戦いの火蓋が今、落とされる。
リアスの合図にて、走り出す一誠達。
アーシアの声援を背に受けながら、作戦通りに、二手に別れ走り出す。
今の一誠の相棒は木場、何気に部員の中で一番仲が良いヤツだ。
「何かさ、なんだかんだで結構お前と行動するよな」
「確かにそうだね」
木場と共に、旧校舎裏の森を探索する。リアスの見立てだと、この場にライザーの『兵士』が来ると予想していた。一誠は何時でも変身できるようにバックルを腰に巻き、周囲を警戒しながら木場と共に歩いていた。
「変身、しないのかい?」
「……ん?ああ、こっちの方が視界が確保できるからな。生身は危ないけど、お前がいるから大丈夫だろ?」
「ははは、頼りにされるのは嬉しいけどね……」
苦笑いを浮かべる木場。
一誠に頼られるのは嬉しいが、あまり無茶な事はしてほしくないのだ。
「……そろそろ、小猫ちゃんと一樹が体育館に到着する頃だな……小猫ちゃんはともかく、一樹のヤツ大丈夫かなぁ」
「イッセーくん、君は、本当に―――」
「ん?」
「いや……家族思いだなって思ってね」
木場が何かを言いかけて、口どもるように黙り切った後に、言い直す。
若干、怪訝な顔をする一誠だが、木場の言葉に困ったように笑いながら頬を搔く。
「いや、たまにキレたくなる時もあるんだけどな」
「………」
「どうした木場?」
「え!?ああ、ごめん」
一瞬、能面のように無表情になった木場。
何か気に障る事でも言ってしまったのだろうか。
思いつめた表情を浮かべる木場に声を掛けようとすると、体育館のある方向で巨大な落雷のようなものが迸る。
『ライザー・フェニックスの『戦車』一名『兵士』一名リタイヤ』
「朱乃さんが、やってくれたと言う事は―――」
「成功……って事だね」
響き渡るライザー眷属のリタイヤを促すアナウンス音。小猫と一樹がうまく体育館で足止めすることができたようだ―――これで厄介な『戦車』が減り『兵士』も残り7人。
手始めとしては順調―――――
『リアス・グレモリーの『戦車』一名、リタイヤ』
―――かに思えた。
予想外のアナウンスに驚愕する一誠。
作戦は成功したかに思われたが、一体何があった。
「小猫ちゃんが……ッ!?」
『イッセー!祐斗!聞こえる!?』
事前に配られたインカムからリアスの声が聞こえる。
「部長!状況を説明してください!」
『やられたわ……ライザーの女王は眷属を『犠牲(サクリファイス)』……囮にして、小猫を攻撃したわ。今、朱乃が相手をしているけど、一樹は一人になってしまったわ。作戦変更よ貴方達は遊撃しつつ運動場へ移動して、そこで一樹と合流してちょうだい』
「分かりました!」
『犠牲(サクリファイス)』、意味を聞かなくても大体分かる。
つまり、仲間を捨て駒にして相手の隙をついて倒す事。合理的だが、一誠にとってはその作戦は最も忌むべき策に違いなかった。、
「……ッ」
「イッセー君」
「分かってる、今重要なのは一樹の安否じゃない……『王』である部長を優先させること……だよな」
分かっている。頭の中で分かっているのだが、納得はいっていない。
一樹の事もそうだが、何より納得いかないのはライザーのやり口。
「『犠牲(サクリファイス)』って何なんだよ……ッ。アイツにとって下僕は……捨て駒なのかよッ」
「……間違った戦術じゃないのが悲しい所だよね」
「納得しろって言うのか!?勝つ為に犠牲になってくれって?最終的に不死身の俺様が残れば勝てるから、精一杯戦って囮になって敵削ってからリタイヤしてくれってか!?そんなの、納得できるはずないじゃねえか……ッ」
ガンッと近くの木を殴りつける。
