本日二話目の更新です。
『ライザー・フェニックス様の『兵士』三人、リタイヤ』
「よし!急いで運動場に向かうぞ!」
「そうだね!」
ライザーの『兵士』三人を難なく撃破した一誠と木場は、一樹と合流するべく集合場所の運動場へと足を進める。
一誠は変身を解かずに、木場と並走するように音をたてないように走る。
旧校舎裏の森を抜け、校舎の合間合間を警戒しながら移動していると、木場が何かを見つけたのか、一誠に声をかける。
「イッセー君」
「どうした?」
「……敵だ」
「!」
素早く身を隠して、運動場のある方向を見ると、そこには三人のライザー眷属。
「……『騎士』と『戦車』と『僧侶』の三人だね」
「警戒している、のか?」
「ただでさえ体育館を吹っ飛ばされたんだ。警戒はするだろうね……」
今、襲撃するのは得策じゃない。
現状最優先する事は、一刻も早く一樹と合流し、戦力を増やす事。敵に気付かれぬよう、其の場から離れ、建物伝いに移動しカ一樹を探す。
「見つけたよ、イッセーくん」
「本当か!?」
思いのほか一樹は簡単に見つかった。ライザーの眷属達よりも早く見つけられてよかった、安心しながらも、視線の先で、警戒するように壁伝いに移動する一に近づき肩に手を置く。
「!?」
「一樹君、僕だ」
「木場……と、兄さんか」
木場が居る前なのか、試合前のような呼び方をしない一樹に、苦笑いを浮かべながら近付く一誠。ともかくこれで三人で合流することができた。
「よし、これで戦力は固まったな」
「そうだね。まだまだ戦力的に僕達が圧倒的に不利だけど、まだ勝機はある。ここから逆転しよう」
「一樹もまだまだ大丈夫だよな?」
一誠の問いに対しての一樹の返しは無言。一応確認はとったが、怪我とかしてないようなので大丈夫かと思うことにした。
「で、どうする?奇襲でも掛けるか?それともある程度耐久力がある俺が行くか?」
「……いや、相手には戦車もいる。君でも迂闊には出るべきじゃない」
「僕が『戦車』を相手する」
「……やってくれるのか?」
「僕が倍加して一気にケリをつけるから、兄さんと木場はその間に騎士を」
「……大丈夫なのかい?」
修業期間の中で、一樹の身体能力はそれほど高くないと木場は分かっていた。『戦車』は武闘派、つまり格闘に通づる者がなる事が多い。
あるていどの攻撃が回避することができる一誠ならともかく、倍加した魔力での一撃重視のパワーファイターの一樹では、少しばかり荷が重いのではないか?
「うっし!じゃあ任せた!」
「イッセー君!?」
「もしもの時は俺か木場が加勢すればいいじゃねえか」
それはそうだけど、と一樹の背を叩く一誠を見て何も言えなくなる。
―――君は何で自分を嫌っている人にそこまで優しくできるんだ?
小猫がリタイヤする少し前、一誠に対して木場が決して口に出せなかった言葉である。正直に言うと、木場は一樹を性格の良い人間だとは思ってはいない。
幼少時、ある事情で様々な悪意に晒されてきた木場は、なんとなくだが一樹の人間性を理解しており、一誠の心の奥に潜む闇―――その根本たる原因が一樹だと睨んでいた。
だからこそ、一樹に対しての一誠の態度が分からない。
彼とて、自分の悪口を弟が吹聴している事を知っているだろう。
『私は、ライザー様に仕える『騎士』カーラマイン!こそこそと腹の探り合いをするのも飽きた!リアス・グレモリーの『騎士』よ!いざ、尋常に剣を交えようじゃないか!』
「ッ!」
突然鼓膜を震わせた女性の声に、我に返る。
視線を運動場に向けると、ライザーの『騎士』が豪胆に剣を地面に突き刺し堂々と立っていた。
木場はふっと肩の力を抜くと―――
