兵藤物語   作:クロカタ

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本日二回目の更新です。

そして今章はこれで終わりです。


揺るがぬ心 14

 長いようで短い二人の真剣勝負。

 お互いが全力の力を以て繰り出した一撃。

 

 ―――打ち勝ったのは一誠だった。

 

 彼の放った尋常ならざる砲撃がヴァーリの放つ魔力砲を消し去り、彼を飲み込んだ。

 

 リアスはその筆舌しがたいその光景に、暫し呆然と立ち竦んでいたが、直ぐに我に返ると砲撃に飲み込まれたヴァーリから、一誠の方へ視線を変える。

 一誠の姿を視界に収めたその瞬間、彼はその手から【火縄大橙DJ銃】を落とし、変身が解除されると同時に膝から崩れ落ちていた。ドサリと顔から地面に落ちた彼にリアスは悲痛な叫び声を上げた。

 

「っ!イッセー!!」

 

 戦闘が未だ終わっているかどうか分からないにも関わらず、リアスは一誠にへと駆け寄った。彼女の後から木場、ゼノヴィア、ギャスパーも遅れて着いて、リアスに支えられる一誠を心配そうに見つめた。

 

「……部長、ヴァーリは……」

「お願いだから動かないでちょうだい……ッ」

 

 ヴァーリが居た場所を見る一誠の目は虚ろだった。恐らく、ほぼ何も見えていない……それなのに変身が解けても尚一誠は戦おうとしている―――その事実にリアスは身が引き裂かれそうな悲壮感に駆られる。

 一誠を抱き起した手を見ると、べっとりと血がついている。

 

「い、一誠さぁん!」

「ギャスパー、か……」

 

 血が苦手なはずのギャスパーが流れ出す血を恐れずに、一誠に懸命に声を掛ける。彼の言葉に意識が朦朧としているであろう一誠は、ギャスパーの声が聞こえるその方向に顔を向けた。

 

「……良か……た」

 

 そう一言だけギャスパーとリアスに向けて言い放ち、一誠は脱力するように目を閉じた。四肢の力が抜けてしまった一誠に、顔を青くさせたリアスはすぐさま彼の胸に耳を寄せ心音を確かめる。

 ―――生きている。心臓が確かな鼓動を刻んでいることに、安堵の表情を浮かべる。

 

 

 

 

『―――限界だったか』

 

 

 

 

 しかし、リアスが浮かべた安堵の表情は次の瞬間には、絶望へと変わった。やや上方から聞こえるその声、機械仕掛けの人形のような挙動でそちらに視線を向けると……一誠の攻撃に飲み込まれたはずのヴァーリが其処に居た。

 

 鎧は所々砕け散り、至る場所から流血が見られる。

 兜のほとんどが砕け覗く端正な顔には、血反吐を吐きながらも満足そうな笑顔を浮かべている。

 一樹の方を見ていた木場とゼノヴィアは、すぐさま一誠を抱きかかえるリアスの前へ出る。サーゼクス達もこれ以上の勝負は危険と判断したのか、目を細めながら静かに力を放出させながらヴァーリを見る。

 

「先程の一撃、これまでにない最高の一撃だった……俺もここまでダメージを受けるのは久しぶりだ」

 

 自身の姿を見ながらそう呟いたヴァーリは、リアスに抱きかかえられている一誠を見る。

 ―――自分と戦う前から既に限界近くだったはずだ。

 あまり医学に精通していないヴァーリでさえ一目で分かるほどの状態だった一誠は、自分と互角に戦い、あまつさえここまでのダメージを与えた。

 

 もし万全の状態の一誠と戦ったなら……?

 

 そう考えると震えが止まらない。怯えなんていうものではない、歓喜からくるものだ。まだ自分には覇龍という奥の手があるが、それを抜きにしても今の一誠の成長速度を考えるともしかしたら、という可能性が出て来てしまう。

 

「引き分けだ」

 

 場を見れば勝者はヴァーリだが、それを彼は良しとはしなかった。

 一誠は万全でじゃなかった。

 自分の我儘で無理に戦わせてしまった。

 自分と対等に戦ってくれた。

 それだけでこの勝負を引き分けとする理由としては十分だった。

 

「今回の勝負は引き分けだ。イッセーに伝えておいてくれないか。リアス・グレモリー」

「……ええ」

 

 ヴァーリの突然の言葉に目を瞬かせたリアスは、その言葉の意味を反芻するとゆっくりと深く頷いた。

 リアスが頷いた事を確認したヴァーリは、次にアザゼルの方に視線を向け口を開こうとするが―――その瞬間、上空高くから神速でヴァーリとアザゼル達の間に何者かが入り込んだ。

 

 

「ヴァーリ、迎えに来たんだぜ……っておいおい、ボロボロじゃねーか!どうしたんだぜぃ!」

「美候か…お前が来たという事は………そろそろ時間か……」

 

