取り敢えず二話ほど更新致します。
今回は『揺るがぬ心 1』は、一樹とやさぐれドライグの話です。
何時かの保持者は力を求め。
何時かの保持者は金を求め。
何時かの保持者は権力を求め。
何時かの保持者は闘争を求め。
だが、その繰り返しの中では常に、俺という力だけが求められていた。まあ、当然だろう俺の力は神滅具と称される唯一無二の絶対的な力を発揮する力なのだから……。
神は何のために俺を神器に閉じ込めたのだろうか。
何のために人間に使われる存在に閉じ込めたのだろうか。
分からない、何か思惑があったのかは知らないが、その思惑は決して叶う事はないだろう。力ほど人間を惑わすものはない。何時だって、力を持った非力な存在は大きすぎる力に吞み込まれて来た。
全てが飲み込まれた訳ではないが……それもごく少数だ。
そして次の人間が俺の保持者となった。
今度の主は他の保持者とは何処か違った。目に見える価値よりももっと優先していたものがあった。
今度の保持者は自身の存在の在り方を求めたのだ。
ドライグが目覚めた。
赤龍帝の籠手の保持者である一樹にとっては喜ばしい事には違いないが、目覚めたドライグは一樹の思っていたようなドライグではなかった。
コカビエル襲撃事件からそう日が経っていない夜、一樹はリアスにも内緒でドライグとの対話を試みていた。彼はどうしてもドライグに問い詰めてみたいことがあったのだ。
「お前は……何時から目覚めていたんだ?」
自身の命が危機に瀕しているにもかかわらず、ドライグは頑なに力を貸してくれなかった。その理由が聞きたい。
『合宿の時からだ』
「……っ。何でもっと早く出てこなかった?」
フレンドリーさのかけらも感じさせない口調、そして言葉の端端から感じとれる得も知れぬ違和感。それが一樹をどうしようもなく不安にさせる。
『イッセー』の時のドライグもこんな感じだったのか?……いや、コイツはもっとフランクな性格だった気がする
『必要があったからだ』
「必要……?」
『オレの名前を知っている、赤龍帝の能力を知っている、それだけでお前はこれまでの保持者とは違う異様な存在だった。だからオレはお前を見定めていた……いや、ここは観察していたと言った方が正しいな』
「観察………僕が死にそうになった時も、お前は黙ってみていたのか!?」
『そうだ』
「もし皆が死んだら―――ッ」
『お前は自分のことしか考えていないだろう』
あまりにも冷たい声音で想定外な事を言われ動揺する一樹にドライグはやや確信めいたように唸る。
「な、何で……」
『お前の行動はあまりにも自己中心的だ。そしてその行動原理の根幹にあるのは、自分ではない赤龍帝への対抗意識』
ドライグの名を全て知っている事。
コカビエルが来るのを予知していたような言動をしきりに繰り返していた事。
そしてイッセー……。
『輪廻転生か未来予知か……未来予知ならば、コカビエルの時にあのような醜態は晒さなかっただろうから除外……有力なのは輪廻転生ってところだが……それでは俺の事を知っている理由にはならない。少なくとも俺はお前を知らないからな……だからこれも微妙に違う……生まれ変わりと言うならば、お前はあまりにも成長しない……』
「………っ」
『残る可能性は……。……………兵藤一誠の存在だ』
「あ、アイツがどうしたんだ……」
突然一誠の事を引き合いに出され思わずムキになってしまう一樹。一方のドライグは一切動揺せずに考えを巡らせながら、一つの推測を一樹に投げかける。
『お前は迂闊すぎる。俺が言うのもなんだが、アレでは兵藤一誠が俺と何かしらの関係があると言っているようなものだ……』
「ッ!!?ち、ちが――――」
『お前がリアス・グレモリーに問い詰められた時、なんと言った?アレが兵藤一誠が本来の赤龍帝の籠手の保持者という疑問を俺に抱かせた。なによりお前の動揺が神器を通じて流れ込んで来るお前の感情がそれを物語っている。……兵藤一樹……お前は何処から来た?何の為に俺を手に入れた?』
「どっ―――!?」
【………違うんですよ……部長、僕は……赤龍帝じゃなくちゃいけないんだ】【違う!!!】【僕はッ、ライザーも戦車も騎士も兵士も、倒す、はずだったんだ……】【赤龍帝なら……イッセーにできたことなら、僕ができなくちゃ、駄目なんだ……】【僕にとっての赤龍帝は、アイツなんだ……アイツがした通りにやらなくちゃ僕は……僕は……】
あまりにも不用意すぎる言動。
それにいまさらながらに気付いた一樹は、自身の左手の籠手の宝玉を睨み付けながら子供のように叫ぶ。
「何処も何も僕は兵藤ッ一樹だ!僕はリアス・グレモリーの悪魔でッ、赤龍帝で……」
