兵藤物語   作:クロカタ

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二話目の更新です


不変の想い 2

 降り注ぐ日差し。

 波打つ砂浜。

 視界一杯に広がる青い海。

 屋台からかおる香ばしい香り。

 

 

「「「海だぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

 

 一誠、元浜、松田の三人組は海にやってきていた。夏休みという長期休暇を利用しての海水浴、夏休み前から計画していたとあって、滞りなく海に到着した彼らはさらにテンションを上げ、海へ繰り出した。

 

 皆で楽しくわいわい泳いで遊ぼうという名目の下、海へ走っていく彼等であったが―――。

 

「お前らー!ナンパすっぞ!!しくじんなよ!!」

 

「目立つなバカ者ッ、ここで目立ったらギャルが寄ってこんぞ!!」

 

「そういうことだと思ったよ!!」

 

 その真の目的はナンパ。

 海と言えば海水浴、海水浴と言えば水着、水着といえばギャル、ギャルと言えばお姉さん、お姉さんはエロい、そんな単純すぎる思考の下欲望まみれの高校生男子は意気揚々と砂浜に脚を踏みしめた。

 

「熱ッ!砂浜すげぇ熱いぞ!!」

 

 日の光によって熱せられた砂浜が足の裏を焼く。そのあまりの熱に思わずそう叫びながら松田と元浜へ振り返ると―――

 

「お姉さん!お姉さんは何処だ!!」

 

「いたぞ!あそこだ!!」

 

「お前らまず海を楽しめよ!?」

 

 エロガッパ三人組らしいといえばそうだが、あまりにも性欲に忠実過ぎて女性は愚か誰もが彼等から距離を取る様に避けているのが、なんとも言えない。

 いつも通りな親友二人にある意味でどこか安心する一誠。

 

「イッセー、俺は大変な事に気付いてしまった」

 

「ん?どうした」

 

「俺の私的見解によると、俺がお前らと一緒に居たら高確率で変態に見えるということにだ」

 

 この時一誠はこう思った。

 このエロメガネは何をとち狂った言っているのだろう、と。

 

「いや、俺とて普通にしてみればメガネをかけた好青年だろ?」

 

「……おいおい元浜、それは間違ってる見解だ。むしろお前らといると俺も変態と見られるんだ。全く、なあイッセー、お前もそう思うだろう?」

 

「ああ、全くだ。俺一人だったらもうナンパとかし放題だから」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 互いに笑みを浮かべたままの無言。

 彼らは親友だ、親友ではあるが彼女ができることを手放しで喜んだりはしない。クラスの同級生に彼女が出来たのなら怨嗟の視線で睨み続けるし、苦渋の表情で泣き合ったりしている。

 夏休みを機に折り返しとなった高校生活―――今年こそは、今年こそはと思い繰り出した海。

 

 ―――三人組で行動してしまったのなら、必ずボロが出る奴が現れる。そうなればナンパ相手には逃げられてしまうし、責任のなすりつけ合いが始まる―――

 

 奇しくも三人とも同じことを思っていた。

 

「………元浜、イッセー、それじゃあ誰が先に女の子を連れてこれるか勝負をしようじゃないか」

 

「上等だぜぇ……」

 

「乗った」

 

 売り言葉に買い言葉。

 あれよあれよと不毛すぎる対決が始まり、砂浜で睨みあっていた三人は背後を振り向き各々が狙い定めたポイントへ歩き始める。

 

「………」

 

 ふと一誠は考える。

 ナンパをしに海に行ったことがリアスやアーシアに知られたら……。

 

「―――男には……ッ引けない時があるッ」

 

 いわばこれは男と男の勝負、例え見損なわれようと、蔑まされようとそれは歩みを止める理由にはならないッ。一人の男として、一誠は砂浜を踏みしめ日の光が降り注ぐ浜を進む―――。

 

「兵藤一誠行きます……ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惨敗だった。

 無理な話だと気付くのが遅すぎた。リアス達と出会う前は覗きはすれど女子と真っ向から話すことなどほとんどなかった。例外で桐生藍華という女子がいるが、あれは普通の女子とカテゴリーしていいかどうか分からないのでカウントしない。

 

「フ、フフ……迂闊だったぜ」

 

