チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
「次の方、どうぞ」
どこからともなく声が響いてくる。
見覚えのない空間を進み、椅子に腰掛ける。
「こちらの書類を確認し、記入をお願いします」
記入シートらしきものに加え、何枚かの書類とペンが置かれた机が現れる。
正直状況がよく分からないが、書類の文頭を読んでみる。
[異世界への転生が決まった死者の魂への注意事項]
……どうやら自分は死んでおり、異世界に行くことになるらしい。
理屈は不明だが、自分はもう亡くなっているということが不思議と納得できる。
また、死という結果を迎えたにも拘らず、もう一度人生を歩めるチャンスを得られるのは
本当にありがたいという認識も自分の中にある。
加えてゲームや漫画、アニメなどを生前それなりに嗜んでいた身のため、
実際に異世界に行ける状況に根拠もなく胸が高鳴っている。
深呼吸して気を静めた後、改めて注意事項を読み進めていく。
①この異世界転生において、対象者は生前の人間関係に関する記憶を引き継ぐことができない。
②転生先はランダムで決まる。
③対象者は転生先の世界に関する知識を引き継ぐことができない。
④転生先での生活を補助するため、会話・読み書きの翻訳補助に加え、
行動指標の提示機能とアチーブメント機能をデフォルトの特典として付与する。
※行動指標の提示機能・アチーブメント機能は6歳時に開放される。
⑤本注意事項の後半に記載されている特典を5つ選び、記入用紙に記載すること。
記入が完了した時点で記載した特典を付与し、転生を開始する。
大事な項目をピックアップするとこんな所だろうか。
まず、人間関係の記憶を引き継がないという記載についてだ。
実際に生前の出来事を思い浮かべようとしても、
大学院を修了したことや企業で研究をしていた内容、自身が学んだ知識や遊んだゲーム等はすんなりと思い出せるが、
家族や友人について思い出そうとすると、存在したことは確信できるが全く思い出せない。
……彼女は元々いなかったから思い出そうとしても意味ないかな。恋人欲しいなぁって思ったことはあるけど、婚活より仕事や趣味を優先してたからなぁ……。
家族を忘れてしまう申し訳なさと、女性と縁を作ろうとしてなかったことへの淡い後悔が変な感じに混ざるが、気を取り直して思考を進める。
とにかく注意事項として記載がある以上、人間関係の記憶を引き継がないのは受け入れるしかない。
前世に引きずられる可能性をある程度抑える為なのだろうとは思うが、こちらで制御できることではないのでこれ以上この項目について考えるのは止め、重要な項目についてのチェックを再開する。
②・③の項目はかなり厳しい制約だ。
転生先に関する選択をすることはできず、転生先の知識も持っていけないので
行先に関する心構えもろくにできないということなのだから。
割と室内に籠りがちだったので次の人生ではもう少し世界を色々見て回りたい、という欲求があるのだが、原始時代や滅亡寸前の世界にいくことになってしまうと転生先の世界を楽しむ処ではなくなってしまう。
これもルールである以上飲み込む他ないが、大分気持ちが落ち込んでしまう。
それでも何とか気持ちを立て直して残りの項目を確認していく。
④の項目で付与される内容は、いずれも転生者に配慮したものであると考えられる。
翻訳機能があれば多様な種族が暮らしている世界でも会話に不自由することがない上、言語習得において大きなプラスになる。
転生先での言語関係において不自由するような事態とは無縁になるだろう。
行動指標を提示する機能は、転生先で何をすればよいか分からない、あるいはどうすれば状況を打開できるのかが分からずに詰んでしまう事態を防いでくれると考えられる。
もちろん自分で人生の方針を立てるのが最善なのだろうが、どの世界に飛ばされるか分からない以上あるに越したことはない。
アチーブメント機能はおそらく行動指標提示機能と連動しており、達成に伴う報酬次第だが転生先で生活するのに役立つものになるのだろう。
転生先でいきなり詰みに近い状況になる可能性は抑えられているんだな、と思いつつ、最後の重要な項目を確認する。
⑤の項目はこちらで自由にできる唯一にして最大の内容だ。
記載されている項目からの選択式だが、転生先の生存率と人生の充実度に直結するのは間違いない。
特典一覧を見ながらうんうん唸ってしまうが、いつまでも悩んでいるわけにはいかない。
意を決してペンを取り、記入用紙に5つの特典を記載する。
記入が完了した直後、意識が暗転した。
選んだ特典
①自身の才能を強化
②自身の成長上限を撤廃
③現代のネット検索機能
④転生先以外の世界にあるアイテム・能力の取得(アチーブメント機能によるポイントが必要)
⑤幸運