チート転生アドリアン君   作:ブロンズ探検家

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29話 忍耐の試練を受けてみよう+浄化剤の効果を確認してもらおう

浄化剤完成の翌日、俺とフレアはパディさんを訪ねにカルダリア山の山頂付近にあるパディさんとフィリアの隠れ家を訪れている。

 

「あら、アドリアン、フレア、いらっしゃい!何かお土産はある?」

「こんにちは、フィリア。さつまいもとブルーベリーを持ってきているよ」

『壮健そうで何よりだ、フィリア』

 

フレアの羽ばたきか着地音から判断したのだろう、隠れ家からフィリアが出迎えてくれた。

気配から察するに、パディさんは出かけているみたいだな。

来て早々手土産を求めるフィリアに苦笑しつつも持ってきた作物を渡す。

 

「ありがとっ。いやあ、アドリアンとフレアかヨハネスが食べ物持ってきてくれないと、処理した岩トカゲとか野草を食べるしかないからとっても助かるわ!」

 

現状の厳しさを語りながらもフィリアは元気そうだ。

軽く雑談した所、教皇派の勇士をカルダリア山のふもとで見つけたことはあれども、今の所山頂付近では勇士の姿を見かけないという。

「最悪マリー神殿に空間移動で逃げ込むからその時は食料とかよろしくっ!」って言ってるし、精神的には十分余裕がありそうだ。

きっと、大好きなお父さん(パディさん)も一緒だからだろうね。

そうそう、パディさんが今日どこに行っているかをフィリアに聞いておこう。

 

「えっお父さんの行先?今日はマリーの森かマリー神殿に行っているよ。ルーカスもマリーの森を訪ねる日みたいだから、エイリンとまとめて修練の指導をするみたい。それと、お父さん自身の修練もするって言ってたかな……。でも、お父さんに何の用事があるの?試薬の調合方法についての相談なら私でも大丈夫よ?」

 

結構腕を磨いたんだからと胸を張るフィリアに対し、俺は黒い魔力の浄化剤が完成したので、効果に問題がないか念のためパディさんに確認してもらいに来た旨を説明する。

 

「え。ホ、ホントに作っちゃったの?絶対無理だと思っていたのに……。やばい、もしかしてあたし、魔力のないアドリアンに調合技能で負けてるってこと……?」

 

本当は魔力あるけどね、とは言えず、魔力を使わない工程で作れた上、ある意味発想の転換で上手くいったので、調合技能はそんなに関係せずに作成したことをフィリアに伝える。

 

「そうなの……。でも、それはそれとして調合練習をもうちょっと頑張るわ。この前の摸擬戦でルーカスに一矢報いられた仕返し用の薬を作らないといけないし」

『やはり、ルーカスとは仲良くやれているようだな』

「良くないわよ!っと、試薬の確認ならお父さんに任せた方がいいだろうし、あまり引き止めても悪いわね。エイリンによろしくね。……一応ルーカスにも」

 

了解、と返事をし、俺とフレアはフィリアとお別れしてまずはマリー神殿に向かった。

 


飛行の高度を上げていき、フレアの背から俺はマリー神殿に降り立った。

フレアは神殿に降りてしまうとどこかしら崩してしまいそうなので、神殿近くの空か地面にいてもらうことにする。

さてパディさんはどこに……神殿先端にルーカスとエイリンがいるな。

2人とも瞑想中か……ルーカスは瞑想の深度にちょっと怪しい所があるけど、今は邪魔しない方がいいな。

ええとパディさんの気配を探してっと。

ああ、いたいた。この部屋だ。

 

 

パディさんのいる部屋の中は広々とした虚空の空間が広がっており、少し進んだ先にある祭壇付近で、かなりの汗をかいているパディさんを俺は発見した。

 

「おやアドリアン君、こんにちは。私を訪ねにきたのですか?」

 

俺もパディさんに挨拶を返すが、祭壇で何をやっていたのかが気になるので、ちょっとパディさんに聞いてみよう。

 

「この部屋は忍耐の部屋といって、修練場として使用できる場所です。部屋には機能が2つあり、1つは祭壇で発生する光の波動に耐える試練を、その試練を突破した後は自分の力量に応じた幻影と戦闘する試練を受けられるのですよ」

 

試練を突破すると神族に役立つ力を得られるので、今しがた試練を受けていました、とパディさんは続ける。

おお、それは興味深い。……俺も受けられるかな?

