チート転生アドリアン君   作:ブロンズ探検家

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17話 真水を作る準備をしよう+教皇派勇士の嫌がらせを耐えよう

ジーヴ村出張5日目は孤児達と平穏無事に過ごし、今日が出張6日目だ。

朝食を食べ終え、孤児の相手をひと段落させた俺とサーチさんは樽を乗せた台車を引いて埠頭へ来ている。

樽に海水を詰めれば、これで真水作りに必要なものは揃ったことになる。

孤児院に戻る頃には昼食時になるから、昼食を食べ終わってから蒸留装置で実験開始かな。

リーガル父上がジーヴ村に来るタイミング次第では丁度実験に立ち会っていただくこともあり得るかもなぁ。

そんなことを考えながらも、俺はサーチさんと協力しつつ海水を持ち帰るのだった。

 


昼食を食べ終え、俺は地主さんの借り家付近でサーチさんと一緒に蒸留装置の準備をしている。

ベリータさんはまた孤児の相手をしている。

ベリータさんは身のこなしが俊敏な分、運動が好きな孤児に慕われてるみたいだね。

 

装置に使用するものを並べ、火を炊く為の薪も出してフレアに火付けを頼み、焚き火を焚いていく。

 

『では、私は奥で少し昼寝でもしている』

 

うん、ありがとうフレア。

俺のお礼に頷き、彼は奥に飛び去っていった。

 

……おや、荷物を載せた台車を引いて勇士の方がこちらに来ている……ああ、トランさんだ。

あちらも俺達に気づいたみたいで、笑顔で手を振っている。

 

「お久しぶり、というには早い再会ですね、アドリアン様!」

 

「トランさん、お疲れ様です」

 

和やかに挨拶を交わした後、俺は初めてトランさんに会った時と同様に支援物資の運び込みを申し出る。

トランさんも俺がいれば簡単に作業を終わらせられるのを知っているので、俺の提案を受け入れていただけた。

 


パパっと支援物資を地主さんの倉庫に詰めて、俺達は借り家付近まで戻ってきた。

トランさんに今から真水作りを実験する旨を伝えると、「今日の物資輸送業務は全て終わったので、是非見学させてください!」ということで、トランさんを見学者に加えて実験を始めることになった。

第1段階として二重鍋の外側に海水を詰め、溶けない氷を満載した蓋で密閉した上で火にかけていく。

が、鍋に火をかけている途中で、どうも複数人の重装鎧を来た人がガチャガチャと音を出しつつこちらに近づいているのに気づいたので、一旦火から鍋を下ろして音源の方に歩み寄る。

 

6人ぐらいの小集団だろうか。

皆深紅の重装鎧と大剣を装備している。まず間違いなく勇士だ。

先頭に立つ金髪翠眼・整った顔立ちの勇士と目が合う。

……明らかに友好的ではない。強い嫌悪すら感じるな……。

 

先頭の男性が口火を切った。

 

「シューベト領主の息子、アドリアンだな」

 

問いかけに対して俺が肯定すると……彼は俺の顔面をいきなり小手で殴り飛ばした。

 

「っつ!!」

とっさに後ろに飛び、吹っ飛んだ体を醸し出しつつ威力を殺す。

やや離れた所にいるが、孤児達の相手をひと段落させたのだろうベリータさんと目が合ったので、口パクで「ち・ち・う・え」と伝える。

驚愕していたベリータさんは俺が何を頼んでいるか分かったのだろう。

一切音を立てずに現場を離脱し、塀を飛び越えていった。

勇士たちは俺と周囲のサーチさん・トランさんに目をやっているので離れていったベリータさんに気づいていない。

今日は父上の訪問日だ。相手の目的を探りつつ時間を稼いでベリータさんが救援(父上)を呼んでくるのを待とう。

だが、彼らの目的は俺を殴り飛ばした勇士が話してくれた。

 

「教皇直属・特殊部隊のザファーだ。アドリアン、貴様に魔女の疑いがあるので強制で取り調べを執行させてもらう。真水を作るなどという怪しげな魔法を使おうとしてるらしいからな」

 

……おおっと、そうきたか。

 

(アドリアン!)