『なら兵藤一誠は何だ……?』
「ッ……僕が知るか!?」
一誠の持っている力は一樹も知らない。ただ強く、そして原作の【イッセー】の役割を補うように物語に介入してくるイレギュラー。今の一樹にとってはそれだけの存在に過ぎない。
『……兵藤一誠の力はまさしく不気味の一言に尽きる。空間に現れる果実、鎧、変身、フェニックスにすらダメージを与える光力や魔力とも違う謎のエネルギー。俺から見ると……兵藤一誠自身の伸びしろが尋常じゃないほど高い。悪く言うなら、人間離れしているというべきか……長い時を生きてはいるが、あんな人間は見たことはない』
「結局、何が言いたいんだ……」
『………もし兵藤一誠が俺と何かしらの関係があるならば……兵藤一誠は元々あの力を持っていなかったんじゃないか?……そもそも、お前が俺を手に入れた時点で既に起こっていたんだろうな……イレギュラーというものがな』
「そんなこと―――」
『お前が抱いている兵藤一誠に対する敵対意識。リアス・グレモリーは分からなかったようだが……』
ドライグはやや確信めいたように低い声で次の言葉を発した。
『……お前の居る場所には兵藤一誠がいた。そしてどうやったのかは知らないが、お前が兵藤一誠の役割を奪い取り、赤龍帝である俺までを手中に収めた……だが、蹴落としたと思った兵藤一誠はまだいる―――お前が選んだ手段が、自身に兄である一誠に対して異常なほどの敵意を持ち、追い詰める事だった……人間だよ、お前は……どうしようもなく俺が見てきた人間そのものだ……』
「ち、違う!僕は奪ってなんか―――」
『動揺が神器を通して伝わって来るぞ』
確かに原作の一誠はあんな訳の分からない力は使ってはいなかった。赤龍帝の……ドライグの力で戦っていた。だがそれがどうした、今、赤龍帝を持っているのは自分だ。
『別にお前を責めたりはしない。だが―――』
「一誠の事はどうでもいい!お前の主は僕だ!!今の主は僕なんだから僕の言う通りにしていればいいんだ!!黙って僕に力を貸せ!!僕の神器なんだろ!?」
『…………………………分かった』
静かになった神器を解除し、額の汗を拭った一樹は、重いため息を吐きながらベッドに横になる。異常な程に汗をかいてはいるが、今はどうでもいいことだ。
なにせドライグガ目覚めたんだ。禁手は修行次第でどうにでもなるし、ドライグの『推測』も他の奴に話しても信じてもらえるはずがない。
「赤龍帝は……僕だ……僕のものだ……うるさい、黙れ……口答えするな……」
力だけを求めるか……。
所詮は主と変わらない。意外性も何もない、今代の保持者の末路は力に溺れて死ぬか、それとものたれ死ぬか……。
まあ、そんなことはどちらでもいい、どうせ俺は身動きのできない器に閉じ込められているのだ。今回も何時もと変わらず傍観するとしよう、どちらにしろ今回の担い手は早死にしそうだ。力の使い方は分かっているようだが、他の部分があまりにも貧弱。
今代の白いのの担い手と比べると、天と地ほどの差がある。アレは歴代でもトップクラスの潜在能力を持っていると見ても良い……コカビエル相手に立ち向かう気概のないような様じゃたかが知れている。
悪魔にはなっているようだが、基礎力はそこらの下級悪魔となんら変わりはないレベルじゃ話にならない。
それに……機転も行動も全て、身の丈以上の事を為そうとする。
何者かの背を追うように、決まった答えを辿る様に、不自然な行動で周りを惑わす。
ライザーの眷属の時が最も分かりやすく、『戦車』相手に『兵士』がわざわざ不利な近距離戦を仕掛ける愚行。魔力での中遠距離攻撃で距離を取りながら戦うという手もあったろうに……。
まるでアレでは、自分の力量を理解していないバカの戦い方だ。
コカビエルの時に至っては、コイツはただただ怯えていた。コカビエルという強大な敵に対して恐怖し、戦いに挑もうとする仲間たちの後ろでただただ子供のように恐怖していた。
………そんな奴でも今代の担い手だ、死なない程度に力は貸すさ……だが、力に吞み込まれれば――――それまでだ。
だが、もし……もしだ。
俺が真に相棒と呼べる存在が、いたのなら……どういう風になっていたのだろうか。
聖書の神の思惑通りになったのだろうか、それとも今までと変わらずに使われるだけの神器だったのだろうか。
兵藤一誠が俺の相棒だったのなら……。
………。
どちらにせよ、俺には叶わない空想上の推論に過ぎないがな。
これまでのツケが回ってきた結果ですね。
兵藤一誠という可能性を、一樹に取られて若干やさぐれているドライグです。少し毒があるのもそのせいです。
後もう一話だけ更新致します。