三話目の更新です。
一誠の体にある異変が起こった一方、リアス・グレモリーが現在いる駒王学園ではコカビエル達との熾烈な争いが繰り広げられていた。
バルパーによって統合されてしまったエクスカリバーを持ったフリードと聖魔剣に目覚めた木場と隠し玉であるデュランダルを出したゼノヴィアとの剣戟音が校庭に響き渡る。
リアスや朱乃、一樹は魔力弾でコカビエルに攻撃を仕掛けるも、コカビエルは最初こそ興味を示してはいたが、今や歯牙にもかけてはいない。
木場とゼノヴィアは時期にフリードを倒すことができるだろう。
だがコカビエルに対する対抗手段がない。―――今の一樹には原作の一誠のようなギフトも意外性もない。現に、赤龍帝にも関わらず路傍の石ころのように無視され興味すら示されていない。
「クソォ!!」
何故、何故、ここまで差がある。
何が足りない!?そう一樹は必死の形相でコカビエルを睨み倍加のカウントの遅さに苛立ちながら、焦燥する。
このままじゃ、ヴァーリがコカビエルを回収する前に殺されてしまう。
今、コカビエルが何の手出しをしてこないのが不思議なくらいなのだ。
「貴方!私達を嘗めているの!?」
コカビエルを見据え叫ぶリアス。
その声にハッと気づいたのか、コカビエルが今までリアス達の攻撃を無言で捌くだけだったコカビエルがリアス達に視線を向け、苦笑する。
「いや、そんなつもりはなかったのだがな、まあ若手の悪魔にしてはやるようだが俺を相手取るには些か経験が足りない」
「……くッ!なら何で―――」
「攻撃してこない、か?」
リアスの言葉に被せるように言葉を挟むコカビエル。
「あの人間を待っているんだよ、アレは貴様の所有物だろう?」
「イッセーは物じゃないわ……ッ」
「そんなことはどうでもいい。俺はアレとの闘争を望んでいる、お前達とアレが組めば貴様らももう少しマシにはなるだろう?」
アレ、とは一誠のことだろう。
まだこの場に来ていない、特異な力を持つ人間。―――そして一樹にとっては主人公だった少年。
「だが、ここには来ないという事は俺と闘う事に臆した、と思っても良いな。くくく、ある意味で正しい判断だな、生あってこその闘争だ」
一誠が逃げた。
そんな事があるはずがない、と思わず感情的に叫びそうになるリアス。彼女の知っている一誠は、諦めが悪く、おバカで、正直で、どこまでも優しく、仲間思いな人間なのだ。
だからきっと一誠は来る。
信じているからこそ、リアス達は今、諦めずに戦えているのだ。
「イッセー君は逃げたりするような人じゃない!!」
「ぐえぇっ!?」
コカビエルの前に、柄だけになったエクスカリバーを持ったフリードが飛んでくる。肩から腹まで切り裂かれている所を見ると、既に戦闘不能と見てもいいだろう。
砕かれたエクスリバーを見て、取り乱し始めるバルパーを横目で見た後に、フリードを切り裂いた木場に視線を向ける。
ゼノヴィアと並ぶように剣を構えている木場、彼の手の中にある聖魔剣は彼の怒りを表すかのように聖と魔のオーラを放出させていた。
「彼はどこまでも真っ直ぐなんだ……どんな時でも諦めない。そんな彼が臆病風に吹かれて逃げるなんてありえない!」
「そうだな、アイツはバカだ。バカ正直な奴だ、だからこそ信じてしまうんだろうな。こんな状況でもな」
ゼノヴィアも木場に同意するように笑みを漏らしながらデュランダルを構える。
フリード・セルゼンが敗れた今、残るはコカビエルとバルパーのみ、数では圧倒的に勝ってはいるが、相手は堕天使幹部。
そう簡単には倒れてはくれないだろう。
とりあえずはリアス達の方に移動し、作戦を練ろうと考えていた木場だが、バルパーが突然の声を上げた事からその思考を中断させられる。
「―――ありえんッ、反発し合うふたつの属性が合わさるなぞ……そんなことはそのバランスを司るもが……そうか!分かったぞ!!それならば説明がつく!!つまり魔王だけではなく―――」
どこか混乱したように言葉を吐きだし始めるバルパー、その様相にこの場にいる面々が困惑した表情を浮かべた直後―――バルパーの腹部にコカビエルが生成した光の槍が突き刺さっていた。
ゴボリと口から大量の血を吐きだしたバルパーは信じられないとばかりの表情で、自身の腹部を刺したコカビエルを見るが―――
「バルパー、お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのもその優秀さが故だろうが……俺はお前がいなくても別にいいんだ。最初から一人でやれる」
そのまま槍を引き抜かれ、地面に叩き付けられるバルパー。咄嗟に木場が駆け寄るが、堕天使幹部が生成した強力な光力を宿す槍を食らったせいか、既に絶命している。
亡骸となったバルパーを見下ろした後、周囲を見て軽いため息を吐いたコカビエルはその手に巨大な光の槍を生成した。
