本日二話目の更新です。
フリード・セルゼンは心身共に腐りきった人間の屑である。
殺すことに快感を得、暴力を振るい悦に浸る。
そんな彼が教会という規律と信仰を重視した場所に収まるはずがなく、案の定抜け出した。様々な場所を転々としたその末に、レイナーレと言う堕天使に雇われることになった彼だが、思いの外レイナーレと言う存在はつまらないものだったことに加え、甘ったらしい聖女のお守りをさせられるという体たらく。
「ああ、つまらねぇ……。まっことほんっとにつまらないっすー、あーアーシアちゃんも逃げちゃったしなー、探せって言われちったけどぶっちゃけ面倒だし。適当言い訳つけてサボろーかなぁーオレマジ不真面目ちゃんだなー」
そんな彼は現在、町はずれの古びた教会内の聖堂前の長椅子に横になり不貞寝をしていた。
レイナーレとか、他の堕天使共が探しに出たなら最早自分は必要ない―――というか面倒くさいと判断し、サボっていたのだが―――
思ったよりもレイナーレ達が帰って来るのが遅い。
アーシアの脚ならそれほど遠くにはいけないはずなのだが……。
「おっかしーなー、もう言い訳の候補が100を超えてしまったのですよぉ!あー、もう地下の神父共もクソ真面目でつまんねーしなぁ!もうやることなくて暇ですわ!いっそ前あったクソ雑魚悪魔くんを惨殺しに行こうっかなーどうしっよっかなー!」
ヒャッハーとばかりに起き上がり、独り言を叫び始めるフリード。
彼の脳裏には先日、悪魔と契約を交わしていた人間を惨殺していた時に出会った、下級悪魔の恐怖に怯えた顔が映っていた。怯え、震え、恐怖―――その全てがフリードにとっては面白いものだった。
後から来たリアス・グレモリーが言っていた言葉から察するに……『カズキ』と言っただろうか。
「クソ悪魔が下等な下等な人間くんに怯えるなんてよぉ、面白すぎっ!次会った時は、ハリケーンミキサーでミンチにするしかないよね―――!」
ここまで全て独り言、彼は誰に何かを言っている訳ではなくただ喋っているだけ。意味何て最初から考えていない、なにせ、モラルも何もない狂人なのだから。
へらへらと笑いながら背もたれに背を預けたフリード。
すると、ドンッ!と教会の扉が勢いよく開かれる。『レイナーレ様、キターッ!オレマジアーシアちゃん探しましたよマジでー!』と叫びながらフリードが振り返ると、そこには―――
「よぉ」
「……うん、誰すか?」
何やら見覚えのある顔立ちのツンツン頭の高校生くらいの少年が、フリードを睨みつけていた。
人違いだったことは、分かるのだが、この少年は―――
「あ、君ってさぁ、あのクソ雑魚悪魔のカズキくんじゃ~ん!どしたのどしたの?アーシアちゃん取り返しに来たの?残念もう逃げてます☆残念無念また来週って感じっす!まあ来て貰ったからには―――ッ!?」
瞬間、凄まじい眼力で睨みつけられる。
あのクソ雑魚悪魔じゃねえ……瞬時にそれを理解したフリードはヘラヘラと笑みを浮かべながらも懐に手を差し入れいつでも武器を取り出せるように構える。
「……ありゃりゃ、どうにも人違いみたいで……」
瓜二つ、よく顔は見てはいないが傍目から見るとそっくりだ。
「もしかしてお兄さんすか?あひゃひゃ―――!弟の無念を晴らす為にここまで来た感じすか?弟君死んでないっすけどね――――!!」
「………アイツを……」
「ん?」
ボソリと俯きながらも小さな声で何かを呟いた少年に思わず耳を傾けるフリードだが、ここで彼は気付く、何時の間にか少年の手には黒色の長方形状のカードケースが握られていた。
「あのクズを」
「やべ、何か地雷踏んだ感じ」
少年がバックルを教会のやや罅割れた窓にかざすと、どういう仕組みなのか、鏡からバックルのようなものが浮き出て腰に巻かれる。
「弟と呼ぶな……」
「なぬ?」
少年が、バックルの横からカードケースを挿入すると、幾重にも重なったフィルムのような黒色のシルエットが少年の体に重なり、別の姿へと変える。
龍を模した頭部の仮面に、黒色に輝く鎧、左腕に装備された龍手甲。
「どけ、邪魔するならお前も殺す」
この時、フリードは内心、訳の分からない危機感に汗をダラダラと流していた。いろんな強い奴を見てきたが、こいつは本当にヤバい。先日のグレモリーと相対した時もなんやかんやで逃げ出せる自信もあったのだが……目の前のコスプレと見間違えるようなコミカルな少年の姿に対し、フリードの第六感がビンビンと反応している。
グギャォォォォ―――!
