二話ほど更新致します。
『見極める、お前が俺と戦える資格を持つかどうか、な』
理不尽だと思った。
『――――雑魚だな。急造の『禁手』を考慮しても、なんの工夫も感じられない。赤龍帝の名が泣くぞ?』
何で僕がこんな目に遭わなければいけない。
『そんな理由で俺はこいつを痛めつけた……いや、痛めつけるのうちに入らないな……そう、遊んでやった』
遊びで?そんな理由で僕を痛めつけたのか?
『期待外れだ。龍殺しの剣、恐らく業物だろうがこれじゃあ棒切れにも劣るぞ……お前が赤龍帝に目覚めてからどれくらい経った?一か月か?二か月か?―――肉体的に人間よりも強い悪魔に転生したのにこの体たらくとはどういうことだ。コカビエルの時とまるで変わっていないじゃないか』
―――死にたくない。
死にたくない。
何で本当は違うのに、こんなはずじゃなかったのに。
『卑怯者』
『出来損ないの赤龍帝』
『お前は何処から来た』
『お前のせいだ』
『ずっと其処で燻っていろ。卑怯者』
そんな言葉がどんどん頭の中で思い浮かぶ。
体が痛い。
―――自分で選んだ筈だ。
息ができない。
―――分かっていた筈だ。
苦しい。
―――主人公は傷つくものだって。
誰も、助けてくれない。
『兵藤一誠が赤龍帝だったなら良かった』
その言葉で、僕を支える何かが崩れて―――すごく、どうしようもなく泣きたくなった。
でも、僕は殺されずに生かされた。
この世で最も嫌っている男に、主人公だった男に―――アイツは僕がひたすらに求めていたものを持っていた。それは―――力だった筈だ。
能力。
恰好。
皆から好かれる居場所。
何もなくなった筈のアイツは、変わらず僕の欲しかったものをかっさらっていった。
『そっか、なら。俺はそれを止めなくちゃならない』
でも、かっさらっていったどうしようもなく嫌いなアイツは僕を助けようとした。バカな奴だと思った、滑稽だとも思った。自分が悪魔になれない癖に未だにその場所に居るコイツが、バカでバカでしょうがない、鼻で笑ってやろうと思ったけど―――涙が止まらなくてできなかった。
『イッセー君は貴方を大事に思っています。一樹君は……どうしてそこまでイッセー君を憎むの?家族ではないんですか?』
笑ってやろうと思ったのに―――不意に、姫島朱乃の言葉が何故か頭を過った―――。
異質―――その言葉がぴったり当てはまるほどに、その【鎧】は他を圧倒する存在感を放っていた。空中に生成されたオレンジアームズよりも一回り以上に巨大な果実は、一誠の頭のみならず上半身を飲み込み、その鎧を展開させた。
彼の鎧を知る者ならその異質さに気付くだろう。
あのスイカを除いて、他のアームズは上半身のみに鎧が展開されるのに対して、今回一誠が使用したアームズは下半身までを覆う重装甲且つ、頑丈さに主眼を置いたような作りだったからだ。
バックルから雄叫びのような叫び声が周囲に鳴り響き、変身が完了すると同時にまるでその存在を晒すように音声が鳴る。
【カチドキアームズ!いざッ出陣!!エイエイオーッ!!】
「カチドキ……アームズ?」
「―――なんだあれは……」
そのアームズを一言で言い表すなら【武将】。
頭部の偏った三日月のシンボルは、飾り付けられたように力強いものに変わり、胴回りの鎧は見る物を畏怖させるような文様と装甲に覆われている。
背には、風に靡く戦旗。
「―――行くぞ」
変身を終えた一誠に挨拶代わりとばかりにヴァーリがその手から多数の魔力弾を放つ。一撃一撃が内包するその威力は桁外れのもので、誰から見てもヴァーリが本気だということが分かる程の攻撃。
雨のように一誠へと殺到する魔力弾だが、一誠は何か確信があるように己の掌を一瞥し、向かってくるであろう魔力弾を見上げた倒れ伏す一樹の前に一歩移動し、魔力弾を受ける。
ズガガガガンと地に小規模のクレーターを与えるほどの一撃が一誠へと殺到する。砂煙と魔力の本流でその場の空気は嵐のように荒れ狂うが、その中心にいる一誠は―――
