お待たせいたしました。
太陽が完全に沈み、周囲が暗くなり始めた町はずれの住宅街。
その中を移動していた一誠は、ジンバーピーチアームズの聴覚強化によりゼノヴィア達の声がする方向に足を進めていた。
「もうすぐだ!」
ゼノヴィア達の声が近くなっていく、同時にフリードや複数の聞き覚えのない声も。もしかしたら既に戦闘が始まっているのかもしれない。
ジンバーピーチの聴覚強化は、回りの環境に左右されやすいので、遠く離れた場所の音全てを拾う事はできない。だからこそ、できるだけ早く彼女らに加勢しに行かなければならない。
バルパーやフリードが逃げた先は恐らく奴らのアジト、そこには聖剣を盗んだ輩のボスであるコカビエルと言う堕天使幹部がいるかもしれないのだ。
ライザー以上の強敵、いくらゼノヴィアやイリナ、木場が力を合わせたとしても太刀打ちすらできないかもしれない。
勿論、一誠でも。
「いざとなったら―――」
もしもの時の算段を頭の片隅に置きながら、一誠はゼノヴィア達の声がする場所に辿り着く。
「ここは……?」
一誠の目前には古びた廃ビルがあった。
所々に罅が入り、どんよりと気味の悪い雰囲気を感じさせる、ホラーチックな建物に一誠は、若干の恐怖を抱いた。
「隠れ家にはぴったりだな……」
立ち止まってはいられない。
目の前で硬く閉ざされている扉を力の限り蹴破ると同時に一誠は、悪意に満ちた堕天使の根城に飛び込んでいくのだった。
建物内は、思ったよりも広く拡張されていた。
どういう方法で広くしたのかは、分からないが、かなりの大人数は入れるような広さだ。
ソニックアローを左手に装備しながら、建物内に飛び込んだ一誠の視線の先にはテレビでよく見かけるような豪華な扉があった。豪華絢爛という言葉がしっくりくるような外観だが、この建物内の暗い雰囲気に寄り悪趣味としか言えない場違いさを感じられた。
「あの先か!」
扉の先から、戦闘音が聞こえる。
一誠は走り出しながら、レモンエナジーロックシードを取り出し開錠する。
【レモンエナジー!!】
ピーチエナジーロックシードをバックルから外しジンバーピーチを解除すると同時に、レモンエナジーを代わりに嵌めこみ、ジンバーレモンアームズへとフォームチェンジする。
【ジンバーレモン!ハハ―!!】
「これで!!」
変身完了と同時に、左手のソニックアローを構え、矢を打ち出し扉目掛けて放つ。
放たれた矢は黄色の粒子を残しながら扉に直撃し、破裂するように閃光を撒き散らした。目前の障害物を排除した一誠は、そのまま全力で走りながら、戦闘が行われているだろう場所に入り込んだ。
「皆!!無事か!?」
「イッセー!来てくれたか!?」
「イッセーくん!」
入り込んだ先にはゼノヴィアにイリナ、そして木場が神父らしき集団と交戦している光景が広がっていた。
床に無造作に転がっている神父たちから察するに、まだ戦闘開始からそう時間がたっていないとみてもいいが、奥からぞくぞくとやってくる武装した神父の集団を視界に収めた一誠は気を引き締めながら武器を構える。
「オラァ!」
光の剣で切りかかってくる神父をソニックアローで弾き返し、空いた腹部に拳を打ちつけ意識を奪う。
軽く息を整えながら、次々と襲ってくる神父達に視線を移しソニックアローにエネルギーを込め、一気に解放、斬撃として前方に放つ。
「なに!?」
放たれた斬撃の余波により、吹き飛ばされた神父たちは壁に勢いよく激突し崩れ落ちるように気を失った神父達を確認しながら、複数の敵に囲まれているイリナの方に向かう。
「イリナ、伏せろ!!」
ソニックアローを強く引き絞り、矢を神父達の足元めがけ放つ。放たれた弓は神父達の足元に到達すると同時に破裂し、神父達の視界を光で埋め尽くすように拡散させる。
その隙を突き、イリナが動きの鈍った神父を聖剣で一気に切り伏せ、囲まれた場から抜け出し一誠のそばにまで走り寄る。
「大丈夫か!?」
「ありがと、イッセーくん!」
イリナの身を案じながらも一誠は、この神父の集団に不自然さを感じた。
敵があまり強くないのだ。
強化形態であるジンバーであるのだから当然とも思えるが、いかんせん手ごたえがなさすぎる。普段の自分なら感じることのないような些細な不自然さだったが、今の一誠は、敵に囲まれた状況の中での緊張感で警戒心がやや敏感になっているのだ。
「イリナ、何かおかしくないか?」
「……え?何が?」
イリナは気にしていないようだが……。
ソニックアローを襲いかかってくる敵に放ちながら一誠は、訳の分からない感覚にいら立つように頭を掻く。
「……!そうだ!フリードとバルパーは!?」
「バルパーとフリードはここに入ったと同時に見失っちゃったの。多分、この建物内にいるとは思うけど……」
フリードのあの気性ならば多人数で一気に押してくるとは思ったが……それほど自分の攻撃が効いていたのか?
