兵藤物語   作:クロカタ

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二話目の更新です。


揺るがぬ心 10

「?……何だ……」

 

 切っ掛けは僅かに感じ取れた違和感だった。

 ギャスパーと共に旧校舎へ残っていた一誠は、空気が僅かに張りつめたことに気付き何気なしに立ち上がる。怪訝そうに首を傾げたギャスパーの視線を受けながら一誠は視線を鋭いものにしバックルを出現させた。

 

「イッセー先輩?」

「……」

 

 気のせいかもしれない。

 もしかしたらリアス達の誰かが心配して戻ってきたのかもしれない。

 

 だが、肌のざわつくような感覚が一誠にそうは思わせない。何かが違う―――一心に廊下へ続く扉を睨み付けていると、突然の爆発が起こり砂塵が一誠とギャスパーを包み込んだ。

 

「ひぇ!?」

「ギャスパー!」

 

 ギャスパーを小脇に抱え壁際へ下がる。突然の襲撃に悲鳴を上げるギャスパーに気をつかいながら破壊された扉を見やると、そこには黒いローブを纏った数人の女性が薄ら笑いを浮かべながら一誠を見据えていた。

 

「お前等誰だ!!」

 

 少なくとも味方には見えない。敵であることは攻撃してきたことから間違いないだろうが解せない。何故、自分達を狙う?敢えて守りの薄い此処を狙ってきたのか?

 

 そうこうしている内に、黒いローズの集団が、その手に悪魔が使うような魔力弾を生成しこちらへ打ち出してくる。変身……したいが、ギャスパーが居る今下手な隙は危険すぎる。

 

「なんなんだ一体!!」

 

 ギャスパーを抱えながら、そのまま壁際を走り魔力弾の雨を潜り抜ける。一誠の身体能力ならば常人以上の動きが可能、このまま魔力弾を掻い潜る事が可能だが―――

 

「――――ぐ!?何だ!?」

 

 些か相手を知らなすぎた。

 破れた扉から飛び出そうとした一誠の脚に魔方陣のようなものが現れ彼の動きを阻害している。ハッとした目で目の前の黒ローブの女を見ると、見下すような薄ら笑いを浮かべ一誠目掛け魔力弾を放とうとしていた。

 

「く……っ」

「い、イッセー先輩っ。だ、大丈―――」

 

 苦悶の表情を漏らした一誠にギャスパーが目を潤わせながら声を掛けようとするが、突然の浮遊感が彼を襲い部室の床に投げつけられる。

 

 魔力弾が直撃する前に一誠がギャスパーを咄嗟に横に放り投げたのだ。「あ……」と呆けたような声が出たのも束の間、次の瞬間一誠は黒ローブの放った魔力弾の直撃を受け、壁に罅が入るほどの勢いで壁に叩き付けられてしまった。

 

「あ、ああああ……」

 

 血反吐を吐き、地面に叩き付けられるように落下した一誠を呆然と見て激しい喪失感と無力感に襲われるギャスパー。

 悲観に暮れる彼に一誠を吹き飛ばした張本人である黒ローブの女は、ギャスパーの腕を無理やり掴み一誠とは反対側の壁に押しやり魔方陣のようなものでギャスパーを磔にし、何かを発動させた。

 

「フフ……こんな簡単に事が運ぶとは思っていなかった……」

「お前が……イッセー先輩……をぉ……」

「ただの人間が魔を高めた私達に勝てる通りはない」

 

 四肢を拘束され磔にされたギャスパーは涙を浮かべながらも必死に目の前の黒ローブを睨み付ける。

 

「やめてくだ、さい!何をするつもりですか!!」

「貴方の神器を利用させて貰うのよ」

「っ!」

 

 怖気が立った。

 今まで散々仲間達に迷惑をかけてきた自らの神器が、今度は取り返しのつかない事に利用されることに。その事実に恐怖し、必死に四肢を動かし抵抗の意思を見せても拘束は微塵も揺るがない。

 

「無駄よ。貴方程度の力で破れるものではないわ――――さあ、やりなさい」

 

 周りの黒ローブたちが不意に手を掲げるとギャスパーの体を拘束する魔方陣が光を放った。光が放たれると同時に彼の体の何かが強制的に開かれるような錯覚に陥る―――否、これは無理やり神器が発動されようとしている。

 そして最悪な事に自分が意図していない筈なのにこれまでにない程に目の力が高まっているのをギャスパー自身が理解できた。

 

