チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
マニル島1日目の朝、俺は迎賓館にて起床して朝食を取った後、図書館に行く準備をしている。
といっても筆記用具を準備するぐらいだけどね。
朝食を持ってきてくれた王宮に仕える召使いの方が図書館まで案内してくれるらしいけど……おっと、いらっしゃったみたいだ。
「失礼します、アドリアン様。国王陛下からお話は伺っております。王立図書館へご案内しますね」
小柄で細身、ベージュ色の髪、琥珀色の目、眼鏡をかけた召使いさんが部屋の前に来ている。
一見して現在10歳の俺より年下ではと思い、朝食時に失礼ながらと前置きして年齢を尋ねてみたが、普通に俺より年上だった。
まあ、10歳以下の人に迎賓館での対応は任せないか。
ラークさんも既にこちらに来ているな。
2人を待たせるのも悪いし、早々に出発しよう。
召使いさんと雑談しながら移動し、無事王立図書館に到着した。
ちなみにフレアもついて来ており図書館横で待機予定だが、心を繋げることでフレアが確認したい情報を伝えてあげるつもりだ。
召使いさんは俺がデルカル大陸の飢餓対策実施により褒賞を受け取ったことを知っていたらしく、どのようにして飢えを減らしたのかを気にされていたので、転生特典のことは伏せつつ、デルカル大陸でまだ活用されていなかった作物を発見し、各村に提供していった旨を図書館までの道中で説明した。
どうも召使いさんは知的な方らしく、作物の特徴とかを詳しく聞かれたな。
ただ、召使いさんと会話している時に気づいたが、彼はどうも俺に対して尊敬と隔意が妙に混ざった目線を向けてきているのだ。
尊敬は国王陛下から褒賞を受け取った件だと思うが、俺に含む所がある理由が分からない。
……あまりに若すぎる、子どものくせに、ということかな?
何にせよ、召使いさんにお礼を伝え、ラークさんを伴い図書館に入る。
だが少し進んで図書館に入る直前、恐らくラークさんには聴こえていない、転生特典で強化された聴覚を持つ俺だから拾えた召使いさんのつぶやきが背後から耳に入ってきた。
「貴方がリアート村に生まれていれば……。せめてもっと早く……」
そんな、強い苦味が含まれた声を。
……先の疑問が氷解した。
召使いさんはリアート村出身ということなのだろう。
尊敬はリアート村での飢えを減らしたことに対するもので、隔意は俺がシューベト領主の息子だからだ。
俺が活動する前のリアート村は、以前俺が村を訪ねた時より状況は悪い筈。
恐らくあの召使いさんやそのご家族は、そんな悲惨な環境で飢えや身近な人の餓死を経験したに違いない。
絶望的な状況を何とか生き延びて王宮で働く中、何不自由なく育っただろうシューベト領主の息子が飢餓対策の褒美を受け取りにマニル島へのこのこやって来ている。
そりゃ隔意を抱くに決まってる。
リアート村から提出されている作物の成育記録を見る限り、提供した作物はいずれも成育範囲を確実に拡大しているから、現在リアート村の食料事情は確実に改善していると言える。
……だが、もしかつて練りはしたものの却下したプランの通り、無理にでもリアート村の食料支援を優先していれば、あの召使いさんの運命をマシにできたのだろうか。
リアート村を優先するプランを実行するのが難しかったのは頭では分かっているものの、そんなどうしようもないことを考えてしまうのだった。
王立図書館は地下1階・地上2階の計3階建ての建物で、1階の2/3ぐらいのスペースに公開図書が並べられており、その他の場所に立入るには許可が必要になる。
大雑把な区分けとして、1階の残りのスペースにはバベリア王国の王室や貴族の家に関連する記録や王国の歴史書が纏められており、2階には現代語で書かれた書籍がテーマごとに並び、地下は古代言語で書かれた古書が収められている。
俺が得た許可では1階の王国・貴族に関連する一部の書籍を除いて全てを閲覧できるが、万が一があってはいけないので図書館の司書さんに俺の名前を告げ、俺が閲覧してはいけない棚を教えてもらう。
後、見ることを確実な分野の書籍が納められた棚の大まかな位置も一緒に司書さんに確認する。
これで用意は万端だ。
ラークさんは公開図書エリアまでしか入れないため、大変申し訳ないが待ってもらうことになる。
ここ最近非公開エリアには一部の政務官が資料確認に来る程度で不審者は訪れていないと司書さんはおっしゃっていたが、念のため用心する旨をラークさんに伝え、俺は図書館の非公開エリアに足を踏み入れたのだった。
始めはフレアが希望していたドラゴン関連の情報から手を付けることにする。
彼が知りたがっていたのは自分の同族に関する情報、そしてリーガル父上が話していた人間と共に過ごしたドラゴンに関する情報だ。
生物図鑑がある本棚の場所を司書さんに予め聞いているので、2階にある該当の本棚に向かい、フレアの種族・マグリックドラゴンの一般的な生態が載っている図鑑を手に取って、手近な椅子に腰かけフレアに情報を共有しながら読み進めていく。
(すまないな、アドリアン。私の希望を真っ先に聞いてもらって)
それは気にしないでほしい。
今後もフレアの翼を借りる身としてこれくらい安いものである。
……ふむふむ、マグリックドラゴンは小型のドラゴンの肉を好んで食するのか。
確か、アンシエントドラゴンも小型のドラゴンが主食だった気がするな。
もしかして餌の取り合いになるのか?
