チート転生アドリアン君 作:ブロンズ探検家
俺はこれまでやっていた日々の業務に、黒い魔力の浄化剤作成と各地の黒い魔力の浄化処理、更にバベリア大陸での決死隊支援を加え、既に前世でいう高校生の年齢になった今も毎日をそこそこ忙しく過ごしていた。
秘密基地があるから普通の人より遥かに楽しているけどね。
今日も、俺は秘密基地で教皇城決戦用に黒い魔力の浄化剤作成に勤しんでいる。
シューベト城の研究室では今も手作業で浄化剤を作っているが、秘密基地の研究室では電気が使えることに思い至ったため、やすり掛けの代替となる電動ピーラー・魔力水を煮込む用に自動温度調節器のついた鍋を転生特典用ポイントで購入し、基地内での浄化剤作成をある程度自動化した。
ピーラーではヤスリ掛けをするよりもやや余分に転写石を削ってしまうので、転写石一つ当たりにつき作成できる浄化剤の量は手作業の時より減ってしまうが、教皇城決戦に使う(かもしれない)浄化剤はなるべく沢山用意しておきたかったので目を瞑った。
バベリア大陸の岩石竜達が集めてくれた転写石がまだまだ倉庫に積まれているというのもあるし。
だが、今用意した分で貯水タンクに浄化剤をほぼ満足いく量まで蓄えられたし、訓練は既に済ませているから、今日はもう休憩しても良さそうだ。
……そうだな。浄化研究で行き詰まった時にやったように、またこれまでの活動を振り返ってもいいかもしれない。
お茶を用意して自室に行き、浄化剤の調査がひと段落した日以降のメモを机の上に出していく。
おっと、俺の部屋でうたた寝していたフレアがいつのまにか起きたようだ。
『アドリアン、浄化剤の作成はひと段落したのか?』
「うん。これから休憩がてら、お茶でも飲みながらまた活動メモを見返すつもりだけどね」
『確か、研究に目処がつく直前に見ていたものだな。……今回も、一緒に見ても良いだろうか』
勿論と返事をしつつ、以前と同じくフレア用の水も用意する。
それでは、今回もフレアと共にこれまでの活動内容を記したメモをざざっと振り返ってみよう。
$年A月c日
バベリア大陸ドラゴンバレーを来訪し、岩石竜が集めてくれた金鉱石と転写石を回収。
また、雷竜イメルに教皇城決戦での協力依頼を出し、了承を貰う。
また、決戦時に使用する放水砲をイメルに貸与。
練習用の水を貯めた秘密基地内の貯水タンクと放水砲を連動させ、決戦に向けて放水砲の扱いを練習してもらう。
『イメルは協力依頼を拒むことはなかったが、協力の内容には目を点にしていたな』
やってもらう事が事だからね。
【二代目の主からの依頼である以上請け負うが、我にそのような事を頼むのは後にも先にも汝ぐらいだろうな……】
なんてイメルもぼやいていたし。
普通に考えればイメルは純粋に戦力として運用するのが最適解だ。
次点で飛行能力を活かした運搬役かな。
その上であんな仕事を割り振ったのだから唖然とするのも致し方ない。
ただ、バベリア大陸での間接的な援護となると、多分これが一番望ましい形となるだろう。
『大量に黒い魔力の石を集めているだろう教皇への対抗策か……』
以前大陸渡りの行商人達に確認した時と変わらず、セルビス氏は黒い魔力を浄化するとして堂々と、あるいは秘密裏にも黒い魔力の石を集め続けている。
ゲーム的な発想ではあるが、ラスボス相当のセルビス氏が黒い魔力の石を大量に使用して最終局面でやってきそうなのを俺は3つほど想定していた。
1つ目の予想は巨大兵器の動力源として黒い魔力の石を使うというものだ。
セルビス氏は人造ゴーレムの動力源に黒い魔力の石を使っているという話を聞いているので、個人的にはこの予想が一番可能性が高いと思う。
最後の戦いに巨大な相手というのは凄くベタな展開だし。
2つ目の予想は黒い魔力を大規模に利用した儀式魔法を想定している。
セルビス氏のお膝元である教皇城全体、あるいはバベリア町全体に黒い魔力の石を配置して何らかの広範囲魔法を使用してくるのでは、という予想だ。
3つ目の予想は2つ目の内容に近いが、セルビス氏が敗色濃厚となった際、黒い魔力の石を使用して周囲を巻き込んで自爆する事だ。