「何を話しているんだイリナ、イッセー……」
神父を切り裂きながら、ゼノヴィアがこちらへ合流してきた。
それじゃあ木場は?と思い、室内を見回すと、高速で複数の神父を切り裂き無効化している木場の姿が目に入る。
少し危うい気がするが、今のところは大丈夫だろうと思いながらも一誠は、ゼノヴィアにもこの状況についての疑問を投げかける。
すると、ゼノヴィアも思い当たる節があったのか表情を渋める。
「……それは私も思っていた。まるで捨て駒のように私たちと戦わされているこいつらにな……」
「……そう?私たちが4人しかいないから、見くびっていると思っていたんだけど」
「そうとも捉えられるが―――っ!!」
近づいてきた神父を切り裂りさいたゼノヴィアは、再び正眼に聖剣を構え前方を見据えながら再び口を開く。
「私にはどうにも、時間稼ぎをしているようにしか見えなくてな」
「時間稼ぎか……フリードの治療でもしているのか?」
「それは分からないが……もしかしたら私達は―――」
そこで一旦言葉を区切り、剣を下げるゼノヴィア。
気づけば神父の集団は全員、床に沈んでいた。周りを見渡した敵がいないことを確認した一誠もゆっくりと息を吐き武器を下げる。
「案外呆気なかったね」
「木場……」
木場がこちらへと駆け寄ってそう一誠に言い放つ。
色々と言ってやりたいこともあるが、とりあえずまずは―――
「……お前のことすごく心配してたぞ、部長も皆も」
「ごめん、でも僕は……」
「分かってるって……仇なんだろ?」
「……うん」
イリナもゼノヴィアが何も言わないところを見ると、色々察してくれたらしい。
とりあえずは、木場と戦闘……なんてことは避けられただけでも幸いなことなのだが、今この場所は敵のアジトのど真ん中、気を抜いていられる状況じゃない。
「おそらくここに盗まれた聖剣があるはずだ。まずはそれを見つけ出さなくては……」
「手分けして探すのは危険よ」
「分かっている。グレモリーの『騎士』、だったか?こちらも不本意だが勝手に動き回られては困るので―――」
『ほぉ、下級悪魔に人間か……面白い組み合わせだ』
「「「!?」」」
低く冷たくそれでいて重い声。
上方から降ってきたその声の方に即座に視線を向けると、そこには天井の一角を覆うように広げられた6枚の黒翼が視界に移りこんだ。
同時に感じたこともないほどの圧倒的なプレッシャーがビリビリと一誠の全身に響いた。
「堕天使、コカビエル……っ」
「こいつが!?」
大戦を生き抜いた堕天使幹部―――レイナーレとは比べ物にならないほどの力と威圧感を感じる。
コカビエルは、自信を見据える4人を見て、見下すように嘲りながら天井付近からゆっくりと床に降り立つ。
「面白い余興だ、バルパーには褒美をやらんとな」
ギロリとイリナとゼノヴィアの手にある聖剣に目を向けたコカビエルは、不気味な笑みを浮かべる。
「まさか、協会もここまで阿呆だとは思わなかったぞ?この俺を相手にこの程度の輩を送り込んでくるとは……とうとう焼きが回ったらしいな。これでは聖剣をもらってくださいと言っているようなものだ」
「何……ッ」
「落ち着いてゼノヴィア!」
挑発的なセリフだが、どうみてもこちらを見下しているが分かる。だがライザーのような見下し方とは違う、それ相応の実力が伴っている。
自然にソニックアローを握る手に力が籠りながら、一誠は頭上を見上げたまま構える。
「ほお、やる気か?面白いぞ、俺を堕天使幹部と知って、立ち向かうか人間」
「やらなきゃ殺すんだろ……ッ」
一誠が戦闘態勢に入ったのを見て、イリナとゼノヴィア、木場も剣を構える。
4人の様子にコカビエルは、頬が裂けるように見える程に口角を歪め、腕を広げる。
「ククク、暇つぶし程度には丁度良い。少しこの俺が遊んでやろうッ!」
「足手纏いにはなるなよグレモリーの!!」
「それはこっちの台詞だよ!」
「もうっ、こんな時に喧嘩しているんじゃないわよ!!」
最大の敵が一誠の前に立ちはだかる。
堕天使アジトでのコカビエル戦は省略しようと思います。
次は、一誠達がアジトに襲撃してから数時間後の、リアスの視点に移動します。
次話もすぐさま更新致します。