「い、いやだ…………いやだあああああああああああああああああああ!!!」

 

 自身が忌み嫌う目の力が発動されてしまった――――。

 

 停止の力が仲間に襲い掛かる。

 自分を利用した奴らにではなく、自分を大切にしてくれる仲間達に―――そして自分と向き合って一緒に頑張ってくれた尊敬する先輩にも。

 

 神器の解放と共に一瞬だけ世界が灰色になる。

 止め留めなく涙が流れる瞳には未だに倒れ伏したイッセーの姿が映りこむ。

 

 だが、おかしい。

 この灰色の世界の中でイッセー先輩だけが色が―――――。

 

 

 

「ッ……ギャスパァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

「「「「!!?」」」」

「イッセー、先輩……」

 

 強制的に発動された神器の効果が過ぎ去ったその瞬間、ギャスパーの眼前、黒ローブの女達の背後で血反吐を吐きながら立ち上がった一誠が、バックルとロックシードをその手に力の限り握りしめていた。

 

 攻撃を放った黒ローブの女は驚愕の表情を浮かべている。

 

「そんな……中級悪魔を屠れるくらいの威力を籠めた筈なのに……」

「ハァハァハァ……悪いなぁ……俺は生憎、そんなヤワじゃねぇ……」

 

【イチゴ!】

 

 袖で血を拭った一誠は慄いている黒ローブ達に不敵な笑みを見せ、その手に持ったバックルを腰に取りつけ、手元のイチゴを模したロックシードの錠前を開く。

 その挙動に焦りを抱いた黒ローブ達は一斉に魔法を放つも、放たれたそれは一誠が出現させた赤色の物体により阻まれる。

 

「なっ!?」

「返してもらうぜッ。大事な後輩をなぁ!!」

 

 ライダースーツに覆われた一誠の頭部を巨大なイチゴが飲み込み、果汁のようにエネルギーを放出させながら花開くように鎧へと展開される。

 

『イチゴアームズ!シュシュッと・スパーク!!』

 

 【イチゴアームズ】の展開と同時に両の手に現れるのは、忍者が使うような手裏剣『イチゴクナイ』。それを手の中で回した一誠は未だに驚愕で硬直しているギャスパーを拘束している黒ローブにイチゴクナイを投げつける。

 

「しゅしゅっとッな!」

 

 投擲されたイチゴクナイはギャスパーを拘束していると思われる黒ローブの女に直撃と同時に小規模の爆発を起こし周囲の黒ローブごと吹き飛ばした。

 

「今だ!」

 

 隙が生じると同時に駆け出し、拘束が解かれたギャスパーを抱き寄せホルダーから取り出したロックビークルの錠前を開き、こちらへ攻撃を加えようとしている黒ローブへと投げつける。

 

「え……バイ――――ぐへぇ?!」

 

 空中でバイクの形態へ変形したサクラハリケーンに下敷きにされた黒ローブの一人にやり過ぎたとばかりに内心謝罪しながらも、サクラハリケーンを起こしアクセルを噴かせ、そのまま円を描くように後輪を回転させ周りを牽制し――――。

 

「捕まってろギャスパァァァァ!!」

「え?あ、はぁい!!?って――――」

 

 そのまま窓へとハンドルを向け思い切りアクセルを回し、遠慮なく壁をぶち破り旧校舎から飛び出した。

 

 

 

 

「うひゃああああああああああああああああああああ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 ハンドルを握り直し、二階からの着地を成功させバイクを止め校舎の空と周りを見ると、黒ローブの女達と同じような集団が出現しているのが見える。

 

「は、はぁ?どうなっているんだ……」

「ま、魔法使いです……」

「魔法使い……な、何だか分からないけど、攻撃しているって事は敵なんだな!ギャスパー!捕まってろ!!」

 

 首に強くしがみついているギャスパーに気を付けながら、バックルから外したイチゴロックシードを無双セイバーの窪みに嵌め込む。

 

『イチ・ジュウ・ヒャク――――』

「よし!行くぞ!!」

 

『イチゴチャージッ!!』

 

 サクラハリケーンを走らせ、無双セイバーを振るうと巨大なイチゴ上のエネルギーが上空へ放たれ、散弾のように大量のクナイに分裂し、外から校舎に攻撃を加えていた魔法使いたちに襲い掛かる。

 

