チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
秘密基地での新規獲得能力の特訓は無事完了した。
最も重点的に磨いた魔力制御については、魔力を漏らさない・察知させないという点については全く問題ないレベルまで引き上げられたと思う。
特典で獲得した剣術の熟練度上げで時々やっていた瞑想修行時の特殊な精神状態を応用し、魔力を自分の心の中にある一種の内的世界へ魔力を格納するイメージで無事魔力を自分の外部に出さないようにすることができた。
どうも魔力を扱う上では想像力と意志力が重要のようで、イメージ内容が具体的かつイメージする力が強ければ強いほど望んだ結果を引き寄せやすいようだ。
意志力はともかく、前世で親しんだゲーム・漫画・小説・映画等で想像力を膨らませる余地は十分にあるから今回の魔力隠蔽方式を上手く確立できたのかもしれない。
まあ想像力と意志力は魔力に限らず身体を鍛えたりする上でも当たり前に必要ではあるが、魔法という分野は精神的要素の比重が重いということだけ抑えておけば良いだろう。
あと、ワイヤーアクションの方についてはどうも自分と相性が良かったらしく、非常に楽に熟練度を引き上げることができた。
そういえば受け流しの技法や速さが重要な剣技とかは他の戦闘技能より大分熟練度を上げやすい気がするんだよなぁ。
俺はテクニックやスピード方面が特に育ちやすいのかな?
ただ転生特典のおかげか、その他の技能も修練を重ねればきちんと上達していくのでそこまで気にする必要は無さそうだ。
現時点でも育ったヤシの木を余裕で持ち上げられるパワーが身に付いているしね。
とりあえず現状自分ができる準備はやり切ったので、真水作りの件についてリーガル父上とエステル母上に相談しに行こう。
予想はしていたけど結構揉めたなぁ。
でも俺のやろうとしていること自体はこれまでの活動から「必要だからやっている」と判断されているようで、真水作りそのものは止められはしなかった。
母上は子どもなのに頑張り過ぎじゃないかと言いたそうだったけどね……。
自分ではなんだかんだ充実していて楽しんでもいるけど、やっぱり心配かけちゃってるなぁ。
今回問題になったのはジーヴ村で滞在する場所と、各洞窟を探索する際の危険度だ。
ジーヴ村はシューベトからリアート村よりも距離があり、バベリア大陸等からデルカル大陸へ支援物資を運びに来た王宮勇士から犯罪者まで多様な背景を持つ人が集まっているという特徴がある。
そんなジーヴ村で俺がその辺の宿に泊まって活動するというのは両親に止められてしまった。
勇士キャンプも滞在所として候補に上がったが、ジーヴ村からやや離れている上シューベト以外から来た勇士もよく利用しているので、一時的でも自分が専有するのは難しいということで却下されている。
3人で色々話し合った結果、最終的に母上が作物を提供したジーヴ村の地主さんの所でお世話になることに決まった。
ただ、地主さんは高齢で余り体調がよろしくないらしく、恐らくは地主さんが直接運営している孤児院で孤児の相手を頼まれる可能性が高いそうだ。
押し掛ける身である以上、仕事を引き受けることに異存は無いので了承した。
洞窟での探索の方は滞在箇所の件より結論を出すのに時間がかかった。
今回探索を予定しているカルダリア洞窟と氷の洞窟は、その環境特性により今までのような勇士の小隊行動がかなり難しい。
俺自身が洞窟で危険度を抑えて探索できるか、そしてそんな特殊な環境でも俺を補佐できる(あるいは俺を掣肘できる)人材をどうするか、という点を話し合うことになった。
前者については洞窟を探索できる技能があることを客観的に示せということで、シューベトにある探検家協会で探検家資格を取ることが探索を認める条件として指定された。
探検家協会は人里離れた箇所で活動する能力を認定する所で、協会が発行する探検家資格を取得することで、山・森・洞窟・砂漠等での探索技能が身に付いている証明となる。
正直砂漠に行く前に取っておくべきものだったような気がするが、それが条件なら否やはない。
そして俺を補佐する人についてだが、今回は勇士隊を宛てがいにくいため誰にするか中々決まらなかったものの、最終的に父上が指定した探検家資格を持つ人や斥候経験のある人に同行してもらうという方針になった。
恐らく面識がない方との探索になるので、これまでとは勝手が異なることは今から覚悟しておこう。
ちなみに、事実上俺がシューベトの最高戦力であるため、単純な戦力という意味では他の要素程は心配されていなかった。
