チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
二次小説をあまり見ないゲームなのに……。
300人以上の方に本作を読んでもよいかなと思っていただけるのは大変励みになります。
「アドリアン様、大丈夫ですか!!……大丈夫そうですね」
サーチさんが俺の拘束を外そうと近づいてくるが、その前にささっと自分で拘束を外していく。
目隠しを取ると、リーガル父上とベリータさん、そしておそらく父上の護衛を務めたのだろうヘクター教官・ラークさんが率いる2小隊が目に入った。
救援を呼んでくれたベリータさんと駆け付けてくれた父上達に俺はすぐにお礼を言った。
「ア、アドリアン……なぜ、あの連中を取り押さえなかったのだ?」
リーガル父上が勇士達を制圧しなかった理由を聞いてきたので、彼らが教皇直属であると名乗ったため、セルビス氏との関係悪化を懸念して動かなかったと俺は説明した。
「……アドリアン。私はお前に言った筈だぞ。お前が死ねばシューベトの未来は潰えると。そのような気を回す必要はない。次あのような事態になったのであれば、例え教皇セルビス殿が相手でも構わん。お前が生きるために、シューベトの未来を繋ぐために、全力で抗うんだ。お前の抵抗に付随する問題は一切気にするな。分かったか?」
「……はい。父上」
父上がとんでもない事を言っているが、状況が状況なので頷く。物凄い心配をかけてしまったな……。
「アドリアン様、すみません。あいつらが来たのは、多分俺のせいです……」
殴られた顔をさすりながらトランさんが近づいてくる。
「勇士の詰所で、俺は上司にジーヴ村でアドリアン様が活動されていることを話しました。詰所はどの派閥の勇士も区別なく利用するので、そこで聞かれてしまったんだと思います」
トランさんが情報元になっていたか。
だが、悪意を持ってやった訳でもなく、今回の事態は流石に相手方の対応が斜め上すぎただけだと思うので、次から気を付けてくれればよい旨を伝える。
「……ありがとうございます。あの隊長格、ザファーといったら、確かトーチャー伯爵家次男の筈です。強いには強いですが、粗暴で他人を痛めつけるのを好むので、トーチャー伯爵家や他の勇士達と折り合いが悪いと聞いていました。ですが、教皇直属の部隊にいるとは知りませんでした……」
勇士ザファーはやっぱり貴族の家出身だったか。
教皇直属の特殊部隊に参加できているのは、セルビス氏の強権によるモラルを無視した勇士登用のせいだろうな。
トランさんによると、トーチャー家は政治的には国王・教皇・その他政治勢力のいずれにも極端に寄らない中立派閥の中心的な存在だそうだ。
また、現当主は美食家で、同じ中立派閥の交流として良く食事会を開催しているという。
勇士ザファーの兄である長男も美食を好み、食事会で自ら料理を振舞うのが趣味でもあるそうだ。
トーチャー家の人達と勇士ザファーの折り合いが良くないというのは何となく分かる気がする。
多分趣味が合わないんだろうな……。
それにしてもトランさん、他家の事情に凄く詳しいですね。
父上も俺を痛めつけた相手の情報なので聞き手に回っている。
「俺も男爵家の次男なんですよ。でも末席も末席、吹けば飛ぶような木っ端貴族の家なので、勇士隊に所属するバベリア貴族の方々とのトラブルを避けるために、他家の情報は全力で頭に叩き込んでいますから」
そうだとしても、名前だけから家の情報までスラスラ出てくるのは本当に凄いと思う。
「だけど教皇直属とはいえ、あいつ、いかれてるぞ……。アドリアン様、体調は本当に大丈夫なんですよね?」
……?トランさんにここまで心配される何かがある、ということか?
後から駆けつけた父上達も不思議そうにしている。
恐らくだが、勇士ザファー自身や他の勇士が死角になって父上達も俺の検査の様子が完全には見えていなかったのだろう。
念のため異世界技術によって身につけた気を応用して体の状態を精査するが、完全に健康体だ。
全く問題ない旨をトランさんに伝える。
「本当に良かったです。恐らく服を挟み込んで、石が直接肌に触れなかったんですね……」
サーチさんも間一髪だったという様子で話している。
服を挟み込む……?
「アドリアン様は目隠しをされていたから分からなかったのも無理はありません。あいつは、ザファーは、黒い魔力の石の留め具を外し、石が露出した魔力検知機をアドリアン様の肌に押し付けようとしながら検査をしていました。つまり、触れたら理性を奪う黒い魔力の石でアドリアン様を汚染しようとしていたんです……」
トランさんの言葉に間近で現場を目撃していなかった全員の顔色が蒼白となる。
ちょっと待って!?それもうやばいってレベルすら飛び越えているぞ!?
……あれ?俺は肌が露出した首に石が当てられているのを確かに感じたけど、何ともなっていないな。
どういうことだ……?