 

(フレア、一旦待機して!)

 

心の繋がりを通して緊急であるのを察したフレアがこっちに飛んでこようとしているが押しとどめる。

 

押しかけてきた勇士たちは見た所中々の手練れで、少なくとも上級勇士は上回る実力だ。

ザファーと名乗った御仁は特級勇士に並ぶ実力ではある。

借り家に装備を置いてきている現状は一見危ういように思えるが、

鍛え上げた今の自分なら異世界技能なしでも6人まとめて素手で制圧できる。

フレアを出せばさらに容易に叩きのめせるだろう。

 

だが、この人たちは「教皇直属」と名乗った上で俺に魔女の疑いをかけてきている。

この人達を制圧して揉めてしまった場合の影響が現時点では計れない。

まずは相手の狙いを少しでも探るべきだ。

 

(アドリアン、考えがあるのだな。……分かった)

 

よし、これでフレアが出て話がこじれることはない。

 

「い、いくら何でもあり得ないだろ……がっ!?」

 

「黙れ。その装備、どうせ輸送隊所属だろう。荷運び風情が教皇様から賜った任務に口出しするんじゃない」

 

トランさんが抗議しているが、特殊部隊の勇士が俺と同様トランさんの顔面を殴り飛ばし、

トランさんは膝をついてしまった。

 

俺も声を上げ、相手を問いただそうとしたが、ザファーと名乗った男が近づいてきており、また顔面を殴ってきた。

拳が鼻に直撃し、鼻血が流れ出る。

対してダメージはないが、相手が望んでいるだろう反応として痛がっている振りをする。

 

こりゃだめだ、言葉で問いただせる手合いじゃない。

 

「魔女の疑いのあるお前に発言権はない。おい、こいつに目隠しと猿轡をくれてやれ」

 

「ふ、ふざけるな!アドリアン様に何をする!!」

 

「そっちの付き人がおかしな真似をしないか見張っておけ」

 

同じく抗議をしているサーチさんが勇士の1人に取り押さえられてしまった。

俺には更に2人の勇士が近づいて目隠しをされ、猿轡を噛まされた上で後ろから抑え込まれ、腕を拘束された上で膝立ちの姿勢を取らされる。

 

「多少力があってもこれならどうにもならんだろう。では、魔力探知機で周囲を調査しろ。あの大鍋辺りを念入りにな」

 

勇士ザファーが側に控えていた勇士に指示を出している。

 

目を塞がれていても勇士達の気配は察知できるし力ずくで拘束も簡単に外せるが、一旦見に回る。

 

同時にこの状況を招いた要因を考察していく。

 

この人達はジーヴ村にいる俺がシューベト領主の息子・アドリアンだと確信した上で調査に来ている。

ジーヴ村に俺がいて、かつ真水作りに取り組んでいることを教皇派の勇士に意図的か意図せずかは分からないが漏らした人がいる。

ジーヴ村で活動している際に接点のあった人について順番に考えてみよう。

 

まずサーチさんはデルカル大陸の各地を回っている人だが大陸外に出たことがなく、教皇派の勇士と接点があるとは思えないし、俺の取り組みを周囲に話して回る性格でもない。

金銭にも困っていなかったはずだ。

先の声にも嘘の色はなかった。

 

ベリータさんも可能性は低い。

雇い主に関連する情報の秘匿は傭兵の基本であり、父上に雇われている以上教皇派の勇士に情報を漏らしているとは考えにくい。

 

神族であるパディさん達は論外だろう。疑うことすら馬鹿馬鹿しい。

何が悲しくて自分と娘さんの命を危うくする集団を呼び込むような真似をするのだろうか。

 

