夏休みに書いたのですが、腐らせるのも勿体ないと思い、試しに投稿。
既に第一章は完成していますが、第二章をやるかどうかは未定です。
何回か分けて更新します。
禁断の芽吹き 1
願いを叶えてやる、お前の願いは何だ?
そう男は少年に問う。
少年の答えは至極単純だった。
「ボクは主人公になりたい」
簡潔でありふれた願い。
しかし、男はその願いに顔を鎮める。
「……はぁ?そりゃあ無理だ。一つの世界には主人公は固定されている。だから主人公のメインヒロインを惚れさすこともできねえし、主人公の役目を奪う事も出来ねえ。まあ、登場人物にはなることくれぇはできるけどな」
主人公とはいわば世界の中心。二つとない掛け替えのない中核を担う存在。W主人公を基調とした世界ならば可能なのだが、男が指定した世界は主人公が一人だけ。
そんな世界で主人公が二人もいたら、世界は均衡を保てず世界は無茶苦茶になってしまう。それは神と呼ばれた男が見過ごしていい願いではなかった。
「……なら、ボクと主人公を入れ替えろ。それ以外の特典なんかいらない」
「無茶を言う奴だな。頭の悪いお前に分かりやすく言ってやろうか?お前じゃ無理だ」
「うるさい」
『物語の中心』になりたいという願い。
一人の人間の存在を入れ替える事なんて不可能な話に決まっている。相棒が主人公になる展開がないとは限らないが、少年が願う『主人公と自分を入れ替える』という荒唐無稽な願いは物語の根幹を担う最も重要な要素を挿げ替えるという事なのだ。構成上面倒くさいし、キャラが色々面倒くさいことになってしまう。
できたとしてもせいぜい役割を挿げ替えるだけ。
「………主人公というの名のキャラクターは残るが、それでもいいのか?」
「それってモブって事でいいの?」
「……お前がそう思うならそいつはモブって奴だろうな」
最初こそ丁寧な口調だったが、だんだんと乱暴になったら彼は、だんだんと自分の思い通りになってこなかったからか男に転生を急かす。
呆れた様にため息を吐く男に心配いらないとばかりに少年は声を投げかける。
「ボクなら、あの主人公よりうまくやれる」
そういう問題じゃない。と、あまりにも少年の言葉が馬鹿らしくて口には出せなかった。こういう輩は言っても聞かないだろう。
何度も何度もコイツみたいなタイプとは接してきた。
「あー、はいはい。分かった分かった。じゃあ、もう言う事はねえよな――――」
「あ、待って!」
「何だ?」
喜色の声を上げながら、少年は男にぶしつけに声を掛ける。
「『――――』に――――になる資格を与えないで欲しいんだ」
「……分かった」
「じゃあ―――――――」
「一つ忠告しておくが……お前『――――』と同じことをしようと思うなよ?」
男の忠告は少年にとって訳の分からないものだった。
「分かった、速――――」
「じゃ、行け」
右手を振り、少年を消し去り世界を弄ぶ。
つまらない奴だった。あれは主人公という外面を演じることができるがそれ以上の事は出来ないだろう。折角の忠告も聞き入れないだろうし、先が知れてる。
「まったく、中間管理職も大変だぜ」
所詮は先を知っているだけの男、それだけでは『―――――』の代わりにはなり得ない。
あれは、努力家で優しく、どんな時でも諦める事が無い鋼の精神を持ち合わせている。
「『――――』の弟で神器は奴の所持物とする………ん?そういえば、奴にやるはずの特典が残ってんな……」
掌にピンポン玉大の球体を作り出す。
男は、ニヤリと笑うと手に力を籠め球体を黄金色に染め形を果実のような形状に変える。
「主人公の場所は約束通りくれてやる。……だが上げるのは主人公の居た場所だけで、お前が物語の中心になれるとは限らねーからな。一応はお前が『主人公』になれる可能性を残してはやるが……もし無理だったのなら――――壊されたものは新しい力を持った『――――』で作り直さなくちゃな」
右手を前に突き出し、くるりと掌を回し30センチほどの穴を空間に押し広げ物体をそこに投げ込む。
「さあ。面白くなってきました」
既に壊れた原作がどのように作られていくのか。
どのように主人公だった人間が物語を作り直してくれるのか。
「あぁ、楽しみだ」
『兵藤物語』の主人公は今話の少年ではありません。
加えて、この作品でのコンセプトは、主人公になり替わった人物が主人公と『形だけ』同じことをしようとしたらどうなるか、ですね。
次話もすぐさま更新致します。