ライザー・フェニックスとのレーティングゲームに勝利を収めたグレモリー眷属。
初のレーティングゲームにも関わらず、フェニックス家の才児、ライザーを下したのは、冥界内でも話題となった。
ライザーを下したのが人間である、という事も微かには話題には上がっているが、それは一部の思慮の深いものだけであり、その多くの話題は赤龍帝と、それを眷属に迎えたリアスだけに向けられた。
それは一誠にとっては幸いな事だった。
本人は自覚はしていないが、悪魔には強引な手を使い眷属に引き込もうとする輩も決して少なくはないのだ。
―――どちらにしろ彼は悪魔に転生することはできないのだろうが……。
レーティングゲーム後、何故かリアスも一誠と一樹の家に居候する事となった。なにやら魔王様から強い推しがあったらしく、一誠も嬉しい反面複雑な思いで受け入れたのだが―――日常的には問題ないのだが、色々と青少年にはキツイものがあった。
必死に『勘違いしてはいけない、勘違いしてはいけない』と、念じながらテンションを下げる日々が続いていた。
現在、一誠の家で行うはずだったオカルト研究部での会議は、一誠の母親が何気に取り出したアルバム鑑賞会になってしまった。
一誠と一樹のアルバムと聞いて盛り上がる部員達を尻目に、若干テンションが下がったイッセーの何気ない発言でその場の雰囲気が一気に下降する。
「ははは、俺って友達片手で数えるほどしかいませんでしたからね、多分ほとんど家族か一人だけの写真ですよ」
「「「………」」」
気まずい沈黙が流れた。
アーシアとリアスに至っては、一誠のトラウマのようなものを引き出したと思い、あわあわとアルバムをめくり楽しそうな思い出を探す。
―――だが、ほとんどが無表情。笑ってもそれは家族と一緒の写真だけ、幼いころはそうでもなかったようだが、小学校高学年になるころには―――笑顔が完全に消えて行った。
「イッセー君、この写真は」
近くでリアスと同じようにアルバムをめくっていた木場が声色を低くして一誠に問う。
横から覗き込むと、ページの中にたった一枚だけ、彼が笑顔でしかも友達らしき子と移っている写真があった。
―――だが、その写真は。
「ああ。これか、友達だよ。仲良かったんだけどね、でも海外に行っちまったんだ。……元気かなぁ、アイツ」
一誠は嬉しそうに、写真に写っていたオレンジ色の髪の少年にも少女にも見違えるような子供を見る。だが、リアスと木場の目はそこには向かってはいなかった。
「この後ろにある、剣は……」
「え?その友達の親父さんが持っていた剣だけど?作り物らしいけど……」
「イッセーくん、違うよ、これは作りものなんかじゃない。……これは――――」
木場は、その写真を手に取ったまま、親の敵のようにそれを見る。
「聖剣、だよ」
季節は夏も間近に迫り、球技大会も近くなった午後の昼休み。
一誠は、同級生の松田、元浜、アーシア、桐生と共に、昼食を取っていた。
一誠自身、球技大会も近くなりその練習に参加しているが、周囲からの嫉妬の視線がものすごく、肩身が狭い思いをしている―――のだが。
「イッセー、俺はお前の幸福が恨めしい」
「イッセー、爆発しろ」
「お前ら全く遠慮ってものを知らないよね」
パンを噛み千切りながら、そう言い放ってくる親友に思わずため息を吐く。だがそれも本意ではないはず……だろうから、気にすることではないので苦笑いを浮かべる。
「でもってさぁ。兵藤、大丈夫なの?球技大会、あんたほぼ全校生徒から妬みの対象として見られてるから集中攻撃を受ける可能性が―――」
「大丈夫大丈夫、体育の時のイッセーを見ろよ」
「あー、ドッジボールね………」
球技大会前か、ドッジボールを行った時に事件は起きた。
良くも悪くも好戦的なクラスメートの遠慮なしのドッジボールに一誠はあろうことか反射でバック転を披露してしまい、其の場に気まずい沈黙が流れる。
当の一誠は自分の行ったことに気付いていないのか『よっしゃ!こい!』とのたまってはいたが、クラスメートの様子に気付くと途端にやっちまったとばかりの表情を浮かべ『…………偶然ってすげぇよな』と今更感漂う発言で松田とツッコミという名のボールを食らいあえなくアウトとなった。
「お前何もん?」
「ははは、あんなの鍛えりゃ誰でもできるって」
「でも、お前前にスポーツやった事ないって―――」
「ぐっ……」
ここであの発言が来るなんて思いもしなかった一誠は、目をキョロキョロと動かしながら言い訳を考えようとする。ここで、『オレの俺じゃない奴のきおくが動かすんだ!』とか言ったら最悪、ドン引きされるかもしれない。
「い、イッセーさんは、球技大会の為に鍛えているんですよねっ!」
「え?そうなのかイッセー」
「意外ねえ、兵藤が隠れてトレーニングとか」
アーシアからの助けに内心感謝しつつ、話を合わせる。
ふと、時計を見ると、そろそろ部室に行く時間だ。今日は球技大会の最後のミーティングを行うらしいので、少し速い時間に席を立つ。
「じゃ、俺達部活で集まりがあるから、ここで抜けるわ。アーシアー」
「はい!」
「おーおー、精が出るねぇ」
「羨ましいくっそ羨ましいが……まあ、頑張れよ」
「アーシア、しっかりやるのよー」
松田達に一声かけ、席を移動し教室にいる一樹に声をかける。
「一樹、一緒に行くかー」
