「なあ、聖剣計画って何だ?」
聖剣を捜索してから数日の日が過ぎ、一向に事態が好転しない状況の中、『ジンバーピーチアームズ』の姿となり索敵を行っている一誠がイリナとゼノヴィアに聞いた言葉だった。
この時点で普通に変身して大丈夫なのか?という疑問がある浮かぶだろうが、今の時間帯が夕暮れ近くに加えて周囲に人の気配はないせいか、細心の注意を払えば、今の一誠の奇抜な格好もなんとか大丈夫なのだ。
「何でイッセーくんがそのことを知っているの?」
一誠からその言葉が聞けるとは思ってはいなかったイリナとゼノヴィアは驚いたように目を見開き、彼にどうしてそのことを知っているかを質問する。
「……俺の仲間が、その計画の生き残り……らしいんだ」
「成程……どうりで……あの時殺気を向けてきたのか……無理もないな。聖剣計画……あの事件は私たち協会側にとっても最大級に嫌悪すべき事だ」
嫌悪されているということは、聖剣計画によってもたらされた犠牲は教会側では望まぬものだったということでいいのだろうか?
「一応、説明しておこうか。もしかしたらこの騒動に関係があるかもしれないからな」
「関係あるかもって……?」
「聖剣計画の被験者……という表現は好まないが……彼らに処分を下した人物は聖剣に異常な執着を持っていた。その者は信仰に問題があり異端の烙印を押された。まあ、当然だろうな、奴が信仰したのは主ではなく聖剣だったのだから……」
「………そいつは、今―――」
「堕天使の仲間入りさ、奴は教会にいても『神を見張る者』にいても変わりはなかったのさ」
そこで、一旦ゼノヴィアは言葉を区切りイリナの方を見る。名を出していいのか迷っているようだったが、イリナが無言で頷くと、ゼノヴィアは再度一誠の方に顔を向け口を開く。
「その者の名はバルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」
「バルパー・ガリレイ……」
「一応、覚えておくといい。もしかしたらの可能性だが……奴もこの件に噛んでいるかもしれないからな」
バルパー・ガリレイ。
ゼノヴィアの話が本当だったなら、そいつは相当やばい奴に違いない。
……しかし、聴覚強化のこのフォームでも大した情報は得られない。そもそもある程度近くじゃなくちゃ具体的な場所はわからないし、あまりにも遠すぎると方向し分からない。
「まあ、その話は置いといて……見れば見るほどおかしな姿だな、前とは違うし」
「そうよねー。なんだっけ?ジンバーピーチ!だっけ?」
「ん?ああ」
ジンバーピーチを見せたときは、二人は『姿が違う!』と言葉に出していたが、少し時間が経てば慣れたようで、普通に接してくる。
「それで何か収穫はあったか?」
「いや……それがまだ―――」
キィン!ガキィィン!!
「ちょっと待て……」
「どうしたの?イッセーくん」
そう遠くない場所から、金属と金属をぶつけたような甲高い音が聞こえる。音が聞こえた方向に意識を向け集中すると、数人の人の声が聞こえる。
『ウゼェっす!!てかテメェ『魔剣創造』かよぉ!レアな神器ですかクソ野郎がァ!!でーも俺さまの持っているエクスカリバーはそんじょそこらの魔剣くんでは手も足もでないのよ~ん!!』
『君の下劣な口調も聞き飽きた!!』
「木場……っ!アイツ、戦ってんのか!?」
「一体、どうしたんだ?」
木場が誰を相手しているかは知らないが、恐らく聖剣使い―――木場は強いがもしもの可能性もある。
小猫との約束もある。急いで向かわなくては。
「俺の仲間が聖剣使いと戦ってる!いますぐ向かおう!!」
「ええ!?」
「……どうやら、先を越されたみたいだな……行くぞ!案内してくれイッセー!」
「ああ!」
部長も、小猫ちゃんも……朱乃さんだって、アーシアだって、たぶん一樹も……皆が心配しているんだ。
だから……お前に無茶させるわけにはいかねぇ!