 

「アドリアン君がですか?祭壇を起動するための魔力を融通できれば可能でしょうが、私は試練直後で消耗していますので、できれば控えたいですね……」

 

魔力があれば……ああ、そういえば不完全な形で浄化した元黒い魔力の石がある。

これを魔力源として使えば祭壇を起動できるかもしれない。

 

「それは浄化済みの魔力石ですね。確かにその石をいくつか砕くなりして祭壇に魔力を通せば試練を受けられそうですが……本当にするのですか?アドリアン君が魔力を持っていない以上、役立つものは何も得られない試練になると思いますよ?」

 

「はい。得難い経験を得られそうなので」

 

特に自分の強さに応じた幻影なんて楽しみだ。

秘密基地のシミュレータで自分とのミラーマッチは数えきれないほどやっているが、基地の外でもこうした形で似たような修行できるなんてちょっとワクワクする。

 

「……意志は固いようですね。ではせめて、万が一がないよう監督させてください。君は今のデルカル大陸において、一番死んではいけない人なのですから」

 

そんな大げさな、とも言い切れないか。

まだパディさんには言っていないけど、黒い魔力の石を完全な形で浄化できるのは、現時点では恐らく俺だけなのだし。

 

問題がないか監督してくれるパディさんにお礼を言った後、俺は祭壇上で座禅を組み、鞄から魔力石を取り出して砕いていく。

砕いた石から放出された魔力が祭壇に流れた直後、祭壇から凄まじい光の柱が吹き上がって俺を包み込んだ。

 

……確かにがりがりと己の体力が削り取られていくな。

でも、訓練用リストバンドで強めた重力下での訓練や、血で血を洗う激しさになることもままある自分とのミラーマッチ等と較べれば、非常に穏便な形での試練と言えるな。

古代神マリーが優しい癒しの神って言われてるのと関係しているからかな?

どちらかというと次の試練の方が興味があるし、このまま瞑想でもしてちゃっちゃとやり過ごそうか。

 

 

時間にして15分ほど経過すると、俺を苛んでいた光はゆっくりと消えていき、俺の脳裏に何らかの魔法陣が刻まれたのを感じ取った。

人間が突破した場合もご褒美をくれるんだね。

 

脳内で魔法陣を解析すると……うわあ、使い所に凄く困る魔法だよ……。

脳裏に刻まれた魔法陣から発動できる魔法は「エカールヴェルテル」というもので、自分の体力と魔力を限界まで消費して大爆発を起こし、対象を焼き尽くす魔法だそうだ。

使ったらほぼ戦闘不能になるから切り札中の切り札って感じか。

でも、異界法則の重複現象を発動させた異世界の攻撃魔法の方が多分威力が出るよね……。

意味合いは異なるが、確かにパディさんの言う通り俺にはあまり役に立たない魔法だったな。

 

「苦しむ様子も一切なく1つ目の試練を突破しますか……。途轍もないですね」

 

と、パディさんはつぶやいていた。

基地での訓練に慣れている俺には大変だったという自覚が全然ないけど、普通に暮らしている神族には結構きつい内容なのかもしれないな。

俺はこのまま2つ目の試練に挑もうとしたが、慌てた様子のパディさんに「せめてこれを飲んでからにしてください」と体力回復用のポーションを貰ったのでありがたく飲ませていただく。

 

「次の試練は守護動物・ラガーの幻影が出てきます。アドリアン君の力量であれば、凄まじい強さの幻影が出てもおかしくありません。危険を感じたら直ちに祭壇の後ろへ下がってください」

 

パディさんの注意事項に頷きつつ、今度はシューベターを抜いて戦闘態勢を取った上で、俺は祭壇の上で再び魔力石を砕いた。

 

……?おかしい。俺は充分な量の魔力石を砕いたはずだ。

なのに何も出てこない……?