他2つの予想よりも対応しにくいので、実行されると一番困るものでもある。
だが、黒い魔力の石を切り札として使ってくる場合、何れの予想でも俺の作成した浄化剤で被害は抑えられる。(自爆は抑えるにしても限界はあるだろうが)
イメルにやってもらうことはシンプルで、黒い魔力の浄化剤を満載した貯水タンクに魔法で遠隔連結した放水砲・透明になる衣を装備したイメルにバベリア町上空で待機してもらう。
黒い魔力の大規模な発生を感知したら、黒い魔力の発生源に向けて、イメルに放水砲から浄化剤をぶつけてもらうというものだ。
策とも呼べないぐらいの力技ではあるが、黒い魔力を浄化してしまえばセルビス氏の最終手段を十分押さえ込むことが出来るだろう。
放水砲は操作が物凄く単純なものをチョイスして獲得しているので、
最初は苦戦していたが、練習を重ねてもらった今では中々達者に放水できるようになったので、バベリア大陸での決戦時の準備は、決死隊の支援を途切れさせなければもう問題ないだろう。
……そろそろ、次のメモを読んでいこうか。
$年B月e日
厳重な管理の元、黒い魔力の石によって汚染された小動物を用いて
生物を浄化剤で浄化する実験を実施。
少なくとも黒い魔力による汚染から2か月以内なら全個体が元の健康体に戻ることを確認。
長期間汚染された個体を浄化しようとした場合は後日調査。
『黒い魔力に侵された生物にも浄化剤は有効であるのを始めて確認したのはこの日だったか』
そうだね。
これでセルビス氏達が他者の汚染に黒い魔力の石を使ってきても対抗可能なのが確定したし、実際に今もその用途の対抗手段として浄化剤を使っている。
時間が経ってしまうとこうは行かなかったけど……。
$年D月j日
決死隊の支援日。
バベリア大陸のドラゴンバレーで金鉱石と転写石を回収。
ついでに黒い魔力の浄化剤でバベリア大陸の黒石窟を浄化できるか確認。
問題なく浄化できたので、ドラゴンバレー側から少しずつ浄化処理を開始。
『最も黒い魔力が満ちているだろうこの場所に浄化剤が効いた以上、浄化剤の必要量を満たせば目に見える範囲の黒い魔力は一掃できそうだな』
一番黒いオーラが際立つ場所だからなぁ。
黒石窟は前世でいう汚染物質の貯まり場に等しいし、この世界の人々が黒い魔力に脅かされずに生きていけるようにするためにも、バベリア・デルカル大陸の黒石窟は完全に浄化を済ませて綺麗にしようと思っている。
今でも時々ちらっと加護の方から霧の森や霧の森にある黒石窟のイメージが伝わる気がするが、デルカル大陸の黒石窟は古代神の後継となる方が大陸で動き始めてからだ。
やっぱり黒い魔力の石の件は古代神達にとって関心が高いのかもしれない。
最終的にはちゃんと両大陸の黒石窟を浄化する旨を加護を通じて念じておいたから、古代神達も安心してほしいものだ。
$年E月a日
ライトニングブレードにフレアの炎熱を纏わせられるかを実験。
無事成功。
炎雷属性持ちとも言える武器になることを確認。
$年E月h日
転生特典用ポイントを使用し、既に持っている「戦闘時、一手で複数回行動できるようにする異世界技能」と同じ技能を取得して同時に使用するとどうなるか試してみる。
結果は3回行動+3回行動=6回行動になった。
ただし、複数回行動の異世界技能も練度があるため、3×3=9回行動にできる可能性も残る。
また、現在対応中となる黒石窟の浄化作業で万が一にもこちらが汚染されてしまう可能性を無くすため、「肉体・精神・魂への汚染を無効化できる異世界技能」も合わせて取得。
$年F月b日
黒い魔力による汚染対策として、シューベト城とジーヴ村にあるデルカル大陸支援隊の勇士詰所に黒い魔力の浄化剤を備品として配置しておく。
$年F月k日
ジーヴ村西の勇士キャンプ奥に教皇派勇士の拠点が完成。
以降、該当地域の建物群を教皇派拠点と呼称。
教皇派勇士・金に困っている勇士崩れは基本的にこちらを根城にしている模様。
$年F月v日
黒い魔力に汚染された魔物や魔物の死体をリアート砂漠で発見。
浄化剤にして浄化後、退治・焼却する。
『黒い魔力に汚染された魔物を初めて発見した時のことか。……証拠はないが、実行犯は分かりきっているな』