いや、小型のドラゴンは結構な数がいる上、マグリックドラゴンとアンシエントドラゴンはどちらも個体数が少ないからそこまではいかないか。
(アドリアンがくれた干し肉でも十分いけるんだがな。調理してくれたものは格別ではあるが)
俺達はマニル島に訪れるまでの待機期間で更に秘密基地を拡張しており、その時追加したキッチンで作った俺の前世の料理をフレアは綺麗に食べ切っていた。
燃費の良いフレアはそんなに食べなくても大丈夫なのにね。
食事の余剰分は炎熱エネルギーに回せるようになったらしく、食べ過ぎということもないみたいだ。
(秘密基地内で食事をする時は体を小さくして食べる量を減らしているだろう?)
うん、気を使ってくれているのは分かっている。
過度に傾倒しなければ別に構わないよ。俺も前世の料理を食べたかったし。
気を取り直してそのまま図鑑を読み進めていくと、野生のマグリックドラゴンの生息地も分かった。
若い個体は基本的に体から漏れる炎を制御できず、カルダリア洞窟付近にあるカルダリア湖で体を冷やしながら生活するらしい。
成体になると体の炎を制御できるようになり、主食である小型ドラゴンを狩りやすいドラゴンバレーの南側に居を移すそうだ。
(カルダリア湖とドラゴンバレー南寄りの領域だな。覚えておこう)
フレアは同種に会ってみたいのかな。
(ああ。同族と話をしてみたい。後、喧嘩を売るつもりはないが、同族を直接見て強さを測り、自分がどの程度の実力なのかを知っておきたい。それに、一度会ってしまえば秘密基地のシミュレータで模擬戦闘ができるだろう?)
そうだった。あのシミュレータを使えば、再現度は落ちるが見ただけ・会っただけの相手とも戦闘はできる。
シミュレータの機能拡張をすれば戦っていない相手の再現度も上げられるのだろう。
あと、マグリックドラゴンは野生の個体の場合、成体にならないと体から漏れる炎は制御できないということは、徹底して訓練することで炎の制御を成し遂げたフレアはレアケースなんだな。
(大変だったがやる価値があり、続ける価値のある訓練だ。己の炎に炙られ続けるというのはきつかったからな……)
フレアからしみじみとした感覚が伝わってくる。
マグリックドラゴン関連の情報はこんなものかな。
次は人間と過ごしたドラゴンに関する情報だ。
父上が話していたドラゴンは、恐らくバベリア貴族でもある雷の勇者に従ったドラゴンのことだろう。
2階の本棚を回って関連すると思える書籍を開いては閉じ、開いては閉じを続けて30分、目的の情報が記載された書籍を引き当てた。
……どうやら雷の勇者はバベリア貴族の初代でもあるらしく、雷の勇者が亡くなった後、勇者に従ったドラゴンは彼の遺体を魔力を蓄える特別な碑石に安置した後、彼の装備していた剣を携えバベリア大陸のドラゴンバレーに飛び去ったという。
(バベリア大陸のドラゴンバレーか。すぐにとは言わないが、こちらも訪ねてみたいな。ドラゴンと共にあった勇者がどのような人間だったのか、話を聞いてみたいのだ)
確かに興味深い。素直に答えてくれるかは分からないけど。
まあバベリア大陸に行くにはもうちょっと体力と速さを磨いてからだね。
デルカル大陸-バベリア大陸間の距離は、デルカル大陸-マニル島間の倍はあるからなぁ。
(要訓練だな。……もう少し私が育ったら、私を形態変化させる能力を取得してくれないか?)