 イチゴは沢山の相手に立ち回るのにおあつらえ向きなフォーム。

 確かな手応えを感じた一誠はそのまま無双セイバーを振るいイチゴバーストを魔法使いたちに放っていく。校庭に突如現れた仮面の戦士に魔法使い達は成す術もなく撃ち落とされていくその光景を一誠にしがみついて見ているだけのギャスパーは悔しげな表情を浮かべ、口を噤む。

 

「すいません……僕、足手纏い……ですよね」

「ん!?そんな訳あるか!!」

「でも……僕は悪魔なのに、部長の僧侶なのに……僕なんて……『変異の駒』を使ってまで悪魔になるんじゃなかった……僕なんかより―――」

 

 ――――イッセー先輩が眷属になれれば良かったのに――――。

 その言葉は吐き出されることはなかった。突然、一誠がサクラハリケーンを止めたのだ。無言のままバイクを降り、ギャスパーを下ろした一誠は、鎧に包まれたままの手でギャスパーの頭に軽く小突いた。

 

「いたっ」

「全く……足手纏いも何もねぇよ」

 

 額を抑えるギャスパーに軽く笑った一誠は、無双セイバーからイチゴロックシードを外しバックルに戻し、周りを見据えながらホルダーから新たなロックシードを取り出して、再びギャスパーを見やる。

 

「バカ野郎、俺がお前の代わりになれる筈ないだろっての。お前は部長の僧侶で、大切な仲間だ」

「でも……僕は役に立てないし……」

 

 再び額を小突かれるギャスパー。

 今度は軽かったのか、僅かに涙が出るくらいだったが――――一誠はそのまま魔法使いたちが集中している場所を振り向き睨み付ける。

 

「今は力になれないなら、俺が守ってやる。それでお前が今よりももっと強くなって、んでもって俺がピンチになったら――――俺を助けてくれ。それでお相子だ」

 

 襲ってくる魔法使い達をクナイで牽制しながらもそう言い放った彼の言葉。その言葉は今までかけられたどんな言葉よりも深くギャスパーの心に刻み付けられた。

 ―――役に立つのではなく、助ける。どこまでも臆病な自分を一誠はそう言ってくれているのだ。

 

「――――はいっ、僕……やりますから……っ強くなりますから……」

 

 ギャスパーの決心したような声を聴き、満足気に頷いた一誠は背後にいる彼にサムズアップする。

 

「イッセー!ギャスパー!!」

 

 校舎から一誠とギャスパーの姿を見つけたリアスが襲い掛かる魔法使いたちを滅しながらギャスパーと一誠の近くに降り立つと同時にギャスパーを抱きしめた。

 

「良かった……」

「部長……さん」

「言っただろ、大切な仲間だって―――部長。ギャスパーを頼みます」

 

 リアスの方へ振り向かないまま左腕でバックルの開いたままのイチゴロックシードを取り出し、右手の緑色の黒色の縞が特徴的なロックシードの錠前を開き掲げる。

 

【スイカ!!】

 

「俺、戦います」

「っ!!今、アザゼルが今回のテロの首謀者と戦っているわ!巻き込まれないように気を付けて!!一樹と祐斗とゼノヴィアが戦ってくれているわ……貴方も……ッ気を付けて…………」

 

 いまこそこのロックシードを使う時、【記憶】の中ではこれは連続で使えないはず。使う時は選ばなければいけないが、今この敵が密集しているこの時こそ――――。

 

「任せてください!!この新アームズで――――」

 

 頭上に現れる巨大な球状の物体。

 デフォルメされたスイカ――――されどこれまでのロックシードに寄り生成されたものより遙かに巨大なものがゆっくりと一誠に向かって落下していく。

 

 言葉を失った一誠は不安げにリアスへと振り向いた。

 

「で、デカいッス。ちょ、ちょっとこれは……」

「……ひぇ……」

「…………」

 

 暫しの沈黙、表情を引き攣らせたリアスを見た後、再び前を向き一度仮面の中で目を閉じ、深呼吸する。あそこまで啖呵切ったのだからここで引くという手段はない。

 何時もの通りにカッティングブレードを傾ければちゃんと変形してくれるはず。そう信じて一誠は―――。

 

「うっし!男は度胸!!」

 

【スイカアームズ!大玉ビックバン!!】

 

 自身を鼓舞するようにそう言葉にしカッティングブレードを思い切り傾け、落下してきたスイカに飲み込まれた――――。

 

 





イチゴ「……」(無言の号泣)

チェリー「……」(虚ろ目)


次話もすぐさま更新致します。

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