「………終わりにするか。ここにいる全員を殺せばサーゼクスも出張って来るだろう」
瞬間、押し潰されそうな重圧がリアス達を襲う。
本気の殺気―――その途方もない重圧に一樹は、混乱した。
―――展開が違う。
ここは赤龍帝の一誠にギフトを促してくるはずなのに……。
「あ、ああああああああ……」
自分が成長してないから、皆が死んで、自分も死ぬ。足がガクガクと震え、歯がカチカチと鳴り、心臓が飛び出しそうなほど鼓動する。
死にたくない、怖い。
「祐斗、イッセーは諦めなかったのね?」
「ええ、諦めませんでした」
「……なら、私達も諦めたら駄目でしょうね」
「ぁ……」
そんな声が聞こえ、思わずリアス達の方に顔を向けてしまう。
一樹の視界に映ったリアス達は……諦めてはいなかった。依然として瞳に闘志を燃やし、しっかりと二本の脚で立ちコカビエルを睨みつけている。
「ええ、部長。諦めるにはまだ早いですわ」
「……頑張ります」
「わ、私も!」
「……何で―――」
こんな絶望的な状況なのに、何で誰も諦めていないんだ。普通なら死を覚悟してもおかしくはないだろう?なのに何で―――。
未だ立ち向かおうとするリアス達を理解出来ないように見ていた一樹だが、そこで彼は彼女たちの心の支えとなっている男の存在に気付いた。『イッセー』、原作でも何時でもリアス達の心の支えとなって一緒に戦ってきた。彼がいたからどんな障害でも乗り越えてこれた。
僕は、必要、ないのか?
『貴方は貴方よ。イッセーにも誰にもなれないわ。今のアナタに言える事はそれだけ』
リアスに言われた言葉が、頭の中で何度も何度も何度も何度もリピートされる。一樹にとってあの時の彼女の言葉は今の自分を否定されているように聞こえたのだ。
『BOOST!』
無意味にカウントを刻んでいる左腕の神器を抱えるように抱きながら、その場で蹲る。
情けなくて涙が出てくる。
こんな所で終わってしまい、リアス達のなんの役にもたてなかった自分に……。
これでは、なんにも変わらない。
これじゃあ、自分がいる意味がないじゃないか……。
兵藤一樹という一人の道化が増えただけ……これまでやってきたことも全て原作を改悪してきただけ、どっちにしろ主人公なんて、なれなかった。
呆然と地面に座り込んでしまった一樹。完全に戦意喪失してしまった彼を一瞥したリアスだが、攻めはしない。これほどの存在に立ち向かえというのも無理な話なのだ。
心が折れたってしょうがない……。歯噛みしながらもコカビエルに意識を向け魔力を集めると、コカビエルも意外そうな表情を浮かべた。
「ほう、これほどの差を見せられてまだ向かってくるか。少し貴様らを侮っていたかもしれないな」
そう言い、光の槍を掲げるコカビエル。
身構えるリアス達、投擲されようとする巨大な光の槍―――だが―――
「……!……来たか」
「え?」
投擲されようとしていた槍は寸でのところで止まった。身構えていたリアス達は戸惑いの表情を浮かべたが、コカビエルはそんなリアス達を無視し、狂喜の笑みを浮かべ校門の方に振り返る。
そこには―――
「よお」
凶暴な笑みを浮かべた一誠の姿がそこにあった。
イッセーが来た!―――彼の姿を捉えた彼女らはそう思っただろう。だが彼の表情と纏う雰囲気を見て、表情を曇らせる。短い間だが一緒にいたゼノヴィアですら感じとった異変。
彼はこんな禍々しい雰囲気じゃなかったはずだ。小猫の後ろにいるアーシアは、見た事のない一誠の殺意に満ちた目に怯えるように肩をすくませる。
「決着をつけようぜ、コカビエル」
リアス達を無視し、バックルを出現させる一誠。彼の手に持たれていたのは、黒いオレンジロックシードと黒いレモンエナジーロックシード。
「くくくはははははは!どうやったかは知らんが!随分と様変わりしたじゃないか人間!!いいだろういいだろう!面白くなってきたぞ!!」
「殺す」
【オレンジ!】【レモンエナジー!!】
両手に持ったロックシードの錠前を同時に外し、バックルに嵌め込む。その瞬間、ロックシードから黒い波動が放射状に広がると同時に、彼の頭上から黒いオレンジと黒いレモンのアーマーが出現する。
「変身」
【オレンジアームズ!花道オンステージ!】【ジンバーレモン!ハハ―!】
カッティングブレードを傾け、頭上で漂っている二つのアーマーが融合し、禍々しいオーラを放つ黒色のアーマーが一誠の体に展開される。
【ジンバーレモンアームズ】ではなく【ブラックジンバーレモンアームズ】に変身を果たした一誠は、何時ものように構えを取らず、肩に無双セイバーを担ぎコカビエルを見据えた。
「黒い、鎧武……?」
「イッセーくん……」
リアスには訳が分からなかった。
