三話目の更新です。
「なんだありゃあ……」
「よそ見しているとは随分と余裕ね!!」
校舎の上空で今回、テロを仕掛けてきた組織【禍の団】の幹部、カテレア・レヴィアタンとの戦闘を繰り広げていたアザゼルは、視界の端で異様な物体が現れたのを目にする。
空中に現れた巨大なスイカが、一誠を飲み込んだのだ。
「はあああ!」
「うるせぇ!!今、面白い所だから黙ってろ!!」
「ぐあぁ!?」
しつこく襲い掛かって来るカテレアを光で生成された剣で瓦礫の山に殴り飛ばし、一誠の方を注視する。―――よく見ればセラフォルーもサーゼクス、ミカエルさえもその場面を目の当たりにしている。
あいつらが目を丸くする所なんて滅多に見れねぇぞ……。
「おいおい、何だアレ。面白すぎんだろ……」
地上から攻撃していた魔法使い達がスイカに飲み込まれた一誠に気付いたのか、大量の魔力弾を放つ。だが、凄まじい程の強度で魔法を弾くと、そのままゴロゴロと地上を往く魔法使い達目掛けて転がり始める。
次々と魔法使い共を轢き、消し去りながら転がっていくスイカ。
あらかた地上の敵を消し去り、動きを止めたスイカから一誠らしき仮面がヘタ(?)に当たる部分から出てきた。
『な、なんじゃこりゃあああああああああああああ!!!』
【ジャイロモード!】
『へ?何!?勝手に―――ってうおおい!?』
スイカが鎧のように開き、中にいる一誠の姿が露わになる。しかし変化はそれだけではない、浮き上がったのだ。
『な、何だか分からないけど……これでやればいいんだな!!そうだよなぁ!!』
ジャキンッと腕らしき部分が前方にせせりだし、機関銃のようにエネルギー弾が連続で放たれる。前校舎で見たようなものではない、まるでそう―――あれは―――ロボット。
「か、はははははははははははははははは!!何だアレ!!おいサーゼクス!マジでとんでもねぇもん抱え込んだな!!」
「面白いだろう?うちのイッセーくんは」
見て飽きないとはこの事だ。
今まさに中級悪魔レベルの魔法使いたちを羽虫のように落としているアイツは何だ。
「何だあの奇天烈な兵器は……ッ!!」
爆笑しているアザゼルに、殴り飛ばされたカテレアが怒りの形相でアザゼルを睨むが、眼下で行われている蹂躙激に目を移し驚愕の表情を浮かべた。
それに対してアザゼルは嘲るようにカテレアに煽りの言葉を放つ。
「お前らが愚かにも支配しようとしている人間だよ」
「何ですって……ッ!!」
「人間の凄い所は俺らみてぇに長い時間を生きていなくてもな、俺達を凌駕するモノを持っている所なんだよ。それを何だお前等?新しき世界?統治する?バカみてぇに新しい世界新しい世界言いやがってよぉ、そんなもんテメェらろくでなし以外誰も望んでねぇんだよ」
「……ッ!!認められるか!!」
アザゼルの物言いに激昂したカテレアはヒステリックな叫びを上げ、懐から取り出した黒い蛇のようなものが入った試験管の中身を飲み込んだ。
「チッ……オーフィスの蛇かよ……」
「地を這う事しかできない脆弱な存在がッ、私と同じ場所に立っているんじゃない!!」
「てめっ―――」
黒色のオーラを纏い力を増したカテレアが空を飛び魔法使い達を撃墜している一誠に特大の魔力弾を放つ。見るからに凄まじい威力に思わず声が出てしまうアザゼルだが、いち早く先程のスイカのような形態になった一誠に目が行ってしまう。
『う、うおぉ?!』
堅牢な球体がカテレアの魔力弾の直撃を物ともせずに落下するが、地面に激突する前に先程の様な浮遊形態に変形し、魔力弾を放ったカテレアの方に突っ込んでいく。
「お前かッ!!」