変身したままだから、変身前とは比べものにならないスピードで、イリナとゼノヴィアをやや引き剥がしながら音が聞こえる場所に到着する。
そこには、木場と見覚えのある白髪の神父―――確か、フリード・セルゼンと言ったそいつが、木場と凄まじい剣劇を交わしていた。
「木場!!」
「イッセーくん!?」
「よそ見するなんて、おめでてぇ頭してんなぁ!!隙突いてブッコロ!!それぇ!!」
バキィンと木場の持っていた剣が、フリードの持っていた特徴的な形状の剣により砕かれる。苦悶の表情を上げながら後方に退がる木場に、狂喜の笑みを浮かべるフリード。
イッセーは無双セイバーを右手に持ち、木場を守る様に前に飛び出して、フリードが振り降ろした聖なる力を纏った剣の一撃を受け止める。
「木場!お前……部長たちが心配しているのに、何やってんだ!!」
「……ッ僕は聖剣に………」
「あ~らら、仲間割れっすか~てか、君、レイナーレさまをぶっ殺した人間じゃ~ん!」
見ていたのか!?思わず木場に向けた視線を鍔迫り合いをしているフリードへと向ける。
「見てた!見てた!クソダセェ姿のコスプレ野郎をなァ―――!!きひゃひゃ!!」
『イッセーくん!』
『先に行くな!……ッ!貴様はフリード・セルゼン!?』
イッセーよりやや遅れて到着したイリナとゼノヴィアが、フリードの姿を見て聖剣を解放し警戒心を露わにさせる。
「ありゃりゃー、カモがネギしょってきやがったゼ!ここでお前等皆殺しにして、そこの聖剣奪っちゃう!そんじゃ大人しく死にやがれ!」
「ざけんな!!」
無双セイバーを思い切り押し出し、フリードの体勢を崩す。予想外の力に軽く舌打ちしたフリードは、後ろへ押し出された勢いを利用し、そのまま後ろへ飛びあがりながら、着地する。
「けへへへ!!やるじゃないのやるじゃないの!ええ!?だが、オレだって一人じゃないんだよ~ん!打ち合わせではこんな丁度いいタイミングでそろそろ来る頃何だけどねぇ!」
へらへらと下品な笑みを浮かべたフリードは、懐から取り出した拳銃のような何かを空に向けて撃ち出した。撃ち出されたソレは、白い煙を残しながら、空高く上がるとカッと強烈な光を発生させる。
すると、数秒とかからずに十数人のフリードと同じような神父姿の男達が現れる。
「俺的にィ!悪魔と教会のクソ野郎どもに殺されるのだけはマジ勘弁だからさァ!!雑魚共ーたすけてー!」
「仲間を呼ばれたか!?」
襲い掛かって来る、援軍。
イリナとゼノヴィアが、応戦するために聖剣を構える。二人を横目で視界に収めながら一誠は目の前にいるフリードに無双セイバーを向ける。
イリナとゼノヴィアは大丈夫―――自分はフリードと相手取る。
「はああああああああああ!!」
「ッ!木場!」
一誠が攻撃を仕掛ける前に怒声を上げながらフリードへ特攻していく木場。フリードに斬りかかる木場を呆然と見た一誠は、思わず頭を抱える。
「ああっ!もうクソッ!勝手に援護すっからな!!」
無双セイバーに弾を装填しながら、木場を援護するようにフリードへと切りかかる。
「うっひょ!二対一とか卑怯じゃないっすか!でもねでもねェ俺にはこのかっちょいい聖剣様がついているんすよ!!『天閃の聖剣』!!」
フリードの聖剣の切っ先がブレだし、剣の速度が木場と剣戟を交わしていた時と比べものにならない速度となる。一瞬で木場の持っている剣が砕かれ、一誠の無双セイバーまでもが簡単に弾かれる。
「速度だけなら誰にも負けないのん!」
「くっ、これでも駄目か……ッ!」
「速ぇ……ッ!でもまだァ!!」
トリガーを引き、無双セイバーから4発の弾を撃ち出す。
人間ならただじゃ済まない威力を内包する銃弾だが、フリードは容易く弾丸を見切り、全て切り落とす。
「見える、俺にも敵が見えちゃうよ!エ~クスカリバァ~のお・か・げ!」
「くっ……」
「相手になりませんぜぇ剣士君ッよォ!」
今の状態じゃフリードを捉える事は無理だ。
遠近バランス良く尚且つ高威力のソニックアロー……いや、それよりもっと確実な攻撃方法が俺にはあるッ!
