チート転生アドリアン君   作:ブロンズ探検家

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28話 黒い魔力の浄化剤を作ろう

秘密基地でこれまでの活動を振り返った日の翌日以降、俺はしばらくの間勇士隊の訓練・魔女狩り対策の補佐・神族の支援等、黒い魔力の石の浄化研究以外の予定を消化していた。

 

最近はシューベト城西にある海岸までの街道整備が一番力になれていると思う。

俺は人間重機として工事を進められる上、現場監督の手が離せない時は代役としても動ける。

魔物が出ても一蹴できるしね。

フレアも街道工事で樹木や岩の除去・地均しを手伝ってくれているので、とても助かっている。

土木工事に力を貸してくれるドラゴンなんて恐らくシューベトにしか存在しないだろうなぁ。

 

工事といえば、シューベト正門前の窪地にかけている橋も大分完成に近づいているんだよな。

竜に襲われた過去を持ちながらも、今は竜と共に生きる町への橋ということで、「ドラゴンテール」という名前にするらしい。

橋のすぐ脇にフレアの寝床があるから凄い説得力のある名前だよね。

 

 

そして研究以外の用事がひと段落した今日、俺はフレアの背に乗りジーヴ村に移動している。

空を移動しながら、フレアと俺は浄化研究の次のアプローチについて会話している。

 

『前にこれまでの活動を振り返った時、アドリアンはこう言っていたな。「黒い魔力の石に宿る汚染源……黒い力に対して物理的な要素による干渉は不可能である可能性が高い」と』

 

これまでの結果からそう結論付けざるを得ないと思う。

デルカル大陸・バベリア大陸で現状手に入る各種素材を使って魔力水や浄化工程に手を加えたが、黒い力ごと浄化することは終ぞできなかったので、発想を変える必要があると俺は考えた。

加えて、黒い魔力の石を手にした人に対する影響を思い出し、次の方針が定まった。

 

黒い魔力の石は、力を求める欲望を肥大化させる。

肉体も汚染はするのだろうが、より重要なのはこの石が触れた人の精神に干渉する代物であるということだ。

だから、これまでのように魔力水に物理的な要素を付与するのではなく、精神的な要素を加えることで黒い魔力の石の完全浄化を試みていこうと思う。

王立図書館でそれを可能とする鉱石が存在することは知っている。

 

『触れた存在の心を写す鉱石……転写石だったな。加工する事で精神や魂を保管することも可能になるという代物か。だが、加工難易度が凄まじく高いと言っていなかったか?』

 

加工もできればいいけど、そっちは大して気にしていない。

石を持っただけでも心を転写できるみたいだから、転写石を持って色の変わった部分を削りだして使えばいいと俺は判断している。

脆い鉱石みたいだから削るのはさほど難しくないだろう。

まあ、まずは目論見通り石を手に入れられるかだ。

 


ジーヴ村の鉱山員達に話を聞いてあっさり転写石を手に入れることができ、俺はシューベトにとんぼ返りすることになった。

転写石はジーヴ村の鉱山から普通に採取できる代物で、村の人々には利用価値がなく交易品にも使えないクズ石同然だったが、少額とは言え俺が石を全部購入したから鉱山員の皆はホクホク顔だったな。

……貴重ではないとはいえ、こんなに大量に石が手に入るとは思っていなかったけど。

 

『実験に使いつぶせると思えばいいじゃないか。アドリアンの発想が合っていることを願っているよ。教皇も黒い魔力の石を積極的に集めているようだから、上手くいってほしいものだがな……』

 

そうなんだよなぁ。

大陸渡りの行商人の皆さんや、トランさんを始めとする物資輸送隊の人達から話を聞く限りの判断になるが、セルビス氏は闇取引なども通して積極的に黒い魔力の石を集めているらしい。

魔力探知機を作るにしてもそんなに大量の石はいらないはずだ。

浄化処理もしているのかもしれないが、教皇配下の振る舞いを考えると、セルビス氏は良からぬ用途に石を使っていると判断するのが妥当だろう。

他者を汚染したりする他にも、もしかしたら大量の石を使った兵器等も作っているのかもしれない。

いずれにせよ、対抗できるよう俺も研究を何とか進展させないと。

 