「防いだだと!?人間ごときが私の攻撃を!?」
放たれる機関銃を魔方陣で防ぐカテレアだがその表情は鬼気迫っている。現代兵器に見えるあの機関銃はカテレアの予想を超える威力を宿しているのか。
「コイツの使い方も分かってきた!!いくぜぇ!!」
『ヨロイモード!!』
一誠の姿を露わにした浮遊形態から彼の体を鎧のように覆う形態となり、右手には双刃の薙刀が握られる。ぐるぐると薙刀を振り回しながらカテレアへと斬りかかる。
「今度は人型かっ、どんだけだよ!!」
アザゼルとしてはこれ以上なく興味深いが、カテレアとしては訳が分からな過ぎて頭の中が滅茶苦茶になっていることだろう。
「せいやあああああああああ!!」
「ぐっ、あああッ!!」
カテレアの防御魔方陣を容易に切り裂き、斬撃の余波で吹き飛ばす光景を見据えながらアザゼルは笑みを手で隠しながら、兵藤一誠と接触したことを喜んだ。
あの形態は魔王並の実力へと跳ね上がったカテレアを容易く圧倒できる力を秘めている。それだけでも興味深いのに、凄いのは兵藤一誠という人物の力の出所が微塵も解明できていない事だ。
「そんなデカブツ!滅してやるわ!!」
「やらせねぇ!!」
【大玉モード!】
一瞬の合間に、人型から球体へ鎧を変形させた一誠はカテレアの放つの魔力弾を縦に回転させることで全て防ぎ、球体のまま飛び上がりカテレア目掛けての体当たりを仕掛けようとする。
「そんなバカの一つ覚えで!!」
【ヨロイモード!!】
「なっ!?ぐぁ!?」
翼を大きく広げ飛んで回避しようとするカテレアの眼前で球体から人型へ変形と同時に展開し、大きく引き絞った左腕をカテレアの胴体に繰り出す。―――強烈、まさにそれが当てはまる一撃がカテレアの腹部に叩き込まれくの字に体になりながら凄まじい勢いで地面に叩き付けられる。
「―――っ!な、ば……があ……」
ほぼ一撃でカテレアがグロッキーになったのを見てアザゼルは若干引きながら、とどめの一撃を加えようとしている一誠を見やる。
「アンタが誰だか分からねぇがッ、ギャスパーを皆を巻き込んだ奴ってんなら―――」
【スイカスカァッシュ!!】
カッティングブレードを傾け、スイカアームズ最強の必殺技を発動させる。
薙刀を持つその手首を回転させ、円状のエネルギーを前面に放出し横薙ぎと共に、カテレア目掛けてエネルギーを放ち動きを拘束する。
「俺はお前達を絶対ッ許すわけにはいかねぇ!!」
「こんな所で……ッ終わる、訳には……!私は……真なる、魔王に―――」
「はああああああああああああ!!」
刃をエネルギーで満たした一撃は、すれ違いざまにカテレアを覆う拘束ごと切り裂いた。斬撃に寄り溢れ出したエネルギーは爆発を伴って果汁のエフェクトを以て周囲を飛び散る様に明るく照らした―――。
断末魔は無く、その場には何も残らなかった。
カテレア・レヴィアタンは文字通りにこの世から消滅してしまったのだ。
カテレア・レヴィアタンは見下していた人間に完膚なきまでに敗れ去った。周囲の魔法使い達も一誠とグレモリー眷属達の奮闘によりほぼ全滅させることができた。
「まさか仮にも魔王を倒すたとは、やるじゃ―――」
アザゼルは変身を解き地面に降り立った一誠に近づき、肩に手を置く。悪意はない、面白いものを見せて貰った礼でもしてやろうかと思ってからの行動だ。
だが、肩に手を置いたその瞬間、一誠の体がぐらりとふらついたのを見て血相を変え慌てて体を支える。
「お前、こんな状態で動き回ってたのか!?」
「がはっ……はぁ……はぁ……」
かなりの量の血を吐血している一誠に、冷や汗を流しながらアザゼルは傷口を確認するべく制服をめくる。―――酷い内出血、恐らく旧校舎で鎧を纏わず魔法使いの攻撃の直撃を受けたのだろう。
