兵藤物語   作:クロカタ

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二話目の更新です。


揺るがぬ心 4

 プール開きが終わった後、一誠は校庭で部員達を待っていた。

 楽しかった……と思う反面に、一樹が片付けの時にまで姿を現さなかったのが気になった。何がどうしたのか、それはイッセーにも分からない。

 

「……お節介って奴か……」

 

 一誠自身も分かっている。何が原因かは分からないが、一樹は自分を嫌っている事を。それでも一誠は双子の兄として接したいと思っている。……だからこそ、今は自分が出しゃばるときではない。時には距離を置くことも大切だと、部員の皆と一緒に居るようになって理解した。

 しかしどうにも落ち着かない面持ちで校門近くをうろうろしていると―――。

 

「やあ」

「……?」

「良い、学校だね」

 

 考えに耽っていたせいか、近くに人が来ている事に気付かなかった。声のする方に目を向けると、そこには人間離れした美貌を持つ少年がそこに居た。銀髪の頭髪、いかにも高い身長。普通ならば、ひがみこそしそうなものだが、一誠はその少年の姿を視界に捉えた瞬間に、思い切り後ろへ飛んだ。

 一誠の中に宿る力が、目の前の存在に対し凄まじい警鐘を鳴らしたのだ。

 

「誰だ!」

 

 明かに過剰とも思える程の警戒を見せる一誠に銀髪の少年は嬉しそうな笑みを見せる。好戦的とも思えるその笑みにいよいよマズいと感じた一誠は、人目もはばからずバックルをその手に出現させる。

 

「いい反応だ。俺の存在を感じとったか」

「誰だって聞いているんだよ!!」

「君と会うのは二度目さ、一度目は顔を見せていなかったか……」

 

 銀髪をかきあげた少年は、面白いとばかりに笑みを強めた。

 会うのは二度目、少なくとも顔を見るのは初めてだ。銀髪の髪なんて今までフリード・セルゼンくらいしか見ていない。

 ……いや、まだ一人いる。顔こそ見ていないが、コカビエルを倒したその後、光と共にやって来た圧倒的な強さでコカビエルを捻じ伏せた白銀の鎧を纏う存在が。

 

「は、白龍皇か……!?」

「正解だ、兵藤一誠。俺はヴァーリ、白龍皇のヴァーリだ。素顔で会うのは初めてだな」

「……ッ」

 

 どうする、こいつは恐らくコカビエルより強い。今の俺じゃ勝てる見込みは限りなく低い。かといって仲間達を呼んでも危険に晒すだけ……。

 

「やはり、残念だ」

「……?」

「お前を見る度にそう思ってしまう」

 

 何を言っているんだ。何を嘆いている。訳の分からない事をブツブツと呟いている白龍皇、ヴァーリに対し変身を試みようとしたその時、突然ヴァーリの瞳が鋭く俺の背後の空間を睨み付ける。さりげなく後ろを一瞥するが、そこには誰もいない。

 

「調べる気になったよ、あの日、お前達兄弟の姿を見て」

「何を……」

「兵藤一誠、お前はすごい。神器も何もない人間が一時とはいえ、コカビエルを圧倒したんだ」

「な、なんだよいきなり……」

 

 いきなり見ず知らずのイケメンに褒められ少し気持ち悪くなる一誠だが、当のヴァーリは本気で一誠を称賛しているようだ。褒められる分には嬉しくない訳ではないが、先程の殺気を考えると何処かうすら寒いものを感じざるを得ない。

 

「それに対して……絶望したよ。俺のライバルに成る筈の男の姿に……」

「ライ、バル……お前のライバルは赤龍帝ってことだろ、それじゃあ一樹が……」

「……兵藤一樹の話はどうでもいい。今日はお前に会いに来たんだ」

 

 ……アザゼルといい、余程自分に接触する輩は自分の力に興味が絶えないようだ。誰にも分からない力を誰が欲しがるだろうか、それとも調べたいだけかもしれないが、解剖されるのだけは御免だ。

 

「単刀直入に言おう。兵藤一誠、俺と一緒に来る気はあるか?」

「は、はぁ!?」

 

 唐突過ぎる勧誘、しかもなんの組織かも教えられていないという訳の分からない勧誘。……いや、もしかしてコカビエルと知り合いだったから堕天使陣営への勧誘かもしれない。

 これを受けたらリアスへの裏切りになってしまう。それだけは絶対に嫌だ。断りの言葉を放つ為口を開こうとしたその瞬間、ヴァーリがこちらの言葉を遮る様に口を開いた。

 

「直ぐに答えは返す必要はない。というよりまだ話す段階に至っていない……だが、しかるべき時にもう一度問う」

「……どちらにしろ断ると思うぞ」

「フッ……その時は―――」

 

 ヴァーリの目が細められ、身を刺すような殺気が一誠の身体に叩き付けられる。歯を食い縛りながら耐えていると、一誠の両側から二つの影が飛び出してきた。どちらも剣を持っている事から誰が飛び出したかを察した一誠は、慌てて両腕を伸ばしヴァーリ目掛けて突撃しようとしていたゼノヴィアと木場を抑える。

 

「イッセー君何を!?」

「服が伸びるっ、おろしたてなのに……ッ」

「落ち着けって!こんな所でドンパチするわけにはいかねえだろ!」

 

 ここが昼間の学校だって事もあるし、相手があの白龍皇だということもある。

 幸い、ヴァーリは訳の分からない事を言う奴だが、話して分かってもらえない奴じゃない。

 

「………その判断は懸命だ、兵藤一誠。そこの剣士達は確かに実力者だが、コカビエルごときに勝てなかったようでは俺には勝てない」

「……くっ」

 