「名乗られたからには『騎士』として『剣士』として出ない訳にはいかないね」
「僕も行くよ」
「え?」
どうすればいいか迷っているように見える一誠を尻目に、運動場に出て行ってしまう木場と一樹。「ああ、もうしょうがねえなぁ」と慌てながら運動場に出る一誠。
「僕はリアス・グレモリー眷属の『騎士』木場裕斗」
「………同じく『兵士』の兵藤一樹」
名乗る肩書のない自分はどうすればいいのか、と仮面に包まれた頬を搔く。だが自己紹介をしなければ、自分を部室にいた人間だとは分からない。……事実、ライザー眷属は、木場や一樹よりも、全身を覆うスーツを身に纏った一誠に注目している。
この場合は、リアスの協力者の人間として自己紹介すればいいのだろうか。
「きょ、協力者!兵藤一誠だ!!」
「ほぉ、あの時ミラの攻撃を真正面から受けた……只の人間という訳ではなかったようだな。……それにしても、正気の沙汰ではないな」
ライザーの『騎士』カーラマインは口の端を釣り上げる。
木場も、戦意が高揚しているのか、剣をその手に作り出し前に出る。
「『騎士』同士の戦い……待ち望んでいたよ。個人的には尋常じゃない斬り合いを繰り広げたいね」
「くくく、お互いバカだな……よく言った!リアス・グレモリーの剣士よ!!」
「イッセー君、ここは僕に任せてくれ!!」
そう言い放った直後、木場の姿が一瞬ブレ、カーラマインと剣戟を交わしていた。踊る様に剣を振るうカーラマインとは対照的に、木場は鋭く無駄のない動きで斬撃を繰り出す。
木場が負けるとは思えないが、初めて見る『騎士』同士の高速戦闘に一誠は下を巻く。
「暇そうだな」
「!?」
声のした方向に振り向けば、そこには顔の半分を仮面のようなもので覆った女性。恐らくこの女性が木場の言っていた『戦車』だろう。一樹も相手が自分が戦うと言った相手だと理解しているのか、即座に『赤龍帝の籠手』を展開する。
「お前は僕が相手する!!」
「威勢がいいな、その威勢に見合うほどの実力が備わっているかどうか……試してやろう!!」
突如、『戦車』がボクシングに見られるような、リズミカルなステップを踏み一樹と一誠へと向かっていく。既にカウントを始めていたのか、一樹の神器から『Boost』という音声が鳴る。
「一撃で終わってくれるなよ、下級悪魔に、人間」
『戦車』の狙いは一樹、咄嗟に一樹の盾になろうと身を乗り出そうとすると―――
「手を出すな!!こいつは僕がやる!!」
「勇ましいが、勇気と蛮勇は別物だぞ」
バックステップで距離を取った一樹に助勢を拒否される。これで敵が『戦車』一人だけだったのならば、一誠が『戦車』を抑え、一樹が倍加で強化した一撃で止めを刺すという事ができるのだが、運悪くその場には主にサポートを用いる『僧侶』がいる。
大橙丸を握りしめ、『僧侶』の方に向き直る。
こいつを倒したら、すぐに一樹の援護に向かう。戦意を高める一誠を見て、ため息を吐いた『僧侶』は暇そうに金髪を弄る。
「私、貴方のお相手はしませんわよ」
「………は?」
「イザベラが二人同時に相手すればいいのに……カーラマインの剣バカもいい加減にしてほしいですわ」
何を言っているのか、この『僧侶』は。
まるで戦意がない。
「私は、このレーティングゲームには興味はないの、お兄様の戯れに付き合わされているだけ」
「お兄様……?もしかして、ライザーの事か?そしたら……お前、あいつの妹!?」
「そうですわ」
まさかライザー自身の妹までもが下僕になっているとは思わなかった。だが、そうだとすると、戦闘に参加しないというライザーの妹の戦闘能力はお世辞にも高くないと考えられる。何故、わざわざ自分の妹を眷属にする必要がある?