「木場!一旦退がれ!!」
「ッ!?でもイッセーくん!!」
「俺が仕掛ける!!」
【イチゴッ!!】
ホルダーからイチゴロックシードを取り出し、錠を解放する。
フォームはジンバーピーチからは変えない。こいつを嵌め込むのは手持ちの刀、無双セイバーだ。木場が渋い表情をで退がるのを確認しながら、刀を両手で力強く握りしめ腰溜めに構える。
【ロック・オン!!イチ!ジュウ!ヒャク!!】
「一気に畳み掛けるッ!」
「おろろ~、いーったい何をしてくるんでしょうねー。でもさせないっすブッコロしまっす!」
「遅ぇ!!」
【イチゴチャージ!】
前方のフリード目掛け、イチゴロックシードにより赤いエネルギーが纏った無双セイバーを下から上へ切り上げる。
瞬間、刀身からイチゴに似たエネルギー体が放たれる。
「マジっすか!」
その場で立ち止まり、すぐさま両断する体制に移るフリード。
だが、一誠の放ったエネルギー体はそんなフリードの思予想を裏切る様に、彼の間近で分裂し数十にも及ぶクナイへと分裂し勢いよく飛んで行く。
「うぇ!?くっそ!分裂とか卑怯じゃないのぉぉぉぉ?」
慌てて、高速で剣を振るい撃ち落とそうとするが―――その挙動こそが一誠の狙い目。
分裂したクナイ状のエネルギー体【イチゴクナイ】は、物体と激突すると同時に爆発する能力を備えている。
よってフリードが切り落とそうとしたクナイの一本と聖剣が接触した瞬間、彼に強烈な破裂音が襲い掛かり、怯んだ所に後続のイチゴクナイが大量に殺到する。
「二対一はやっぱり無理っしょぉぉぉ――――――!!」
そんな今更感の漂うセリフを叫びながら、爆発により発生した煙に包まれたフリードを視界に移しながら、目を丸くしている木場に叫ぶ。
「木場!今だ!!」
「くっ、少し不本意だけど―――今は!!」
やや苦渋の表情で目を瞑りながらも、魔剣を握りしめた木場は、未だにフリードが生きているであろう噴煙目掛けて走り出すべく身を低くする―――
「―――ほお、『魔剣創造』か?使い手の技量次第では無類の力を発揮する神器だ」
上空から聞こえてくる第三者の声に思わず足を止め、見上げる木場と一誠。視線の先には神父服を着た初老の男性が立っていた。
「フリード、何時まで油を売っている」
「ケホッ……バルパーの爺さんか」
煙の中からフリードが出てくる。一誠の攻撃を受けて無事ではいられなかったのか、神父服はボロボロになり、至る所から血が滲んでいる。
そんなフリードを見て、嘆息しながらバルパーは一誠と木場、そして援軍の神父達を掃討し終えたイリナとゼノヴィアの方に視線を向ける。
「ククク、エクスカリバー使いが二人もノコノコ来てくれるとは、教会も気が利くようだ」
「バルパー・ガリレイ、反逆の徒め、神の名の元貴様を断罪してくれる!!」
一誠の隣に着地したゼノヴィアがエクスカリバーを構え、バルパーとフリードに威嚇する。イリナも一瞬一誠の
方に視線を向けながらも、ゼノヴィアと同じように目の前の二人の神父を睨む。
「……何者なんだい?」
しかし、木場だけがバルパーについて何も知らない。一誠は木場にバルパーの事を言うべきか悩んだ。バルパーが聖剣計画―――木場達の仲間に『処分』という命令を下した本人だという事を木場に伝えたら、きっと木場はバルパーを殺そうとするに違いない。
「バルパー・ガリレイ、聖剣計画に携わっていた者の一人だよ。君にとっても一番因縁深い相手でもある」
「……へぇ」
「ゼノヴィア!」
「いずれは知る事だ。それに……ここで不用意に隠して、悪魔と事を構えたくはない」
確かにそうだが―――。明らかに木場の目の色が変わった。
