兵藤物語   作:クロカタ

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お待たせいたしました。
丁度、一か月ぶりの更新です。

今回は三話ほど更新したいと思います。


揺るがぬ心 6

 授業参観後、驚くことにリアスの父親と魔王であるサーゼクス・ルシファーが一誠の家に泊まりに来た。もう色々な段階を飛ばしてきた、リアスの家族の行動力に一誠は驚きっぱなしだった。

 

 特にサーゼクス・ルシファーから変身のお願いを聞いた時は「魔王たってのお願いなら聞かなくては……」とばかりに異様なやる気を見せ、ジンバーアームズまで変身をサーゼクス達に見せた。反応は予想以上のもので、すごく喜んでくれた。

 

 ―――とまあ、授業参観の話とか色々な話で盛り上がりつつも、波乱万丈な夜が過ぎて行ったのだが―――

 

 

 

 ―――一つ気になる事を聞いた。

 アーシア以外のもう一人の僧侶についての事、話によればその能力が危険視され、リアスでは扱いきれないと判断されたため今の今まで封印されていたらしい。

 

「これが、もう一人の『僧侶』が封印されているという……?」

「ええ、一日中ここに住んでいるの。一応深夜には封印も解けて旧校舎内だけなら行動もできるんだけど……中に居るこの子自身が拒否しているんです」

「拒否、ですか?」

 

 ……相当、心に傷を負っていると見える。

 そうだとしたら、自分達が助けてやらなければならない。

 

 現在はその『僧侶』が封印されているという扉の前にグレモリー眷属達と共にいた。呪術的な刻印とか色々な札とか張られていかにも、『封印』という感じがする扉を前にして一誠は、密かにこの中に居る『僧侶』に対しての心構えを決めていた。

 

「―――さて、扉を開けるわ」

 

 扉の前に立ったリアスが呪術的な刻印を消し去り、扉を開け放つ。

 

 

『イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

「な、なんだ!?」

 

 とんでもない絶叫に驚く一誠だが、彼の一歩前にいたリアスは、その声に大きなため息をつくと遠慮なしに部屋の中へ入っていく。続いて苦笑した朱乃も入っていく。

 一体、どういうことだろうか……。

 

「……心に傷を負って……?」

「イッセー、君がそれを言うと……」

 

 ゼノヴィアが苦笑して一誠に何かを言いかけるが、失言とばかりに口を噤み、そのまま部屋の中にも入っていく。……取り敢えず、後ろから小猫に急かされたので中に入ってみよう。

 

『やですぅぅぅぅぅぅ!ここがいいですぅぅぅぅぅぅぅ!外に行きたくない!人に会いたくないですぅぅぅぅ!』

 

「!?」

 

 アーシアとゼノヴィア、一誠は首を傾げ中に入っていくと、予想を裏切るようなファンシーな部屋の一角に棺桶の様なものが見えた。まるで吸血鬼の映画に出てくるような棺桶に疑問に思いつつ部屋の中を見渡すと、金髪の少女の姿が視界に映る。

 リアスと朱乃の前で震えている小猫と同じ位の身長の女の子。駒王学園の制服に身を包んでいる所を見る限りこの子が『僧侶』なのだろうか?

 

「女の、子」

「いいえ、見た目は女の子に見えるけど、紛れもない男の子よ」

「………男……?」

 

 一瞬、耳を疑ったが、確かにリアスは目の前で子犬のように怯え震えている少女が男だと言った。

 

「まさか、心に深い傷を負って……そのせいで女の子の恰好を……?」

「イッセー君、違いますよ」

 

 何処か鬼気迫ったような表情をしている彼に気付いた朱乃が微笑ましそうに笑みを浮かべている。そんな事も露知らず一誠は目頭を抑えながら震える少女、ではなく少年に近づいていく。

 

「女の子の恰好をしてまで……つらかったんだな……」

「ひぇ!?」

 