「教皇がアドリアンを……?」
震える声で父上が呟く。
……いや、黒い魔力の石の件については、セルビス氏ではなく勇士ザファーが独断で実行した可能性の方が高いと思う。
理由は分からないが、勇士ザファーは明らかに俺個人を憎んでいるようだった。
まあ、教皇直属を名乗った以上セルビス氏の責任も大ではあるが、完全な第三者が目撃していない以上、今回の件は多分揉み消されるんだろうな……。
勇士ザファーもそれを見込んで今回の暴挙に及んだのかもしれない。
俺の推測を父上達に話すが、父上はそれでも黙ったままでいるのは絶対にしないということで、シューベトに戻ったら直ちに正式な抗議文をセルビス氏に送り付けるそうだ。
うーん。多分望むような返事は返ってこないだろうな。
ただ、今回の件で確信した。
たとえ唯一黒い魔力の石を浄化できる人だとしても、セルビス氏には危険物である黒い魔力の石を回収・管理する資格がない。
俺の推測通り勇士ザファーが独断で黒い魔力の石による汚染を狙ったとしても、セルビス氏の直属部隊が危険物の管理を徹底できていないということは、即ちセルビス氏自身の管理不行き届きとなるからだ。
可能性は低いが、セルビス氏自身が俺を汚染しようとした場合はもっと悪い。
セルビス氏にとって邪魔な存在を消す・壊すために黒い魔力の石を使っていることになるのだから。
……今回の真水作りが落ち着いた後、次にやることは決まったな。
黒い魔力の石をこちらでも浄化できるようにしよう。
試行錯誤が必要な研究となるから恐らく年単位で時間がかかるが、これは絶対にやらないと駄目だ。
「ええっと、じゃあシューベトに戻る前に、真水作りの実験を終わらせてしまいましょう? ……そこまで完遂しないと残りの報酬が貰えないし」
ベリータさんが自分の事情をぼそっと交えて促してくる。
とんでもない邪魔が入ったけど、蒸留装置の準備はできている。
父上達も、真水作りを見学できそうならしていくつもりだったようだ。
改めて、実験を開始しよう。
俺は今、海水を詰めた蒸留装置を火にかけている。
装置を密閉する蓋には氷が満載されており、沸騰が始まれば内側の鍋に真水が貯まっていくはずだ。
火をかけている間に問題が解消したと判断したフレアが飛んできて、俺と人間の言葉で会話を始めたので、まだフレアが会話できることを知らない面々は驚愕していたなぁ。
ちなみに当のフレアは今、ヘクター教官に声をかけて話をしている。
『貴方がアドリアンに様々な物事の基礎を教えたヘクターか。アドリアンの土台を作った貴方と、一度話してみたかったのだ』
「光栄だよ。ただ、私程度の非才が才気溢れるアドリアン様の力になれていたかは、非常に怪しい所があるのだが……」
『アドリアンが教えてくれたのだが、敬すべき人は力の大小や喧伝の有無ではなく、その人の振る舞いによって自然と敬されるという。貴方のことを話すアドリアンには、常に貴方に対する敬意があった。それは、貴方が敬意を抱くに値する振る舞いをアドリアンに対して行っていたからだと私は思っているぞ』
「……そうか。君は、そう言ってくれるのだな」
2人、もとい1人と1体はこんな会話をしていた。
ソードさんが「このドラゴン、絶対俺より地頭がいいよな……」と呟き、ラークさん率いる小隊所属の勇士達も「俺達も、もうちょっと勉強しようぜ」なんて話していたのが印象的だったなぁ。
フレアの賢さパラメータと異世界技能の影響に寄るところが大だが、フレアの情操教育についても上手くいってると判断して良いのだろう。
さて、そろそろ沸騰して結構な時間が経った。
鍋を火から降ろして密閉していた蓋を開ける。
果たして、海水を入れていない空だった鍋には水が入っており、もともと海水が入っていた方には少量の海水と塩・せっこう等が残っていた。
内側の鍋に入った熱い水を幾らか掬ってコップに入れ、蒸留装置の蓋に乗せていた氷で冷やしていく。
サーチさんがコップに入った水を舐め、問題ないだろうと判断して口に含んでいる。
「塩辛くありません……本当に普通の水になっていますね」
サーチさんからもOKが出た。
よかった。上手くいったか。
「まずはよくやった、アドリアン。だが、お前も明日にはシューベトに帰ってきなさい。私はすぐにシューベトに戻り、サーチやトラン殿の証言を元に抗議文を作るが、文面が事実に即しているかお前に確認してもらう必要があるからな」
父上はそう言い残すと、護衛の勇士達と共に撤収していった。
「俺もジーヴ村で一泊したらマニル島に戻ります。今日の件、本当に申し訳ありません」
トランさんも頭を下げた後、台車を引いて去っていった。
今日が最終日なんだな……。
夕食が済んだら明日に備えて借り家の掃除と荷造りをしないといけない。
孤児や地主さん達への挨拶もだな。
そんなことを考えつつ俺は残ったサーチさんとベリータさんと協力し、装置の片付けを進めていった。
真水作りに成功した翌日、孤児達や地主さんの使用人に見送られつつ、俺達はジーヴ村を去っていった。
氷の洞窟で採取したものを荷に加えても、孤児院に残していった物の方が重いので行きより荷物は軽くなっている。
フレアも後ろをついて来ているが、一気に体が大きくなったなぁ。
もう家に入れるのは難しいから、フレアが普段待機・就寝する場所はシューベト正門前の窪地になるな。
早めに整備しておいて良かったよ。
のんびりフレアと心の中で雑談しつつも順調に歩みを進め、無事シューベト東門前に到着した。
俺はサーチさんとベリータさんに長期間に渡り協力していただいたことについてお礼を伝えていく。
「こちらこそ、トラブルも有りましたが良い経験をさせて頂きました」
「それがお仕事だからね。領主様も私を継続して雇うみたいだし今後もよろしくね、アドリアン様」
おや、ベリータさんいつの間に。昨日真水作りをしている間に父上と話したのかな?