「…………あぁ、分かったよ兄さん」
仏頂面で一誠にそう返す一樹に、何時ものように苦笑いを浮かべながら、一緒に部室へと向かう。
レーティングゲームの日か一樹は何処か元気がない。
その理由は、恐らくライザー相手に一矢報えなかったから――――と一誠は思っている。
自分がライザーに勝ってしまったことは後悔してはいないが、何時までも元気がない家族を見るのはどうにももどかしい。他の人に対する時にさえ、元気になってくれればいいのだが―――
そう考えている内に部室前、戸に手を掛け中に入ると、中に部員以外の見知らぬメンバーがいた。ソファーに座っているリアスの前にいる女性に一誠は驚く。
「え、生徒会長?」
生徒会長の支取蒼那、学園でもリアスと朱乃に並んで有名な女生徒である。
そして彼女に付き添っている、一人の男子生徒。腕章からみて書記だろうか?男子生徒はこちらを見ると、驚いたような表情を浮かべる。
「あれ?弟の方はともかく、何でここに兵藤一誠がいるんですか?こいつは人間のはずじゃ……関係者だとしても俺達が悪魔だって知らないなんて……」
「匙、基本的に私達は『表』の生活以外では干渉しないことになっているの、それに彼はいいの。彼はいわばこの場においては特別よ」
蒼那は一誠の事情を把握しているようだ。
匙と呼ばれた男子生徒は納得がいかないのか、一誠の方をジッと見ているが。
しかし、なんというかリアス達以外に悪魔がいたのは以外かもしれない。
生徒会長が上級悪魔だったなら、自分は悪魔に転生することができるのだろうか、と考えていると、朱乃が一誠達に蒼那の紹介をする。
「この学園の生徒会長、支取蒼那様の真実のお名前はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主さまですわ」
シトリー家、リアスと同じ上級悪魔の家系で72柱の一つ。
生徒会と言う事は、学園の表を取り仕切っているのはソーナ・シトリー率いる彼女の下僕たちと見て良いのだろうか。
「会長と俺たちシトリー眷属の悪魔が日中動き回っているからこそ、平和な学園生活を送れているんだ。それだけは覚えておいてもバチは当たらないぜ、ちなみに俺の名前は匙元士郎。二年生で会長の『兵士』だ」
「『兵士』なのか!じゃあ、一樹と同じだな!なっ」
「……そうだね」
元気がない一樹の背を軽く叩き、前に押し出す一誠。
「兵藤一樹……よろしくなァ、一樹くゥん」
一樹に手を差し出す匙、心なしか手が震えている。なんだろうか、彼は自分と同じ感じがすると思ってしまった。
一樹は無言で握手を交わすと興味なさそうに、後ろに退がる。
「愛想無い奴だな」
「ま、まあ一樹も元気がないんだ。そんな気にすんなよ」
「てか、お前がここにいる特別な理由って何なんだ?あまり強そうには見えねえし……」
探る様に一誠を見る匙。
そんな匙に補足するように、ソーナが一誠の事について説明する。
「よしなさい匙。今日ここに来たのはこの学園を根城にする者同士、新しい眷属悪魔を紹介する為です。つまり、貴方とリアスの所の一樹くんとアーシアさんを会わせるための会合です。一誠君はここでは関係ありません。それに―――」
彼女は一瞬こちらを見た後、匙を戒めるように言い放つ。
「彼を甘く見てはいけません。彼は人間の身にも関わらず、約半数のライザー・フェニックスの眷属達とライザー・フェニックスを下した特異な能力を持つ人間です。今の貴方では勝てません」
「えええ!?こいつがライザーを!?てっきり木場か姫島先輩がリアス先輩を助けたのだと……」
ソーナの視線には人間の一誠に対する興味があった。
もしかしたらライザーとのレーティングゲームを見ていたかもしれない。
「俺一人じゃ、絶対に勝てませんでした。部長や皆がいたからこその勝利だと俺は思っています」
「そう……」
その後、一樹とアーシアで軽い紹介と簡単な交流をした後、彼女たちは部室を後にした。
部室に残った何時ものメンバーで球技大会のミーティングをしている最中、部室の隅で虚空を見つめてボーっとしている木場が話に参加しないことに気付く。
「おーい、木場。お前も話しに参加しようぜ」
「………」
「木場?」
「……え?な、何だい?」
「いや、今ミーティングだろ……」
「あ、あーごめん。僕も参加するよ」
一体どうしたんだ?まるで心ここに有らずだ。
一樹に続いて木場もだなんて……。
「具合でも悪いのか?あまり無理するなよ……」
「いや、そうじゃないんだ……ちょっとね……」
「ちょっと?」
気にするなと言わんばかりに笑った木場は、部室の和の中に戻っていく。その木場の背を思案気に見た一誠は、先程見た木場の表情に微かな違和感を感じた。
まるで精巧に作られた本物と見間違うほどの笑顔、本物とは全く異なる紛い物の笑顔は一誠の不安を助長するように、彼の記憶に刻み付けられた。
「……どうしちまったんだよ、木場」
何かなければいいのだが。
数日後、一誠の願いを裏切る様な事態が、球技大会の後に起こる。
それは同時に、兵藤一誠の壮絶な幼少期を知る少女の来日の狼煙であり、グレモリー眷属にとって伝説の存在との相対を意味していた―――
一樹の元気がないのは、ドライグと未だにコミュニケーションを取れないからですね。
次話もすぐさま更新致します。