「うえ!?」
窓に何かの咆哮が聞こえた。
傍目にしか見えなかったが、黒い機械的な龍の頭が見えた気がする。恐らく、目の前の少年の使役するなにかしらの化け物。窓から自分にも分かるほどのビンビンと放たれている殺気は、まるで『逃げたら殺す、逃げなくても殺す』と言わんばかりの怖気さだ。
「……え、えー、もしかして。ここに来る時さ、黒い羽根生やした厨二集団見なかったー?」
「殺した。レイナーレも他の堕天使達も」
「…………」
速攻で自分がここにいる理由がなくなった。
経験上、こんな輩には速攻でとんずらこくのがフリードのやり口だが、下手に逃げようものならば窓で絶賛殺気放射中のドラゴン君が自分を殺しに来るだろう。
「どうぞどうぞ!遠慮なく中にお入りくださいな!中にはむっさい神父達しかいねぇけど何か御用ですかいな?」
「………」
「はい、『テメェに言う必要はない』ですよねぇ!じゃあ、オレは依頼主のレイナーレがおっ死んじまったから、帰りますねぇ!」
冷や汗をたらりと流しながら、一誠に道を開けるフリード。無言で階段を降りていく少年の背を見て―――
「―――なーんて」
光の剣と銃を取り出し、無音で向ける。
無謀?蛮勇?そんなものは知った事ではない、この先の障害になるのならば殺せるときに殺す、殺せない時は後から殺す。無理だったら逃げる。
ずっとそうしてきたから、変わらず―――
「…………顔面殴るだけじゃ済まねぇぞ、クソ神父ッ」
「!?」
フリードの首元には青龍刀に似た黒色の刀が突きつけられていた。
何時出したのかは分からない。だが、この刀が普通のものではない事が分かる。光の剣では対抗する事さえ不可能だろう。それだけの鋭利さと威圧感が感じられる。
「……おかしいよな、レイナーレの時ほどお前に対する怒りが沸いてこない。お前に対して同情している訳ではないのにな。……それほどアイツに対して怒っているという事か……」
サッと首に突き付けた刀を下ろす、少年を不思議そうな目で見るフリード。情けを掛けた訳ではないのが明白だが、何がしたいのかは全く理解できない。
刀を降ろした少年は、呆然とするフリードに一瞥もくれることもなく地下へと続く階段を降りていく。
残されたフリードは、階段の下を暫し眺めた後、薄らと微笑を浮かべる。
「………面白れー……」
「ここがアーシア・アルジェントの言っていた教会ね……」
リアス・グレモリーは眷属達を引き攣れて、古びた教会に訪れていた。訪れた理由は聖女、アーシア・アルジェントに助けを求められたから―――ではなく、下僕である兵藤一樹の頼みを聞いたからである。
新しい眷属、兵藤一樹。
堕天使に殺された人間を兵士の駒8つを使って悪魔に転生させた人間。アーシアの『自分を助けてくれた人を助けて!』という願いを聞いたカズキが、リアスに願い出たのが始まりだが……。
「不自然な程に気配を感じないわね……小猫」
「……人の気配は感じられません……」
「そう……とりあえず中に入って見ましょう。仲がもぬけの殻でも何かしらの情報は見つかるかもしれないわ」
朱乃にアーシアの事を任せている手前、そんなには時間は掛けられないが、行ってみるだけの価値はあるだろう。自分の管轄しているこの地に堕天使が好き勝手するのは見過ごしていい事態はないのだから。
「確か、カズナリくん、といったかしら?アーシアを助けた男の子というのは……」
「あまり言いたくはありませんが……堕天使相手にただの人間が太刀打ちできるとは思えません。その彼が生きている可能性は……かなり低いと判断してもいいでしょう」
祐斗がやや表情を渋め指摘してくる。アーシアが堕天使レイナーレと遭遇した場所に行っても、戦闘した跡は残っていれども彼の姿―――死体はどこにもなかった。残っていたのはその場に似合わない『白い灰』だけ。
「もしかしたらの可能性もあるわ。一樹、貴方も―――」
「………」
近くにいる彼に注意を促そうとするも、何か考えに没頭しているのか返事をしない。一体何を考えているのか、眷属としては申し分ないほど従順だが、眷属になってからはというもの、彼は悪魔という存在に不自然な程に慣れていった。
「一樹、聞いているの?」
「え?ああ、聞いてます」
兵藤一樹、新しい眷属。
順応力が高い下僕。
同じ学年の祐斗からこの数日間の内に、一樹のいるクラスで騒ぎがあったと聞いた。彼の親友の『松田』と『元浜』と一樹が教室で喧嘩したらしいのだ。
理由は分からないが、殴り合い寸前にまで発展したとの事だ。
その事を知ったリアスはさりげなくその事を一樹に訊いたが、一樹は二人の事を親友ではないと否定した。自分の知っている覗き魔三人組とは、険悪な仲だったのだろうか?