 空から舞い降りたのは中国の武将のような鎧を身に纏った男だった。

 一見、一誠のカチドキアームズとは対照的に見えるその姿に、その場に居る面々は丸くする。

 

「まさか孫悟空の末裔までもが『禍の団』入りとはなぁ……世も末だな。だが白い龍に孫悟空か、西遊記的にはある意味でお似合いかもしれねぇな」

「オレッちは仏になった初代とは違うんだぜぃ。自由気ままに生きる、その過程でヴァーリと仲間になった、それだけだぜぃ」

 

 血濡れのヴァーリに手を掲げ仙術での治療を施しながら、青年、美候はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。その笑みにお手上げだと言わんばかりに両手を挙げたアザゼルは、美候からヴァーリに視線を変える。

 

「お前は行くのか。ヴァーリ」

「ああ、もう此処に居る理由はない。それに俺も今日この時を機に忙しくなる。立場的に面倒くさいんだが……後悔はしていない。こうやって念願の宿敵に会えたからな」

 

 念願の宿敵。

 アザゼルは一誠を一瞥し、その言葉にどれほどの意味が込められているのかを吟味する。

 恐らく、ヴァーリは一誠の潜在能力の底知れ無さを戦いを通して感じとった。あのヴァーリが宿敵と認めるのは相当な事だ。赤龍帝と白龍皇との因縁とは関係ない、『縁』。

 

「兵藤一誠はもっと強くなる。目を離すなよ、アザゼル」

「……んなこと言われなくても分かってるよ。何年お前の相手をしていたと思ってんだ」

「……ははは、それもそうだな」

 

 アザゼルの皮肉に、快活に笑いながら美候と共に地へ降り立ったヴァーリは、美候に何かを指示する。ヴァーリの治療を行っていた美候は、治療の手を止めると棍をその手に出現させ、くるくると回しながらソレを地面に突き立てる。

 すると、地面に黒い沼のようなものが現れ、ヴァーリと美候を飲み込んでいく。

 

 独特な転移方法―――すぐさまその認識に至ったアザゼルはゆっくりと目を閉じる。

 目を閉じたアザゼルに、何かを思ったのか僅かに表情を渋めながら、一誠に対する最後の言伝とばかりに口を開く。

 

「兵藤一誠に伝えておけ、次に本気で戦う時はもっと強くなってからだ、とな」

 

 ―――そう言い放ったヴァーリと美候は地の黒い沼に沈み消えて行ってしまった。

 ヴァーリから一誠に対する言伝を聞いたリアスは今、腕の中で傷つき目を覚まさない一誠がまた今回以上の戦いを、運命づけられていると感じ、悲しげな表情でより強く彼を抱きすくめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍の団によって三勢力会談は襲撃された。

 だが、各勢力の奮闘により見事、禍の団を撃退することに成功した。

 

 ―――天界代表天使長ミカエル、堕天使中枢組織『神を見張る者』総督アザゼル、冥界代表魔王サーゼクス・ルシファー、三大勢力各代表のもと、和平協定が調印された。

 この和平は、会談が行われた舞台、駒王学園の名から取って『駒王協定』と称されるようになった。

 

 三勢力会談から数日後、アーシアのおかげで全快の状態にまで回復した一誠。だが数日中はリアスの言いつけで学校を休んではいたが、それも終りようやく学校へと通うまでになった。

 「俺、何時も気絶してるなぁ」と思いながら休んでいたものの、見舞いに来てくれたイリナに嬉しく思いながらも、彼は休んでいる間も色々な事を考えていた。

 

 

 新たに目覚めた力、【カチドキアームズ】。

 白銀の戦士へ至るであろうその力。

 その力を使っている最中、全身を襲う激痛に襲われながらも彼の頭にはなだれ込むように【記憶】が入り込んだ。

 全く理解できなかった。ユグドラシルとか此処とは違う世界の危機とか、一誠の理解の範疇を超えている事態が起こっていたからだ。だがその断片の中で、自分が夢見る森の中に住んでいる男の姿が映りこんだ。

 森の中では民族衣装の様なものを纏っているあの男は、記憶の中ではカラフルなDJを思わせる衣服に身を包んでいた。―――いよいよあの存在がなんなのか分からなくなってしまった。

 あの男については次に森へやって来た時、おいおい訊いてみようかと思う。

 

 

 後は一樹の事だ。

 一誠は正直心配だった。

 ヴァーリに痛めつけられ精神的に辛い事を言われ、沈んでいないか。もし、自暴自棄になってはぐれ悪魔になってしまうような事態になったら―――そう考えたら身の毛もよだつ思いに駆られた。

 

 だが一樹は思いのほか変化は無かった。

 あるとすれば、時々一誠を見て、思いつめるような表情を浮かべるような所作が増えただけだった。何か言いたげにしているようにも見えるし、避けているようにも思える。少なくとも日々の悪態や嫌味は完全になくなった。

 