「―――ははッ、これがノーダメージか!!面白い!!」
全くの無傷。
誰もが驚愕の表情を浮かべ一誠を見るも、当の彼はさほど驚かず無言で拳を構える。
―――インファイトへの誘い―――あまりにも愚直な挑発にヴァーリは兜の中で苦笑する。
「これは俺が乗らなくてはならないな……ッ」
光翼をはためかせ、一度上昇させたヴァーリは勢いをつけて拳を構える一誠に急降下すると同時に右腕を勢いよく引き絞る。
籠手に包まれた一誠の右腕を引き絞られ、上空から落下してくるヴァーリへ繰り出される。
「……ハァッ!!」
「――オッラァ!!」
激突する拳が空間を震わし破裂させる。
地に大きな亀裂を刻みながらも一誠は動かず、空で停止したヴァーリは急停止の衝撃で周囲の大気を破裂させながら、拳を震わせ喜色の声を上げた。
【橙色の武将】と【白龍皇】の対決は苛烈さを増していく―――。
「マジかよ……ヴァーリの全力を受け止めるのか」
―――ヴァーリの本気の拳を真っ向から受けた現実に、アザゼルは今日何度目か分からない驚愕の表情を浮かべる。
ヴァーリは歴代―――いやこれから先最も強い白龍皇だろう。パワー、スピード、テクニックと共に並の上級の存在など歯牙に掛けない無敵に近い強さを持っている。―――ヴァーリとまともに戦える相手なんてそれこそ『魔王』クラスくらいだとしか思ってはいなかった。
だがどうだ?この目の前で繰り広げられている、手に汗握る勝負は……ッ。まだ始まって間もない筈なのに、こんなにも目が離せない。
『―――お前はやはり俺の思った通りの奴だった!』
『うん!?』
制止した状態から再び動き出したヴァーリは、再び空に浮き上がり一誠を見下ろし再び笑う。久しぶりだ、あんなにヴァーリが本当の意味で楽しそうに笑っているのを見たのは。
アザゼルが親に捨てられた彼を拾った時は、周り全てのモノに憎悪を抱いていた【鬼】だった―――強さを求め、戦いを求め―――宿敵を求めていた。強者に飢えていた、と言った方が正しいかもしれないが、ヴァーリにとってはどちらでも同じなのだろう。
ヴァーリが周りに大量の魔力弾を浮遊させ、徐々に魔力を籠めていく。先程よりも多く、密度の濃い魔力―――恐らく鎧では防御しきれないと判断した一誠は、どこからともなく大砲と見間違うような『橙色の銃』を掲げる様に持ち上げる。
その銃はまるで現代兵器とファンタジーの兵器を混ぜ合わせたような形状をしていた。火縄銃に似た形状をしているが、トリガーの隣にはひねりのようなものと、柑橘類の断面に似た円形の機構が取り付けられている。
一誠は掲げたその銃の側面の円形の機構に持つ手とは逆の左手を添え、摩る様に回転させた。
同時に銃から鳴り響く、ほら貝に似たラップ調の音声。
「は?今度は何だ?」
お世辞にも小さくはない音に驚きつつも注視していると、一誠はヴァーリの方に銃身を向けトリガーを引いた。
撃ち出されたのは、強烈な熱量の火球―――数発が魔力弾を放とうとしていたヴァーリへと向かっていく。
『興味深い武器だ……ッしかし!』
周囲に浮いた魔力弾のいくつかを向かわせ、火球を爆発させる形で迎撃する。普通の弾では効果が薄いと判断した一誠は、さらにほら貝の音声を鳴らし、トリガーの横にあるひねりを回す。するとほら貝の音声の音程が速くなる。
さらによく分からなくなるが、次に一誠がトリガーを放った瞬間、その意味が理解できた。
『ソラソラソラァ!!』
『―――連射かッ!!』
先程は拳大ほどの火球だったが、今度は機関銃の如く雨の様に連続で放たれるタイプの砲撃。スピード、威力共に十分な程の攻撃が今度こそヴァーリに向けられる。
ヴァーリも直撃は危険を判断したのか、周囲に生成した魔力弾を全て総動員させ迎撃に当たらせる。
魔力弾と機関銃の如く放たれる火の弾がぶつかり合い、凄まじい風を生んでいる最中で、アザゼルの耳に再びほら貝の音が入る。――――今度は先程よりも、スローテンポだ。
