暗い暗い夜道。
一誠は呆然としながら夜道を歩いていた。
母親が父親が、自分を覚えていなかった。
『兵藤一誠』を覚えてはいなかった。
『ねえ、あなた……玄関に変な人が……』
『……ここは俺に任せておくんだ……えーと、君は、どこから来たんだい?生憎私達には息子が一人しかいなくてね―――兵藤一誠?すまない、私達の息子の名前は『兵藤一樹』と言うんだ』
顔が同じ一樹と勘違いすらされない。
訳が分からない、何があった。自分に一体何が起こっているんだ。
もう親から名前を呼ばれる事さえないのか?
焼けつくような明りを放つ街灯の下で壁に寄りかかりながら、今にも消えそうなか細い声で一誠は何かにすがるように携帯を取り出す。
「ま、松田……元浜……」
誰かの声が聞きたい。
そんな一心で、一誠は震える指で携帯電話を操作する。
電話を掛ける。数度のコールの後、相手が電話を受ける。
『もしもs―――』
「もしもし、俺だイッセーだ!!松田、松田だよな!?」
『あ、ああ松田だが……』
良かった繋がった。
自分を覚えていないのは、親だけだと――――
『お前誰だよ』
「―――――――……ぁ」
『あのさ、こういうの迷惑だからやめてくれ』
ブツリと乱暴に切られる電話。
ぐらりと一誠の体が崩れ落ちる。世界から置いて行かれたような感覚、誰からも忘れ去られた喪失感。一体誰が、何のために?
「ははは、何でこうなってんだろ」
デートをすっぽかれ
彼女が弟とデートしている光景を目撃し
弟が彼女に殺され
自分が彼女に殺され
生き返ったら、皆から忘れ去られている
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「やーっぱこうなってたな」
「………」
気付けば目の前に、自称スゲエ存在が立っていた。
彼は、虚ろな目で泣き崩れたイッセーを見下ろしたまま彼の隣に座る。
「ヒッデェよなぁ……こんなのってないよな。家族から友人の記憶から消されるっつーのはよ」
「………」
「実は、俺がそう仕組んだことなんだが……俺も本位じゃあなかったわけだよこれが」
「………」
「殴っても構わねえぜ?……っつっても、その様子じゃあ無理だな」
「………」
「じゃあさ、この俺様にそれをやらせた存在っつーもんを知りたいか?」
「………っ」
「お、反応アリだな。よしよし……じゃあ、まずはお前に真実を見せてやるよ」
何も話さず空を見ている一誠の頭に、手の平を乗せる男。
無反応の一誠、だが次の瞬間――――彼の頭の中に、今までの彼が歩んできた人生とは違うイッセーの記憶が再生される。
「!!??」
「ほら、こいつがお前の本当の人生だ、そしてこれがお前が歩むはずだった悪魔に転生した未来」
続いて映されたのは、これから自分が歩むはずだった輝かしい未来。
悪魔、堕天使、天使、木場、小猫ちゃん、朱乃さん、ギャスパー、アーシア、ヴァーリ、オーフィス、サイラオーグ、匙――――――――
レイナーレを殴り飛ばすイッセー
ライザーを倒すイッセー
コカビエルに立ち向かうイッセー
赤い鎧を纏い、ヴァーリと闘うイッセー
匙と命を懸けた死闘の交わすイッセー
ディオドラを下すイッセー
ロキをミョルニュルで倒すイッセー
曹操と闘うイッセー
サイラオーグと死闘の末勝利を勝ち取ったイッセー
サマエルの毒で力尽きるイッセー
曹操と決着をつけるイッセー
そして―――
「………リアス」
全てを理解した。
この世界が作り物の世界で、兵藤一誠がこの世界の主人公だと……。
そして自分が生涯愛するはずの女性を………理解した。
「そうだ、それがお前が本来歩むべきだった道だ。だがお前がもうその道を歩むことは決してない。何故だか分かるか?」
記憶の中で、唯一出てこない異物がいる。
邪魔なゴミがいない。そうか、アイツか……弟の皮を被ったクズヤローか……合点がいった。
アイツが自分を邪険にしていた理由も、自分を嫌っていた理由も、そしてアイツが最後にオレに対して言った言葉も今、理解した。
『残念だったな一誠』
笑いものにも程がある。ナニが残念だったな、だ。
どうしようもない奴が自分の席に居座っただけじゃないか。
「はは、ははははははははは……そう言う事だったのか……お前が奪ったのか……俺を」
許せない、許せない、許せない―――
そんな単語の羅列が一誠の頭の中でグルグルと回っていく。
自分は何を奪われた?
