チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
昼食をいただいた後、俺は再び王立図書館の地下書庫に戻ってきている。
ラークさんに長時間図書館に籠ってしまっていることを謝ったが、ラークさん自身も公開図書の書籍で読書を楽しんでいたらしく、そこまで気にしなくてよいですよ、と言ってもらえたのでちょっとホッとした。
さて、黒い魔力の石について必要な情報は午前中に集めたし、次は俺の好奇心を満たすために神族関連の書籍を読み漁ってみよう。
どんな情報が出てくるのか楽しみだな。
……非常に古い書物……字も崩し文字でとても読みにくいが、翻訳機能は問題なく発揮される。
これは泉に関する情報か。
泉は神殿長が日々放出する魔力が貯まった器で、神殿長が不在となると機能停止する、と書いてある。
やっぱり泉は神殿長による管理が必須で、かつ有限のものだったんだな……。
これを知っていれば人間側が泉の戦争なんて起こさなかっただろうに、と一瞬思ったが、神殿長側に裏切り者がいるはずだからそんなに上手くいかないかと思い直す。
他に興味深い内容として各神殿長は泉に対する権限により、神殿長不在の泉でも機能を維持させることも、逆に泉を閉ざすこともできるそうだ。
デルカル大陸の古代神レフガトの泉と、バベリア大陸で唯一残った泉……確か、アラムート神殿長の泉だったか。その2つの泉はもともと古代神・神殿長が貯めていた魔力と神殿長権限で維持されている、ということがこれではっきりした。
やはり古代神・神殿長達がバベリア・デルカル大陸の現状を作り上げた仕掛け人と断定してよいだろう。
……現状する気はないが、強制的にデルカル大陸の泉を復活させて機能を維持する場合、一工夫を加えて神殿長による泉への干渉を無効化する必要がある、ということでもあるな。覚えておこう。
この書籍から得られる情報はこんな所かな。次の書籍に移るか。
……こちらの書籍は神族の身体的特徴を書いたものだな。大体知っている情報だが、2点面白いことが書いてあった。
まず、神族の顔にでる赤い文様はどうやら子孫に遺伝するので、文様の形で先祖を調べることができるらしい。
ジーヴ村のパディさんとフィリアが同じ文様を持っているのもこれが理由なんだな。
2つ目は、神族の耳は大きいだけでなく、実際に人間を大きく上回る聴覚を持っていると記載されている。
大きな耳は飾りじゃない、ということだ。
俺も転生特典で五感が強化されているから、自身の聴覚が神族に見劣りすることはないと思うけどね。
後はもう知っている情報だったから次に気になる本を読むことにする。
……この本は魔力の移譲について記載されているな。
転生特典で魔力を得ている俺は例外中の例外として、通常人間には魔力は扱えないが、神族から魔力を与えられるとその制約から解き放たれるらしい。
神族から直接魔力を与えられた人間は、修練を重ねることで受け取った魔力を量・質・制御力等の各要素について自由に育てることができるみたいだ。
また、貰った魔力は受け渡し元の神族と同じ波形・性質のため、魔力を受け取った人間は魔力を渡した神族と同じ文様が顔に刻まれるという。
他にも魔力でできることが色々書いてあるが、内容から察するに、魔力を受け取った人はそうではない人と大きな力の差が生まれるのは確実だ。
実際にすることはないが、俺が現在も欠かさず鍛え続けている魔力で身体強化した上で先のルイスさんとの摸擬戦に臨んだ場合、試合内容は蹂躙というのも生ぬるいものになるのが予測できる。
模擬戦時は大幅に制限していた身体能力を解放すれば更に倍率ドンである。
なんにせよこの世界において魔力の有無は影響が極めて大、ということなのだろう。
もしかしたら、最高勇士に推されている教皇派の勇士もかつて神族から魔力を受け取ったことがある人物なのかもしれない。
それにフレアが年齢に比して非常に強いのも、異世界技能による成長補正によるものだけではなく、炎の制御訓練で俺が魔力をあの子の体に受け渡して補助したのが影響している可能性があるな。
あの訓練の時に使用した魔力はそのままフレアの中に残していたし、フレアが渡した魔力を一緒に鍛えているのならば、あの強さも納得だ。
……まだ興味深い内容が続いているな。このまま読み進めよう。
古代神や神殿長達のような特に強力な神族は加護・祝福といった形で魔力を他者に与えることがあり、これを受け取ると魔力を扱えるようになる以外にも神殿長の性質が強く刻まれた特殊な力を振るうことが可能となる場合があるらしい。
実例も書いてあるな。しかもデルカル大陸での事例だ。