いや、よく見ると黒い靄に包まれた人影が俺の前にいる。

どう見てもラガー神官の姿には見えない。

背格好は俺に良く似ているように思えるが、どういうことだ……?

黒い人影は戦闘態勢を取っておらず、戦う意志も感じられないが、その人影は握手を求めるように俺に向けて手を伸ばしている。

……悪意は感じられなかったので、ちょっと躊躇いつつも差し出された手と握手をする。

人影の手から実体も熱も感じられないが、黒い人影から微笑んだような気配を感じ取り……そのまま黒い人影は姿を消した。

 

「これは一体……?アドリアン君、試練で何が起こっていたのですか?私には黒い靄が出てきてそのまま消えたようにしか見えなかったですが……」

 

パディさんも詳細は分からないようだ。

俺はパディさんに黒い靄に覆われた人影が出てきて、握手をすると人影が消えてしまった旨を説明した。

パディさんは続けて祭壇に異常がないか調べ始めたが、

 

「2つ目の試練を突破したという状態になっていますね……。人間が2つ目の試練を受ける時はあのような形になる、ということなのでしょうか……」

 

幻影に勝ったという扱いになっているのか。状況が見えないな……。

ただ、あの黒い靄、黒い魔力の石の汚染源である黒い力に似通った力の波動を示していた。

思わず握手しちゃったけど……。

この忍耐の部屋、もしかして黒い魔力の石を部屋の機能に組み込んでいるのか?

……念のためこのことは覚えておこう。

古代神の神殿に黒い魔力の石を使用された部屋があるというのなら、そこに何らかの意味なり意義なりがある可能性がある。

 

おっといけない、脇道に逸れすぎた。

俺は元々浄化剤をパディさんに見てもらうために来たんだった。

部屋の考察は現状優先度は低い。

俺はパディさんに元々予定していた用事である、黒い魔力の石に宿る黒い力ごと浄化できる浄化剤ができたので、完全浄化に成功しているか確認してほしいとお願いする。

 

「私は、今日、君に何度驚かされればよいのでしょうか……。黒い魔力の石は扱いを誤れば神族すらも汚染する上、各地の黒石窟が手つかずである以上、神殿長でも相応に手を焼く代物のはずなのですが……。しかし、事情は分かりました。神殿内で実験をするのは流石に憚られるので、マリーの泉前の空き地で確認しましょう。せっかくですから、ルーカスとエイリンにも声をかけて一緒に見てもらいましょうか」

 

パディさんは驚愕つつも了承してくれた。

兄妹が見学する件も、どちらにせよ2人にも挨拶するつもりだったので構わない旨を伝え、俺はフレアを呼んで一旦マリーの泉前に降ろしてもらうのだった。

 


マリーの泉前の空き地に降りた俺とフレアは、空間移動で飛んできたルーカス・エイリンと挨拶をしている。

 

「よっ!アド、フレア!アドがずっと研究してた浄化剤できたんだって!?すげーじゃん!あ、食料もありがとな!」

「アド君、フレア君、こんにちは!ずーっと頑張ってたもんね。おめでとう!」

「ルーカス、エイリン、こんにちは。本当に上手くできているかこれからパディさんに確認してもらう所だけどね」

『うむ、二人とも元気そうだな』

 

お土産を2人に手渡し挨拶を済ませた俺は、雑談がてら浄化剤の作り方を2人に説明しながら実験準備を整えていく。

手袋をしっかり嵌め、鞄から取り出した大きめの黒い魔力の石を地面に置いていき、チェッカー用に黒い力に汚染されやすい石も並べる。

そして最後に、完成した黒い魔力の石の浄化剤を入れた薬瓶を取り出した。

 

「わあ、きれいな銀色……。この液体に、アド君の心が溶けているんですね」

「正確にはアドの気持ちを写し取った鉱石の粉が、だろ、エイリン」

「もう!お兄ちゃんは情緒ってものが全然分かってないよ!」

 

ルーカスにむくれ顔を向けているエイリンをなだめつつ、パディさんを待つ。

ああ、来てくれた。

 

「すみません。魔力の回復で少し遅れました。それが、黒い魔力の浄化剤ですね」

 

