兵藤物語   作:クロカタ

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お待たせしました。
新章、【不変の想い】更新致します。

二話ほど更新致します。


不変の想い 1

 三大勢力会談『駒王協定』からある程度の日にちが過ぎた。

 ヴァーリとの戦いとの傷が完全に癒えた一誠。ようやくいつも通りの日常に戻れると思いきや、そうはさせるかというように彼に様々な事が起こった。

 

 アザゼルがオカルト部の顧問になったこと。

 自分の家が豪邸ばりに改築されてしまったこと。

 

 正直アザゼルに関してはそれほど問題視はしていない。なんとなくだが、一誠にはアザゼルがコカビエルの様に悪い人には見えないのだ。むしろ自分の趣味に生きる人みたいなところもあるので警戒する方が馬鹿らしくなってくる節さえある。

 

 家は……寝て起きたら改築されていた。

 理由は、大人数で暮らすには少し狭い、という理由とオカルト研究部の集まる場所として使おうと思っての事だという。そう何気なく言い放つリアスに「流石お金持ち、流石お金持ち……」と思わず二回呟いてしまった。

 

 でも住めば都という言葉がある通り、数日過ごせば新しい家にもすぐに慣れる。むしろ広い室内にテンションとか上がったりしていた。

 

 浮足立ったまま日々を過ごしていると何時の間にか一学期が終わる間近―――

 夏休みを目前にした一誠はアザゼルに自身の力、『鎧武』の力について調べて貰っていた。

 

 

 

「駄目だ分からん」

「ええ!?結局分からなかったんですか!?」

 

 ロックシードとバックルを解析して貰ったのだが、アザゼルが出した結論は相も変わらず『分からない』というものだった。

 

「強いて言うなれば、このロックシードとかいう物体とバックルの中身は完全なブラックボックスと言う事が分かった。神器を研究する身としてこれほど興味深いものはねぇな」

 

「ブラックボックス……」

 

「俺なりの考察を述べるなら……力の大本はお前の身体の中にある。このバックルとロックシードはあくまでお前の力を引き出す媒体でしかない。だから俺やリアスが使おうとしても使えなかった」

 

 一誠の身体の中に燻る大きすぎる力。

 それはアザゼルの想定したものよりもずっと不可解で、興味深いものだった。神器とは似て非なる道具を生成し尚且つ、魔力や光力とは違うエネルギーを操る。まるで、この世界とはズレた力。

 そしてアザゼルはもう一つ一誠に対して興味を抱いている事があった。

 

「お前の中に居る意思はなんて言っていた?」

 

「………」

 

 一誠の中に宿るなんらかの意思。

 なんとか一誠から聞きだした内容から考察するに、その意思は霧の深い森の中に居る、民族衣装のような衣服を纏った男。一誠にロックシードなる力を与えた……。

 だがそれだけしか聴き出せない。何故か、一誠は必要以上にその男について語ろうとしないのだ。

 

「リアス・グレモリーには話さねぇよ……余計な心配をかけたくないんだろ?」

 

「いや……はい……あの……俺も良くは分かってないんですけど……俺の中にいるアイツは言ったんです」

 

「言った?……何をだ?」

 

「大袈裟なんですけど……『その時お前は、全ての世界を制するんだ』って。バカみたいな事だと思うんすけど……」

 

「……は?全ての世界?おいおい話がいきなりぶっ飛んだな」

 

 確かに一誠の持つ力は一人間が持つには規格外だが、あくまでそれは魔王クラスに片足を突っ込んだ程だ。最強の名を冠するグレートレッドやオーフィスには遠く及ばないだろう。なのに全ての世界を制する?……普通なら笑う所だが、もし一誠の力が際限なく進化し続ければあるいは……。

 

「その意思はお前に『神』にでもなってほしいのかねぇ……それは割りとシャレにならねぇが」

 

「は、はは……」

 

「笑い事じゃねぇぞ。あまり過信しすぎるなよ?力を不用意に使いすぎれば下手すりゃお前も晴れて人外の仲間入りだ。まだ人間でいたいのなら、無理な力の使い方はするな」

 

 正直、アザゼルは一誠が別の種族になることを前提で考えている。可能性は低い、と言われているがアザゼルはそう思わない。

 一誠がヴァーリと戦っている時、一誠には白龍皇の半減の力がほとんど効果を成していなかった。これは神性の高い者には半減の力の効きは薄い、という現象と酷似している。堕天使幹部にさえ効果のある半減をまともに受けて力の衰えを見せない一誠はそれだけで異常だ。

 一誠の中に内包するものがそれだけ規格外ならば、悪魔の駒が反応しない理屈が通る。だがそれは一誠が人間ではないナニかになってしまうという結論に至ってしまう。……勿論これはリアスには伏せているが何時か言わなくてはいけない事だろう。

 

「ま、現状お前の力はよく分からん。グリゴリで調べさせれば色々分かるかもしれんが、現状リアスがそれを許してはくれねぇだろ。……今はゆっくりと考察を考えているさ」

 

「はい……」

 

「気落ちすんな……そういえばお前は俺らと一緒に冥界に行かねぇのか?」

 

 早朝、小耳に挟んだが一誠はリアス達と共に冥界には行かないとか。

 

「あー、ちょっと友達と海行って来る約束したので、とりあえず遊びに行ってから冥界に行くという感じっす。幸い、部長が迎えの人を呼んでくれって言っているので」

 