シェザール人の村長が「命を与える力」を持つ古代神レフガトから加護を受け取り、魔力を扱う力の他、ささやかながらも他者を癒せるようになったという。
ちなみにシェザール人はシューベト南東にある霧の森に住まう部族で、基本的に森から出ることはなく、風習により名前も持たないという。
霧の森には人間を襲う魔物が多数出没するのだが、それでも森に定住しているシェザール人の方々はとんでもなく肝が据わった部族だと思う。
む、神殿長達が魔力を与える事例の補足があるな。
神殿長が自分の補佐をさせる相手に対しては、魔力の他に神殿長の持つ泉を管理する権限の一部を移譲するという。
泉の管理権限も渡された存在は神官となるが、神官は神殿長が任命する以外になる方法はなく、動物・人間の区別なく任命可能とのことだ。
また、動物が神官になる場合、知性がない場合は人格が付与され、神官となった動物の意志で動物の体のままか、神殿長と同じ人間態になるかを選ぶこともできるらしい。
動物態のまま神官として働く場合は守護動物とも呼称されるみたいだね。
シューベトを助けに来てくれたマグリックドラゴンは泉の管理補佐を神殿長に任されるぐらい立派な方だったんだな……。
もう一度あの竜神官に感謝の念を送っておこう。
さて、この本で気になる箇所は読み終えた。次の本は何にしようかなっと。
……これもとても古い書物だ。
書物自体が崩れかけで、文字もかすれている所も多数あり読めないかと思ったが、翻訳補助機能が読めない部分・文字が消えかけている部分を何事もなく補正してくれた。
毎度毎度思うが転生特典が優秀すぎないかな?
まあいい。この本を読んでみよう。
ふむ、この書物は純血神族と呼ばれる存在について書いてあるな。
どうやら純血神族は体の全てが魔力でできており、人間やそうでない神族と区別されているそうだ。
身体的な特徴として白く光る瞳孔を持っており、この白い瞳孔を持つものは例外なく純血神族らしい。
基本的に古代神・神殿長と呼ばれる神族はほぼ純血神族と見てよいとも書いてある。
各地の村にいる神族は基本的に神官や神官の子孫が先祖にいる方々で、こちらは混血神族と呼ばれるという。
先祖に混血神族がいる場合は人間同士から混血神族が生まれるケースもあるみたいだね。
加えて混血神族は身体能力や魔力は純血神族に劣っているが力の根本は同じのため、修練次第で純血神族との差を埋めることは可能だそうだ。
まあ混血神族でも神殿長並みに凄い存在はあり得るということを覚えておけばよいかな。
この本はまだまだ続きがある。さて、何が書いてあるのか……。
……え、純血神族は基本的に不滅の存在、とな?
と、とにかく読んでみよう。
まず、純血神族の肉体が滅びても彼らの魔力はこの世界に保持され、純血神族の意思で魔力が世界を流れ、様々な力を発揮できるらしい。
加えて、時間はかかるらしいが魔力を一か所に集めれば肉体を再構成して復活できる、と書いてある。
……「神」と呼ばれるのも納得だ。とんでもないなぁ。
おっと、魔力を収束する手段も一緒に記載されている。
加護や祝福のように特殊な処置をした魔力を複数種用意して一か所に集めると、加護を渡した存在の意思次第だが、世界中に散らばっている加護の大元となる魔力を一気に収束できるらしい。
バベリア大陸の各神殿長は全て亡くなっているが、この情報が正しければ、神殿長達が肉体がなくとも施せる加護を各々用意しておき、一人なり一か所なりに加護を集中させれば、神殿長は肉体込みで全員復活できるってことか。
デルカル大陸の古代神も同じように復活できるのだろうけど、古代神達が姿を消して既に相当の年月が経っている。
つまり、デルカル大陸の古代神達は自身の肉体を復活させるつもりはない、ということなのかもしれない。
非常に重要な情報が手に入ったな……。
デルカル大陸の古代神やバベリア大陸の神殿長が両大陸で進めている計画についても補足できそうだ。
念のため頭の中で整理するか。
バベリア・デルカル大陸における泉の加護の不均衡・神殿長にとっての裏切り者や教皇を利用して引き起こさせた魔女狩りはどちらも古代神・神殿長が仕掛け人であり、目的は彼らの後継となる神族を育成するための大規模な修練場として大陸を使うためだ。
グッと優先度が落ちるが神殿長が認めるほど優れた人間の発掘も目的に含まれている可能性もある。
ここまでがシューベトの復興を手伝いながら出した推論だ。
今回得た情報で補足できるのは、両大陸で後継の育成を行うのは変わらないと思うが、最終的な着地点は大陸ごとに異なっている可能性が高いということだ。