孤児にも教皇様万歳みたいな子は誰もいなかったとは思う。

俺の印象だから可能性は0ではないが。

 

消去法で行くと、地主さんの使用人かトランさんだが……より可能性が高いのはトランさんか。

上司に俺の活動を報告する際、教皇派の勇士に聞かれてしまったというケースが最も有り得そうだ。

ただ、トランさんは明らかに俺に好意的で、サーチさん同様、先ほどの声には本気の困惑が窺えた。

例えトランさんが情報元でも俺を陥れるような意図は持っていなかっただろう。

 

次点で地主さんの使用人がジーヴ村で教皇派勇士のいる場所で話してしまったという所かな。

だが、使用人さんも氷の切り出しの際、真水がジーヴ村で用意できるという恩恵を手放しで喜んでいた。

こちらの場合も俺を嵌めようとして教皇派の人に漏らした、という訳ではないと思う。

 

大穴として俺が持っている魔力が何らかの理由でばれたというケースも考えたが、秘密基地内での徹底した訓練により、仮にリストバンドがなく、かつ寝ている時でも一切魔力を漏らすことのない自信が今の俺にはある。

やはりこのケースもまずない。

 

……総括すると、トランさんと使用人さんのどちらかの発言が、たまたま教皇派の誰かの耳に入ってしまったことが原因である可能性が高いってこと?

間が悪いだけとか幸運さん仕事してるかな?

 

「ザファー様。魔力検知機で道具群を探知しましたが、一切魔女の反応はありませんでした……」

 

「じゃあ後は本人だな。俺が直接調べる」

 

様付で呼ばれているということは、勇士ザファーは貴族という線がありそうだな……。

 

気配ではあるが、勇士ザファーが棒状の、おそらく魔力探知機を取り出して近づいてくるのが分かる。

 

まあ検査だけで終わるならそれでいい。

譲れないボーダーラインとして、こいつらの誰かが剣を抜いた場合は流石に抵抗させてもらおう。

 

「お前っ!!そこまでやるのか!?やっやめろぉ!!」

 

……?トランさんが絶叫している。

 

「魔女の疑いのある奴はどれだけしっかり調べても調べ足りないからな」

 

強い悪意を持った勇士ザファーの声がすぐ近くで聞こえる。

 

どういうことだ?

トランさんの切羽詰まった声から、勇士ザファーが刃物ではないが危険なものを俺に当てようとしているのは分かるが、俺自身は近づいているものに何故か危機を感じていない。

奇妙な感覚に混乱している俺の露出した首筋に石の欠片のようなものが当てられており……

 

「貴様ら……!アドリアンに、私の息子に何をしている!!!」

 

大音声の怒声により、その石の欠片は首筋から離された。

良かった。来てもらえたか。

近づいてくるリーガル父上とベリータさん達に内心で感謝する。

 

「シューベト領主か。教皇様のご指示で魔女の疑いがある奴を調査しているだけだ」

 

「そうか!それで、結果はどうなんだ!」

 

「反応なし。魔女の可能性は低い」

 

「可能性は皆無、だろうが!!調べ終わったのならさっさと失せるがいい!!……私の息子に対するこの乱暴極まりない調査、ただでは済まさんぞ!!」

 

「異論があるなら教皇様に直接抗議するのだな。その度胸があればの話だが。撤収するぞ」

 

父上と勇士ザファーのやり取りが終わり、重装の勇士6人が去っていく音が聞こえる。

 

「服に引っかかったか?運のいいガキめ……」

 

転生特典により強化されているだろう俺の聴覚に、勇士ザファーが小さくつぶやいた憎しみ交じりの声が入ってきた。

 

……この状況を招いた要因が他にもあったか。

俺は自分の知らない所で勇士ザファーの恨みを買っていたのかもしれない。




幸運「災い転じて福となすって言葉もあるから……」

特殊部隊勇士のザファーは本作のオリキャラです。
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