この前も父上から「1回くらいは優勝しておきなさい」と言われて推薦枠でシューベトで毎年開かれる剣術大会へ参加することになり、決勝でラークさんを破って優勝しているぐらいだからね。
まだ齢二桁に届かない子どもが大会を荒らしてしまうのはどうかと思ったけど、ミッションの特典用ポイントが美味しかったから結局参加を了承しちゃったんだよなぁ。
1回戦で当たってしまったソードさんにはちょっと申し訳なかった……。
何にせよまずは探検家資格を取らないと話が進まない。
探検家協会に行って学習用の教材を購入し、合わせて試験内容を確認して資格勉強を進めないと。
実技もあるだろうから探検用の道具も揃えていこうか。
学習テキストと探検道具を揃え、他の勉学と並行しながら資格勉強を進めていき、大体1週間ぐらいの準備で探検家資格を無事取得できた。
試験では山や泥濘などの悪路での歩き方やロープの扱いとかを実地でも試されたが上手くいって良かった。
合格証書と副賞の探検家肩章を貰えた旨を父上達に報告した所、洞窟探索の補佐を引き受けてくれる方が見つかったということで、明後日シューベト東門で同行していただける方達と顔合わせを行い、そのまま武器職人ザルエルさんに頼まれたラバラックの素材を集めるべくカルダリア洞窟の初探索を進めることになった。
加えて、これからの探索時での護身に使うよう『名剣シューベター』を父母から渡された。
……ってこれ家が保管している家宝の1つの筈では?
現代では失われた技術を使っているこの宝剣を俺が使用して問題ないか父上と母上に尋ねると、
「お前が命を落とすということは、シューベトの未来が潰えるのと同義だと思うように」
「剣を失っても構わないから必ず生きて帰ってきなさい」
どちらも家宝の剣より俺の命の方が大切だ、とのことだった。
父上、母上、ありがとうございます。必ず五体満足で戻ります……。
カルダリア洞窟探索初日を迎え、俺は洞窟探索に同行いただく2人と挨拶をしている。
「アドリアン様、しばらくの間、よろしくお願いいたします。」
1人目はベテラン探検家のサーチさんという方である。
僅かに白髪が混じった茶髪・鋭い目付きが印象的な30代後半ぐらいの男性で、既婚者だと伺っている。
第2子を授かりそうなのをきっかけに町外での仕事から町内の仕事にシフトしようと考えていたが、探検家を半ば引退する前の最後の仕事として今回の探索業務を引き受けてくれたそうだ。
「これからよろしくね、アドリアン様。領主様から報酬も一杯貰ったし、張り切って務めるわ」
2人目は傭兵として活動されているベリータさんという方だ。
長い黒髪・黒目で16・17歳前後とかなり若い女性だが、身のこなしが素早く斥候技能も高いとのこと。
バベリア大陸での活動実績もあり、今回高額の報酬で父上に雇われたみたいだ。
俺も両名と挨拶し、今回の活動目的と集める必要があるものを共有する。
さっそくカルダリア洞窟の探索に向かおう。
「楽勝すぎて退屈ね〜。あ、アドリアン様、気づいているでしょうけど左手の通路奥に小さなモレフが2体いますよ」
「警戒は緩めないようにな。……そう言いたくなる気持ちも理解するが」
カルダリア洞窟の探索は頗る順調だった。
両名共に洞窟探索の経験がある方で、洞窟内の高い気温も現状2人の活動を阻害していないし、俺も特典で取得した水の外套を出さずとも行動に支障は出ていない。
ただ、通路がかなり狭いから勇士隊としての小隊行動が難しいのは間違いなく、今回の同行メンバーがサーチさんとベリータさんなのは正しい判断だったのだろう。
また、転生特典の技能を磨いていく内に魔物の気配なども察知しやすくなり、ベリータさんより先に魔物を発見することも多々あった上、今回装備している名剣シューベターの力も合わさり見つけた魔物は俺がサクサク始末していった。
シューベターは大分重めの剣だが素晴らしい切れ味で、鉄のように硬い殻を持つ甲殻類のようなモレフ・親と思しき巨大なモレフ・冷えたマグマが固まったのであろう大きなゴーレム、その他出てきた魔物全てを一太刀で沈めている。
ついでということでサーチさんから今回倒した魔物から素材を剥ぎ取る方法を実地で学びつつ、俺達は洞窟の奥へと警戒しながらも進んでいった。
「気温が更に上がった……恐らく、相手は近いです」
「アドリアン様、溶岩には気をつけてくださいね」
2人の言う通り、俺達は溶岩の流れるエリアに踏み込んでいる。
熱気で汗をかき始めているが、まだ水の外套を出すほどまではいかない。
ちょっと用心しすぎたかな?