「成程、まあ人間のお前には悪魔の行事とかは暇だからな。いいんじゃねぇか?」

 

 一誠にとって、人間としての交流が大事と判断したリアスは一時一誠が離れることを許したって訳か。悪魔にとっては長い時の中での一瞬の出会いでも、人にとっては長く保たれる縁、一誠の言葉に納得したアザゼルは椅子に座り脚を投げだした。

 

「検査はこれで終わりだ。まー、リアスには分からなかったとだけ伝えておいてくれ」

 

「はいっ!ありがとうございました!」

 

 元気よく礼を良い一誠はアザゼルの居る部屋を後にする。

 一人残されたアザゼル、彼は先程までの検査の結果を含めた資料を並べながら大きなため息を吐いた。

 

「全ての世界を制する、か。本当にそんなことになっちまったら……あのジジィ共と骸骨野郎が黙ってねぇな……帝釈天あたりにも注意しておいた方がいいかもしれねぇな……」

 

 一誠が口にした言葉は到底信じられるようなものではなかったが、どうにもアザゼルにはそれが虚言とは思えなかった。

 

 面妖な果実

 

 ヘルヘイム

 

 仮面の戦士

 

 霧の深い森

 

 兵藤一誠という存在。

 

「新しい『神』の誕生、それは混沌を呼ぶぞ」

 

 この懸念が杞憂で会って欲しい、アザゼルは心の底からそう願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、先に冥界に行くわイッセー」

 

 リアス達が冥界に行く日、一誠は街の駅の前で彼らの見送りをしていた。

 冥界への入り口がある場所が駅の中にあるとは思わなかった一誠は最初は驚いてはいたものの、悪魔の常識というものは人より若干ずれているということが分かっていたので、その驚きも直ぐに収まった。

 

「俺も松田達と海に行ったら直ぐに行きます」

 

「ええ、楽しんでらっしゃい」

 

 本来は人間である一誠を冥界に連れて行く意味はないのだが、特異な力を持つ人間であるということとリアスにとって恩人とも言える人物であることから、サーゼクスが一誠を冥界に連れて行っていいように許可を出したのだ。

 しかし一誠にも人間としての生活があるので、それを配慮してリアス達よりも少し遅れて冥界に行くことになった。

 

「松田さんと元浜さんによろしくお願いしますっ」

 

「イッセー、待ってるぞ」

 

「皆も気を付けてな」

 

 部員それぞれに別れを告げていきながらも、最後に一樹の方を見やる。

 ―――ヴァーリにやられてから、ずっと心此処にあらずと言った感じだ。一応、受け答えはしてくれるが前の様な感じではなく、なんというか無気力な感じに思える。

 

「一樹も……部長を頼んだぞ!」

 

「………できたらね」

 

 一誠の気合いの籠った激励も流すように応対した一樹は、ぼんやりとしたまま一誠に背を向ける。

 その様子に溜め息を吐いたリアスは他の眷属達にも出発するように言い渡してから、一誠へ向き直り優しげな笑みを浮かべた。

 

「イッセー……貴方の事だから心配はないでしょうが……禍の団の事もあるから気を付けて」

 

「はいっ、もし戦うような状況になっても出来る限りは無理はしないつもりです」

 

 一誠のその言葉に安心するように笑顔を浮かべたリアスは、背後を振り向き駅の方へ歩いていく。眷属達も一誠に手を振り、着いて行く……が、その中でギャスパーが名残惜しそうに一誠の方を見ている。

 不安そうに一誠を見る彼の心情を察した一誠は、彼由来の明るい声音でギャスパーの肩に手を置き目線を合わせる。

 

「そんな気負わなくても、俺もすぐに行くって。だから……俺が居ないからって寂しがるなよ、ギャスパー」

 

「……はい、いってきます!イッセーさん!」

 

「ああ、行って来い」

 

 大袈裟だなぁ、と思いつつも走っていくギャスパーと部員たちを見送った彼は、その場で踵を返し家のある方へ歩いていく。松田と元浜と予定した海への旅行も三日後。

 去年も松田と元浜とは海に遊びに行ったが今年はその後に冥界に行かなくてはならないということが去年とは違う所だろう。

 

「今年の夏休みは忙しくなりそうだ」

 

 照りつく太陽の光を手で遮り雲一つない空を見上げた一誠は、親友二人との旅行に心躍らせるのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹操、『彼女』は?」

 

「出掛けているよ。そう珍しいことじゃない、彼女は今の俺達じゃ縛れない次元の存在だ。偽りのボスだとしてもね」

 

 曹操、と呼ばれた少年がその手に持った槍を肩にかけやれやれと言った風にため息を吐く。自分たちのボスの自由奔放さに何度こうやってため息を吐いたか分からない程だが、彼女の存在はそれだけで意味を成す。

 何せ無限の力を持つと言われている存在なのだから。

 六つの剣を持つ少年はそんな彼の表情を見て苦笑した。

 

「自由奔放すぎるのも困ったものだね。何処に居るかは聞いている?」

 

「……分からない。彼女らしい曖昧過ぎる言葉を残して去っていってしまったよ」

 

「へえ、どんな?」

 

 曹操の言葉に興味を持った少年は、興味深げにそう問いかけた。その問いかけに曹操は理解できないとばかりに額を抑え、苦々しい表情を浮かべた。

 

「会いに行く、と」

 

 





一誠がリアス達と合流するのは修業が始まって数日くらいしたあたりです。

次話もすぐさま更新致します。

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