「……そんな事はどうでもいい!お前が戦う意思がないなら―――」
イザベラと呼ばれた『戦車』と交戦している『一樹』の援護に向かおうと踵を返そうとする一誠。
「まあ、助けに行くのは構いませんが……仲間の事より自分の事を心配した方がよろしいんじゃないかしら?」
『僧侶』からの警告染みた言葉に、首を傾げると校舎から二つの影が一誠に急接近してくる。
一人が棍を持ち、もう一人がチェーンソウから火花を散らし、一誠へと攻撃を繰り出す。咄嗟に大橙丸でチェーンソウを逸らし、棍を腕で防御しながら後退する。
「なっ!?」
「……中々やりますね」
「バラバラでーす」
現れたのは、部室で一誠に攻撃を仕掛けたミラという少女と、体育館で一樹が相手をしたチェーンソー使いの少女、イル。
こいつらは、恐らく『兵士』。だが、何だこの力は。
まさか―――
「プロモーションしてんのか?」
「……眷属が少ないという事は、守りが薄くなる場所ができる事は必然です」
「でも私達が『女王』になっても、リアス・グレモリーには敵わない事は分かり切っているからね!レイヴェル様の援護に来たわけ!!」
そう言うや否や、武器を構え突撃してくるミラとイル。流石に『女王』を二人相手することに骨が折れると察した一誠は、無双セイバーを引き抜き、銃弾を装填して放つ。
放たれる銃弾を、二手に分かれる事で避けた二人は、一誠を挟み撃ちする容量で襲い掛かる。左右から襲ってくる攻撃に対して一誠は残り二発の銃弾をイルの方に放ち牽制し、接近してくるミラの方に体を向ける。
「貴方には借りがありますね!!」
「それはこっちの台詞だ!!」
突き出され棍を体を捻り避け掴み、大橙丸で真っ二つに切り裂く。
自身の武器を両断されたにも関わらず、特に驚く顔を見せないミラは、宙を舞う棍を掴みとるとそのまま一誠の右手首へと勢いよく振り下ろす。
「甘い!!」
「なっ!?」
手から叩き落とされる大橙丸。真っ二つにされた棍を二刀流のように振るい、連続攻撃を仕掛けてくるミラに歯噛みしながら、一時後退しようとすると―――
「隙有り!!」
背の鎧から大きな火花が散る。
背後から迫っていたイルがそのチェーンソーで一誠の背を切りつけたのだ。生身なら、背中がズタズタになっていただろう。自分の鎧の耐久力に感謝しながらも、さほどダメージが入っておらず驚くイルに拳を振るう。
「きゃぁ!」
「イル!?」
仲間を気遣う様子を見せるミラに再度銃弾を装填した無双セイバーを向け全弾放つ。
お世辞にも射的は得意ではないので、ほぼ外れてしまったが、相手を交代させるには十分だったようだ。
「………『女王』にプロモーションした私達を……」
「ただの人間じゃないね……」
驚愕の表情を浮かべるミラとイルだが、どちらかというと一誠の方が焦燥していた。『女王』の力を持ったらここまで厄介だとは思わなかった。『騎士』のスピード『戦車』のパワーと耐久力『僧侶』の魔力向上。特に『戦車』の耐久力が厄介だ。スピードは見切れても、生半可な一撃じゃビクともしない。
事実、スーツを纏った一誠の蹴りに耐えている。
「冗談じゃねえ、こっちが保たないぞ……」
あまり、時間は掛けられない。
戦車の防御力を突破するには、攻撃に特化した攻撃でなくてはならない。
オレンジロックシードのようなバランス型じゃ、ジリ貧だ。身体能力で劣る一誠が不利になってしまう。
「なら」
ホルダーから、パインロックシードを取り出す。
バックルのロックシードを外した一誠を不審に思ったのか、ミラがイルが警戒心を露わにする。
「何かするようですね」
「させないよ!!」
変身させる暇を与えずに、仕掛けてくるようだ。
しかし、一誠は―――
「オルァ!!」
【パイン!!】
頭上にパイナップルを模した物体が出現すると同時に、自身の体を覆っていたオレンジアームズを元の果実の形態に戻し、勢いよく上半身を振りそのまま前方に飛ばす。
「「なぁ!?」」
いきなり砲弾のように飛んで来たオレンジのような物体が直撃し後方に大きく飛ばされる二人。その隙をつき、スーツのみとなった一誠はパインロックシードをバックルに嵌め、カッティングブレードで切る。
【パインアームズ!粉砕デストロイ!!】
頭頂部のパイナップルの刺々しいへたを思わせる兜に、オレンジアームズとは違う上半身を覆う強固な黄色のアーマー。
そして大橙丸の代わりにその手に持たれた、鎖に繋がれたパイナップルを模した鉄球【パインアイアン】。無双セイバーを腰に戻した一誠は、パインアイアンを振り回しながらミラとイルに叫ぶ。
「今度はこいつで相手だ!!」
パインパインにしてや(ry
『兵士』が『女王』にプロモーションしてイッセーの前に立ちはだかりました。これも正史から外れる予兆ですね。
次回も戦闘回です。
すぐさま更新致します。