ゼノヴィアの言葉から察したのだ、バルパーが木場にどのような仕打ちをしたのかを―――
「一旦、退くぞ。因子をまだ扱いきれていないお前に今死なれると困る」
「はいはーい。じゃあ悪魔くん、それにコスプレ君、逃げさせてもらうぜ!次会った時はお前等殺すから!そりゃもう切って切ってき切りまくるからヨ!」
「待て!」
「あばよ!クソ共!!」
フリードが球体を路面に投げ打つと、カッと強烈な閃光が辺りを包み込み一誠達の視力を奪う。
視力が戻った時には、既にフリードとバルパーの姿はなく、残っていたのはイリナとゼノヴィアが倒した神父達だけだった。
「追うぞ、イリナ、イッセー」
「うん」
「僕も追わせて貰おう!!」
「木場!お前は待てって!!―――ああ、もう!!」
一誠の制止の声を聞かずにそのまま気配のある方向に走り出してしまうイリナとゼノヴィア。木場も二人の後を追って走り出す。
今の木場には目の前の復讐しか見えていない。それが一誠にはどうしようもなく危なく感じられた。何時もの木場はどんな状況でも冷静で、頼れる奴だったはずなのに―――。
『イッセー!』
ゼノヴィアとイリナ、それに木場が二人を追った後に、背後から人の気配を感じとり後ろを向く。振り返った先にはリアスと生徒会長―――ソーナ・シトリーがいた。
変身を解きながら、二人の方に駆け寄る。
「部長!?それに会長も!?どうしてここに!?」
「力の流れが不規則になったから、心配して見に来たの」
「兵藤君、ここで一体何が……」
どう説明すればいいのか、迷ったがとりあえずはフリード・セルゼンとバルパー・ガリレイについて軽く説明することにした。
一誠の話に、表情を鎮めるリアス。
「そう、祐斗はゼノヴィア達とバルパーを追って……」
「……リアス。バルパー・ガリレイととコカビエルが関わっているという時点で彼女らの手に負えるとは思えません」
「ええ、私達もいざという時の準備はしておかないといけないわ」
『皆殺しの大司教』と言われた狂神父と大戦を生き抜いた堕天使―――そしてエクスカリバー。どんなに悪い可能性を考えても足りない位に最悪の組み合わせ。
状況を重く見たリアスは、とりあえずの用心をしておく為にソーナと話し合っているが―――。
「部長、俺、木場達を追います」
今なら間に合う、ジンバーピーチの索敵範囲と脚力ならばすぐに彼らにも追いつくだろう。
一誠の言葉にリアスは、暫し一誠の表情を見て、止めても無駄だと悟ると、一誠の両肩に手を置き言葉を投げかける。
「絶対に無理しないで。貴方も私の大切な…………仲間なの」
「はい!」
力強く頷きながら、ゼノヴィア達が走り去っていった方向へ足を進めながら両手に持ったオレンジロックソードとピーチエナジーロックシードを開錠させ、【鎧武ジンバーピーチアームズ】に変身し、そのまま走り出す。
一誠が走り去っていった方向を、無言で見送ったリアス。
そんな彼女にソーナは―――
「いいのですか?」
「いいのよ、彼は……イッセーは真っ直ぐなの。自分でもおかしいとは思ってるけど、あの子なら、なんとかしてしまいそう…………そう思えるの」
今の自分にできる事をしよう、そう心に決めたリアスは一誠が走り去った方向から視線を外し、ソーナの方に向き直るのだった。
ピーチ「ほら出番だぞ、喜べよ」
イチゴ「ギリッ……ッ」
今日の更新はこれで終わりです。
いけない……フリードの台詞を書くと言動が狂ってしまう。これも皆『F』のせいですね。
……いやぁ、それにしてもイチゴ大活躍でしたね。
………本当はフリード戦でイチゴアームズだったんですけどね、無双セイバーが便利すぎたのがいけないんです(メソラシー)