 砂浜と隣り合う岩場に座り込み、落ち込む一誠。

 まさか初対面の女子とまともに会話することがこんなにも難しいとは露とは思わなかった。学校という一定のコミュニケーションが取れる環境から出たくらいでこの体たらくとは……。ナンパを平気でできる人って実は凄い人だったんだと痛感しながらも、未だにナンパを続けている親友たちの方へ意識を向ける。

 

『―――ってえ、ああ……そう……連れの人が……あ、はい……すいませんでした』

 

「………松田ぁ……」

 

 へこへこしながらその場を離れる親友を見てなんだか悲しくなってしまった。

 元浜はその近くで虚ろな表情で海が波打つのをボーっと見ている。彼の成果も言うまでもないだろう。

 

 こんなにも現実は非情、そう思い知った一誠は熱くなった目頭を抑えながらもせめてもの慰めとして彼らに飲み物を差し入れようと、近くにある海の家へと行こうと考える。

 いくら頑丈な彼等とて熱中症にならないとは限らない。

 

「……ついでに何か適当に食い物でも買っていくか」

 

 財布を取り出した彼は、砂浜を上がり海の家がある方向に向かう。幸いまだ昼時じゃないからかそんなにはまだ人が混んでないように見える。

 

 手早く飲み物と焼きそばを買って、それを持って店の外へ出る。

 

「…………ん?」

 

 外へ出た瞬間、先程まで見当たらなかった少女、降り立つように目の前に現れたことに気付く。

 普通の女の子だったならば気にも留めなかっただろう。一誠が興味を引いたのはその少女の服装―――それは圧倒的に夏にそぐわないゴスロリ染みた真っ黒な衣装を纏っていた。

 何処か異様な雰囲気を纏う少女の黒髪から覗き見れるその真っ黒な瞳は一誠を捉えて動かない。

 

「見つけた」

 

「え?」

 

 少女が一誠にそう言うと、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。どうみても普通じゃない少女がこちらへ近づいてきている事に何かしらの危機感を抱いた一誠は、海パンのポケットに手を入れバックルを出現させようとする。

 

「……。……っ!……がっ……」

 

 少女が目前にまで近づいて来たその瞬間、心臓が締め付けられるような感覚が一誠を襲う。

 痛みはない……痛みはないが、息が出来ない程に心臓が熱されるように熱を持ち、鼓動を速める。

 まるで何かに反応しているように、警告するように―――今にも胸から飛び出しそうな程に力強く躍動する。

 

「あ……がッ……」

 

 今までにない感覚―――。

 レイナーレやライザーやコカビエルや――――ヴァーリの時とは全く違う反応。怯え、怒り、苦しみ、喜び、そのどれでもない感情が沸き上がり一誠の体の自由を奪う。

 手に持った袋を落とし、胸に手を抑え膝をつく一誠。

 

「ハァ―――ッ……ハァ―――ッ……何だ、勝手に……」

 

 何時の間にかバックルが腰に出現し、心臓付近に抑えた手にカチドキロックシードが握られている。しかし握られたカチドキロックシードは一誠の意思とは別に勝手に変身を試みようと彼の手の中で暴れまわる。

 こんな所で変身する訳にはいかない。

 もしかすればバイザーの時の様に白銀の戦士の姿になって、勝手に戦いだしてしまうかもしれない。そうなれば無関係な人に被害が及んでしまう。それだけはあってはならない。

 

「我の知ってる力とは違う……でもそれは紛れもなく、命を支配する力」

 

 気付けば周囲に人気が消え失せその代わりに黒髪の少女だげが眼前に居た。

 無機質ながらもその奥に僅かばかりの好奇心を見せる瞳と一誠の【赤く光り輝く人ならざる瞳】が交差する。

 

「まだ時期じゃない……でも遠くでもない、その目覚めの時はすぐ」

 

「……君は……」

 

 一誠自身、自分の目の変化に気付いてはいないがこの状況がマズいものだという事が嫌でも理解できてしまった。そして目の前の少女がコカビエルやヴァーリよりも遙か格上に位置する存在だという事に。

 

「もっと強くなる」

 

 一誠の頬に右手を添えた黒髪の少女は、自らの力を抑えることで精一杯な一誠を自分の方へ向かせる。目と鼻の先に近づいた少女に動揺する一誠だが、異様に強い少女の腕力に抗えず成すがままにされる。