 勝手に自己解釈したまま、少年の肩に優しく手を置いた一誠は若干涙交じりに語り掛けた。当の少年は訳も分からず驚いた声を出しながらアワアワと困ったように目を白黒とさせている。

 

 それを見かねたリアスは、苦笑いしながら声を掛ける。

 

「イッセー、この子は好きでその恰好をしているのよ?」

「……え?」

 

「ははは、イッセー君らしいね」

「……ただの勘違い」

「………」

 

 素っ頓狂な声を上げて後ろを振り向くと、リアスと同じく苦笑いしている木場とアーシア、朱乃。そして呆れたようなため息を吐いている小猫、部屋の外で無言で一誠を見ている一樹……。

 

「好きで、女の子の恰好してるの?」

「お、女の子の恰好の方が、かわいいから……ってそうじゃないですよぉ!こ、ここここの方はだれですかぁ!?」

 

 まさかただの勘違いとは……いやここは勘違いで良かったと思うべきだ。周りの反応からしてこの少年は、皆から大事にされている。この子自身もそういう悪感情には晒されていない。

 

「彼は兵藤一誠、私が保護している人間よ。イッセー、この子はギャスパー、ギャスパー・ヴラディよ」

 

 続いて新しく眷属になったゼノヴィア、アーシア、一樹について紹介する。

 その最中、ギャスパーと紹介された少年がチラチラとこちらに視線を向けて来る。

 

「ごめんな。変な勘違いしちゃって……」

「は、はぃ……」

 

 尻すぼみするように語尾が小さくなるギャスパー。気の弱い彼を驚かせてしまった申し訳なさから形容できないような表情を浮かべながら頬を搔いたイッセーは助けを求めるようにリアスの方へ視線を向ける。

 

「ギャスパー、ここから出ましょう?ね?もう貴方は封印なんてされなくていいのよ?」

「っ!嫌ですぅ!ぼ、ぼくは外の世界なんて無理なんです!怖い、外が怖い!僕が出てもどうせ迷惑かけるだけなんですぅぅ!」

 

「……な……」

 

 何だこの子は、異常な程に外と接することを拒否している。それをリアスが懸命に説得しようとはしているがあまり意味がないように見える。

 その様子に困惑するように顔を顰めた一誠に近くにまで歩み寄った朱乃が説明してくれる。

 

「彼は特別なんです」

「特……別、ですか?」

 

 朱乃の特別という意味を少し考えながら、一誠は再びギャスパーの方へ視線を向ける。

 拒否するがの如く体を震わせている彼と偶然目が合う。

 

 ―――その瞳は血のように真赤だった……。

 

 

 

 

 

 

「『停止世界の邪眼』……?」

 

 ようやく封印されていた部屋から部室へとギャスパーを移動させた一誠達。人目に晒されないようにダンボールを被ったギャスパーが居る点を除いては何時もの部室の中で、一誠達はリアスからギャスパーの『能力』についての説明をされていた。

 

「それって、なんですか?」

「そうね……簡単に言うと見た者の時間を止める『神器』よ。とても強力なの」

「……すごいですね」

「問題はそれを扱えないところ。それを理由にギャスパーは今まで封じられてきたの」

 

 力を扱えないからこその封印。

 

「あれ?でもそんな強力な神器を持って、しかも吸血鬼なギャスパーをどうやって下僕にしたんですか?たしか『悪魔の駒』ってそれぞれ、容量とか限度?みたいのがあるんじゃ……?」

「それは『変異の駒』という通常の駒と違う特殊な駒を使ったからよ」

 

 リアス曰く、多くの駒をつかわなくちゃ下僕に出来ない転生体を一つの駒で済ませてしまえる便利な駒らしい。でもそれは上位悪魔一人につき一体くらいしか持っていないから、もうリアスは持っていないとの事。

 

「でも問題なのはギャスパーの方なの。彼自身類まれない才能の持ち主で、彼の意思に関係なく『神器』の力が高まっていくみたいなの。将来、『禁手』にも至るとまで言われるほどに」