噂の限りではこれ以上ない仲良しだったと聞いてはいたが―――。
「………一樹が、覗きね」
覗き魔とは何のことだろうか。そもそも一樹は覗きなんてする性格はしていないはずなのに……いや、その松田と元浜は学校内でも有名な三人の内の一人だ。
「……」
残りの一人は誰だろうか?二人の親友である一樹なのではないか。でも彼が覗きをしていたなどという話は聞いた事が無いし、本人が否定している。別の生徒の事だろうか?……いや、そもそも何故自分は、学校でも有名な松田と元浜の親友を一樹だと思っていたのだろうか。
「部長!地下への階段を見つけました!!」
「……ッ」
祐斗の声にハッと我に返りながら彼の方を向く、そこには地下へと続く階段があった。どんよりとした雰囲気にどこかうすら寒いものを感じながら、リアスは眷属達に指示を促し地下へと潜っていく。
魔力で暗闇を照らしながら、階段を降りた先には、蝋燭の明りに照らされたやや広い部屋のようなものがあった。
「争った跡がありますね」
「でも、跡はあっても生物の姿がどこにもないわ」
「……少し、気味が悪いですね……」
壁が罅割れ、床には亀裂が走り、至る所に血痕が飛び散っている。戦闘があったのが明白だが、不自然な程に何もない。
訝しげな顔をしながらその光景を見つめていたリアスだが、この場には得る者がないと判断した彼女は先に移動しようと判断する。
「行きましょう」
嫌な予感がする。
言い知れぬ悪寒を感じながら、さらに地下へと降りていく。歩を進めていくと、小猫が何かを感じたのかリアス達に止まる様に促す。
「……誰かいます」
「なんですって?」
「……気配は一人」
一人?……敵の堕天使の可能性もある。
祐斗も魔剣、一樹は神器『龍の籠手』を展開させ一応の臨戦態勢に入る。警戒しながら暗い階段を降りると、先程の部屋と同じような広い講堂が視界一杯に広がる。
「………」
「ッ!?」
十字架の張り付け台を見たまま、リアス達に背を向けている黒色の鎧に身を包んだ男がそこにいた。怪しげなその姿に祐斗と小猫が息を吞むのが分かるが、一樹はどういう訳か動揺するようにだらんと腕を下げた。
「レイナーレは殺した」
黒色の鎧の男はこちらを振り返らずに、そう言い放つ。
「ドーナシークと他の堕天使も殺した。ここにいる神父は……一部以外全員逃げていった。残念だったな」
「残念?」
誰に向けての言葉なのか、それともリアス達全員に対しての言葉なのか。リアスの言葉に鎧の男は、こちらに向き直ると、サッと指を向けてくる。
向き直った鎧の男の姿はまるで、西洋騎士のモノに酷似していた。
「そこの下級悪魔の事を言ったんだ」
指さされた一樹は、ビクッと体を震わしながらも鎧の男を睨みつける。
「それは彼が自分を殺したレイナーレに対して復讐できなくて残念、って所かしら?」
「………リアス………グレモリー。全く違う、全然違う………そういう事じゃないんだ」
「?」
自分の名前を知っているという事は、悪魔の事を理解していると見ても良い。
今一番の問題は、この目の前の男が、自分達に敵対の意思を抱いているか、どうか。
「まあいいわ。まず貴方に訊きたいことがあるの。貴方は敵?それとも味方?」
「……貴方の敵じゃない」
「……信用してもいいの?」
「今、攻撃していないのが証拠、じゃ駄目でしょ………駄目か?」
即答された言葉に、思わず胸をなでおろす。
複数の堕天使を倒せる力を持った相手との戦闘はできるだけ避けたかったのだ。
祐斗と小猫に剣と拳を下ろさせながら、黒い鎧の男の近くにまで歩み寄る。敵意がないのならば、この男から少し事情が聞きかったのだ。
もし不意を突いてきても祐斗や小猫や対処してくれるだろうからの、判断である。