どういう訳か現状は命には別状はないが、放っておくと死に至る怪我だ。普通ならとっくに動けなくなって息絶えてもおかしくない筈なのに、こいつは今の今まで戦い続けた。
「大した奴だぜ、お前は……」
そしてバカ野郎だ。自分の身を顧みず力の限り戦うなんてバカのする事だ。
だが、何時だってそんなバカが誰もが思い至らねぇようなスゲェ事をやらかすもんだ。そんな奴らを何度も長い長い歴史の中でそんなバカ野郎共を見てきた。
「―――さーて、そろそろ時間停止された奴らも元に戻る、グレモリーの所の元シスターに任せておく――――」
一誠を肩に担ぎ歩き出そうとしたその瞬間、後者の壁を突き破って何者かが飛んで来た。事前に察知し後方に跳んでいたアザゼルが地面をごろごろと削り飛んで来た何者かを見やると、驚いたとばかりに表情を強張らせる。
「お前さん、一体どうしたんだ?」
『が、ぐ……くそ、何で、僕を……』
アザゼル自身が与えたリングにより強制的に一時的な『禁手』に至り、赤い鎧を纏った男、兵藤一樹。何故かその男が鎧を半壊状態にされ、至る所から血を流していた。
一樹は怯えていた。
誰が?
―――そんな思考に至ったその瞬間に、アザゼルは犯人が分かった―――否、分かってしまった。
『――――雑魚だな。急造の『禁手』を考慮しても、なんの工夫も感じられない。赤龍帝の名が泣くぞ?』
一樹が吹っ飛んで来た場所から光と共に現れたのは、白銀の鎧を纏った男、白龍皇ヴァーリ。ボロボロの一樹とは対照的に、傷一つないその姿に何処か神々しさを感じさせた彼は、頭部の鎧を開き、アザゼルと彼に担がれている一誠とその周りを見て、思案気な表情を浮かべる。
「………カテレアはやられてしまったか、やったのは誰だ?アザゼルか?」
「……コイツだよ」
「―――はははッ」
アザゼルの答えを聞いたヴァーリは、息も絶え絶えな一樹を無視しこれ以上なく楽しげに笑う。反面アザゼルは表情を深刻なものに変えていた。
「コカビエルならまだしも、オーフィスの蛇を吞んだカテレアを殺すか!!流石だ……ッ流石過ぎるぞ!!」
信じたくはないが―――この状況でどれだけ憎んでいても兵藤一樹を攻撃するという手段は、何時ものヴァーリなら取らない。だがそれは堕天使陣営の白龍皇ヴァーリの話で―――今のヴァーリは……。
「この状況下で反旗か……ッヴァーリ」
「……そうだよ、アザゼル」
「一樹君!!」
恐らく、一樹と共に魔法使い達と戦っていたであろう木場がとゼノヴィアがヴァーリが来た方向から姿を現す。
背後から来た二人を一瞥したヴァーリは光翼をはためかせ、ゆっくりとその場へ降り立った。
それと同時に、異変を感じとった残りの面々がこの場に集まって来る。リアスとギャスパー、会議室に居た面々。
アザゼルに担がれた一誠と死に体の一樹を見て、血相を変えたリアスは、最も疑わしい男に凄まじい剣幕と共に疑問を投げかける。
「い、イッセー先輩!」
「イッセー……一樹……ッ、これはどういうことなのアザゼルッ!!」
「俺のせいじゃねぇよ。特にイッセーに至っては無理し過ぎただけだ……だがそっちはそんな簡単な問題じゃないけどな」
アザゼルの視線はヴァーリへと向けられる。
「禍の団へ下ったのか、ヴァーリ」
「いや、あくまで協力するだけだ。魅力的なオファーもされたよ。『アースガルズと戦ってみないか?』―――こんなことを言われたら、自分の力を試してみたい俺では断れない。それに……」
最初に一樹、一誠を見る。
「今回コイツに攻撃を加えたのは、見極めたかったからだ」