間違いなく教皇派拠点の誰かだろう。
危惧した通り、黒い魔力の石を生物の汚染に使ってきている。
黒い魔力に満ちた魔物や魔物の死体は通常種より強い上、黒い魔力の汚染を移されることにも気を払う必要があるから、一般勇士にはかなり辛い相手になるだろう。
この件を発見してしまったから、シューベト城とルイスさん達の詰所に置く黒い魔力の浄化剤を大幅に増やすことになったからなぁ。
他所の勇士が入るのに面倒な手続きが必要になったシューベト領内にも教皇派勇士がちょいちょい入ってくるし、はっきり言って邪魔なんだよなぁ。
違法に入ってきている連中は皆で協力してシューベト領内から叩き出しているけど、面倒なのは変わりない。
魔女狩りの終了日が近づくまでは教皇派拠点を潰せないし。
まあ自分達が魔女狩りするよりかは万倍ましだから飲み込むけどね。
ふう、次を見ていこうか。
$年G月c日
神族の皆に物資を支援。
パディさんと一緒にルーカスとフィリアの模擬戦に立ち合う。
結果はルーカスの辛勝。
『この日のいくらか前からルーカスはフィリアに白星を上げられるようになったそうだな』
年齢と相性差を考えればルーカスは凄く頑張ったと思うよ。
ルーカス・エイリン・フィリアは得意分野が丁度三すくみみたいな関係だし。
魔力によって身体機能を向上させた機動戦が得意なルーカスは、大きな魔力を持っていても身体能力がそこまで高くないエイリンに比較的有利に立ち回れる。
高い魔力量を活かした高出力の魔法が得意なエイリンは、調合薬や設置式の魔法等を用いたトラップ戦術が得意なフィリアを罠ごと押し切れることが多い。
そしてトラップ戦術による足止めができるフィリアはルーカスの得意な機動戦を封殺しやすく、ルーカスに勝利することが多かったからね。
何にせよ、パディさん監修の元、若い神族は3人とも自衛能力がきちんと鍛えられているようで何よりだ。
$年G月m日
黒い魔力に汚染された勇士をジーヴ村近郊で発見。
撃破後に浄化。
浄化した勇士は何故汚染されていたかはさっぱりとのこと。
本件の危険性を考慮し、浄化剤の備蓄を更に増やす。
『黒い魔力に汚染された勇士までもが出てきた日だな。人間すら汚染させている以上、教皇派拠点では黒い魔力の石を使って相当危険な実験をしているようだ』
セルビス氏のお膝元でもきっと同じような状況なんだろうな。
確か、汚染された勇士は闇の勇士とも呼ばれていたか。
しかも魔力を得る事で強くもなるから、力を求める勇士が黒い魔力の石に手を出すケースも出て来たからなぁ。
魔女狩りがバベリア・デルカル両大陸で完全に収まるまでは、黒い魔力の石という汚染物質には頭を悩ませ続けることになりそうだ。
$年K月x日
神族の皆に支援物資を送る。
古代神マリーの森を訪れた際、森がほぼ復活していることを確認。
『エイリンの努力が終に実ったのだな』
エイリンはマリーの森に潜伏してから古代神マリーの泉にコツコツ魔力を溜めていたからね。
エイリンの魔力量は自身の素養と特訓によって非常に多くなったとはいえ、ここまで持っていくのは大変だったはずだ。
お祝いというには簡素だが、持ってきた食材で手料理をエイリンに振る舞ってあげた。
料理は悪くない出来だったと個人的には思えたし、エイリンにも笑顔で美味しいと言って貰えたから良かったよ。
これからもエイリンがマリーの泉に魔力を溜めていけば、いつか泉も復活するかもしれないと思える一幕だった。
$年L月p日
黒い魔力に長期間汚染された小動物を浄化する実験結果をまとめる。
汚染から約4か月以上経過した個体から治療が不可となる個体が出始める。
1年以上経過したものは全て治療不可。
半数ほどの個体は汚染された肉体ごと黒い魔力が浄化され、遺体すら残らないことを確認。
残りの半数は肉体が残っているものの、浄化時に強い苦痛が伴うらしくそのまま死亡。
加えて、汚染されていた肉体を浄化した際、浄化剤をかけた箇所が無残に焼け爛れていた。
『黒い魔力の汚染治癒が可能なのは、汚染されてからおおよそ4か月以内まで、ということか……』
小動物で実施しているからあくまで目安ではあるが、参考にすべきデータだ。