 

「今日は試しにきた。お前がグレートレッドに届き得る存在に成り得るかを」

 

「がっ……ハァ……ハァ……」

 

 急に体を襲っていた鼓動が収まり、勝手に変身を行おうとしていたカチドキロックシードが動きを止め霧散する。緊張状態から解き放たれ大きく息を吸う一誠をジッと見たままの少女は一誠の頬から手を離さずにさらに距離を近づけた。

 ようやく体を自由に動かせるようになった一誠は、何者かも分からない少女の腕を掴み無理やり自分から引き剥がした。

 

「何者だ……お前……ッ」

 

「今は弱い」

 

「答えになって―――ッ」

 

 掴んでいる腕が、少女とは思えない怪力によって引かれ再び頬に添えられる。

 

「……それはまだほんの少しの力しか引き出されていない」

 

 目が離せない―――抗おうとすれば抗えるはずなのに、赤い瞳から見える真っ黒な瞳は何処までも暗く、彼を引き込み離さない強制力を持っていた。

 

「力が欲しければ、蛇を受け入れろ……」

 

 頬に添えられている手とは逆の手が一誠の前へ差し出された。その掌には”蛇”のように蠢く物体が乗せられており、不気味に蠢く物体に一誠はただならぬ不快感を抱いた。

 

 この突発的な状況が分からない。

 黒髪のゴスロリ少女が何故こんな事をしてくるのかも理解できないし。

 突然、力が欲しいかと言われてもバカな自分じゃどうしていいか分からない。

 

 でもこれが受け入れて行けない事だということだけは分かる。

 胸の中にある鍵が訴えているのもそうだし、一誠自身、様々な人の信頼を経て今がある。

 

「ふざけんじゃねぇ……今俺は親友と海に来てんだ……それをこんな訳の分からない子に、それに部長達を裏切るような事できる筈がない!!」

 

 少女の手を今度こそ振り払い立ち上がり、今度は自分の意思でバックルを装着し、ロックシードを構える。少女は暫し呆然と自分の手を見た後、残念そうに首を傾げ変身しようと構える一誠を見る。

 

「………我を拒むか……禁断の果実」

 

「俺の名前は兵藤一誠だ!!禁断のなんとかじゃない!!」

 

「我を受け入れれば強くなる」

 

「お前が何者か分からない内は無理だ……ッ」

 

「………」

 

 これ以上は無理と誘ったのか、少女は一誠から離れた。

 どことなく悲しそうな顔をしたのが一誠の心に言い様のない罪悪感を抱かせたが、彼女が悲しそうな表情を浮かべたのも一瞬だけすぐさま無表情に戻ると背に大きな黒い翼を出現させ、ふわりと浮き上がった。

 

「ドラゴン!?」

 

「………何れまた会いに行く。その時お前の力を試す」

 

「お、おい!結局お前は誰なんだよ!?」

 

 その言葉に少女は一誠を見下ろし数瞬の間をおいて口を開く。

 

 

 

「オーフィス」

 

 

 

「……は?」

 

 たった一言だけ呟かれたその言葉は一誠にとって衝撃的なものだった。

 少女が”オーフィス”だとすれば禍の団の首領にして、最強のドラゴンの一人という事になる。

 

 驚きのあまり言葉が出ない一誠を一瞥した少女―――オーフィスはそのまま勢いよく翼を羽ばたかせ高速で空へと消えて行った。

 

「え……俺、敵の親玉に勧誘されて、た?」

 

 今さらながらその事実に気付いた一誠はへたりと尻餅をつき、オーフィスが消えて行った空を呆然と眺めた。人気は元に戻り、周りからの奇異の視線を向けられても一誠は動けなかった。

 

 何時しかヴァーリにも勧誘されたことがあるが、これはレベルが違う。

 バカな自分でも分かる、禍の団のリーダー、無限の龍神ことオーフィスが―――

 

「いや、これ以上考えるな……どうせ分からない……それよりあの子は何て言った?禁断の……クソッ、肝心な所が覚えてないって……俺って本当にバカ……っ」

 