鎧の男もゆっくりと近づき、リアスの前にまで歩いてくるが、どういう訳かそのまま彼女を通り過ぎ、彼女の後ろに控えている祐斗達の前に止まり―――。
「ああ―――こいつは違うけどな」
そうポツリと呟くと同時に凄まじい速さで一樹の首を片手で掴み上げた。
一方―――安堵したリアスを見据えた黒い鎧を纏った男―――一誠は、心の中で渦巻く憎悪に必死に耐えていた。
寄生虫のように居場所を蝕み、乗っ取ったクズ
悍ましいほどに通ったその顔。
我がもの顔で自分の『仲間』だった人達の居る場所に要る。
今、首を掴み上げているこいつが、こいつが―――
「ガハッ……何を―――」
「お前が一番知ってんだろ?なあ、兵藤一樹。赤龍帝になれて余程嬉しかったようだな」
「一樹くん!!」
木場がこちらへ切りかかって来る。
一誠は、手甲で剣を弾き、木場の身体を軽く蹴り飛ばす。抜群の身体能力を備えている『リュウガ』ならば軽い蹴りですら相当の一撃だ。防御面に弱い『騎士』ならばすぐには起き上がっては来ないだろう。
「何故、こんな事を!?」
一樹が近くにいるからか、咄嗟に動けた木場とは違い迂闊に動けないリアスが問いただすように叫んでくる。小猫も彼女の隣で手出しできずにいる。
「余計な事される前に、足止めしておくか……」
一樹の首を掴んでいる左手とは逆の手でバックルに挿入したカードケースから一枚のカードを抜き取り、左手の手甲『ブラックドラグバイザー』に差し入れる。
【ADVENT】
グオォォォォ―――!
「なっ!?」
音声が流れると同時に黒色の龍『ドラグブラッカー』が窓から現れ、一誠とリアス達の間を遮るように立ち塞がる。
「ドラゴンッ!?」
「……部長、退がってください」
「手を出すな。言ったはずだ、俺は『貴方の』敵じゃない」
「何が目的なの!!」
威嚇するように唸るドラグブラッカーを前に、小猫にさがる様に促されながらも、気丈に一誠に対し、疑問を投げかけるリアス。
「俺は個人的な恨みがコイツにある」
「……ッ!個人的な恨みですって?この子は最近悪魔になったばかりよ!?」
「知ってる、でもコイツは絶対許されない事をしたんだ。オレから何もかもを奪った」
「グゥ……僕は……知らない……ッ何も、してないっ」
「ん?今、何て言った?聞こえなかったな……あぁ?もう一度行ってみろよ、なぁ?」
ふざけた事を言っているヤツの腹を軽く殴る。
あまり力を籠め過ぎると殺してしまうからこその軽くだが、こいつを黙らせるのには丁度良かったようだ。苦しげに呻いている。
「残念だったよなぁ、一樹。お前は兵藤一誠を蹴落としてさぞかし愉快なご様子だが……思い通りになると思うなよ」
「な、あぁ……お、まえ、てんせ……」
「死んだ奴がさァ生き返んなよ……大人しく死んでおけよ……なぁ?俺の言っている事間違っているか?……理解できないなら……完膚なきまでに全部ぶっ壊してやるよ。この先にお前の『物語』なんて歩ませねぇし、創らせねぇ。別にいいだろう?お前が終わらせた物語なんだから。……まず手始めに、お前はここで赤龍帝には目覚めない。レイナーレも倒せない」
ここで、自分が一誠だとは明かさない。明かす必要性を感じないし、今明かしてもつまらないからだ。
そして、ここでこいつを殺すのは簡単だが、そうしてもドライグが自分に戻ってくるわけじゃないし、皆の記憶が戻ってくれる訳じゃない。
だから、せめてその元凶のこいつを絶望させる。
呆気なく死なれては、この胸の内に渦巻く憎悪は収まらない。
「グ……ァ…………」
「………気絶しちまったか。……こんなもんか……」
気絶してしまった一樹を雑に床に捨てながら、リアス達に一瞥もくれずに地上へと続く階段へと歩いていく。背後では、気絶した一樹に駆け寄りながらも、困惑した表情で一誠を見るリアスの姿。