とても残酷な実験だったが、意義はあったと思いたい。
また、時間の経った動物を浄化する際に出た結果の差異は、感覚的なものだが、自我を保っているか否かとなるような気がする。
肉体ごと浄化されたケースは黒い魔力に自我を完全に食われてしまった個体で、肉体が爛れてしまった方は恐らくまだ自我を保っていた個体という感じだ。
自我を食われてしまうと汚染された肉体も浄化対象と判定されて肉体ごと浄化されるのに対し、
自我が残っている個体では肉体は浄化対象にならないものの、肉体に黒い魔力が強固に癒着してしまっているため、浄化剤で汚染された肉体から黒い魔力を引き剥がす際に肉体を破壊してしまうからではないかと推測している。
いずれにせよ、人間が汚染されてしまった場合は、救助の確率を上げるためにも迅速に浄化剤をかけてあげる必要があるということがここで確認できた。
さて、大きな出来事をまとめたメモは次が最後なんだけど……。
$年L月y日
エステル母上が執務中に体調を崩す。
大事では無さそうだが、念のため休養するとのこと。
後日追記:翌日には復調
『この日から、エステルの調子が良くない日が散見されるようになったのだったか』
うん……。
医者や薬師も生命力が衰えているが原因を掴めないって話だ。
元々エステル母上は病弱ではあったからなぁ。
6歳ぐらいの時に装着者へ活力を与えるブレスレットを母上にプレゼントしており、今も身につけていることは確認したけど、年を取ったことで身体が更に弱りやすくなっている可能性があるかもしれない。
何とかしたいが、俺がやろうとすると別の問題が発生する可能性がある。
『既に異世界の装身具を渡している以上、異界法則の重複が発生する恐れがある、ということか』
フレアの言う通り、別の異世界由来のアイテムで母上を回復させようとすると、恐らく異界法則の重複現象が発動してしまう。
健常者ならともかく、体の弱い母上がその現象に晒された時の影響が分からないため、迂闊に手出しできないんだよね……。
母上に渡した活力を与えるブレスレットの出展元が分からなかったのが非常に痛い。
今はこの世界由来で生命力を補充する物を探しているけど、流石に簡単には見つからない。
幸い、体調を崩してもある程度休めば母上は回復しているので、時間的な猶予はまだ十分にある。
行商人の方に心当たりがないか聞いて回るのは勿論、素材採取時でも生命力を引き上げるという観点を持って行動するようにしていこう。
しばらく探してどうにもならないと思ったら、古代神から貰った加護の力を使って母上の生命力を補充できないか試みてみようと思う。
命を与える力を司る古代神レフガトの加護なら、症状を改善させられる可能性は十分にあるだろう。
……最悪こっそりブレスレットを母上から外して、別の異世界のアイテムで治療を試みるという手もある。
母上は俺が送ったブレスレットをとても大切にしてくださっているから、可能な限り避けたいけど……。
『当たり前ではあるが、リーガルもエステルのことを非常に心配しているからな。何とか目当てのものが見つかると良いのだが』
生命力を補充できるアイテムが見つからない場合でも、他の当てがまだまだあるからね。
何も出来なかった10年前とは比較にならない。
後は日々の業務内容が続くぐらいか。
ちょっと時間が余っているけど、今日はもう寝てしまおうかな。
明日は街道整備の手伝いや素材採取をする日で、できれば黒い魔力で汚染された生物が領内に入り込んでいないか見回るつもりだ。
俺は片付けを済ませ、フレアと就寝の挨拶を済ませてから自室の床に就いた。
魔女狩り対策、黒い魔力の石、母上の件と対応する事は色々あるが、どれも解決方法はある。
これまで通り、明日も一つずつできることをこなしていこう。
レフガト「黒石窟の浄化はどれだけ感謝してもしきれないぐらいだけど、そうではないんだ……君があの子に会いに行かないと駄目なんだよ……」
モレル「加護は行動を強要するものではないからな。どうしたものか……」
マリー「……彼に霧の森へ行ってもらえるよう、私達3人全員で加護を通して訴えるしかなさそうね」