両親、親友、存在、神器、仲間、恋人。
ならアイツは手に入れた力で何をする?
イッセーが歩んでたであろう道を、沿っていくつもりか?そうすればハーレムが築けるし、頼れる仲間や、沢山の友人ができる。
「いい気分だろうなあ、お前の作ったレールをそのまま走っていくんだぜ?アイツ……こういうのなんていうんだっけ?漁夫の利だよな?」
吐き気がする。
そんなもん漁夫の利じゃない、ただの卑劣な盗人だ。
なんでも思い通りになると思うなよ……どんな汚い手を使っても、どんな犠牲を払っても、邪魔してやる。
自分は、もう記憶の中の綺麗なイッセーじゃない、もうなることはないし、なれるとは思えない。
「ぶっ壊してやる……」
「良い答えだ。だがどうする?そのナリじゃあ、無理だぜ?なんせお前さんには『赤龍帝の籠手』はないんだからな」
「そんなもん後から考える」
「やけになっちゃいけねえなあ、一誠。お前はオレ様の期待の星なんだからよぉ。俺だって、かなり腹がたってんだよ、碌に敬意をはらわねえクソガキに好き勝手に世界かき回されてんだ。だが、生憎オレ様は自分から世界に干渉する訳にはいかねえ、オレ様はあくまで管理する側であって、統治する側じゃねえんだ」
怒りに震える一誠を尻目に、男は大仰な動作で悲観するように壁に寄りかかる。
スゲェ存在、スゲェ存在とばかりとは思っていたが、実は世界の管理者だったと一誠は今更ながらに気付く。もしかしたら、この男、グレートレッドやオーフィスよりも遙かに強いのではないかと勘繰ってしまう。
「オレからは奴の行動を阻止することはできねえ、ならどうする?決まっている、阻止できる奴を使えばいいだけだ」
「それが俺?」
「そうだ、丁度いいだろ?だってお前、滅茶苦茶アイツを恨んでる」
「でも……俺は貴方の言う通り力がない」
「くくく、だから俺はお前に手を貸すんだよ」
男が手を掲げると、何処からともなく飛んで来た黒い球体が現れる。
黒い球体は男の周りをふわふわと回って一誠の元に飛んで行き、彼の手元に収まる。
「こいつは、怒りと悪意。お前の意思に呼応してその力の形を変える。毎回同じ形かもしれねえし、全然違うかもしれねえ。特典名は『仮面ライダー』」
「仮面、ライダー……?」
「ああ適当に決めた奴なんだが……思いのほか今のお前にピッタリだったからな。こいつにさせて貰った」
怒りと悪意……その言葉を心の中で反芻しながら、神器を展開するように意識を集中させる。
イッセーの記憶の中では、左手に展開されるはずの神器。だが一誠の体に展開されたのは―――
「ベルト?」
何時の間にか腰に巻かれたベルトに手に収まっていた、黒い龍に似た紋章が刻まれてたカードケースのようなもの。
何だこれは?そう呟こうとした瞬間、一誠の頭の中に『コレ』の使い方が流れ込んで来る。
無意識にカードデッキを持った手を掲げ、イッセーはボソリと呟く。
「………変身」
バックルにカードデッキを横からスライドする形で挿入する。フィルムが重なるように黒い影が身体に重なり、自らの姿を変えていく。
闇夜に映える赤い複眼、上半身を覆う黒いアーマー、龍を象られた意匠が施された頭部。
男は、上機嫌にうんうん、と頷いた後に一誠の肩を叩く。
「いきなりリュウガ……か、今のお前にはぴったりだな」
「これが、今の俺の力……」
「最初に言っておく。今のお前は強い、イッセーの記憶を持っているお前は、今や百戦錬磨の戦士だ……だからやっちまえ、全部ぶっ壊しちまえ、奴の思い通りにさせるな」
そう言い残した後、男はフッと音を立てずに消えた。
一誠は心の中で深く男に感謝した後に、変身を解く。
自らの手の中に有る、カードケースをみて一誠は、口角を三日月のように歪め笑う。
優越感に浸ってろよ、クズが。
この先、お前の思い通りになると思うなよ。
お前をぶっ壊して、ぶっ壊して、ぶっ壊して、ぶっ壊して―――――
「………くっ、はっはははははははははははははははははははははは!!」
粉々にしてやる。
俺のザビーゼ〇ター返してくれ(ry
悪といっても、平成ライダーですね。
昭和のライダーは反則的すぎますから……。
はい、完全に病んだ原作知識持ちのイッセー君でした。
周囲の人に対する一誠に関する記憶消去は……流石にこの仕打ちは酷いと思い、転生できない設定にしました。
これで今日の更新は終わりです。