 体調が整った後に、リアスに一度相談したら「思いつめているんじゃないかしら?」と悩ましげにそう言われた。一誠自身、一樹が何を思い、何を考えているかは分からない。

 だけど、三大勢力会談から何かしらの心境の変化が起きたという事はなんとなくは分かった。

 

 それがどういう変化かは今の状況じゃ理解できるはずがないが、できることならそれが良い方向に変わってくれればいいと一誠は思っていた。

 

 

 

 ―――そんなこんなで中々の波乱が起きた三勢力会談も終り、数日が過ぎた頃。

 一誠がようやく学校へ登校することができたその放課後。オカルト部に驚くべき来客がやってきていた。

 

「てなわけで、今日からオカルト研究部の顧問になることになった。アザゼル先生と呼べ。もしくは総督で良いぜ」

 

 堕天使総督、アザゼル。

 着崩したスーツに身を包んだチョイ悪な風貌の男が軽い口調で、そう言い放った。

 リアス含め部員全員が驚きの表情を浮かべる。

 

「……なんでここに?」

「はっ、セラフォルーの妹の嬢ちゃんに頼んだらこの役職だ。まあ、俺は知的でチョーイケメンだからな」

「……ソーナ、事前に連絡位くらい越しなさいよ……」

 

 学園の親友に苦言を呈しながら、リアスはジト目でアザゼルを睨み付ける。その視線を受けても尚飄々としているアザゼルはオカルト研究部を興味深げに見回しながら、自身が此処に来た理由を述べた。

 

「俺がこの学園に滞在できる条件はグレモリー眷属の未成熟な神器を正しく成長させること……まあ、神器マニアの俺の知識を役立てろって事さ。後はイッセーの力の解明と……『禍の団』の抑止力として育成しろっていう所だな」

「抑止力、ね」

「最近、どんどん実力を伸ばしているグレモリー眷属にじきじきの推薦があったらしいからな」

 

 禍の団に対しての抑止力、つまりヴァーリ以外のテロリストと戦わなければならないのだろうか。でも今の状態じゃ厳しいから、その為にアザゼルが来た……そういう認識で良いのだろうか?

 首を傾げながら一誠が考えていると、アザゼルが悩ましげな表情の一誠に気付き、苦笑しながら声を掛ける。

 

「おいおい、難しく考えるなよ。どうせ脳が足りねぇんだから、余計なこと考えてもらちが明かんぞ。お前が最終的に戦うのはヴァーリだ、お前はそれだけ理解していれば十分だ」

「は、はあ」

 

 相槌をしながら話を聞く。

 取り敢えず、悪い人ではなさそうだ。

 

 この人の知識はリアスや皆にとって良い影響を与えてくれるかもしれない。そして―――自分の力の正体も、もしかしたら解明してくれるかもしれない。

 

 若干の淡い期待を抱きながら、一誠は無意識的に心臓の位置する部分に手を置き制服を握りしめ、思う。仮に、自分の力が解明されたとしてどうなる。危険な力だったのなら使うのを止めるか、それも一つの手だろう。

 『皆』にとっての最善を選んで来た自分が、周りに危険を及ぼす選択を選ぶことはあり得ない。

 

 あまりにも大きすぎる力だったなら?

 『人』という容量に収まらず。

 その容量に見合う身体に作り替えてしまうほどの大きな力だったのなら。

 自分はそれでも力を使い続けなければならないのだろうか……。

 

「―――答えは……」

 

 胸に置いた手を離し、手を開く。

 橙色の大きな錠―――自由に生成できるようになったソレを、見て一誠は誰にも聞き取られないような声で―――

 

「……決まってるか」

 

 そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章~【終】~

 

 




これで今章は終わりです。

次章は一樹にとって、かなり重要な章になるかもしれません。






感想返信できなくてすいません。


一応、多い質問についていくつか答えさせて貰います。



1、レジェンドアームズは出るか?

 本編では出せません。
 外伝なら可能です。

2、オリジナルアームズは出るか?

 設定的に滅茶苦茶になってしまうので出せません。

3、鎧武が劇中変身していないアームズに変身できるか?

 ロックシード自体は手に入れる事は可能ですが、変身は……無理です。
 あまり多く変身形態を増やすと、可愛そうな―――

   チェリー「………」

 ……可哀想なロックシードが出てきてしまうので……。

4、イッセーはオーバーロードになるか?

 予定としてはなります。


5、待機音とか他音声の部分とかは描写しないのか?

 一部のみ描写しています。
 変身の際の『ソイヤッ』とか大橙銃『フルーツバスケット』等の音声の描写は敢えて書きませんでした。
 あまり描写するとしつこいかな、と思ったので小説版仮面ライダーとまではいかないまでも、ある程度簡略化させて貰っています。




 取り敢えず、感想蘭での質問が多いものはここで返信させて貰いました。

 次話は、『悪』か『D』を更新したいと思います。
 ここまで読んでくださってありがとうございました。

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