木場とて一誠の怒りは分かっているつもりだ、現に平静を装っているもの剣を握る手に力が籠っている。
だが、状況は二人に暇を与える事はなかった。
一誠の背後から、突如何らかの物体が高速で飛来してくる。
「ッ!?」
木場も気付いたのか、其の場から同時に飛び退くと、一誠の背中がある場所を鎖鎌のようなものが通り、木に突き刺さる。
『あーん、外しちゃったー』
『下手くそ、ちゃんと狙え』
『あ、一人はあの人間だ。こりゃ楽勝かなぁ?』
現れたのは、ライザーの『兵士』三人。
此処から先に通すわけにはいかない、ここで三人とも片づける。
「イッセーくん!やるよ!!」
「ああ!!やるぞ木場!!」
ロックシードをホルダーから外し、上に掲げる。
一誠を甘く見ているのか、追い詰めるように武器を揺らしているライザー眷属は彼の行動に、訝しげな表情を浮かべる。
一誠は変身する。
橙色の鎧を纏う、鎧武者に―――
【オレンジアームズ!花道オンステージ!!】
「こっから先は通さねえ!!」
「何で……何で、小猫が……」
一誠と木場が、交戦している時、一樹はリアスに指示された通りに運動場へ足を進めていた。
だがその足取りはお世辞にも速いとは言えない。別に怪我をしているという訳ではない、むしろ無傷に等しいだろう。
「……何で、あんな、強いんだ」
一樹が【原作通りに】相手取った『兵士』三人は彼の予想を上回る手練れだった。そもそも、チェーンソーを振り回してくる二人と棍を用いて戦ってくる一人相手に、ほぼ素手の状態では戦えるはずがない。
戦闘経験の浅い一樹がうまく立ち回れる方がおかしいのだ。
下手に応戦しようとしても、勝手に倍加が解除されてまたやり直し。
溜めても溜めても溜めてもやり直し。
三度目の倍加を試みる頃には完全に対応されていた。
「僕が、悪いのか……」
【洋服破壊】という原作のイッセーの必殺技がある。
女性限定だが、相手の衣服を破壊する変態を極めたような下品極まりない技だ。勿論一樹はこれを習得していないし、するつもりもない。
自分はあのイッセーとは違う。
確かに【洋服破壊】はお世辞にも褒められない技だろう。
だがこの技の利点は、相手の裸体を見れるだけではない。―――重要なのは相手の動きをほぼ百パーセント止められること。
羞恥心があるからには、かならず掛かってしまう。
女性限定の話だが、眷属悪魔の多くを女性で占める悪魔が多い中で、彼の技は驚異的なモノだろう。
「……何で、うまくいかないんだ。僕は、主人公になったはずじゃ……くっ、うぅっ……うぅぅ……」
結局、チェーンソーを持っている双子の片方しか倒せなかった。
いや、倒せたという表現は間違っている。―――朱乃の雷に逃げ遅れただけ。
何故、こうにもうまくいかない。ナニが足りない、何をすれば、自分は『主人公』になれる?赤龍帝になれる?本物になることができるのか。
ここには原作のイッセーがいない。いるのはその紛い物だけ。
だから、自分がやらなくちゃいけない。自分を見せるしかない。―――自尊心を奮い立たせ、一樹は歩を進める。
赤龍帝の自分は戦えるんだって、あのイッセーよりも戦えるんだって、証明しなくてはならない。
「まだだ、そう、まだ僕は終わってない……僕は…………」
雑に目元を拭った一樹は、歩き出す。
自分が逃した兵士二人がこの後のレーティングゲームでどのような影響を与えるか知らずに―――
兵士二人を取り逃しました。
実質、原作のイッセーは『洋服破壊』があるからこそ、対ライザー眷属戦を乗り切れたと思ったので。
まあ、決してそれだけはなく、他の要因もあるでしょうが……。
次話もすぐさま更新致します。