「普通の速さなら普通……速ければ早くなる。つまり遅くなるって事は―――」
瞬間、舞い上がった噴煙を弾け飛ばすように巨大な火弾がヴァーリへと放たれた。
流石のヴァーリもこれは予想外だったのか、慌てて火球に手を向け、神器の力を発動させた。
【HalfDimension!!】
強大な威力を内包した砲撃は、ヴァーリの手から放たれた半減のオーラによりその力を幾分か消失させ、ヴァーリによって薙ぎ払われた。
『当たらなかったかぁ』
銃を両腕で構えヴァーリに向けていた一誠は、防がれた事に気付くと構えを解き銃を担ぎ、ヴァーリを見上げそう口にする。
『当たれば俺も只じゃ済まないだろうからな。防御させて貰った。だがお前との戦いで最も有効なのは近接戦闘しかないことがなんとなくだが理解できた』
『………やんのか……』
『ああ』
ゆっくりと地上スレスレにまで降りたヴァーリに一誠は警戒するように肩に担いだ銃を消し去り、両腕を後ろに回す。
彼は背にある二つの戦旗を手に取る。くるりと回されながら一誠の手に収まったソレは、その挙動に合わせ揺らめき歌舞伎の様な琉麗さを感じさせながらヴァーリへと向けられた。
『来い!』
『遠慮なくいかせて貰おうか!!』
魔力弾を放ちながら一誠へ迫るヴァーリ、一誠はまず旗を巧みに振るい先に迫る魔力弾を火花を散らせながら消滅させ、ヴァーリが繰り出した手刀を右の旗で防ぐ。
続いて繰り出される下段からの蹴りを残りの旗の先の部分でヴァーリの腹を突き無理やり距離を取らせ不利な体勢を脱出し―――
『はぁぁ!!』
―――火の粉を舞う様に散らし戦旗を振るう。
流石のヴァーリも直撃は喰らえないと思ったのか、魔力を纏わせた四肢で旗を弾く。だが一誠は旗が弾かれると同時にその場でくるりと一回転し、旗に炎を纏わせる。
すると不思議な事に一誠の周囲が無重力にでもなったかのように宙へ浮き上がった。どういう現象かは理解できないが、周囲の葉、瓦礫、石ころまでもが浮き上がっていた。
『なっ!?』
それによってヴァーリすらも無防備な体勢で浮かび上がり、繰り出そうとしていた手刀が見当違いの方向に突き出されてしまった。無防備な状態のヴァーリに、右の手の戦旗を大きく上段に掲げた彼は、纏う炎と共に叩き斬る様にヴァーリへと振り下ろした。
『ぬ、おおおおおおおおおおおおおお!?』
空に刻み込まれるように橙色の炎の軌跡がヴァーリの鎧へ叩き付けられ、爆発、破砕音と共に吹き飛ばされる。旧校舎の周りに生い茂る木々をなぎ倒すことでようやく勢いが収まり制止したヴァーリは、ふらりとグラつきながら立ち上がると、喜びに震えるように体を震わせた。
『なんて奴だ―――前言を撤回するぞ、お前は赤龍帝じゃなくても十分に強い。いや、最高だ』
『そんな褒められるのは、慣れてないからなぁ……』
困ったように仮面に覆われた頭を搔いた一誠に、ヴァーリは再び魔力を滾らせる。
一誠も戦旗を構える。
―――この勝負、どうなるか。
「はああああ!!」
振るわれる戦旗を魔力を纏わせた手で弾きながら観察する。
兵藤一誠の今の強さを―――『カチドキアームズ』といったか?ジンバーレモンアームズはバランスの良いフォームと考えるならば、これは火力と防御力に主眼を置いた、決戦用の姿。加えて、光速で動いている自分の姿に反応、視認して動いているから全体的な性能も向上している。
―――最高だ。
【Divide!】
「?……オラァ!!」
「……ッ……半減の力すらも効果は薄いか!!」
一番おかしいのは一誠自身に半減の力があまり効果を成していない事だ。こんな経験これまで生きてきた数度ほどしかない、しかもその数度は【神】クラスの相手と戦っていた時のものだ。
アザゼル―――兵藤一誠が神に類似する存在だという仮説はどうやら間違いではないのかもしれないぞ―――収まらない笑みを浮かべたまま、口を開けて見ているアザゼルの方を一瞥し、そう思う。