慎重に通路を進んでいき……狙いの相手と思しき存在を発見した。
赤熱した岩の体、同じく赤く熱された2本角……溶岩から自然発生するゴーレム・ラバラックで間違いないだろう。
「アドリアン様、あたしが相手の気を引くのでその隙にどうぞ」
ベリータさんが岩陰に隠れつつラバラックに近づき、短剣を投げつけた。
ラバラックはベリータさんのいる方に向き直ったので俺はその隙にラバラックへ急速接近し、胴体を両断して無事撃破した。
1番重要な角を手早く切り取り、まだ熱を持っている体のパーツも回収していく。
続けて溶岩エリアを探索した所、もう1体ラバラックを発見したのでそちらもパパッと撃破し、今日は撤収してザルエルさんに素材を届けに行くことにした。
そして無事ザルエルさんに計2体分のラバラック素材を引き渡したが、「すぐに試作品の作成準備を進めるが、鞘の方で多めに素材を使用することになりそうなので、あともう1体分素材が欲しい」と追加で素材回収をお願いされてしまったので、サーチさんとベリータさんに了承いただいた上で、明後日に再度カルダリア洞窟へ素材集めに向かうことになった。
2回目のカルダリア洞窟探索となるが、油断はせず3人で警戒しながら溶岩が流れるエリアに侵入する。
以前と位置は異なっていたがラバラックを2体纏めて発見したので、初回のようにベリータさんがラバラックの気を引き、上手く隙をついて俺が2体纏めて撃破した。
前回分と合わせて素材量はもう十分だろう。
周囲を警戒しつつ重要な角を優先して取り、体のパーツを回収している途中で急に背筋がざわついた。
周囲は2人しかいない。上からも気配を感じない。
……地面の奥で何らかの力が収束!下!
「サーチさん、ベリータさん!下から何か来る!一旦退避を!」
2人も声に直ぐ反応し、離脱にかかるが……地面から盛り上がった何かに俺達は弾き飛ばされてしまった。
サーチさんとベリータさんは来た道……入口側に転がされたが、俺は溶岩エリアの奥側に吹き飛ばされてしまった。
直ぐに受身を取って立ち上がり状況を確認すると、目の前に炎を纏った巨大なゴーレムがいた。
何処となくラバラックに似通っているが、大きさが段違いで纏う炎の勢いがラバラックとは比較にならないぐらい強い。
恐らく洞窟のボス格で、これまで戦ってきた魔物・ゴーレムよりも格上なのは確実だ。
まずいことに、2人が弾き飛ばされた方の通路に視線を向けると、ゴーレム出現時に同じく弾き飛ばされたのだろう赤熱した大岩で通路が塞がれてしまっている。
無理矢理岩を取り除いて退避しようにも、目の前で戦闘体制に入ろうとしている巨大ゴーレム相手に隙は晒せず、水の外套を取り出す暇もない。
俺は直ちに覚悟を決め、シューベターを抜いて巨大ゴーレムとの戦闘を開始した。
ベテラン探検家のサーチさんは本作のオリキャラです。