「禁手って……木場みたいに神器が一段階強くなるアレですか?」

「そうよ」

 

 木場の聖魔剣と同じように時間停止の神器が禁手になったら……少し怖い。下手すれば見る必要もなく全てを『停止』してしまう可能性だってある。

 

「貴方が今思っている事態も起こり得る可能性があったからこそギャスパーは封じられていたわ。でも私の評価が認められたため、今ならギャスパーを制御できるかもしれないと判断されたのよ。貴方と言う存在の保護と祐斗を禁手に目覚めさせたことが評価されたみたい」

 

 それでギャスパーを出す理由になったという事か。だが肝心のギャスパ―が外へ出ていくことを拒絶している。

 

「ぼ、ぼくの話なんてしてほしくないのに……」

 

 一誠の少し横でダンボールに閉じこもっているギャスパーは涙混じりの声でそう呟く。一誠は悩ましげな声を出しながらダンボール箱を見つめては首を捻る。

 

「……能力的には朱乃に続いて二番目、吸血鬼のハーフで神器も吸血鬼としての力も有しているし、人間の扱える真珠にも秀でているわ。でも……精神面がちょっとね……」

「……」

「イッセー?」

 

 どうにかして自信というのを持たせてあげられないだろうか。ギャスパーは決して部員たちに嫌われている訳でも疎まれている訳ではない、むしろ歓迎されてもらっている。それなのに彼がここまで外の世界と接触を断とうとするその理由は……それ以外の理由?

 

 なんだか自分にとって他人とは思えない一誠は、リアスの言葉が聞こえない程に考え込んでいた。その様子に少し驚いた表情を浮かべたリアスは、一誠を見て何かを思いついたのかポンと手を鳴らす。

 

「そうだわ。イッセー、ギャスパーの事、頼めるかしら?」

「えぇ!?」

「勿論、貴方だけに任せるつもりは無いわ、アーシア、ゼノヴィア、一樹、小猫にも任せるつもりよ。私と朱乃は三竦みのトップ会談の会場を打ち合わせをしてくるから、今は無理だけど……。それと祐斗、お兄様が貴方の禁じ手についての詳しく知りたいらしいから、ついてきてちょうだい」

「分かりました、部長」

 

 リアスから任されたギャスパーの世話(?)

 その意図は全く分からないが、一誠自身もギャスパーの事を気に掛けていたのだ。

 

「……いえ、任せてください!よろしくなっ、ギャスパー!」

「ヒィィィィィィ!?」

 

 情けない声を上げるギャスパーの居るダンボールを平手で軽く叩いた一誠は、ニッと明るい笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 アーシアもゼノヴィアも小猫も木場も朱乃もリアスも……全員が明るい感情を一誠とギャスパーに向ける中、ただ一人、一樹だけが無機質にその光景を見ていた。

 

 また、イッセーか。

 自分がいるのに、変わっていない。

 この空間のなかじゃ、自分はただの置物。

 何故。

 何故。

 

 お前は何処から来た。

 卑怯者。

 出来損ないの赤龍帝。 

 

「―――――――」

「……?一樹くん、今何か?」

「なんでもない」

「……何かあったら部長に相談するんだよ?」

 

 木場の言葉が耳に入らない。

 どうせ、どうせ、と自分に都合の良い訳をしてきた彼が向き合わなくてはいけない現実に押しつぶされかけていた。

 ドライグ、ゼノヴィア、ヴァーリに突き付けられた『現実』に一樹自身、少なからず納得してしまっているから。必死に否定しても、心のどこかではそれは只の良い訳だということも、言い逃れでしかないのは分かっているから……。

 

「――――なぁ」

 

 一誠への怨念は、諦めへと変わり、その諦めは―――。

 

 

―――うるさいなぁ―――

 

 

 最悪の方向へ向かいつつあった。

 





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