「まあ……」
今は兵藤一誠の力がどういうものなんてものは最早どうでもいい。この男は自分と互角に戦える、やるかやられるかのギリギリの勝負、それだけで自分の心は満たされる。
「防戦一方ではなぁ!!」
「ぐぅ」
振り下ろす形で繰り出した手刀で旗を掴み、振り回すように手放させ、後方へ放り投げる。防御とパワーに関してはあちらの方が強いが、スピードと魔力でならこちらが有利―――。
「まだッやられるかよぉ!!」
「!!」
何時の間にか左手に出現していた銃と刀が一体化した武装が、下から切り上げる様にヴァーリの鎧に一筋の傷を刻み付けた。
完全に虚をつかれ動揺したヴァーリの隙を突き、一誠は左手に持った刀、無双セイバーをヴァーリの肩に突き出した。
「ぐぁ……ッ!?か、はは!やるなぁ!!イッセー!!」
「これで終わりじゃないぞ!!ヴァーリ!!」
肩に突き刺さった無双セイバーを引き抜きながら空へ逃れたヴァーリに、橙色の銃、【火縄大橙DJ銃】を掲げた一誠は、バックルからカチドキロックシードを取り外し、DJ銃のくぼみに嵌め込んだ。
【ロックッ・オォン!!】
重々しくも重厚な音声と雄叫びが嫌に静かになった周囲に響く。
無双セイバーが突き立てられた鎧の傷からは血が止め留めなく流れているが、それを無視しながらヴァーリは一誠を注視した。
「ははっ!」
―――今から繰り出される一撃は一誠の必殺の一撃だ、ということを感じとりやや遅れながらも両腕を前に突き出し、巨大な魔方陣を展開させる。
巨大な魔方陣には眩いほどの魔力が溢れ出る様に漏れ出し、眼前にいる一誠を照らす。
一方の一誠も、掲げた銃の銃口から燃え滾るような橙色と赤色のオーラを迸らせている。
それだけで二人を中心に荒れ狂う様に風が吹き荒れる。
双方が今まさに繰り出そうとしている一撃を見たアザゼル、サーゼクス、セラフォルー、グレイフィア、ミカエルは表情を険しいものに変え、周りにいる面々に今すぐ退がり、停止した者達を守る様にと指示を下す。各国の実力者が危惧するほどの一撃、自ずとそれを理解したリアス達はすぐさま前方に防御用の魔方陣を展開し衝撃に備えた。
「全身全霊の一撃ッその身を持って知れ!!」
「はぁぁぁ………ッ!!」」
【カチドキチャージ!!】
魔方陣からは白銀の魔力の一撃が放たれると同時に、銃口に強大なエネルギーを収縮した一誠はそのトリガーを引く。放たれたのは光線と見間違うほどの灼熱の本流。
白銀色と橙色の一撃が激突し、拮抗するように魔力とエネルギーが拡散する。はじけ飛ぶように拡散されたエネルギーの余波は校舎を破壊、蹂躙し、嵐の如くリアス達にも衝撃を伝えさせる。
「押されている、だと!?」
ヴァーリの魔方陣を展開している手が震える。
―――一誠の放った砲撃に押し負けている、魔力において比肩しうるものが居なかった自分が押されている。
なんという人間だ。
なんて素晴らしい人間だ。
ただ一方的に蹂躙するのではなく、対等に、互角に、自分を圧倒する最高の好敵手、これが―――兵藤一誠。
自身の魔力を今にも突破しようとしている砲撃を見据え、鎧の中で口を震わせる。
もう兵藤一樹の事も禍の団の勧誘の事なぞどうでもいい。
仲間になんてならなくていい。
「俺も今この時を感謝しよう……ッ」
橙色の砲撃が圧倒的な威力を以て自身の魔力の一撃を突破する。純粋なパワーでの勝負に敗北に、不思議な事に悔しさはない。むしろ嬉しさの方が大きい―――。
―――兜の中で満足そうな表情を浮かべたままヴァーリは一誠の放った砲撃に飲み込まれた……。
カチドキ鎧武VS白龍皇
圧倒とはいかないまでもかなり互角にまで持ち込めました。
前半の一樹について―――。
これで一樹は改心したかどうかと言われれば、まだしていません。
というより、手放しで改心して許される、というのは何だかなぁと思うので、なぁなぁな感じにはしない予定ですね。
次話もすぐさま更新致します。