 凄まじい殺気を放っていたと思えないほどの朗らかな笑顔でそう言い放つヴァーリに苦々しい表情を浮かべる木場とゼノヴィア。一誠自身も分かっている、今の実力じゃヴァーリとは戦えないと。……歯噛みしながらも二人を抑えた手を離しヴァーリの方を睨み付けるも、当のヴァーリは何処吹く風の如く薄らと笑みを浮かべているだけ。

 

「あまり好き勝手にしないで欲しいわね。白龍皇」

 

 一誠の背後からの声。振り返ると其処にはリアスと、朱乃とアーシアに小猫と……一樹が居た。リアスの表情は不機嫌だ、当然だろう。自分の領域に勝手に足を踏み入れた上に彼女が大事にしている一誠に接触していたのだから。

 

「此処にはアザゼルの付き添いで来日しただけだよ。後、兵藤一誠に興味があって此処に来た……リアス・グレモリー、貴方なら分かるはずだ。兵藤一誠がどれだけ稀有な存在かをね」

「……ッ!」

「悪魔の連中はそれほど重要視していないだろうが、いずれ喉から手が出る程に欲しい存在に成り得る」

「貴方に言われなくても分かっているわ」

「………二天龍と称されたドラゴン『赤い龍』と『白い龍』に関わった者は碌な生き方をしない。……出来損ないの赤龍帝に構っている暇はないと思え」

「ッ!貴方ッ!!」

「忠告したぞ」

 

 最後の言葉はリアスではなく一樹に向けて言い放ち、ヴァーリは踵を返してその場を去っていく。ヴァーリの視線を向けられた一樹は表情を青褪め、リアスは深刻そうに額を抑えていた。

 

「イッセーさん……」

「俺は大丈夫だよアーシア……」

 

 こちらへ寄り添ってきたアーシアが不安気に一誠の手を握って来る。

 微かな温もりを感じながらも、先程のヴァーリの言葉が妙に気になって仕方がなかった一誠であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どういうことだ、ヴァーリ』

「……兵藤一誠はこっち側の人間だ」

『だからと言って、このタイミングはないだろう』

 

 駒王学園からの帰り道、ゆっくりとその歩を進めながら、ヴァーリが兵藤一誠に対して放った言葉について思考を巡らせていた。

 

『確かにあの力は魅力的に思えるが、今がその時じゃない』

「……俺が赤龍帝を見た時、何て思ったか分かるか?」

『どうした藪から棒に?』

 

 赤龍帝と白龍皇の神器が共鳴したのか、その使用者であるヴァーリの戦意が高揚したのだ。定められた闘争、それを感受したヴァーリは、狂喜しながら自身のライバルに成るであろう相手を見定めた瞬間―――。

 

 まるで冷水を掛けられたように、高揚が冷めてしまった。

 兵藤一樹、あれはただの悪魔になった一般人だ。才能もない、大して強くもない。神器のみに頼ってもがいているだけの愚鈍な存在。

 

「ガッカリしたよ、こんな奴が俺のライバルなんてね」

『……言っては悪いが、普通の人間が神器を持つと大抵ああなるぞ』

「だとしても、俺は高望みし過ぎた。いや……し過ぎていた、と言うのが正しいな」

 

 アザゼルが調べた兵藤一誠と兵藤一樹の過去、それはヴァーリにとっては忌避すべきものだった。懐からアザゼルが隠していた資料を取り出して、それをもう一度目に通したヴァーリは、自嘲気味な笑みを浮かべた。

 しかしアルビオンから見れば、それは笑っているようで笑ってはいなかった。瞳には殺意すら感じられる程の冷たいものが宿っていたからだ。

 アルビオン自身も分かっている、ずっと一緒だったから。どれだけ兵藤一樹の行いがヴァーリにとってそれだけ苛立たしいものだったかを。

 

「アザゼルが見せたがらない訳だ」

 

 アザゼルは気を使ったようだが、読んでしまった手前こう思わざる得ない。兵藤一樹の行いは、傍から見れば『酷い』と言えるものだろう。だが他人から見ればそれだけだ、それに関係した者、その当事者以外は全て第三者の感想でしかない。

 それは真の共感とは言えず、ただの同情にすぎない。だが同じ目にあった者ならばそれが痛い程分かる。過去、ヴァーリが肉親から受けた虐待にも等しい行いを受けたヴァーリなら―――。

 

 そしてアザゼルと言い【親】に拾われたヴァーリとは違い兵藤一誠は……。

 

「虫唾が走るよ」

 

 資料に張られている兵藤一樹の顔が父に凶行に走らせるように諭した祖父の顔に重なる。徐々に資料を握るその手に力が籠められ、魔力が漏れ出している事に気付かぬままヴァーリにアルビオンが焦りのこもった声で声を投げかけたおかげでようやく我に返る。

 

「……すまない」

『あまり熱くなるな』

 

 兵藤一樹への興味は完全に消え失せた。向上心のない輩より、自分と対等に成り得る可能性を秘めた男の方がライバルとして相応しいと思えたからだ。

 

『……そう嘆くな、俺達は所有者を選べない。赤いのは気の毒だが、な……』

「お前には感謝している」

 

 くしゃくしゃになった紙束を投げ捨て塵に変えたヴァーリは小さなため息を吐きながらも、橙の光に照らされていく道をゆっくりと歩いて行くのだった……。




ヴァーリが一樹と一誠に会った時の反応を顔文字で表すなら……。

(´・ω・`)ショボーン<俺のライバル……。
(*´▽`)パァァ<兵藤一誠、強いなッ。

こうなります。


 そりゃ父親と同じような事を自分のライバルが兄相手にやっていたらそりゃヴァーリだって苛々します。


次話もすぐさま更新致します。



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