浄化剤をパディさんに手渡し、出来を見てもらうことにする。

パディさんは浄化剤を光にかざして見つめたり、軽く振ったりしながら薬の解析を行っている。

 

「……薬品は安定しています。不定の効果が紛れ込んでいるということもおそらくない……。大丈夫です。後は、想定通り効果を発揮するかという点を確認するだけですが、早速黒い魔力の石に振りかけてみてもよいでしょうか?」

 

「お願いします。パディさん」

 

俺の返事を聞いたパディさんは薬瓶の封を外していく。

ルーカス・エイリンは緊張した面持ちで見守っており、フレアはのんびりとパディさんの様子を見つめている。

 

……?何だ……?

こちらに意識を向けている何かがいる。それも複数。

気配を探るが実体を感じ取れない。

周りの皆はこちらを注目する意識に気づいていない。

異世界の技能を磨き上げることで感覚が鋭くなっているから、俺だけが察知できているのか……?

だが、感じ取れる意識の1つは枯れたマリーの泉から向けられている。

となると、もしや古代神の方々が見ている……?

 

でも、パディさんの言うことが正しければ、黒い魔力の石の浄化は古代神にとっても決して悪いことではないはずだ。

神族にも害悪となる汚染物質を処理する分には咎められることもないだろうし。

実際実験を止められる様子もないのでこちらに注目する意識の件はスルーし、パディさんが浄化剤を黒い魔力の石にかけていくのを俺も注目する。

そして研究室で確認した通り、黒い魔力の石は一瞬でただのどこにでもある石に変わった。

 

「黒い魔力の石に込められていた邪悪な波動も全く石から出てこない……。間違いなく、石の完全な浄化に成功しています。この上ない難行を達成しましたね、アドリアン君」

 

その言葉を聞いたルーカスとエイリンが拍手をして口々にお祝いの言葉を言い、研究成果を既に共有していたフレアも改めて労ってくれた。

 

俺は3人に確認に立ち会ってくれたお礼を述べ、次は他の人も浄化剤を作れるようにするための協力をお願いすることになる旨を先んじて伝えておく。

「もう次のことを考えているの!?」と3人にはちょっと呆れられたり苦笑いされたりしたけど、黒い魔力の石は神族も汚染するもので他人事ではないから、ということで皆からOKを貰えた。

 

でもエイリンとルーカスは

「うう、エイリンは調合苦手なのです……」

「それを言ったら俺もなんだけど……。癪だけど、フィリアに手伝ってもらうか……?」

って言ってたから、もしかしたら転写石の粉に感情を写し取る所だけやってもらうことになるかもしれないな……。

 

 

ルーカス・エイリンはパディさん監督の元マリー神殿でまだ修練を続けるということでここでお別れとなった。

空間移動で神殿に飛ぶ3人を見送った後、実験の後片付けを済ませ、この後の予定をどうしようか思考を巡らせ始めた時、異変が起きた。

……魔力の波動が俺の意識をゆっくりと落とそうとしてきているのを感知した。

抵抗することは充分可能なのだが、どうもその魔力の波動は枯れたマリーの泉から出ている。

しかも、なんとなくだが、招かれているような……そんな意志を感じる。

まさか、さっきの実験が何かしら古代神の逆鱗に触れてしまった?

……少々怖いものがあるが、状況を確認するために招待に応じるべきだろう。

 

『アドリアン?どうしたのだ?』

 

異常を察知したフレアが俺に尋ねてきたので、どうも古代神が俺に用があるらしく、招きに応じる旨を伝える。

 

『何だと?……分かった。確かに振り切ってしまうのは危うい。だが、対応は慎重にな』

 

フレアの忠告に頷きつつ、俺はマリーの泉に近づいて泉の縁取りに腰かけた後、魔力の波動をそのまま受け入れた。

 

その結果、俺の意識はゆっくり闇に落ちていった。




〇〇〇「まさか、このような形で、黒い魔力の完全な浄化が本当に叶うなんて……」

魔女の泉4より、各大陸に散らばる黒い魔力の対処は
古代神・神殿長などの古い純血神族達が共通して抱える悲願とします。
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