「貴方は一体何者なの!?」
「…………」
彼女の叫び声を背にしながら彼は暗闇の中へと消えていくのだった。
教会から少し離れた場所で、一誠はようやく変身を解いた。黒いライダーの姿から、元の姿に戻った彼はドッと汗を流し息を乱しながら、壁に背を預けたまま、ずりずりとその場に座り込んだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
変身するのに、副作用があるわけではない。むしろどういう訳かノンリスクなのだが、彼がここまで疲労しているのには別の理由があった。
「くっそ……俺の事じゃないのに……やっぱり……ッ」
記憶の中で愛した女性、仲間達が自分たちに敵意を向けてくるのは何よりも一誠の精神にクルものがあった。会話している時でさえ、辛い。
「……もう引き返せねぇ……アイツが、アイツに好き勝手させる訳にはいかないんだ……」
アーシアの場合は、例え一樹が負けてもリアスや木場達が助けてくれただろう。
でもライザーは?
ヴァーリは?
曹操は?
イッセーが一人で対処した時、奴はどうするのか。
下手すれば、皆が……皆が、死んでしまう事さえあり得るかもしれない。奴のせいで、勝手な願いのせいで、一誠だけではなく、仲間達まで酷い目に合うのは御免だ。
そう記憶の中のイッセーは思っているが、矛盾するように一誠は一樹への復讐を望んでいる。
殺したほうがいいのに、殺せない。だって、奴には地獄の苦しみを味あわせたいから。二つの相反する感情に苦悩しながらも、一誠は目元を抑える。
「ははっ、無茶苦茶だよなぁ……でも、許せねぇよなぁ……」
自嘲気味な笑みをもらしていると、頬が濡れている事に今更ながら気付く。力なく頬に障ると、やはり濡れている………。
「泣いてんのか、オレ……ていうか、泣けたのか……」
『あのっ、力になれませんか!!』
アーシアの言葉が頭の中で思い起こされる。彼女の言葉にまた視界が涙で霞んで来るが、すぐさま袖で目元の涙を拭い、立ち上がる。
彼女の言葉だけで、自分は戦える。
イッセーの記憶の中の『皆』を知ってるからこそ、折れずにいれる。
「……荷物取りに行くか……」
バイクと一緒に置いてきたリュックを取りに、歩きだす。
その背には先ほどのような悲哀を感じさせるものはない。
暗い道を無機質に見ながら、ゆっくりとした歩調で歩いていると前方から人の足音が聞こえる。どうせ通行人だろうと思い、そのまま気にせずに歩いていくと―――
目の前の街頭に照らされた場所に、決して忘れようもない白髪が入り込んだ。
「ッ!」
「やあやあ、さっきはお楽しみでしたね!!」
気安く片手を上げ挨拶してきた白髪の少年―――フリード・セルゼン。何故ここにコイツが?と、一誠は内心混乱しながらも、即座に服の下にバックルを出現させいつでも変身できるように構える。
「何の用だ。雇い主のいなくなったテメェはもうここに留まる必要はねえだろ」
「オレは別に行くとこなんかねーしぃ。ぶっちゃけ寝なし草だから、何処行こうが関係ないんでッス!」
「質問に答えろ」
「うひょー怖ッ。勘弁してくだせぇ、流石の悪魔ブッコロ専門の俺様でもぉ、そんなバケモン並のアンタと事構えようとは思ってないんすよ」
カイザフォンを開きながら、鋭い視線を向ける一誠に、慌てるように手を上げ戦闘の意思はないと訴えかけるフリード。しかし一誠は記憶といえどフリード・セルゼンという残虐な人間の事を知っているので、微塵も警戒を解かない。
警戒を解かない一誠に、やや嘆息したフリードはとりあえずは上げた手を下ろしそのまま質問を返すことにした。
「アンタ、何か面白そうな事しようとしてんな?」
「…………」
「それも飛びっきりの面白い事。うーん、ちょっち覗き見した感想から言うと………復讐?」