 大きなため息を吐き立ち上がった頭を抑える。

 なんて言っていたか、凄く重要な事を言っていた筈だ。自分の力の正体を知るための足掛かりとなる一言が思い出せない。

 頭を抑えながらよろよろと歩き出そうとする一誠だが、先程の衝撃が抜けきれないのか足元がおぼつかなく転びそうになる―――が、コンクリートの地面に転びそうになる寸前に、何時の間にか近くに来ていた少年が一誠の腕を掴んだ。

 

「大丈夫かイッセー!!」

 

 顔を上げると、坊主頭の少年、松田が一誠の腕を掴んでいた。

 彼は一誠の顔色が悪い事に気付くと、日陰のある場所へ一誠を連れていき座らせた。腰を下ろした一誠は、大きく深呼吸をし息を整え、気分を切り替えるようにぎこちない笑顔でこちらを見る松田へ口を開く。

 

「……ちょっとふらついちゃったみたいだ」

 

「ふらついたって、そりゃ熱中症だ」

 

「あ、あはは、一年ぶりの海だから張り切り過ぎたわ」

 

「気を付けろよな。お前がダウンしたら、俺と元浜の野郎二人だけになっちまうんだからな」

 

「……それは想像するだけで気持ち悪くなりそうだ」

 

 腐ったものが大好きな女子が大興奮しそうなシチュエーションである。

 想像するだけで胃がもたれそうな光景だ。苦笑いしながらそんなことを考えていると、大分気分が良くなり、眩暈も眩みもほとんどなくなっていたので、そのまま立ち上がり背伸びをする。

 

「ん――………もう大丈夫だ」

 

「もう少し休んでろって」

 

「立ちくらんだだけだからもう平気だって……それより折角の海なんだしナンパもこれぐらいにしようぜ」

 

「………まあ、お前がそういうなら、俺もナンパを中断してあげなくてもいいぜ」

 

「一回も成功してねぇくせになっ」

 

「うるさいわい、次に本気を出すつもりだったんだよ」

 

 頑なにナンパが成功していないことを認めない松田をからかいつつも、未だに砂浜でナンパを試みている元浜を呼び出す。……彼が半泣きで自分たちの元へやってきたことについては障らずに、先程買った飲み物を二人にあげ海を見据える。

 

 オーフィスが求める力、それが自分の中にある。

 凄い強いといわれる存在からそんなことを言われてもいまいち現実感はないが、これはリアス―――いや、アザゼルやサーゼクスにも話さなければならないことだろう。

 

 後、もう一つ確信した事がある。

 最強の存在との邂逅を経て、一誠は自分の中にある力の存在が表へ溢れ出しかけた事を感じとった。途方もない程の大きな力、正直体が破裂しそうなほどのものだったが―――次第にそれに”慣れていくいってしまった”ことを否が応でも理解させられてしまった。

 

「やっぱり、俺……」

 

 そう小さく呟き、言葉を切った彼は開いた手を握りしめながら、隣にいる二人の親友へと顔を向ける。

 

「ん?どうしたイッセー」

 

「色っぽいねーちゃんでも見つけたか」

 

「……ははは、なんでもない。それより泳ごうぜ!折角の海なんだしな!」

 

「さっきまでバテてたくせに急に元気になったな!上等だ!!」

 

「よかろう!華麗な潜水を見せてくれるわ!」

 

 一誠の言葉に元気よく立ち上がった二人は空になった缶をゴミ箱へ投げすてると、そのまま勢いよく海へ走っていく。一誠も笑みを漏らし、走っていく彼らの背中を見据えながら走り出す。

 

「……ありがとうな、二人とも……」

 

 ―――もう今年が”人として”海に行ける最後の年かもしれない―――

 

 そう悟りながらも彼は己の脚を止めることは無かった。





次話から冥界へ行きます。
因みにこの物語の曹操は結構ゲスいキャラにする予定です。



感想を返せない代わりに、前回と同様に質問返しします。

・鎧武外伝のロックシードは出ますか?

 フレッシュオレンジとかは難しいかもしれないです。
 ウォーターメロンやリンゴなどは、武器だけなら可能かもしれません。


・劇場版で登場したドリアンやドングリは使えないのか。

 今の所、劇中のみと限定しているので出せません。
 あまり多くするとややこしくなっちゃいますから。


・【悪】の方ですが変身のストック足りなく無いですか?

 最初の時点で三つの形態に変身できるだけなので、徐々に増えて行く予定です。



 今回の更新はこれで終わりです。
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