何事もなくシューベトに帰還し、俺は転写石を携えてシューベト城地下の秘密研究室に直ぐに移動した。

レフガトの泉から滲み出た水筋から採取した魔力水もちゃんと研究室に置いてあるので、いつでも実験を開始できる。

さて、どんな心を写し取るか……まずはシンプルに喜怒哀楽を試してみようか。

そう決めた俺は作業机で転写石に心を移す作業を試みる。

想定よりも脆い鉱石だったので何度も力加減を誤って石を砕いてしまったが、色の変わった箇所を目の荒いやすりで削り取っていくと上手くいった。

地道にやすりで石を削り取り、転写石から色が変わった場所がなくなったら再び石を手に持ち対応する感情のイメージを思い浮かべ、また石の色が変わった部分をやすりにかけていく作業を30分少々繰り返し、無事に喜怒哀楽4種類の心を写し取った転写石の粉がそれなりの量用意できたので、どのように実験するかを思案する。

……もう単純に魔力水に溶かしてみようか。

初回の実験でもあり、複雑な素材の調合は控えた方がいいと判断した俺は、転写石の粉を魔力水に溶かせるかを試してみることにした。

 

……実験した所、徐々に魔力水の温度を上げていけば、少しずつ粉を魔力水に溶かせることが確認できた。

一定量の転写石の粉を入れ切ると一気に魔力水の色が変わってそれ以上粉を溶かせなくなるので、飽和状態になったことのチェックは容易だった。

また、始めから高温の魔力水に溶かそうとすると粉がダマになってしまって上手くいかないことも確認している。

これまで数えきれない程行った、黒い魔力の石を煮詰める不完全な浄化工程における温度管理でもきちんと転写石の粉が溶け切ることを確認したので、以降は慣れきっているこの温度管理で魔力水に粉を溶かしていくことにしよう。

 

ではさっそく、作成した喜怒哀楽の思いを込めた試薬を黒い魔力の石に掛けてみることにする。

いつもの通り手袋をはめ、黒い魔力の石へ順に試薬を注いでいき……すると、これまで汚染源の黒い力に対して一切影響を及ぼせなかった石に、とうとう変化が訪れた。

試薬の内、怒りと悲しみの思いを込めた試薬は何の反応も示さなかったが、喜びと楽しさの思いを込めた試薬を掛けた際、確実に石の黒色が薄くなっていた。

試薬を掛けた際、黒い魔力の石から汚染源である黒い力が抜け出てくるか全神経を集中して確認するも、黒い力は抜け出る様子はなく、色が薄くなった黒い魔力の石だけが残されている。

これまでの実験結果で判明した、黒い力が特に優先して汚染するタイプの石をチェッカーとして研究室に態と置いてあるが、そちらも汚染された様子はない。

 

……どうやらアプローチの方向性は正しいらしい。

そうなると、この後やらなければいけないのは、転写石へ込めるべき思いの具体的な内容を割り出すことだ。

喜怒哀楽の試薬を作る時、転写石を手にときに思い浮かべたイメージは一定ではなかった。

そのせいか、それぞれの感情を写し取った転写石の粉の色合いはムラがある。

黒い魔力の石に最も効果がある思いを見つける必要がある。

……これまでと同様、地味で地道な作業になるけど、研究なんてそんなものだ。

ただ、割り出しにまた時間がかかるから、思いを写し取った転写石の粉を作る工程は秘密基地内でも進めよう……。

 

俺は残りの研究時間は喜び・楽しみをベースにした様々な思いを写し取った転写石の粉をひたすら作り続け、就寝前の秘密基地内での活動も訓練時間以外は転写石の粉の作成に勤しむのだった。

 


思いを込めた転写石の粉を作り続けて何日かした後、俺は朝食後、再びシューベト城地下の研究室で転写石の粉を使った浄化剤の試薬を作っていき、試薬を順番に黒い魔力の石に試していった。