何にせよ2人とお別れし、俺は家に入ると、
「アドリアン!!」
必死な表情の母上が迎えてくれた。
……あんなことがあれば血相を変えてもしょうがないよね。
母上に無事であることを伝えた後、俺は荷物を片して夕食を済ませた。
更に父上が作成した抗議文の確認も終わらせ、久々に自室へ戻ってきたのだが、今俺は部屋に鍵を掛けた上でそのまま秘密基地に来ている。
基地へ入る許可を出したフレアが単独でここに入れるかを確認するためだ。
『アドリアン、来たぞ』
アクセサリーの力で体を縮めたフレアが入ってきた。
よし。入室を許可していればフレアだけでも来れるな。
基地機能の利用は俺がいないと駄目みたいだが、そこは基地の所有者が俺だからかもしれない。
ちなみにフレアはここまで問題なく来れたかな?
『ああ。だが、他人に見られるのを防ぐ必要があるなら、人里からもう少し離れた場所に秘密基地への入り口があった方が良いと思うぞ』
分かった。じゃあ窪地付近でシューベト町から離れていて、かつ周囲から死角となっている場所にフレア用の入り口を作ろうか。
『私もその方が人目を気にする手間が省けて助かるな。……アドリアン、ここなら他の誰にも盗み聞きされない。聞きたいことが色々あるのだが、今尋ねても大丈夫か?』
大丈夫だけど、どうしたんだろう。
『アドリアンは元々いた世界にいつか帰るのか?もしそうならば、私も連れていってほしいのだが』
ああ……心が繋がっているから、俺が別の世界から転生しているっていうのも分かるか。
俺は機会があっても帰らない旨をフレアに伝える。
帰るべき人とかはもう思い出せないし、今俺が生きているのはこの世界だからね。
前世で楽しんでいた娯楽も転生特典用ポイントを貯めれば大体叶うという俗な理由もあるけど。
『そうか、それならいいんだ。……次の質問だが、アドリアンが別の世界で生きていた記憶があることや、転生によって得た力を他の誰かに話すつもりはあるのか?アドリアンの中だけで収められていたのならともかく、私が既に知ってしまった以上、何処かしらで秘密は漏れると思うのだ』
むう、尤もな意見だなぁ……。
大声で喧伝するのは論外としても、どうしたものか。
……家族・親友・恋人といった特に関係の深い人達が転生なりこの世界に元々ない道具なりについて俺に直接尋ねるまでは黙っている、としようか。
条件に合った人が聞いてきたら隠しておくのは不可能と判断して、以降は聞かれたら答えるというスタンスを取ろう。
もちろん出す情報は吟味するけどね。
『分かった。アドリアンがそう決めたのなら構わない』
うん、指摘してくれてありがとう。
『それと、アドリアンが新しい物や能力を手に入れるには「ポイント」が必要らしいが、どういう風にポイントを手に入れているのだ?』
こんな感じでフレアは基地の外では聞けない質問をガンガンしてきたので、俺は一旦基地内の自室に移動してフレアの質問に一つ一つ答えてあげることにした。
一通り質問をしたフレアは満足したようで、せっかく基地に来たのだからということで、トレーニング場やシミュレータを使って俺達はみっちり修練を積んでから各々の寝床に戻るのだった。
それにしてもフレア、希望通りシミュレータで模擬戦を設定したけど、ラバロード3体同時戦闘はハードルが高かったのでは?
俺が一緒にいたし地形もカルダリア洞窟より戦いやすかったから倒せたんだけどさ。