面白いかどうかは一誠には理解できなかったが、フリードの鋭い指摘に一誠はやや動揺する。その動揺を気取られたのか、『やっぱり!』とばかりに指を鳴らし、ニシニシと嗤い始めた。
「それがお前と何の関係があるんだよ」
「オレも参加させてけろ」
「……はぁ?」
図々しいにも程があるだろこのバカ。
思わずそう思ってしまう一誠だが、取りあえずはこの狂人がそんな事を願いだそうとした理由を考える、が、すぐに答えが浮かぶ。
…………こいつにとっては面白そうだからに決まっているか。
「駄目だ、お前は信用できない」
「……まあ、アンタが俺にとってつまらない奴になったら裏切るかもな」
不快な笑い声を上げるフリード。
一誠は無言でこのふざけた狂人を灰に変えてやろうと思い、カイザフォンのボタンを押そうとした時、その挙動に何かを察したのか、フリードが慌てて声を上げる。
「う、嘘っす嘘っす!いやぁ、アンタキレやすいな!マジキレる若者!」
「面倒くさいな……もう帰れよお前……俺の事は放っておいてくれ……」
どうせこの後コカビエルの下っ端になって、木場と闘う事になるのだろうから―――
「……待てよ……」
フリードが聖剣を持っていた時、木場は自分ではないイッセーの『赤龍帝』の力で乗り切ったはずだ。ここの赤龍帝である一樹がギフトに目覚めていることが前提でなければならない
その切っ掛けの一つを潰してしまったのは自分だが、どちらにしろ一誠が手を出さなければ、一樹は教会でレイナーレに殺されていた可能性もある。
それに、あまり認めたくはないが、目の前の狂人はそれなりの腕を持っている。聖剣を持っていた時とはいえ木場とも渡り合えるほどの実力を持っている人間なのだ。
こいつをここで始末するか手懐けさえすれば、コカビエルの時に色々楽になるのではないか。
「………おい、フリード」
「んお?何故に俺様の名前を―――」
「報酬は何が欲しい?」
一瞬、きょとんとしたフリードだが、次第に一誠の言葉を反芻すると、口角を三日月のように歪め、手を大仰に広げながら言い放つ。
「愉快で面白くてデンジャラスな日常!」
「………愉快かどうかは分からないけど、デンジャラスな日常は遅れそうだな………嫌が応にも」
こいつ相手なら変な情も沸かないだろうし、裏切ろうとすれば、始末すればいい。
深いため息を吐きながら、カイザフォンをポケットにしまった一誠は、フリードを通り過ぎる形で歩き出す。しばらくはベルトは付けたままにしよう、復讐半ばにして狂人に殺されるとか正直言って笑えないし。
「待ってくださいよ~、てかまず名前を教えてくださいッス」
「イッセー、ただのイッセーだ」
「ふむふむ、イッセー………フレンドリーさと敬意を払ってイッセーの兄貴と呼ばせて貰いましょうか。うっひょッ俺って舎弟根性パネェ!!」
「うるさい、近所迷惑だ」
仲間にしたのはちょっと迂闊だったかな、と今更ながらに後悔する一誠だった。
「兄貴ィ、アンタ何処住んでんだ?オレ、ぶっちゃけ家なき子なんよ」
「野宿だよ野宿。明日は平日だから公園で野宿だな……」
「………え?マジでか」
これで今回の外伝は終わりです。
フリードが仲間になりましたが、これには一応の理由があります。
元高校生じゃ根なし草で生活するのも色々苦しい。
↓
仲間がいる?
↓
原作一誠とそれほど親しくなく、意外と接触しやすい人?
↓
あの男しかいない……ッ。
と、いった形でフリードと行動を共にさせることにしました。
後、兄貴って呼ばせてみたかった(ボソッ)
本日の更新はこれで終わりです。
【小ネタ】
「ああ―――こいつは違うけどな」
そうポツリと呟くと同時に凄まじい速さで一樹の首を片手で掴み上げた。
(首の折れる音)