 

そして遂に、黒い魔力の石にかけるとあっという間にただの石に浄化した試薬を複数見出すことができた。

 

その試薬に入れた転写石の粉に込めた思いは、それぞれ「父上・母上の幸福を願う気持ち」・「シューベトの民・面識ある神族達やルイスさん達など、自分と縁ある人々の幸福を願う気持ち」だった。

力への欲望を肥大化させて理性を奪う黒い力に対して有効に機能するのは、信愛・友愛などを含む他者への愛情、ということなのだろう。

ただ、「未来への希望」や「親しい人の成長に対する喜び」などを込めた試薬もいい線行っていたので人によってはこっちでも良いかもしれない。

 

欲望に対抗できるのは愛、か。

浄化手法が見つかってみれば、ある意味筋の通った結論に終わったな……。

初めから黒い魔力の石が精神に影響を与えるという点をより重要視していれば、という気持ちもないではないが、その場合もより効率が良い方法がないか他の素材も試し始める気がするからあまり変わらないかと自分を納得させる。

 

ただ、感覚的なものに過ぎないが、もしかしたら欲望に対抗するというより、中和する、という方がより近いのかもしれない。(中和の概念はこの世界にないかもしれないけど)

どことなく、想いのバランスを取ることで黒い魔力の石を正常な形にしている、といった印象があったからね。

 

いつだったか、俺は黒い魔力の石を「あって当然のもの」と思ったことがある。

それを考えると、もしかしたら黒い魔力の石は、誰もが当たり前に持つ負の想念を偏った形で顕在化させちゃった物なのかもしれない。

だからこそ、「消し去る」ではなく「バランスを整える・調和させる」という方向性の方が、より適切な石の処理方法となると個人的には考えられるな。

 

 

また、最も効果が出た試薬を黒い魔力の石にかけた際も、石から黒い力が抜け出る気配は感じ取れなかった。

汚染源の黒い力を含めた完全浄化に成功していると判断してもよさそうだが、可能なら他の人の視点でも問題ないか確認したい。

……頼めるのはパディさんぐらいだな。

 

明日も研究に時間を回せるから、食料を持参してカルダリア山を訪ねてみよう。

もしかしたらルーカスやエイリンの指導でマリーの森や神殿、ワディラム高台にいるかもしれないけど、その時はそちらに向かえばいい。

 

残り時間は……試薬改め黒い魔力の浄化剤をもっと作っておくか。

セルビス氏へ対抗するには浄化剤がいくらあってもいいし、転写石に思いを込める練習にもなる。

浄化剤の効果が問題ないことをパディさんに確認した後は、他の人にもこの浄化剤が作れないか協力を頼むことになるだろうが、しばらくの間まともに浄化剤を作れるのは自分だけになるだろうからなぁ。

俺は修行時に行う瞑想の精神状態を応用して転写石に写し取らせる思いを1つに固定できるけど、他の人にそれが可能かなんてわからない。

いや、瞑想を修練に取り込んでいる神族の皆なら可能か。

パディさん達の手が空いてそうな時、浄化剤を俺以外の人にも作れそうか検証への協力もお願いしよう。

そこまで集中して思いを転写石に写さなくても、誰もが黒い魔力の浄化剤を作れるというのが最高の理想で、次点はイメージの集中が得意な人ないし神族なら浄化剤を作れるという所かな。

 

……とうとう完成したと思うと欲が色々出てしまうな。

3年以上てこずらされたからなぁ……。

まあ今はとにかく時間いっぱいまで浄化剤を作っていこうか。

 

俺は浄化剤をひたすら作り続け、いつも通り就寝前に秘密基地でフレアと一緒に訓練や気分転換をしてから一日を終えた。

フレアにも浄化剤完成を祝ってもらえたし、達成感もあって今日はよく寝れそうだ……。




転写石は魔女の泉Rに出てきた
とあるネックレスの原材料としてイメージした
オリジナル鉱石です。
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