バベリア大陸の場合は恐らく各神殿長が提供する加護を後継の神族に集めさせ、後継の育成完了に合わせて神殿長も復活する、というのがメインの計画になるのだろう。
集める加護は数が増えれば増えるほど収束率が上がるそうなので、この書物に記載された魔力収束率が正しければ、神殿長の人数が多いバベリア大陸なら、加護を集めきれば神殿長は全員即座に復活すると判断してよさそうだ。
デルカル大陸の場合は肉体としての古代神が見られなくなってから長い年月が経過しているにも関わらず、古代神が復活する気配がない。
ということは、古代神達は自らの復活は考慮しておらず、後継となる神族の育成に全賭けしていると予想される。
間違っている可能性はあるが、デルカル大陸が泉なしではろくに暮らせる場所ではないというのが関係して、古代神のリソースを後継の神族に集中せざるを得ないということなのかもしれない。
まあ今は俺の活動が実を結んで大分マシにできていると思うが……。
いずれにせよ、デルカル大陸における古代神の計画は、後継の神族への比重が重い可能性が高い。
以前も考えたが、古代神達の計画を乱さないようにするためにも、やはり後継の神族にこちらから積極的に接触しに行くのはやめた方がいい。
デルカル大陸で後継の方がいそうな場所となると、人里から離れている・食料と水を調達できる・魔女狩りが発生しても勇士が踏み込むのは困難、これらの条件を満たす場所……デルカル大陸では1つしか思いつかない。恐らくあそこだ。
黒い魔力の石を浄化する素材探しの際も、あの場所には行かないようにしておこう。
どう控え目にみても俺は一般的な人間とは言えないし、現在育成中であろう後継の神族に意図せず悪影響を与えてしまっては古代神達に悪いからなぁ。
ただ、転生特典のポイント的においしいミッションがあの場所で出てしまうと気になってしまうかもしれないな……。
おや、フレアが何か言いたそうだ。
(アドリアン。以前教えてもらったが、ミッションリストは確かフィルター機能で任意のミッションを非表示にできるのではなかったか?)
ああ、すっかり忘れていた。
あの場所を起点として発生するミッションと関連ミッションを予め非表示にして見ないようにすればいいのか。
ささっと脳内でミッションリストにフィルター機能をかけ、「霧の森」で発生するミッションとそこから派生するミッションを非表示にする。
思い出させてくれてありがとう、フレア。
(気にするな。私も霧の森には近づかないよう気を付けておく)
後継の方については一旦これでいい。
育成がひと段落した後継の方と試練の最中にすれ違ったり知り合いになるくらいなら、古代神や神殿長達にも大目に見てもらえると信じよう。
他に追加で補足できそうなのは純血神族による不滅性かな。
純血神族の方は時間経過で肉体が滅びても復活可能とある。
恐らくだが、バベリア・デルカル大陸で後継となる神族も純血神族である可能性が極めて高い。
これなら後継が試練に失敗して死亡するような事態になっても、後継の方は純血神族の特性により大陸という修練場に再度リトライできる。
無論1回目の試練と状況は変遷しているだろうが、そこは魔力体の古代神や神殿長が調整すると思う。
またバベリア大陸限定ではあるが、後継の方がどうしても目標を達成できない場合でも、人間の世代交代が発生し、魔女狩りが遠い記録の彼方に消える頃に神殿長達は復活できる。
多分これらが古代神・神殿長のサブプランないしリカバリープランなのだろう。
寿命の長い方々らしいなぁ、なんて思ってしまう。
勿論思いっきり的外れである可能性もあるけどね。
ただ、人間の立場で言うと、後継の神族には是非1回目で古代神や神殿長の課した目標を達成してほしいものである。
魔女狩りによって後継の方が死亡してしまった場合、後継の方は人間に対する嫌悪・憎悪を抱くことになるだろうから、「神殿長達の試練なんぞ知らん!人間に復讐だ!」なんて言い出す可能性が跳ね上がるからなぁ……。
ゆるゆると古書を閉じると同時に、誰かが階段を降りてくる足音が遠方から聞こえる。
古代言語が収められた地下書庫にいったい誰が?
しばらく待ち、地下に降りて来た人物が目に入った時、俺は急いで跪いた。
「驚かせてしまったか……。どうか楽にしてくれ。君と改めて話をしてみたかったので、こうして訪ねさせてもらった。玉座の間では、既に決まっていたことしか話せなかったからな」
王冠を外してシンプルな服を着ていたが、俺に近づいてきた方はバベリア国王・ラファエロ陛下だったからだ。
転生時のルールにより、
古代神達のデルカル大陸再生計画において、
自分が計画から絶対に外せない超重要人物であることを転生アドリアン君は知りません。