「見極める、ですって?そんな理由でカズキを……?」
「そうだ、リアス・グレモリー。そんな理由で俺はこいつを痛めつけた……いや、痛めつけるのうちに入らないな……そう、遊んでやった」
一樹を見下すように見るヴァーリの瞳には怒りが渦巻いている。なまじ意識が残っている一樹は恐怖のあまり声が出せずただただ震える事しかできない。
歯噛みするリアスを横目にして、アザゼルは冷や汗をかく。
他の面々には分からないが、『兵藤一樹』について調べていたアザゼルならヴァーリの行動の意味が良く理解できていた。
つまり、ヴァーリは一樹に意趣返しをしているのだ。
謂れのない罪で侮蔑・迫害された兵藤一誠の苦しみを、別の形として身を持って体験させている。
「く、クソがあああああああああ!!」
だがそう言う意図を理解していない一樹からすればあまりにも理不尽な仕打ちに彼は激昂する。動かない体を無理やり動かし、ヴァーリへ右拳を向け突き出すと同時にアスカロンを突き出した。
不意を衝こうとしたならばこれ以上ない一撃だろう。
相手がヴァーリでなければ。
「そんな玩具で何ができる?」
突き出されたアスカロンは容易く弾かれ、一樹の腹部に弱めに打たれた魔力弾が炸裂する。数メートルほど吹っ飛んだ彼は、咳き込み蹲りひたすら痛みにもがき苦しむ。
「期待外れだ。龍殺しの剣、恐らく業物だろうがこれじゃあ棒切れにも劣るぞ……お前が赤龍帝に目覚めてからどれくらい経った?一か月か?二か月か?―――肉体的に人間よりも強い悪魔に転生したのにこの体たらくとはどういうことだ。コカビエルの時とまるで変わっていないじゃないか」
ヴァーリとて自分と対等と戦えるとは思ってはいない。
ただ、あまりにも非力すぎるのだ。それでも何かしら光るものを見出せたら、もう少し様子を見ようとは思っていた。格上である自分に格下である一樹がどう立ち回るか、少しだけ興味があったのだ。
―――赤龍帝と白龍皇の戦い―――
だがそれはあまりにも叶わない夢だと理解した。
だからこそ、ヴァーリはこの言葉を送ろうと思った。
何時か、誰かが必ず言うであろうこの言葉を。
「兵藤一誠が赤龍帝だったなら良かった」
「―――ッ!!……っく……ぅ……ぁ……」
宿敵だったなら良かった。
強敵だったなら良かった。
ライバルだったなら良かった。
なのに―――何故、こんなクズが赤龍帝になっている?
あの人間が宿敵と運命づけられていたならどんなに良かったか。例え一樹ほどの才能しか有していなくても、兵藤一誠は、どんな傷を負っても、どんなに絶望的でも、どんな逆境に立たされていても立ち上がる。
だがこの男は違う。この程度の傷で涙を流すほど痛がっている。
容易く肉親を貶め、そして己の身を弁えずに強者である兄に未だに自身が優位であると錯覚している。それだけで、我慢ならない。
「もう、お前が此処に居る意味はない。醜態を晒すなら此処で朽ちろ」
掌に魔力を集めそれを一樹に向ける。
半減の力すら使う事なく、容易く倒せてしまうような赤龍帝に何の意味がある。これなら次世代の保持者に期待した方が良い。
その場に居るほとんどが、ヴァーリの殺気に動けずにいた。サーゼクスもまさかヴァーリが一樹を突然殺そうとするなんて露にも思っていなかったのだ。誰もが一樹の死を予感した。
しかし―――
「待……て」
―――その声で魔力を撃ち出そうとしていたヴァーリの手は止まる。
無表情で声の聞こえた方に目を向けると、驚いた表情を浮かべ肩にいる一誠を見ているアザゼルがそこに居た。
一誠が目を覚ましたのだ。
次話もすぐさま更新致します。