ただ言えるのは、一誠に何かがあった事、そしてこのまま彼にコカビエルと戦わせるのはマズイと感じた事。
「イッセー君!僕達も―――」
「いらねぇ、足手纏いだ」
「……っ」
ピシャリと彼らしくない冷たい言葉でそう返されて思わず息を吞むリアス。他の面々も同様に今まで見た事のない一誠の姿にどう反応していいか分からない程に言葉を失っていた。
ゆっくりとコカビエルへと歩き出した一誠、その最中彼の脚に先ほど木場とゼノヴィアが倒したフリード・セルゼンが当たる。
「あぁ?……チッ」
苛立つように舌打ちをした彼は、そのまま足を振り上げ、気絶しているフリードを蹴り飛ばした。これには流石の木場も声を上げた。フリードは畜生だ、だがそれを抜きにしても戦えない相手を足蹴にするなんて―――。
「イッセーくん何を!?」
「邪魔なものどかして何が悪いんだ?こいつは敵だろ?お前が憎い神父だろ?なら構わねぇだろ」
「なっ!!?」
首を後ろへ傾けるように背後を向いた一誠に木場は、正体不明の悪寒を感じる。
なんだ……これではまるで別人じゃないか。一体、一誠に何が―――。そんな事を考えていると、コカビエルが翼を大きく広げ、刀を肩に担ぐ一誠目掛け、高速で落下し始めた。
「イッセー!」
声を上げるリアス。だが一誠は、その場から動かずに、乱暴に無双セイバーを両手で握り、コカビエルが落下と同時に振るった光の槍と合わせるように薙ぐ。
「ハァァァ!!」
ガキィィィィン、と強烈な光と炸裂音が校庭中に響きわたり、木場の視界を奪う。
視界が回復すると、彼の視界にはコカビエルとつばぜり合い一誠の姿。
「何度も何度も……同じ技が通じると思ってんじゃねぇよ」
「そうだ、これだ!これが俺の求めた戦いだ!!」
一誠に無双セイバーを押し込まれながらも、笑みを絶やさないコカビエル。そんな彼が不快と思ったのか、一誠はさらに無双セイバーを押し込み、コカビエルの肩に食い込ませる。
「笑うな」
「こいつ……!?」
異常に力が上がっている。少なくとも堕天使幹部である自分が圧倒されるくらいには……ッ。
無双セイバーを押し込まれた肩から血が流れ刃が赤く染まる、苦痛に表情を歪ませるコカビエル、その表情を見た一誠はさらに力を籠め、そのままコカビエルの肩から右脇腹までを浅く押し斬った。
「ぐっ……」
「どうしたよ。防戦一方かよ……もっと来いよ……ぶっ殺してやる」
「はははは!!これほどとはなぁ!!」
傷口を抑えながら右手に光の剣を出現させ斬りかかる。
―――予想外には強くはなっているが、負ける要素はない、パワーでは勝っていたとしても他の要素、経験では圧倒的に勝っているのだ。
鋭角な刃へと変化させた翼を同時に操り、一誠へと襲い掛からせる。
しかし、一誠はコカビエルの振るった光の剣を無視しそのまま喉への強烈な刺突を繰り出していた。
「!」
殺意に満ちた遠慮のない攻撃―――ソレを翼で防御するコカビエルだが、次に待っていたのは彼が繰り出した拳だった。首をガードした黒翼が視界を遮った瞬間を狙って繰り出された拳はコカビエルの顔を抉るように打ち抜いた。
「ガッ……」
「俺を、笑ってんじゃねぇ」
怯んだ拍子に光の剣を取り落してしまった彼の長髪を掴み、そのまま顔面に遠慮のない膝蹴りを何度も叩き込む一誠。黒い鎧に堕天使の返り血が飛び散っても尚彼はコカビエルへの攻撃をやめない。
圧倒的……いや、これは蹂躙と言ってもいいほどの一誠の猛攻の残虐さに、アーシアは思わず眼を背けた。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
顔中血だらけにしながら咆哮したコカビエルは、一誠の手を振り払いながら一旦体制を整えるべく空高く飛び上がる。
肩で息をしながら、一誠を見たコカビエルの目は血が滲み赤色へと染まっていた。
「はははは!!何だ、何だ貴様はァ!」
コカビエルの喜びと恐怖の織り交ざった声を無視し、一誠は無双セイバーから銃弾を放つ。銃弾を空中で躱したコカビエルは、空中にいる限り一誠は昇ってこれないと考え、手を掲げ、巨大な光の槍を展開した。
そのあまりの多さにリアス達は絶句する。
あれほどの大きさの槍が放たれたら、自分達もろとも駒王学園が崩壊しかねない。
「流血とは何百年ぶりか!!いいぞ!もっと闘争を楽しもうじゃないか!!」
このまま放たれれば一誠だけではなく、ここにいる全員が死ぬ。
思わず、一誠に視線を向けてしまうが、当の彼は迎撃するつもりだ。彼にはリアス達の姿は眼に入ってはいない。
「どうしてしまったの……イッセー」
普段の彼ならば、アーシアや皆を守ろうとするのに―――今の彼は―――
憎しみだけで戦っている人形のように見えた。
若干、劇場版とは差異がありますが、『ブラックジンバーレモン』です。
次話もすぐさま更新致します。