確かに、もう2人乗りできるぐらいに育ったからなあ。
じゃあ3人か4人乗れるぐらい体が育ったら取ってみようか。
(ありがとう。形態変化の能力を使って、以前アドリアンが話していたアイデアを形にしてみようと思っているのだ)
翼と尾の先端に集めた炎熱エネルギーの利用か……。
楽しみにしておくよ。
(私が知りたいことは分かった。後はアドリアンの調べものだな)
そうだね。俺が今一番欲しているのは、次の目標である「黒い魔力の石の浄化」についての関連情報だ。
年単位で時間がかかる研究になる以上、少しでも研究期間を短縮できるよう優先して情報を集めていこう。
後、せっかくだから神族関連の書籍も一緒に見ていこうかな。
もしかしたら、俺が6歳の時に立てた泉の戦争や世界情勢の推論を補強したり訂正したりする情報が得られるかもしれないしね。
(確か、古代神や神殿長がわざと現在の状況を作った、というのがアドリアンの予測だったな)
そうそう。とはいえ的外れの可能性もあるから軽い気持ちで聞いておいて。
こちらは知的好奇心を満たすためのものだから、優先度は黒い魔力の石の浄化より低いし。
まずは通り一遍の情報を、ということで、2階で鉱石関連の書籍を速読を活かしてざざっと読んだが、黒い魔力の石については、理性を奪う・力を渇望する意思に飲まれるなど、流石にもう知っている情報しかなかった。
まあ関連書籍を読んだおかげで黒い魔力の石を採取できる箇所がミッションリストで詳しく確認できるようになったから無駄ではない。
ただ、マップを見る限り、石は大陸全体に散らばっているみたいだから、ミッションがなくても案外簡単に確保できたかもしれない。
……何でこんな危険物が大陸中に拡散してるんだか。
黒い魔力の石、絶対自然発生した鉱石ではないんだろうなぁ……。
ちなみに図鑑には異世界らしく面白い鉱石も多々記載されており、単純に読み物として面白かったな。
特に興味を引いたのは、触れた人の気持ちや思い浮かべたものによって色が変わる鉱石かな。
全然貴重な物ではないみたいだけど、心によって変化するなんて正にファンタジーだよね。
現代語で書かれた書籍に黒い魔力の石に関する有用な情報が載っていない以上、次に漁るべきは古書が納められている地下の方だな。
棚に本を戻したら地下へ移動しよう。
地下の書庫は2階ほど本棚ごとにきっちり分類分けされてはいなかったが、似通った情報は近隣の本棚に纏めて収められているので目的の書籍を探せない、ということはそんなになさそうだ。
古代言語で書かれた地下の書籍も、俺はデフォルトの転生特典である翻訳機能により余裕で読むことができる。
いい機会だから書籍を読みながら古代言語も覚えるつもりである。
それじゃあ黒い魔力の石に関連する書物に当たりを付けていこう。
黒い魔力の石は自然物ではないとは思うが、一応鉱石関連の古書も一緒に持ってきて目を通しておくかな。
……関連書籍を集めて速読で内容を頭に叩き込んだが、黒い魔力の石は極めてやっかいだな。
浄化手段は記載されていたが、その方法では黒い魔力の完全な浄化には至らないというのが結論だ。
一定以上の魔力が込められた水で黒い魔力の石を適切な温度管理の元煮詰めることで、黒い魔力の石を単なる魔力石にすることはできるのだが、汚染源であるもの、仮称「黒い力」は処理の過程で石と魔力水から抜け出てしまい、再び別の石を黒い魔力の石に汚染してしまうという。
つまり、手元にある黒い魔力の石を浄化しても、大陸に存在する黒い魔力の石・ひいては汚染源である黒い力の総量は変わらない、ということだ。
セルビス氏の浄化手段は、確保している神殿長の泉から採取した魔力水による処置と考えてまず間違いない。
父上の許可を貰って古代神レフガトの泉から水を汲めば、俺も本の記載にある浄化処理は可能だろうが、それでは足りない。
汚染源の黒い力をどうにかできるものをこの浄化処理か魔力水に追加する必要がある。
現時点では思いつかないが、黒い力を消すなり中和するなりできる物質を見つけることが俺のやることになりそうだな。
デルカル大陸で素材を採取する・行商人から別大陸の品物を輸入してもらう等で様々なものを集めて浄化処理に変化を起こせるかひたすら試行錯誤するというのは気が遠くなるな……。
まあ、自分で決めたことだからやるんだけどね。
ちょっと気が重くなったので鉱石関連の古書を読んで気晴らしをしよう。
……おや、現代語の図鑑に載ってた心によって色が変わる鉱石のことがこっちにも載っている。
触れた存在の心を映すから転写石って呼ばれているらしいけど、これを適切に加工することで精神や魂すら保管したり縛ったりすることができる物質にすることができるみたいだ。
ただ、記載された加工方法は読む限りではあるがとても難しい。
転写石がやや脆い鉱石であることに加え、大量の魔力とその魔力を繊細に制御する技量を兼ね備えていないと加工処理が上手くいかないらしい。
古代の神族が大事なメッセージとかを後世に残すためにこれを使っていたのかな……?
他にも色々面白い情報は載っていたけど壁に掛けられた時計を見たらもうすぐお昼だ。
一旦ここまでにしてラークさんの所に戻り、昼食を取った後にまた地下書庫を訪問しよう。
俺は本を片付けた後、地下書庫から出ていくのだった。
王立図書館の情報は魔女の泉3コンセントブックの内容と独自設定を複合しております。
転写石はオリジナルの鉱石です。